労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和元年(行ウ)第444号
長澤運輸不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X株式会社(「会社」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z支部(「組合」) 
判決年月日  令和2年6月4日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、定年退職後再雇用者の労働条件や賃上げ等を議 題とする組合との団体交渉(本件団交)において、代表取締役を出席させず、資料を提示して説明しなかったことが不当労働行為 であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 東京都労委は、本件団交における会社の対応が労組法7条2号に該当する不当労働行為であるとして、会社に対し、①団体交 渉に代表取締役が出席し、又は代表取締役が出席できない場合はその合理的な理由を説明して実質的な権限を十分に付与した者を 出席させた上で、自らの主張の裏付けとなる資料を提示して具体的な説明を行うなどして誠実に応じること、②文書交付、③履行 報告を命じたところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てたが、中労委は、主文を変更し、その余の請求を棄却した。
3 会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。 
判決の要旨  1 会社が負う誠実交渉義務の内容について
 労組法7条2号が「使用者が団体交渉をすることを正当な理由なく拒むこと」を不当労働行為と定めたのは、使用者と労働者の 代表者又は労働組合とが、対等に労働条件等について交渉することを確保するためであるから、同号のいう団体交渉拒否には、使 用者が、正当な理由なく団体交渉を行うことそれ自体を拒否することだけでなく、形の上では団体交渉に応じながら、不誠実な態 度を取り、対等に労働条件等について交渉するという団体交渉の実を備えない場合も含まれると解される。したがって、使用者 は、団体交渉に応じる義務とともに、団体交渉において誠実に交渉に当たる義務を負う。そして、誠実交渉義務は、労働組合の要 求に対して合意や譲歩を行う義務ではなく、譲歩ができない場合であっても、交渉事項に関する労働組合の要求に対応して、使用 者の主張及びその論拠を示し、見解の対立の解消を目指す義務であると解される。
 また、本件では、会社と組合は、平成26年11月12日、別件の不当労働行為救済申立事件において、都労委の関与により、 「会社は、組合に対して、労働条件につき、会社の代表者ないしこれに準ずる権限のある者を出席させて、労使の合意が図れるよ うに、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行うことを約束する。」との和解条項を含 む和解協定を締結したのであるから、会社は、上記の一般的な誠実交渉義務に加えて、和解条項に基づき、会社の代表者又はこれ に準ずる権限のある者を団体交渉に出席させて、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を 行う義務をも負っていた。
2 団体交渉の出席者について
  使用者が負う誠実交渉義務によれば、交渉担当者が、労働組合の要求に対応して、使用者側の見解の根拠を具体的に示すなど する権限を有していれば足りるから、団体交渉における使用者側の出席者は、必ずしも使用者の代表者である必要はなく、交渉担 当者が実質的な交渉権限を有していれば、最終的な決定をし、労働協約を妥結する権限を有している必要まではないと解される。 そして、交渉担当者が実質的な交渉権限を有していたか否かは、形式的な交渉権限の有無だけではなく、実際の団体交渉における 具体的な言動を踏まえて検討すべきである。
 本件団交における会社側出席者であるB3所長及びB2弁護士の具体的な対応をみると、定年後再雇用者の労働条件見直しを止 めた理由や、経営資料を提示しない理由について、具体的な理由を挙げて会社の判断を説明することなく、会社の中でもいろいろ あるなどの発言を何度も繰り返すなど、具体的な理由や中身に触れることのないまま、即答を避ける態度に終始し、会社の判断で ある旨や説明するつもりがない旨の回答を繰り返したことに加え、B3所長とB2弁護士とで回答内容が異なることがあったこと も考慮すると、会社において、団体交渉前に十分な検討を行った上で、B3所長やB2弁護士に対し、具体的な理由の説明や回答 をすることを可能とする実質的な交渉権限を付与していたと認めることは困難である。また、本件団交には毎回同じ出席者が参加 していたのであるから、B3所長及びB2弁護士に実質的な交渉権限が与えられていたのであれば、団体交渉の場で次回の交渉期 日を調整、決定することは、当然可能であったと解されるにもかかわらず、B3所長は、交渉の場で次回の交渉期日を決定しない 理由について、必要ないと思っていると述べるにとどまり、B2弁護士も、ここでは決めない、決めないのが方針であって理由は ないなどと述べるなど、両者との次回期日を調整、決定することについて、具体的な理由を説明することなく頑なに拒否し続けた 経緯も、B3所長やB2弁護士が実質的交渉権限を有していなかったことを示すものといえる。以上によれば、本件団交における 会社の対応は、会社の代表者ないしこれに準ずる権限のある者を出席させるという和解条項の内容に反し、不誠実な団体交渉で あったというべきである。
3 資料の提示について
 組合が、会社の経営状況を把握した上で労働条件向上の余地を検討し、協議するために経営資料の提出を求めていたのに対し、 会社は、資料の提出の必要がないと考える理由を 具体的に説明することなく、世間水準であるなどと抽象的に述べるのみで、資料の提示を一切行わなかったところ、組合は、世間 水準について、会社と同じ一次下請の同業他社と比較しなければ意味がない、通勤費を含む年収では世間水準との比較はできない 旨主張し、会社が世間水準であると答えただけでは団体交渉における議論が進展しない状況であった。そうすると、経営資料の提 出を行わず、その理由を世間水準である旨を抽象的に述べるのみであった会社の対応は、自己の主張の論拠を組合に具体的に説明 し、見解の対立の解消に向けた努力をしていたものと評価することはできない。そして、和解協定が、定年後再雇用者の労働条件 に関する団体交渉における会社の対応が不誠実であるとして申し立てられた救済申立てに関して締結されたものであることも踏ま えると、会社の上記対応は、交渉事項につき必要な経営に関する資料を提出するなどして、誠実に団体交渉を行うことを約束する との和解条項に反する不誠実なものというべきである。
4 会社の請求についての判断
 以上によれば、本件団交の出席者の交渉権限及び経営資料の不提示について、労組法7条2号の不誠実団体交渉に当たると判断 して救済を命じた中労委命令は正当であり、会社の請求は理由がないから棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成27年(不)第100号 全部救済 平成29年11月7日
中労委平成29年(不再)第61号 一部変更 令和元年7月3日
東京高裁令和2年(行コ)第130号 棄却 令和3年1月28日
最高裁令和3年(行ヒ)第169号 不受理 令和3年7月8日
 
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