概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京地裁令和4年(行ウ)第220号
ワットラインサービス不当労働行為救済命令取消請求事件 |
原告 |
X会社(「会社」) |
被告 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
補助参加人 |
Z1地本(「地本」)、Z2組合(「労組」)、Z3分会(「分会」) |
判決年月日 |
令和6年4月25日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
1 本件は、会社と個人請負契約を締結して電気メーターの取付・据付及び交換工事(「計器工事」)に従事する作業者(「個人作業者」)が結成した分会とその上部団体である地本及び労組(分会と地本及び労組を併せて「組合ら」)が連名で、会社に対し、①平成31年度の計器工事件数の割当て等を議題とする団体交渉申入れをし、また、②会社から提示された請負契約書が従来の契約の不利益変更であるとしてこれに係る団体交渉申入れをしたところ、会社が、組合は会社が雇用する労働者の代表ではないとして、これに応じなかったことが、労組法7条2号及び3号の不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、計器工事作業者(個人作業者)は労組法上の労働者に当たることから、会社が団体交渉申入れに応じなかったことが、労組法7条2号及び3号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、団体交渉の応諾及び文書の交付・掲示並びに履行報告を命じたところ、会社は、これを不服であるとして再審査を申し立てた。
3 中労委は、本件申立てを棄却したところ、会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、会社の請求を棄却した。なお、同地裁は、本判決日と同日、中労委が申し立てた緊急命令を認容している。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点1(法適合組合に該当するのか否か)について
地本は、法11条1項に基づく登記をしており、その規約には法5条2項各号に掲げる規定を含んでいることが認められるから、法適合組合であるといえる。また、労組及び分会は、その各規約には法5条2項各号に掲げる規定を含んでいることが認められ、かつ、規約に反する組織運営がされていることをうかがわせる事情は見当たらないから、規約に従った運営がされていることが推認され、いずれも法適合組合であるといえる。
2 争点2(労組法上の労働者該当性)について
⑴ 認定事実によれば、分会の組合員を含む個人作業者と会社との契約は、少なくとも法形式上は請負契約であるので、個人作業者は、直ちに労働契約によって労務を提供する者とはいえないが、本件請負契約によって会社に労務を供給して収入を得ている者であることは明らかである。したがって、個人作業者が労働契約下にあるものと同等に使用者との交渉上の対等性を確保するために労働法の保護を及ぼすことが必要かつ適切であると認められるかどうかについて、個人作業者の就労実態に即して、①事業組織への組入れ、②契約内容の一方的、定型的決定、③報酬の労務対価性という主たる判断要素、④業務の依頼に応ずべき関係、⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束といった補充的要素のほか、⑥顕著な事業者性などの諸要素を総合的に考慮して判断すべきである。
⑵ 事業組織への組入れについて
会社は、C1会社から計器工事を受注する前提として、労働力として個人作業者を確保し、計器工事を受注した後には、個人作業者に対して、割り当てられた計器工事の確実な実施を求めるとともに、その実施状況を逐次把握して管理していた。加えて、計器工事の実施に際しては、個人作業者が会社の組織に属するような表示をさせていた。これらの事情によれば、会社は、個人作業者を会社の事業遂行に不可欠かつ枢要な労働力を恒常的に提供する者として事業組織に組み入れていたと評価することができる。
⑶ 契約内容の一方的、定型的決定について
本件請負契約書は、会社が作成した定型的かつほぼ共通の書式により作成されたものである上、本件請負契約書に定型的に記載されている個々の契約条項は、会社がC1会社から義務付けられた遵守事項を引用したものであって、個人作業者ごとの変更は想定されていなかったことなど、総合的に考慮すると、会社は、個人作業者との契約内容を一方的・定型的に決定していたというべきである。
