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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和5年(行コ)第191号
帝京蒼柴学園不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人(1審被告)  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
控訴人(1審被告補助参加人)  X1組合(「組合」)、X2 (組合と併せて、以下「X2ら」という。) 
被控訴人(1審原告)  Y法人(「法人」) 
判決年月日  令和6年2月15日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、①法人がX2に対してけん責処分及び謹慎処分(以下「本件処分」という。)を行ったこと、②法人がX2をB2高校のD運動部の監督から外したこと、③教頭及び校長が組合に入ることによって不利益を被る趣旨の発言をしたこと、④法人が本件申立てを理由にX2をD運動部の顧問から外したことが不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審新潟県労委は、法人の上記1①ないし③の行為を不当労働行為であると判断し、法人に対し、本件処分の撤回、X2をD運動部の監督とすること、X2らに対する文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。法人及びX2らは、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、初審命令を変更し、法人に対し、本件処分がなかったものとして取り扱うこと、X2に対する文書手交、並びに組合に対する文書手交及び文書掲示(上記1①及び③に関するもの)を命じ、その余の救済申立てを棄却した。法人は、これを不服として、東京地裁に(中労委命令のうち主文第1項ないし第3項の取消を求める)行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、中労委命令のうち主文第1項ないし第3項(上記①及び③に関する命令)を取消した。中労委及びX2らは、これを不服として、東京高裁に控訴した。
5 東京高裁は、中労委及びX2らの控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
 
判決の要旨  (注)以下、原判決の引用部分を反映した内容である。

1 本件処分等について

 法人は、理事会における審議を経て、X2については以下の処分事由ⅰ)ないしⅲ)が認められるところ、処分事由ⅰ)及びⅱ)については法人の就業規定前文の精神及び就業規定3条、9条10号、17号に反するものとして同規定65条12号に該当し、また、処分事由ⅲ)については就業規定65条4号、5号、6号、12号に該当するとして、けん責の懲戒処分に付し、謹慎を付加する旨を決定し、その頃、X2に対し、上記の旨を通知するとともに、始末書の提出を命じた。

ア 処分事由ⅰ)
 D運動部の練習試合のためC4高校に遠征した際、試合のセット間にC5部員を体育館のステージに立たせたうえで、また、他の機会においても、相手の意に反して性的に不快の念や不安な状態に陥れる言動を行った。

イ 処分事由ⅱ)
 D運動部の部員らの人格を侮蔑するとともに、C5部員に対する指導に不適切な点があったことを反省し、今後は注意する旨の本件弁明書における誓約に反する行為に及んだ。

ウ 処分事由ⅲ)
 C5部員の母がX2のC5部員への指導に関して法人に抗議をし(以下「26年3月クレーム」という。)、これを端緒に法人から指導を受けたことに関し、保護者会長と共にC5部員の母と面談し、C5部員の母に自己を弁護する内容の校長宛ての手紙を書いてもらうため、その案となるメールを送るなどしたことは、C5部員の母において、あたかもクレームの対象となった事実関係についてX2が隠ぺい工作や裏工作をしているとの印象を抱かせる行為であり、これにより、教員としての体面を汚し、保護者の本件高校に対する信頼を損なった。

2 争点⑴ア 法人が組合の組合員であるX2に対し本件処分を行ったことが不利益取扱い(労組法7条1号)に当たるかについて

(1)本件処分の適法性について

ア 処分事由ⅰ)及びⅱ)の有無並びに懲戒事由該当性について
 練習試合を行うためにD運動部を引率してC4高校に遠征した際の、X2のC5部員に対する発言は、それ自体がC5部員の人格を卑下するものであることはもとより、他のD運動部員等の関係者の面前で発せられたものであること、部活動の指導の態様として叱責にわたる場面があるとしても、C5部員の私的領域にかかわる事柄を持ち出して叱責するものであって、前示のような表現を用いる必要性はうかがわれない。
 また、X2は、当時、D運動部の監督であり、また、C5部員のクラス担任であって、指導を受ける側であるC5部員との関係でみれば際立って優越的な地位にあり、当時高校1年生で心身ともに未成熟な女子生徒であったC5部員において自由な反論や拒絶の意思や態度を表明することは困難な状態にあったと解されることなどに照らせば、女子生徒に対する男性教員の発言として甚だ不適切というほかない。
 それまでにX2とC5部員との間で指導者と生徒としての一定の信頼関係が醸成されていたことを考慮しても、道義的に容認し得る程度を超えてC5部員の人格を揶揄し、その名誉感情を不当に侵害するものといわざるを得ない。
 したがって、X2のC5部員への上記発言は、その発言内容、発言があった状況等に照らし、少なくとも法人の就業規定3条、9条10号、17号に反するものとして同規定65条12号の懲戒事由に該当するものと認めるのが相当である。

