労働委員会命令データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[命令一覧に戻る]
概要情報
事件番号・通称事件名  新労委平成27年(不)第5号
学校法人帝京蒼柴学園不当労働行為審査事件 
申立人  X1(個人)、X2組合(「組合」) 
被申立人  Y法人(「法人」) 
命令年月日  平成29年11月2日 
命令区分  一部救済 
重要度   
事件概要   本件は、法人が①申立人組合の組合員である申立人X1教員に対して行ったけん責処分及び謹慎処分、②X1教員をB2高校の女子バレーボール部監督から外したこと、③X1教員に対するB3教頭の発言及びB4校長の発言、④法人がX1教員を女子バレーボール部顧問から外したこと、が不当労働行為であるとして救済申立てのあった事件で、新潟県労働委員会は、法人に対し、けん責処分及び謹慎処分の撤回、X1を女子バレーボール部の監督にすること、①ないし③について文書の手交を命じ、その余の申立てを棄却した。 
命令主文  1 被申立人法人は、申立人組合の組合員である申立人X1に対して平成27年4月1日に行ったけん責処分及び謹慎処分を撤回しなければならない。
2 被申立人法人は、申立人組合の組合員である申立人X1を平成30年4月1日までにB2高等学校女子バレーボール部の監督としなければならない。
3 被申立人法人は、本命令書受領の日から7日以内に、申立人X1及び申立人組合に対し、下記内容の文書を手交しなければならない。

年 月 日
 X1 様
法人              
理事長 B1

 平成27年4月1日にX1教諭に対しけん責処分及び謹慎処分を行ったこと、同日にX1教諭を女子バレーボール部監督から外したこと及び法人においてX1教諭に対し平成26年10月21日に「組合に入れば、本部から女子バレー部が強化指定部から外される。顧問からも外される。」、平成27年3月21日に「組合に入って強化指定部なんて持てるわけないだろう。」との趣旨の発言を行ったことについて、新潟県労働委員会において労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 よって、ここにその責任を認めて謝罪し、再びこのようなことを繰り返さないよう誓います。
年 月 日
 組合
  執行委員長 A1 様
法人              
理事長 B1

