概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和6年(行コ)第161号
ワットラインサービス不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 |
控訴人 |
X会社(「会社」) |
被控訴人 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被控訴人補助参加人 |
Z1地本(「地本」)、Z2組合(「労組」)、Z3分会(「分会」) |
判決年月日 |
令和6年11月6日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
|
事件概要 |
1 本件は、会社と個人請負契約を締結して電気メーターの取付・据付及び交換工事(「計器工事」)に従事する作業者(「個人作業者」)が結成した分会とその上部団体である地本及び労組(分会と地本及び労組を併せて「組合」)が連名で、会社に対し、①平成31年度の計器工事件数の割当て等を議題とする団体交渉申入れをし、また、②会社から提示された請負契約書が従来の契約の不利益変更であるとしてこれに係る団体交渉申入れをしたところ、会社が、組合は会社が雇用する労働者の代表ではないとして、これに応じなかったことが、労組法7条2号及び3号の不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、個人作業者は労組法上の労働者に当たることから、会社が団体交渉申入れに応じなかったことが、労組法7条2号及び3号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、団体交渉の応諾及び文書の交付・掲示並びに履行報告を命じたところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は本件申立てを棄却した(「本件命令」)ところ、会社はこれを不服として東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は会社の請求を棄却した。(なお、同地裁は同日、中労委が申し立てた緊急命令を認容した。)
5 会社はこれを不服として東京高裁に控訴したところ、同高裁は控訴を棄却した。 |
判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点1(法適合組合に該当するか否か)について
⑴ 当裁判所も、組合が法適合組合に該当しないことを理由に本件命令が違法であるとする会社の主張は、理由がないものと判断する。その理由は次のとおりである。
⑵ 会社は、労組及び分会が権利能力のない社団にも当たらないこと、組合が自らの規約等を遵守していないことを挙げて、組合は法適合組合には当たらないから、これを看過した本件命令は違法と主張する。
しかし、労組法(「法」)5条1項は、労働委員会に対し、労働組合が法2条及び法5条2項の要件を具備するか否か審査すべき義務を課しているが、この義務は、労働委員会が国家に対して負うものであって、使用者に対して負うものではなく、仮に当該審査の手続に瑕疵があり又はその結果に誤りがあるとしても、使用者は、単に審査の手続に瑕疵があり又はその結果に誤りがあることのみを理由として救済命令の取消しを求めることはできないものと解するのが相当である(最高裁昭和32年12月24日第三小法廷判決参照)。したがって、会社の上記主張は、主張自体失当である。
⑶ この点を措くとしても、地本は法11条1項に基づく登記をしており、組合は、いずれも法5条2項各号に掲げる規定を含む規約を有している上、現に会社に団体交渉の申入れをし、これが拒絶されるや都労委に救済命令申立てをするなど、現に活動していると認められるのに対し、会社は、組合が団体としての活動を行っていないことをうかがわせるような事情を何ら主張、立証していない。
そうすると、組合は、法2条及び法5条2項の要件を満たしている認められる上、法人又は権利能力のない社団として現に活動していると推認されるから、いずれも法適合組合と認められる。
なお、会社は、組合が自らの規約に従った運営をしていないから、法適合組合に該当しないとも主張するが、法が2条及び5条2項の要件のほかに何らの要件も求めていないことからすれば、法適合組合に該当するためには、規約に従った運営が行われていることまでは必要ないと解される。
2 争点2(労組法上の労働者該当性)について
⑴ 当裁判所も、個人作業者は、会社との関係において労組法上の労働者であると判断する。その理由は、次の⑵のとおり、当審における会社の主張に対する判断を付加するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決を次のとおり訂正する(略)。
⑵ 当審における会社の主張について
ア 事業組織への組入れについて
会社は、個人作業者だけでなく委託法人にも計器工事を発注していたところ、委託法人が会社という法人組織の中に組み入れられることはあり得ないから、個人作業者も会社の事業組織に組み入れられることはあり得ないと主張する。
しかし、労組法上の労働者該当性を検討する上で問題となる「事業組織への組入れ」については、労務提供者が使用者の事業の遂行に不可欠又は枢要な労働力として組織内に確保されており、労働力の利用をめぐり団体交渉によって問題を解決すべき関係があるか否かという観点から、規範的に検討されるべきものであるから、仮に、会社において、委託法人が会社の事業組織に組み入れられていないと評価されるとしても、そのことから直ちに、個人作業者についても会社の事業組織に組み入れられていないという評価につながるものではない。
イ 契約内容の一方的、定型的決定について
会社は、個人作業者が仕様書等を遵守することを求められるのは、本件請負契約の特殊性によるものであるから、契約内容が定型的、一方的であるとはいえないと主張する。しかし、本件請負契約に会社が主張するような特殊性があるとしても、個人作業者にとっては、会社が契約内容を一方的、定型的に決定していることに変わりはないから、個人作業者は法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められる者に当たるというべきである。
