概要情報
事件番号・通称事件名 |
都労委平成27年(不)第100号
長澤運輸不当労働行為審査事件 |
申立人 |
X組合(「組合」) |
被申立人 |
Y会社(「会社」) |
命令年月日 |
平成29年11月7日 |
命令区分 |
全部救済 |
重要度 |
|
事件概要 |
本件は、「会社は、組合に対して、労働条件につき、会社の代表者ないしこれに準ずる権限のある者を出席させて、労使の合意が図れるように、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行うことを約束する。」という条項(以下「前件和解条項」という。)がある和解が成立した後の団体交渉において、会社社長が出席せず、また、資料を提示して説明しなかった会社の対応が、不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、東京都労働委員会は、会社に対し、代表取締役等の出席、誠実団交応諾、文書の交付及び履行報告を命じた。 |
命令主文 |
1 被申立人会社は、申立人組合が申し入れた定年退職後再雇用者の労働条件や賃上げ等を議題とする団体交渉に、代表取締役が出席し、又は代表取締役が出席できない場合はその合理的な理由を説明して実質的な権限を十分に付与した者を出席させた上で、自らの主張の裏付けとなる資料を提示して具体的な説明を行うなどして誠実に応じなければならない。
2 被申立人会社は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付しなければならない。
記
年 月 日
組合
執行委員長 A1 殿
会社
代表取締役 B1
貴組合との間で、平成27年3月24日、4月21日及び7月9日に開催した定年退職後再雇用者の労働条件や賃上げ等を議題とする団体交渉における当社の対応は、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(注:年月日は文書を交付した日を記載すること。)
3 被申立人会社は、前項を履行したときは、速やかに当委員会に文書で報告しなければならない。 |
判断の要旨 |
1 交渉担当者の対応について
交渉担当者であるB2所長及びB3弁護士は、組合からの要求や質問に対し、具体的な理由や根拠の説明をせず、会社の判断を一方的に伝えたり、即答を避けて曖昧な説明を繰り返すなど、合意達成に向けて真摯に交渉に応じたとは到底いい難く、このことにより労使間の協議も進展しなかったといわざるを得ない。このような会社の対応は、B2所長及びB3弁護士が、あらかじめ会社の方針として決められた回答以外にはその理由や根拠を含めて回答、協議する権限が一切与えられていなかったためであるとみざるを得ず、同所長らが、会社の代表者に準ずる権限のある者として本件団体交渉に出席しているとはいい難い対応であった。B2所長及びB3弁護士が、次回交渉期日の調整を団体交渉の場で決定することすらできないこともまた、十分な権限が与えられていないことの証左であるということができる。
以上より、会社は、代表者あるいは代表者に準ずる権限を有する者を本件団体交渉に出席させず、よって本件団体交渉において真摯に合意形成に努力したとはいえない。このような会社の対応は、前件和解条項に反するものであり、かつ、不誠実な団体交渉であった。
会社は、組合との間で見解の相違が存在したために交渉が進まなかったのであって交渉担当者の権限の問題ではないと主張する。しかしながら、労使の見解が対立しているのであれば、むしろ団体交渉において自らの見解の根拠を示すなどして労使間の合意形成を図るべきところ、会社はそうした努力を一切行っていないのであるから、会社の主張は失当というほかない。 2 資料の提示について
会社は、本件団体交渉において、組合が求める資料の提示を一切行っていない。そして、会社が現状の賃金水準でよいと考える論拠となる世間水準等について、組合から提示や説明を要求されても、会社は、これを拒否し続けて団体交渉で組合に提示することはなかった。したがって、会社は、本件団体交渉において、前件和解条項を履行したものということはできず、かつ、使用者に課せられている誠実交渉義務を果たしたということもできない。
会社は、平成26年11月17日付団体交渉申入書で組合が求めた各資料が、なぜ交渉事項につき必要なのか不明であり、また、会社では経営状況を理由に賃金水準を決定しておらず、組合の求める資料の提出、説明の必要がないと主張する。しかし、組合は、定年後再雇用者の労働条件を正社員と同一又は同一水準に見直すことが会社の経営実態からみてどの程度可能かを検討、協議するために、上記申入れを行っており、組合が会社の経営状況を把握した上で労働条件の向上の余地を検討し、協議するために上記資料を求めていたことは明らかであるというべきである。したがって、会社が、組合の求める資料の提出、説明の必要がないと反論するのであれば、その論拠を示して反論すべきところ、それをしていないのであるから会社の主張は採用することができない。
また、会社は、損益計算書及び貸借対照表については、組合員が提起した別件訴訟において既に証拠として提出済みであり、組合の手元にもある状況であると主張する。しかし、これらの資料が訴訟により組合員を介して組合の手元にあったとしても、会社が組合に対して誠実交渉義務を果たしたものということはできず、会社の主張は失当であるといわざるを得ない。 3 まとめ
以上のとおり、会社は、本件団体交渉において、代表取締役が出席せず、かつ、代表取締役に準ずる権限がある者を出席させず、さらに、自らの主張の裏付けとなる資料を示して具体的な説明を行うことを拒否している。よって、会社は合意形成に向けた努力を一切行っておらず、このような会社の対応は、不誠実な団体交渉に該当する。 |
掲載文献 |
|