イ 処分事由ⅲ)について
 X2は、平成26年3月クレームに起因して本件弁明書を作成した後、平成26年3月クレームに係る事由を理由にD運動部の監督から再度外されることを懸念し、C19保護者会長及び組合の執行委員長であったA1教員と共にC5部員の母と面談し、C19保護者会長からC5部員の母にB3校長宛の手紙を書くことを依頼し、C5部員の母がこれを承諾したこと、後日、X2は、C5部員の母から手紙の文案について教示を依頼され、文例を作成してC5部員の母に交付し、C5部員の母は、その文例どおりの文面で本件書簡を作成してB3校長に送付したことが認められる。
 C19保護者会長やA1教員らとともに、平成26年3月クレームの当事者であるC5部員の母に対し、平成26年3月クレームに起因してX2が不利益な処遇を受けることのないようB3校長にとりなしの書簡を作成することを依頼し、その書簡の内容についても教示するといったX2の一連の行動を全体としてみれば、客観的には、X2がD運動部の監督という地位を維持するために平成26年3月クレームの当事者自身にその本意ではない内容の書面作成を依頼して、本件弁明書をなかったことにしようとする働きかけをしているとの印象をC5部員の母に抱かせるものと評さざるを得ない。
 したがって、X2の上記の所為は、就業規定65条4号、5号、6号、12号の懲戒事由に該当するものと認めるのが相当である。

ウ 本件処分の相当性について
 前記ア及びイにおいて認定し説示したとおり、X2については法人の就業規定で予定された懲戒事由を構成する処分事由ⅰ)ないしⅲ)が認められる。
 これらは、いずれも本件高校の教員であり、かつ、強化指定部とされていたD運動部の監督として、D運動部員の生徒指導及び技術指導等の職責を負っていたX2が、その職務義務を十分に果たさず、C5部員に対する不適切な発言等を繰り返し、D運動部の監督の地位を保持しようとして、C5部員の母に不適切な対応を依頼して実行させたものであり、これにより、本件高校及びD運動部の教育環境や秩序を乱したものといえる。
 また、X2については、処分事由ⅰ)ないしⅲ)のほか、平成26年3月クレームに係る対応など他の不適切な行動もみられていたことが認められる。
 以上の諸事情によれば、本件処分以前に懲戒処分歴はなかったことなどX2に有利な事情を踏まえても、法人が処分事由ⅰ)ないしⅲ)を理由とする懲戒処分として「けん責」及び「謹慎」を選択したことが重きに過ぎるとはいえない。

