労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成29年(行ウ)第149号・第375号
明治不当労働行為再審査申立棄却命令取消事件
原告  甲事件(X1~X35。承継人を含む。)、乙事件(X36)(以上、併せて「原告ら」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  株式会社Z1(「会社」) 
判決年月日  平成30年11月29日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  一 本件は、会社が、本件申立人らの組合活動を嫌悪し、同人らの元年度から五年度の昇格・昇給を他の従業員と差別して不利益に行い、その結果、組合の運営に支配介入したことが労組法七条一号及び同三号の不当労働行為に当たるとして、東京都労委に救済が申し立てられた事案である。

二 初審東京都労委が、死亡した二名の救済申立て、及びその余の三〇名の元年度ないし四年度における昇格・昇給差別に関する救済申立てを却下し、その余の救済申立てを棄却する旨の初審命令を発したところ、これを不服として再審査が申し立てられたが、中労委も、初審命令を維持して再審査申立てを棄却した。

三 これを不服として東京地裁に取消訴訟が提起されたが、同地裁は原告らの請求をいずれも棄却した。 
判決主文  1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。 
判決の要旨  一 争点一(平成四年度以前の昇格等差別についての除斥期間の成否)について
(一)会社は、毎年四月一日付けで各従業員について昇格等決定行為を行い、これに基づいて翌年三月二五日までに支払期日の到来する賃金を支払っていたものである。そうすると、会社がある年の昇格等決定行為において不利益取扱いをした場合、その不利益取扱いの意図は、これに基づく翌年三月二五日までの賃金支払によって具体的に実現されるのであるから、同不利益取扱い及びこれに基づく同日までの賃金支払は、継続して行われる一括して一個の行為とみるべきであり、同昇格等決定行為及びこれに基づく同日までの賃金支払は、「継続する行為」に当たるというべきである。
 これに対し、会社がある年の昇格等決定行為において不利益取扱いをした場合であっても、翌年度以降における昇格等決定行為及びこれに基づく賃金支払は、その不利益取扱いとは別個に行われるものであって、不利益取扱いの意図が具体的に実現されたものとみることはできないこと、不利益取扱いについての基本的意思決定行為である昇格等決定行為がされてから翌年度の昇格等決定行為がされるまでには一年の間隔があること、複数の年度にまたがる昇格等決定行為及びこれに基づく賃金支払を継続して行われる一括して一個の行為とみた場合には、救済対象となる行為を際限なく遡ることが可能となり、除斥期間を定めた趣旨を没却することになりかねないことなどに照らし、複数の年度にまたがる昇格等決定行為及びこれに基づく賃金支払は、継続して行われる一括して一個の行為とみることはできず、「継続する行為」に当たるということはできない。

(二)原告らは、昇格等に関する格差は相当程度の期間が経過して初めて顕在化するものであり、証拠収集及び実情把握に相当程度の期間を要することから、継続的昇格等差別には労組法二七条二項の趣旨が妥当しない旨主張する。
 しかし、会社は、本件救済申立人らを含む従業員に対し、職分、賃金及び人事考課についての制度内容等を開示している上、毎年四月一日付けで昇給通知及び人事考課成績通知を交付していること、本件救済申立人らを含む申立人ら集団は、昭和五九年には、参加人が長年にわたって申立人ら集団に対して昇格等差別を繰り返しているとして全国連絡会を結成し、C14工場事件申立人らは、昭和六〇年、C14工場事件救済申立てを行い、本件救済申立人らのうち二七名は、平成四年一一月六日に提出された是正要求書に署名したことが認められる。このような活動に取り組み又はこれを支援していた本件救済申立人らにおいて、平成元年度から平成四年度までの昇格等の実情を各最終賃金支払日から一年以内に把握していなかったと認めることはできないから、原告らの主張は、実情把握等に相当程度の期間を要するとする前提を欠くものであり、採用することができない。
 原告らは除斥期間に関してその他にも様々な主張をするが、前判示に照らし、いずれも採用することができない。