 平成27年4月1日にX1教諭に対しけん責処分及び謹慎処分を行ったこと、同日にX1教諭を女子バレーボール部監督から外したこと及び法人においてX1教諭に対し平成26年10月21日に「組合に入れば、本部から女子バレー部が強化指定部から外される。顧問からも外される。」、平成27年3月21日に「組合に入って強化指定部なんて持てるわけないだろう。」との趣旨の発言を行ったことについて、新潟県労働委員会において労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為と認定されました。
 よって、ここにその責任を認めて謝罪し、再びこのようなことを繰り返さないよう誓います。
(注:年月日は手交の日を記載すること。)
4 申立人らのその余の申立ては、これを棄却する。 
判断の要旨  1 平成27年4月1日付けのX1教員に対するけん責処分及び謹慎処分は、労働組合の組合員であること又は組合活動を理由とした使用者による不利益取扱いに該当するか。また、労働組合の運営に対する支配介入に該当するか。(争点1)
(1)不利益取扱い
 X1教員自身は、懲罰委員会において処分事由を明確には認めておらず、処分直後の始末書においても処分事由について事実誤認があるとして否認している。さらに平成26年1月19日のC1高校への遠征で練習等を見学していたC12及び同遠征に同行していたA2教員は処分事由①の発言の現場を目撃していない。また、部員のアンケートにおいてX1教員の処分事由の存在を肯定する旨の回答もされている一方で、元部員の陳述書では処分事由の不存在が述べられており、しかもC10の陳述書では、C10を含む前述のアンケートの回答者のうち3名が「覚えてないようなこともあったように合わせて書いてしまいました」と、法人によるアンケートの信用性を疑わせる内容も述べられている。以上のことから、処分事由の存否自体に疑問を残すものである。
 懲戒処分前に行われた法人による調査は十分なものであったとは言い難い。X1教員本人が処分事由を否認しているところ、法人は不十分な調査で事実を認定していることからして、法人の一方的な見解で処分に及んだものと見ることができ、合理性を欠くものであったといえる。
 平成27年3月16日にC12との電話の中で、B4校長は組合に対する嫌悪感をうかがわせる発言をしている。
 また、B3教頭及びB4校長はX1教員に対して、組合に加入していることにより法人から不利益な扱いを受けることを示唆する発言をしている。
 さらに、法人と組合は対立が繰り返されてきたことが認められる。
 加えて、X1教員が組合員であることを法人が認知する前である平成26年3月に、本件処分事由と同様に、女子バレーボール部の部員に対する指導を巡り、保護者からのクレームを受け、X1教員が事情聴取され、同年9月22日にX1教員が弁明書に署名・捺印するといったことがあったが、この件についてX1教員は懲戒処分に付されていない。一方で、法人はX1教員の組合加入を知った後に、1年以上前のC1高校への遠征での出来事をも引き合いに出し、今回のけん責処分及び謹慎処分に及んでいる。これらのことから、X1教員が組合員であることを認知した法人が組合員であるが故に処分を行ったことが疑われる。
 以上のことから、法人は組合を嫌悪していることがうかがわれ、合理性に欠く今回のけん責処分及び謹慎処分も、組合に対する嫌悪の情の表れであると推認することができる。
 よって、X1教員に対する平成27年4月1日付けのけん責処分及び謹慎処分は、労働組合法第7条第1号に規定する組合員であることを理由とする不利益取扱いに該当するというべきである。
(2)支配介入
 組合員であることを理由にあえて不利益な措置を講ずることで、他の組合員又は非組合員に対する見せしめのような効果を企図したものというべきであるから、労働組合法第7条第3号に規定する労働組合の運営に対する支配介入に該当するというべきである。
2 平成27年4月1日にX1教員がB2高校女子バレーボール部監督から外れたことは、労働組合の組合員であること又は組合活動を理由とした使用者による不利益取扱いに該当するか。また、労働組合の運営に対する支配介入に該当するか。(争点2)
(1)不利益取扱い
 平成27年4月1日付けのX1教員に対するけん責処分及び謹慎処分については、X1教員が組合員であるが故に行われた不利益取扱いであり、不当労働行為と認められる。当該処分を前提として監督から外したことも、組合員であるが故の使用者である法人の処分であるといえる。
 以上のことから、平成27年4月1日にX1教員を女子バレーボール部監督から外したことは、労働組合法第7条第1号に規定する組合員であることを理由とする不利益取扱いに該当するというべきである。
(2)支配介入
 組合員であることを理由にあえて不利益な措置を講ずることで、他の組合員又は非組合員に対する見せしめのような効果を企図したものというべきであるから、労働組合法第7条第3号に規定する労働組合の運営に対する支配介入に該当するというべきである。
3 平成26年10月21日のB3教頭のX1教員に対する発言及び平成27年3月21日のB4校長によるX1教員に対する発言は、労働組合の運営に対する支配介入に該当するか。(争点3)
(1)B3教頭の発言
 法人は、申立人らが主張する発言があったことを否認するとともに、B3教頭はX1教員に対し、X1教員との従来の個人的な関係に基づいて、一同僚として今までと同じように、アドバイスとして個人的見解を伝える発言をしたと主張する。
 申立人らがB3教頭による不当労働行為発言があったと主張する同日の教務室での場面において、B3教頭はX1教員に対して「先生がこんなことを組合に頼っていたら、枠なんてもらえないんじゃない。本部がバレー部に枠なんか認めないんじゃないの」等の発言をしている。これらの発言は、組合に加入すると不利益な取り扱いがされる可能性があることを示唆しているといえるもので、申立人らの主張するB3教頭の発言のうち、少なくとも後者とほぼ同趣旨であるといえる。
 業務時間中に教務室の教頭席において発言がされたことを踏まえると、法人が主張する個人的見解を伝えたとは言い難い状況である。
 以上のとおり、B3教頭は組合が主張する発言と同趣旨の発言をしたものと認められ、その内容、状況からして、組合加入・組合活動を萎縮させる効果を企図してなされたものであるといえることから、労働組合法第7条第3号に規定する労働組合の運営に対する支配介入に該当するというべきである。
(2)B4校長の発言
 発言はX1教員に対する懲戒処分に関する懲罰委員会の開催について伝える場でなされたこと、3月16日にB4校長はC12との電話の中で組合やX1教員の組合加入に対する嫌悪感を持っていると受け取れる発言をしていること及び団体交渉の場でB4校長自身が発言を認めていることを総合的に考慮すると、組合に加入すると強化指定部を持てないという、申立人らの主張する発言とほぼ同趣旨の発言がなされたと推認できる。
 そして、法人の管理職であるB4校長による、組合に加入した故に不利益を課すことを示唆する発言は、組合加入・組合活動を萎縮させる効果を企図してなされたものであるといえることから、労働組合法第7条第3号に規定する労働組合の運営に対する支配介入に該当するというべきである。
4 X1教員がB2高校女子バレーボール部顧問から外されたことは、申立人らが平成27年10月16日に本件申立てをしたことを理由とする不利益取扱いに該当するか。(争点4)
 X1教員は平成27年度の部活動顧問一覧から外されている。また、同年5月又は6月に作成された学校要覧等の対外的な資料において、女子バレーボール部の顧問としてX1教員の名前や写真が掲載されていない。これらの事実から、同年10月16日の本件申立て以前にX1教員は女子バレーボール部の第3顧問から既に外されていたと認めることができる。
 よって法人が本件申立てを理由に女子バレーボール部第3顧問から外したとの申立人らの主張は認め難く、労働組合法第7条第4号に該当するとはいえない。
 
掲載文献   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成29年(不再)第53・55号 一部変更 令和2年12月16日
東京地裁令和3年(行ウ)第74号 全部取消 令和5年5月25日
東京高裁令和5年(行コ)第191号 棄却 令和6年2月15日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約281KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。