概要情報
事件番号・通称事件名 |
山口県労委平成28年(不)第2号
田中酸素不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成31年3月28日 |
命令区分 |
一部救済 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、被申立人Y会社が、申立人X組合の組合員の平成27年賞与及び平成28年職能給を非組合員に比して低額で支給する不利益取扱いを行ったことが労働組合法(以下「労組法」 という。)第7条第1号に該当する不当労働行為であり、また、会社が組合の組合員の平成28年賞与及び昇給に関する団体交渉に、誠実に対応しなかったことが、労組法第7条第2号に該当する不当労働行為であるとして、さらに、平成28年賞与についても同様に不利益取扱いがあったとして、救済申立てがあった事案である。
山口県労働委員会は、会社に対し、申立人組合員の平成27年及び平成28年賞与の再査定を行い、その結果を申立人に提示の上、既払賞与額で不足する差額を支払うこと、及び団体交渉の合意文書に従い、資料を申立人に手交することを命じ、その余の申立てを棄却した。 |
命令主文 |
1 被申立人は、申立人組合員であるA2、A3及びA4の平成27年及び平成28年賞与(いずれも夏季及び冬期)について、その算定の基礎となる9項目の考課点及び加算点の再査定を行い、その結果を申立人に提示の上、各季賞与額を再算定し、それぞれ、既払賞与額で不足する差額を支払うこと。
2 被申立人は、本命令書の受領後1か月以内に、平成21年10月17日団体交渉の合意文書に従い、下記資料を申立人に手交すること。
(1) 会社の平成26年及び平成27年の売上並びに利益を明記した資料
(2) 会社の平成27年及び平成28年の賞与、基本給の総支給額並びに賞与支給人数を明記した資料
3 その余の申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
1 平成27年夏季賞与の支給は「継続する行為」に当たるかについて
「職能給」は、各年の等級号が前年末に査定され、等級号表に対応する金額が付与されている。平成26年12月に査定された「平成27年職能給」は、平成27年の夏季及び冬季について共通であるから、この点で、職能給の査定の関連ないし連続性があるものといえる。
以上からすると、平成27年夏季賞与は「継続する行為」に当たるといえる。
2 平成27年及び平成28年賞与に関する査定において組合員に対しての不利益取扱いが行われたかについて
(1) 職能給の等級号
ア 平成27年職能給
A2、A3、A4及びA5の号進度は中央値の±0号であるから、外見上の顕著な差異はなく、会社が提供した従業員の査定データに照らして組合員の号進度が非組合員に比べて有意に低い旨の組合の疎明もない。よって、平成27年職能給の査定については、A2ら組合員に対する差別は認められない。
イ 平成28年職能給
A2、A3、A4及びA5の号進度は中央値の+1.0号であるから、外見上の顕著な差異はなく、会社が提供した従業員の査定データに照らして組合員の号進度が非組合員に比べて有意に低い旨の組合の疎明もない。よって、 平成28年職能給の査定についても、A2ら組合員に対する差別は認められない。
(2) 考課点
ア A2、A3及びA4
平成26年から平成28年の間の各季における営業職の非組合員については、9項日の考課点及び加算の合計点の最小値と最大値の差は、平均で5.0点である。一方、同期間中、A2ら3人に売上額の変動が見られるにも関わらず9項目の考課点の推移をみると、A3にのみ1点の見直しが行われている他は変動がなく、この間のA2ら3人の9項目の考課点及び加算の合計点の最小値と最大値の差は平均で約0.3点に過ぎない。以上から、少なくとも平成27年及び平成28年において、A2ら3人の組合員に対しては、非組合員である従業員と異なり、実質的な査定がなされなかったことが推認される。
A2ら3人の査定の考課点 (加算も含む。)が平均点に近いと言えるのは、あくまでも会社の査定制度上の理論値のことであり、実際には、上記事実認定のとおり、非組合員である従業員の平均点とは乖離がみられ、A2ら3人は不利益に取扱われていることが窺える。
以上からすると、このような会社の対応に合理的な事情は窺えず、当事者間には過去から不当労働行為救済申立てを含めて多様な係争が繰り返されている点に鑑みれば、会社に組合嫌悪の念が存在することを否定し得ず、A2ら3人の平成27年及び平成28年賞与 (いずれも、夏季及び冬季。)に関する査定において不利益取扱いが行われたものとみなさざるを得ない。
イ A5
A5の職種は、工場勤務職であり、営業職のように常に成績の変動があると考えにくいことから、A2ら3人と分離して判断する。
賞与の査定にかかる9項目の考課点及び加算の合計点をみると、平成26年夏季から平成27年夏季は各季で39点、 平成27年冬季から平成28年冬季は各季で38点であるところ、A5は全て39点で推移しているから、何ら差別は認められない。
以上から、平成27年及び平成28年賞与(いずれも、夏季及び冬季。)に関する査定において、A5については不利益取扱いがあったとは認められない。