また、会社は、工事単価が厚生会(個人作業者の福利厚生や労災保険加入のために作られた団体)との協議を経て決定されていること、個人作業者は担当工事地域と年間工事件数について協議した上で契約締結に至っていることを挙げて、会社が契約内容を定型的、一方的に決定したものではないと主張する。しかし、工事単価が会社と厚生会との協議によって決定されるということは、個人作業者が会社との個別交渉によってこれを決定する余地が乏しかったことを意味するものであるし、担当工事地域や年間工事件数についても、一部の例外を除き、個人作業者としては、会社が一方的に提示する案を了承しなければ、契約締結を断念するしかない状況にあったというべきであるから、会社が定型的、一方的に決定していたとの評価を免れるものではない。
ウ 報酬の労務対価性について
会社は、個人作業者の報酬は計器工事の完成に対する出来高であるから労務対価性がないと主張するが、上記主張を採用できないのは、引用した原判決に説示したとおりである。
エ 業務の依頼に応ずべき関係について
会社は、個人作業者に月ごとの工事件数について指示をしていないと主張するが、上記主張を採用できないのは、引用した原判決に説示したとおりである。
また、会社は、個人作業者が副業や兼業を禁止されておらず、必ずしも会社から得る報酬等を主たる収入として生計を立てていたわけではないと主張する。しかし、前記訂正の上、引用した原判決に説示したとおり、本件各団体交渉申入れがされた当時、多くの個人作業者は、会社から得る報酬等を主たる収入として生計を立てていたと推認するのが相当である。
さらに、会社は、研修への参加が義務付けられているのはそれが契約内容になっているからにすぎないと主張するが、そのような契約を締結した個人作業者について、会社との交渉上の対等性を確保するために法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるから、上記義務が契約内容になっていることは、個人作業者が会社の個々の業務の依頼に対して基本的に応ずべき関係にあったとの評価を左右するものではない。
オ 広い意味での指揮監督下の労務提供、一定の時間的場所的拘束について
会社は、引用した原判決に説示した事情が存するのは、これらが会社と個人作業者との請負契約の内容になっているからであって、個人作業者が会社の指揮監督下にあったことや時間的場所的拘束があったことを意味するものではない旨の主張をする。しかし、個人作業者が、契約上の権利義務関係及び事実上の強制力によって、広い意味での指揮監督下で労務提供をし、時間的場所的拘束を受けていたというのであれば、会社との交渉上の対等性を確保するために法の保護を及ぼすことが必要かつ適切と認められるから、会社の主張を採用することはできない。
また、会社は、個人作業者に対し、稼働日や稼働時間、月々の件数等について指示をしていないと主張する。しかし、本件請負契約上、個人作業者の作業日や稼働時間の定めはないものの、会社が個人作業者に対し、原則として会社の従業員の出勤日に稼働し、その勤務時間内に帰所することを求めていたことは、引用した原判決に掲記した各証拠から優に認められる。また、会社が、個人作業者に対し、月々の工事件数を達成することを求めていたと認められることは、引用した原判決に説示したとおりである。
カ 顕著な事業者性について
会社は、個人作業者が副業等を禁止されていないこと、会社からの報酬を事業所得として確定申告していること、持続化給付金を受給していることなどを挙げて、個人作業者には顕著な事業者性があると主張する。しかし、上記主張を採用することができないのは、引用した原判決に説示したとおりである。
3 争点3(不当労働行為該当性)について
⑴ 当裁判所も、会社には法7条2号及び3号所定の不当労働行為が成立するものと判断する。その理由は、次の⑵のとおり、当審における会社の主張に対する判断を付加するほかは、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、原判決を次のとおり訂正する(略)。
⑵ 当審における会社の主張について
ア 法7条2号該当性について
会社は、個人作業者との請負契約は、毎年度限りのものであって、契約期間が満了すれば当該契約の効力は消滅するから、本件各申入れに係る交渉議題は、会社が処分可能なものに該当しないと主張する。しかし、本件各申入れがされた当時、会社は、個人作業者との間で、計器工事を目的とする請負契約の締結を繰り返していたのであるから、本件請負契約が期間満了により終了したとしても、その後に締結することが予定されている請負契約に関する事項については、会社に処分が可能なものであるというべきである。
イ 法7条3号該当性について
会社は、法7条2号の団体交渉拒否は、法7条3号の支配介入の特例であると解すべきであるから、法7条2号に該当する以上は、法7条3号の支配介入は成立しないと解すべきであると主張する。しかし、法7条の文言上、そのように解すべき根拠は見当たらないし、実質的に考えても、使用者による団体交渉拒否が、労働組合の存在を無視し、その自主性や団結力を損なうものであれば、これを支配介入とも評価することができるのであるから、そのような団体交渉拒否は、同時に支配介入にも当たるというべきである。
また、会社は、本件各申入れに対し、組合活動や組合内部の事柄について何ら指摘したこともないから、支配介入があったとみることはできないと主張する。しかし、引用した原判決に説示したとおり、会社の行為は、組合の自主性や団結力を損なうものであって、支配介入と評価すべきものであるから、会社が上記指摘をしなかったとしても、上記評価は左右されない。
4 争点4(救済の利益の有無)について
当裁判所も、救済の利益が存在するものと判断する。その理由は、原判決に記載のとおりであるから、これを引用する。この判断は、当審における会社の主張を踏まえても左右されない。
5 結論
以上の次第で、会社の請求は理由がないから、これを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。 |
その他 |
|