⑷ 報酬の労務対価性について
計器工事作業者の報酬は、本件請負契約書において「工事単価×工事数量(工事件数)」とされているから、計器工事の完成に対する出来高であるところ、計器工事の作業手順は詳細に定められていて、比較的定型的な作業ともいえるから、請負金の実態は作業時間に応じた報酬という見方もでき、その支払は毎月行われることからすると、月間の作業時間に応じた月額報酬という側面がある。
このような報酬の実態に照らせば、会社が計器工事作業者に支払っている報酬は、労務対価性があると評価できる。
⑸ 業務の依頼に応ずべき関係について
会社は、平成31年度以前から、各個人作業者ごとの年間計画数及びそのうち月ごとに達成することを求める月別展開値を定め、各個人作業者に対し、これを達成することを求めていた。そして、会社が各個人作業者ごとの年間計画数を過去の実績も踏まえて決めているところ、各個人作業者は、次年度の工事件数を確保するために、会社の求める年間工事件数を達成しなければならなかったといえる。
以上によれば、個人作業者は、会社の個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係にあったということができる。
⑹ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束について
ア 広い意味での指揮監督下の労務提供
会社は、個人作業者に対し、仕様書、標準作業手順、作業チェック表及びHT利用フローを交付するとともに、仕様書等の作業手順に従った施工を行うため、作業チェック表を携行して、これらを遵守することを求めていた。個人作業者は、会社の具体的な指示に沿って労務を提供しており、広い意味での被告の指揮監督の下にあったことが認められる。
イ 一定の時間的場所的拘束
会社は、個人作業者に対し、原則として工事所に会社の従業員が出勤する日(工事所の稼働日)に稼働し、その勤務時間内に帰所することを求めており、基本的には、会社が指定した作業日又は会社が了承した日において、会社が指定した時間帯の中で計器工事を施工することが求められていた。個人作業者は、労務提供について一定の時間的場所的な拘束を受けていたといえる。
⑺ 顕著な事業者性について
個人作業者は、副業、兼業の禁止はされていないが、計器工事の施工に関し、C1会社の顧客との直接金銭の授受、器具の販売等、工事の施工に関係のない営業活動を禁止されているから、計器工事の遂行過程で自己の才覚により利得する機会はない。
個人作業者は、補助者利用を禁止されていないが、重要部分を第三者に委ねることはできないとされている上、同業他社の計器工事に従事することはできず、事実上、兼業はできない。
これらの事情を考慮すると、個人作業者は、会社から業務に必要な機材等の提供を受け、自らの労働力を計器工事に投入し、その多くが計器工事に専念していたというのが実態であり、顕著な事業者性があるとは認められない。
⑻ 小括
以上によれば、個人作業者は、会社との関係において、労組法上の労働者であると認められる。
3 争点3(不当労働行為該当性)について
⑴ 法7条2号該当性について
個人作業者である分会の組合員は、本件各申入れ当時、会社との関係で労組法上の労働者であると認められるから、法7条2号所定の「雇用する労働者」であったといえる。
本件各申入れに係る交渉議題は、いずれも会社において交渉に応じる義務がある事項であるから、会社は、本件各申入れに応じる義務を負うところ、団体交渉を行う予定はないとだけ回答しているから、本件各申入れにつき、団体交渉を正当な理由なく拒んだというべきであり、この行為は、法7条2号所定の不当労働行為に該当する。
⑵ 法7条3号該当性について
会社による本件各申入れに係る団体交渉の拒否は、単なる拒否ではなく、組合らを無視し、組合らの機能を阻害する行為であり、会社は、そのことを認識しながらあえて行ったと認められる。そうすると、会社が本件各申入れにつき、団体交渉を拒むことにより、組合らの結成又は運営を支配し又は介入したということができ、この行為は、法7条3号所定の不当労働行為に該当する。
4 争点4(救済の利益の有無)について
会社と組合らとの間では、本件各申入れ後、会社と個人作業者との間の平成31年度の請負契約の内容、これに引き続く令和2年度の請負契約の内容、そしてその終了に関して、紛争が継続しているから、団体交渉の必要性は失われておらず、救済の利益は存在するものというべきである。
5 結論
以上によれば、中労委の本件命令に違法な点を認めることはできず、会社の請求は理由がないから、これを棄却する。 |
その他 |
|