3 賞与について過去からの累積する不利益取扱いが存在し、またそれが「継続する行為」として本件救済の対象たりうるかについて
いずれも除斥期間外である救済申立て年までの賞与の査定は、「継続する行為」に当たるものといえず、本件救済の対象から外れるので、不当労働行為の有無の判断は行わない。A5については、そもそも賞与支給にかかる不利益取扱いは認められないのであるから、判断するまでもない。
4 A2、A3及びA4の平成28年職能給の査定において不利益取扱いが行われたかについて
上記2(1)で判断したとおり、平成28年職能給の査定について、A2ら3人に対する差別は認められない。
5 A2、A3及びA4の職能給の査定について過去からの累積する不利益取扱いが存在し、またそれが「継続する行為」として本件救済の対象たりうるかについて
除斥期間外である平成19年から平成22年までの職能給の等級号の査定は「継続する行為」に当たるものといえず、本件救済の対象から外れるので、不当労働行為の有無の判断は行わない。
6 A2の平成28年3月 (定年退職) からの基本給と賞与について
A2の定年後の身分は嘱託であるところ、A2は嘱託規程施行後に定年を迎え、労働条件が決定されているのであるから、その取扱いに異なる点があること自体、直ちに差別的な取扱いであると断定することはできない。このように各々の採用の経緯ないし経歴が異なるC1らを比較対象に、A2に対する取扱いの差異を同列に論じることは適当とは言い難い。
定年後の給与の減額率をみると、C2らに比べて、A2の減額率が高い点も事実である。しかしながら、それぞれの退職後の基本給受給額でみると、A2は高年齢者継続雇用給付金を含めると最も高額である。以上からすると、C2らとの比較においても、A2が組合員であるが故に不利益な取扱いを受けているとはいえない。
7 平成28年賞与及び昇給の決定に際し、団体交渉拒否が行われたか及び過去の労使間の合意事項について会社による不履行が認められ、また、それが不誠実団交といえるかについて
(1) 労使合意
ア 平成21年10月17日団体交渉の合意文書
平成27年以降も、会社は、賞与及び昇給を決定次第、団体交渉を申し入れ、かつ、その団体交渉は賞与及び昇給の支給前に開催されねばならず、また、当該団体交渉においては売上・利益・その他査定に使用した資料並びに組合員各々の査定結果(査定表等)を提出する義務がある。
イ 平成27年12月28日団体交渉の議事録及び合意書
会社は当該合意書に記載される交渉期限、交渉内容ないし決算書の提示等に応じることが義務付けられているわけではなく、その不履行が直ちに不当なものとして批判されるべきものではない。
(2) 交渉の経過
5回の団体交渉では、いずれも具体的な昇給及び賞与に関する協議が行われておらず、単に次回の団体交渉に委ねるとして終えているのであるから、 これらは形式的に繰り返されたものと評価せざるを得ない。その後、3回の交渉期日が予定されているが、いずれも組合が、会社側責任者の無断欠席と捉えて不成立とし、現に具体的な交渉は行われていない。
以上のとおり、平成28年の昇給及び賞与は、具体的な労使協議が行われず、労使合意に基づく資料提示もなされないまま支給されていることは明白であり、このような不誠実な会社の対応は団体交渉拒否に該当する。
8 賃金の支給金額に関する団体交渉に携わるB2及びB3は、決定権を有さず、交渉担当者に適さない者ということができ、また、その会社の対応が不誠実団交といえるかについて
会社の対応をみると、交渉担当者が組合との団体交渉で約した事項を履行せず、次の交渉では、交渉担当者が合理的理由を説明することもなく、単に社長が認めない旨伝えているのみである。こうした会社の対応からすると、B2らに決定権限がないことが明白であるばかりか、果たして会社代表者と交渉担当者の意思疎通が図られているのか 自体、疑われるところであり、上述のとおり形式的な団体交渉に終始したB2らは交渉担当者としても適切でないと言わざるを得ない。
以上のとおり、こうした不誠実な会社の対応は団体交渉拒否に該当する。
9 結論
以上のとおり、A2、A3及びA4の平成27年及び平成28年賞与(いずれも、夏季及び冬季。)に関する査定における不利益取扱いが、また、平成28年の賞与及び昇給の団体交渉における不誠実な対応が明らかであり、それぞれについて不当労働行為の成立が認められるので、主文のとおり命じることとし、その余の申立てについては棄却する。
なお、不利益取扱いの救済方法は、その是正措置として、A2、A3及びA4について、9項目の考課点及び加算点の再査定を命じるものである。会社は、A2ら3人の査定を査定制度上の平均としている点を捉えて不利益はないと主張するが、A2ら3人の査定は、全従業員の査定平均とは乖離しており、相対的に低査定となっている点に鑑みれば、A2ら3人の再査定をするに当たっては、現状の査定点以下とすることは許されない点に留意しなければならない。
また、不誠実な団体交渉に対する救済方法は、不利益取扱いの是正措置として、再査定を命じたことから、改めて団体交渉を開催すべき実質的な意義がないため、本来、会社から組合に団体交渉で提示されて然るべきであった所要の資料の手交を命じることで足りると思料するものである。 |
掲載文献 |
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