エ 以上によれば、本件処分は、社会通念上相当であり、懲戒権の濫用に当たるものとして無効となるものとは認められない。

(2)本件処分の不当労働行為該当性について

 本件処分は、組合の組合員であるX2に対する懲戒処分であるから、客観的には、労組法7条1号所定の「不利益な取扱い」に該当する。そこで、法人の上記の取り扱いが、「労働者が労働組合の組合員であること(中略)の故をもつて」(同条1号本文)されたものであるか否かについて、以下検討する。
 まず、前記(1)において認定し説示したとおり、本件処分には客観的合理的な理由があるものといえ、相当性も認められるから、法人が、理由なくX2に対し懲戒処分を行ったということはできない。
 法人は、組合から平成26年9月29日付けの「申し入れ書」を受領したことによって初めてX2が組合の組合員であることを把握したものと認められるところ、法人は、平成26年3月クレームを踏まえてX2に本件弁明書(以下、記載に係る行為を「本件弁明書行為」という。)を作成させて今後の改善を促すなど、X2が組合の組合員であることを了知する前からX2の問題行動に対する指導を行っていた。
 その際、B3校長において、本件弁明書行為によりX2を処分しない旨を同人に告げていたとしても、本件処分にかかる処分事由ⅰ)ないしⅲ)は、本件書簡の受領を契機になされた平成26年3月クレームに係る事実関係の調査の過程で発覚したものであり、法人においてX2の懲戒事由の存在を強いて探索していたものともいえないことが認められる。
 以上の諸事情を総合すれば、本件処分は、平成26年3月クレームの調査の過程で発覚した処分事由ⅰ)ないしⅲ)について、法人の就業規定所定の懲戒事由に該当するものとして行われたものであると認められ、法人において、組合との関係で、反組合的な意図ないし動機に基づき、X2が組合の組合員であることの故をもって懲戒処分を行ったものとは認めるに足りず、他に本件全証拠を子細にみても、法人が不当労働行為の意思をもって本件処分を行ったものと認めるに足りる的確な証拠はない。
 仮に法人において、X2が組合の組合員であることを理由に本件処分を行うという動機が競合的に存在していたとしても、法人において、組合やX2を嫌悪し、明確な組合の弱体化を企図するなどの意図を明示していたとか、X2が組合の組合員でなく、通常の労働者であれば本件処分はされなかったであろうことを認めるに足りる的確な証拠は見受けられないから、前示の認定判断は左右されないというべきである。
 したがって、法人が組合の組合員であるX2に対し本件処分を行ったことが不利益取扱い(労組法7条1号)に該当するとは認められない。
 なお、X2らは、平成26年9月22日に本件弁明書の事実では懲戒にしないとB3校長が約束したにもかかわらず、組合が同月29日にX2が組合員であることを知らせたところ、法人が同年10月16日付の回答書で懲罰委員会を開催することをX2に通告したものであるから、上記通告は、X2が組合員であることを法人が了知したことによってなされた不利益取扱いであり、不当労働行為にあたる旨を主張する。
 しかしながら、上記回答書に記載のある懲罰委員会の開催に関する部分については、X2が本件弁明書を撤回するのであれば懲罰委員会においてその弁明の機会を設けた上で審議することを告げるというものであり、組合員であることを理由とする不利益取扱いをいうものとはうかがえないし、本件処分に至る上記の経緯に照らせば、X2が組合員であることを法人が知った後の出来事であることをもって、上記回答書による懲罰委員会開催の通告が不当労働行為にあたるとする上記X2らの主張は理由がない。

3 争点⑴イ 法人が組合の組合員であるX2に対し本件処分を行ったことが支配介入(労組法7条3号)に当たるかについて

 前記2において認定し説示したとおり、本件処分は、客観的・合理的な理由があり、相当であることに加え、少なくとも、組合に対する不当労働行為意思の下に組合ないしX2を不利益に取り扱うものとはいえず、労組法7条1号の不当労働行為に該当するものともいえない。
 そうすると、法人がなした本件処分が、組合への嫌悪の情に基づくものであったとは認められないし、本件高校の教員が組合に加入することをけん制するなどして組合を弱体化させ、あるいは、組合の運営・活動を妨害し、組合の自主的な決定に干渉する目的でなされたものとまでは認め難く、法人が上記の結果を企図して本件処分を行ったものと認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、法人が組合の組合員であるX2に対し本件処分を行ったことが労組法7条3号の不当労働行為(支配介入)に該当するものとは認められない。

4 争点⑵ 平成26年10月21日のB4教頭のX2に対する発言の内容及び当該発言が支配介入(労組法7条3号)に当たるかについて

(1)中労委及びX2らは、B4教頭が、平成26年10月21日、X2に対し、組合加入の事実を確認した上で、組合に入れば、D運動部が強化指定部から外されるか、同部の監督から外されることになるといった趣旨の発言をした旨を主張する。
 しかしながら、B4教頭は、平成26年10月21日に、教務室の自席の傍をX2が通りかかった際、「お前組合に入ったのか。一体どういうことなんだ。」、「お前は今組合に助けを求めている場合じゃないだろ。何か苦しいことがあれば組合に助けてもらうのか。」、「このタイミングで組合に入ったということは、自分の身を守ってもらうという逃避にしか見えないよ。それより、しっかり問題点に向き合って、謙虚に反省するべきじゃないの。失敗した部の顧問たちは、みんな、自分で反省する期間を経て、今に至っているんだよ。何で都合が悪くなるとすぐに人に頼るの。」、「すぐに自分を正当化して助けを求めてばかりで、反省しない態度では、強化指定部の顧問としての適性がないと思われて、顧問からもはずされてしまうかもしれないよ。」、「都合が悪くなったら誰かに助けてもらって謙虚に反省しない態度なら、D運動部は強化指定から外されるか、君が顧問から外されるかもしれないよ。」などと述べた(以下「B4教頭発言」という。)をしたことが認められるものの、上記の発言を超えて中労委及びX2らが主張する発言をしたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、中労委及びX2らの主張のうち、上記認定と異なる発言があった旨をいう部分は採用することができない。

