労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委平成25年(不再)第47号
明治不当労働行為再審査事件 
再審査申立人   個人申立人 初審申立人らの承継人を含む。初審申立人らを、「本件申立人ら」 
再審査被申立人   会社 
命令年月日  平成29年1月11日 
命令区分  棄却 
重要度   
事案概要  1 本件は、会社が、本件申立人らの組合活動を嫌悪し、同人らの元年度から5年度の昇格・昇給を他の従業員と差別して不利益に行い、その結果、組合の運営に支配介入したことが労組法7条1号及び同3号の不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済が申し立てられた事案である。
2 初審東京都労委が、死亡した2名の救済申立て、及びその余の30名の元年度ないし4年度における昇格・昇給差別に関する救済申立てを却下し、その余の救済申立てを棄却する旨の初審命令を発したところ、これを不服として再審査が申し立てられた。 
命令主文  本件各再審査申立てをいずれも棄却する。 
判断の要旨  1 争点1(申立期間の制限)
 毎年4月1日付けの職分及び号給の格付け(昇格昇給決定行為)と翌年3月25日までの各月の賃金支払行為とは,継続する1個の行為と評価できる。本件救済申立ては6年7月6日に行われているところ,同日からさかのぼって1年以内の最も早い5年7月25日の賃金支払行為は,同年4月1日付けで行われた職分及び号給の格付け(昇格昇給決定行為)と継続する1個の行為と評価でき,5年度の昇格・昇給差別(昇格昇給決定行為)に関する申立ては適法である。
 他方,元年度から4年度の昇格昇給決定行為とこれに基づく賃金支払行為は,いずれも各年度の最終の賃金支払行為から1年を経過後に申し立てられたものであり,5年度に行われた昇格・昇給の決定と元年度から4年度に行われた昇格・昇給の決定とは1個の「継続する行為」であるとは評価できないから,元年度から4年度の昇格・昇給差別(昇格昇給決定行為)に関する本件救済申立ては,労組法27条2項の申立期間を徒過したものとして却下すべきである。
2 争点2(労組法7条1項及び3項の成否)
 (1) 集団的考察の前提
 査定結果が昇格や昇給を決定付けることを建前とする会社の人事制度は,会社程度の規模の企業が備えるべき制度として一般的で合理性を有し,その運用に当たっても年功的処遇が行われていたとは認められないところ,本件申立人らあるいは申立人ら集団については,集団としてのまとまりの程度について必ずしも明らかではなく,その集団性に一定の限界はあるが,会社が本件申立人らや申立人ら集団と対立関係にあった労使協調路線を採るインフォーマル組織の結成に関与していた疑いがあり,会社の要職者が申立人ら集団の人数推移を報告等していたなどの事情を前提とすれば,本件申立人らを含む申立人ら集団が組合活動の面においては1つの集団であったと見た上で,人事考課成績等に関する集団的考察を行うことには有益な面がある。
 (2) 人事考課効果成績に関する考察
 5年度の昇給については,賃金制度によれば,同年度の総合評定成績に基づき決定され,同年度の昇格については,人事考課成績基準によれば,直近3か年(3年度から5年度)の業績・能力評定成績に基づき決定されるから,これらの各成績に関する判断が必要となる。
 会社における技能職から基幹職1級までの職分にある従業員の人事考課成績の分布(「標準的人事考課分布」)と,5年度の職分昇格及び昇号給を決定付ける本件申立人らの人事考課成績の分布とを比較すると,本件申立人らの人事考課成績分布は,標準的人事考課分布との乖離がいずれもわずか数ポイントに留まる上,C考課が最も多く,その余をB考課とD考課が占めるという標準的人事考課分布の傾向と合致している。加えて,前記アで指摘した集団性の限界があり,数名の査定結果が人事考課成績分布の比率に大きく影響すること,本件申立人らは全国9工場に所属しており,同一の査定権者により査定を受けたものではないことなどからすれば,標準的人事考課分布と多少の乖離が生じることはやむを得ないことも指摘できる。そうすると,5年度の昇格を決定付ける3年度から5年度の業績・能力評定成績の査定,並びに同年度の昇給を決定付ける5年度の総合評定成績の査定において,本件申立人らの人事考課成績分布と標準的人事考課分布との間に有意な格差が存在したとは認められず,本件申立人らが他の従業員に比して低査定を受けた事実は認められない。
 (3) 職分や賃金の累積格差に関する考察
 累積格差の存在自体を不当労働行為とすることは,年度ごとに独立した昇格昇給決定行為という作為を,あえて格差を是正しないという不作為と構成し,この不作為が「継続する行為」に当たると主張するに等しく,労組法27条2項の申立期間の制限に抵触し許されない。 また,累積格差の一括是正は,申立期間内の適法な救済申立てに関する不当労働行為の成立が前提となる救済方法の問題であるが,前記(2)のとおり,本件では,5年度の昇格昇給決定行為について,会社が本件申立人らを他の従業員と比べて低位に査定したとは認められず,不当労働行為の成立を肯認できないから,累積格差の一括是正の救済を命じる前提を欠く。
 念のために見ても,再審査申立人らが主張する職分格差(その帰結としての賃金格差)は,5年度の10年以上も前に生じていた職分格差(それまでの査定結果)に基づくところが大きいから,再審査申立人らの主張する職分格差の原因(行為)を適法な救済申立てである5年度の昇格昇給決定行為と結びつけて一括して救済することはできない。
 (4) 個別的考察
 本件審査の状況からすれば,5年度の昇格昇給決定行為の基礎となる査定について,個別立証の方法により不当労働行為の成否を判断する必要はない。
 念のために見ても,再審査申立人らは,B考課を受けることができなかった本件申立人らが標準成績であるC考課を上回る人事考課成績を受けるべきであったことに関する的確な立証を行っていない。また,C考課を下回る人事考課成績の者についても,これらの者がその他の本件申立人ら(低位な査定を受けていない者を指す。)に比しても低位な査定を受ける端緒となるべき顕著な組合活動を行っていたことをうかがわせる事情は認められないことなどからすれば,個別立証の観点によっても,労組法7条1号及び3号の不当労働行為が成立するとは認められない。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成6年(不)第55号 棄却 平成25年6月18日
東京地裁平成29年(行ウ)第149号・第375号 棄却 平成30年11月29日
東京高裁平成31年(行コ)第6号 棄却 令和2年1月30日
最高裁令和2年(行ツ)第147号・令和2年(行ヒ)第159号 上告棄却・上告不受理 令和2年10月15日
 
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