(2)次いで、B4教頭発言が労組法7条3号所定の不当労働行為に該当するか否かについて検討する。
 B4教頭は、X2が組合に加入したこと自体を問題視したり、非難したものではなく、X2が本件弁明書行為の事実を認める本件弁明書を作成した後になって同行為についての法人からの処分を免れることを目的に組合に加入したのではないかと考えて、本来学校や教師にとって深刻に受け止めなければならないはずの本件弁明書行為を行為者であるX2自身が真摯に受け止めておらず、反省していないようにみえることを同人に指摘したものと理解することができる。
 以上に加え、B4教頭も教頭に任じられる前は組合の組合員であったこと、B4教頭発言を受けたことによって組合やX2が組合活動に支障を来したといった事情もうかがわれないことを考慮すれば、B4教頭発言が、組合への嫌悪の情に基づくものとは認められないし、教職員が組合に加入することをけん制するなどして組合を弱体化させたり、組合の運営・活動を妨害し、組合の自主的な決定に干渉する目的でなされたものとは認め難い。
 また、さしたる理由がないのに不利益な取扱いの可能性を告げられた場合であれば、組合への加入を理由としてそのように告げられたのではないかと考えて、その後の組合活動に躊躇することがありうるとしても、本件弁明書行為が事実であることを自覚しているX2としては、B4教頭発言を受けて、本件弁明書行為を率直に反省せず何とか正当化しようとしている自身の姿勢が咎められていることを容易に理解したはずであって、これによりX2が組合への加入を後悔しあるいはその活動を躊躇したものとは認められないから、B4教頭発言が、X2の認識を媒介として、組合を弱体化させ、その運営・活動を妨害する結果につながりうることも肯定できないというべきである。
 その他に本件全証拠を子細にみても、B4教頭が上記の結果を企図して組合に支配介入を行ったものと認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、B4教頭発言が労組法7条3号の支配介入に当たる旨の中労委及びX2らの主張は採用することができない。

5 争点⑶ B3校長発言の有無及びB3校長発言が支配介入(労組法7条3号)に当たるかについて

(1)中労委及びX2らは、B3校長が平成27年3月21日に校長室で懲罰委員会の開催を告げた際、X2に対し、「組合に入って強化指定部なんて持てるわけないだろう」という趣旨の発言をした旨を主張する。
 しかしながら、B3校長は、X2に対し、「自己反省していないことは、強化指定部の監督として不適格である」旨の発言をしたことが認められるにとどまり、これを超えて中労委及びX2らが主張する発言をしたとまでは認められないから、中労委及びX2らの主張のうち、上記の認定に反する部分は採用することができない。

(2)次いで、上記⑴のB3校長の発言が労組法7条3号所定の不当労働行為に該当するか否かについて検討する。
 B3校長は、X2に対し、懲罰委員会の開催を告げる際に「自己反省していないことは、強化指定部の監督として不適格である」旨の発言をしたことが認められる。
 このことは、一般的な指導の範囲内の言動であると認められ、B3校長の発言を受けたことによって組合やX2が組合活動に支障を来したといった事情もうかがわれないことを考慮すれば、B3校長の上記発言が、組合への嫌悪の情に基づくものであったとは認められないし、教職員が組合に加入することをけん制するなどして組合を弱体化させたり、組合の運営・活動を妨害し、あるいは、組合の自主的な決定に干渉する目的でなされたとは認め難く、B3校長が上記の意図のもとに組合に支配介入を行ったものと認めるに足りる的確な証拠はない。
 したがって、B3校長の発言が労組法7条3号の不当労働行為に該当するとの中労委及びX2らの主張は採用することができない。

6 当審における控訴人らのその余の主張も、実質的に原審における主張を繰り返すもの又はその前提を欠くものであるなど、前記2ないし5の認定判断を左右するものに足るものとは認められない。

7 以上によれば、法人の請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
新労委平成27年(不)第5号 一部救済 平成29年11月2日
中労委平成29年(不再)第53・55号 一部変更 令和2年12月16日
東京地裁令和3年(行ウ)第74号 全部取消 令和5年5月25日
 
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