(三)本件救済申立ては平成六年七月六日に行われているところ、前判示によれば、平成五年度の昇格等決定行為及びこれに基づく平成六年三月二五日までの賃金支払は同日に終了した「継続する行為」に当たるから、本件救済申立てのうち、平成五年度の昇格等差別についての申立ては除斥期間内に申し立てられたものということができるが、平成四年度以前の昇格等決定行為及びこれに基づく賃金支払はいずれも平成五年三月二五日以前に終了しているから、平成四年度以前の昇格等差別についての申立ては、除斥期間経過後に申し立てられたものというべきである。

(四)以上によれば、本件救済申立てのうち、平成四年度以前の昇格等差別についての申立ては不適法であり、平成五年度の昇格等差別についての申立ては適法であるから、これと同旨の中央労働委員会の命令は相当である。

二 争点二(一)(集団間における格差の有無等)について
(一)審理対象について
ア(ア)会社の昇格等の制度は、従業員の業績及び能力を人事考課制度に基づいて評価し、その人事考課成績を昇格等に反映させる職能型のものであって、年功型のものではないことや、会社が、従業員に対し、人事考課成績基準の具体的内容等を開示し、上司を通じて毎年四月一日に人事考課成績を従業員に通知し、苦情処理委員会に対する不服申立制度が設けられていること等を含め、昇格等の制度全体をみても、その内容に特段の不合理な点は見当たらず、昇格等の制度自体が不当労働行為を生み出す契機となっているということはできない。そうすると、平成五年度の昇格等について不当労働行為の成否を検討するに当たり、同年度における同期同学歴の従業員間に職分等格差があるとしても、それは昇格等の制度そのものの問題ではなく、その制度の運用である人事考課成績の結果であるから、当該格差の存在のみをもって不当労働行為の成立が認められるものではなく、同年度の昇格等についての人事考課成績の決定行為について不当労働行為の成立が認められるか否かを検討する必要がある。

(イ)原告らについて、平成五年度の昇格のうち特別昇格及び再昇格についていずれも不当労働行為は問題とならないことは前判示のとおりである。したがって、不当労働行為の成否が問題となり得るのは、同年度の一般昇格のみであるところ、同年度の一般昇格は直近三か年(平成三年度から平成五年度まで)の業績評定成績及び能力評定成績に基づいて決定されるのであるから、同年度の一般昇格との関係において不当労働行為の成否を判断するには、平成三年度から平成五年度までの業績評定成績及び能力評定成績の各決定行為について不当労働行為の要件を満たすか否かを検討する必要がある。
 また、前判示のとおり、平成五年度における本給の昇給額は、同年度の総合評定成績が決定することにより確定する。さらに、同年度における職分給の昇給額は、同年度の職分及び号給が決定することにより確定するところ、同年度の職分は平成三年度から平成五年度までの業績評定成績及び能力評定成績に基づいて決定され、平成五年度の号給は同年度の総合評定成績に基づいて決定される。
 そうすると、本件においては、昇格との関係では、平成三年度から平成五年度までの業績評定成績及び能力評定成績の各決定行為についての不当労働行為の成否を、昇給との関係では、本給につき同年度の総合評定成績の決定行為についての不当労働行為の成否を、職分給につき同業績評定成績及び能力評定成績並びに同総合評定成績の各決定行為についての不当労働行為の成否を、それぞれ検討すべきこととなる(以下、平成三年度から平成五年度までの業績評定成績及び能力評定成績並びに同年度の総合評定成績を「本件審理対象成績」という。)。

(ウ)累積格差の一括是正は、適法な申立てについて不当労働行為が成立する場合、これと密接に関連する過去の不当労働行為に対する救済として、除斥期間を定めた趣旨に照らし、累積格差の是正をどこまで命ずることができるかという、不当労働行為の成立を前提とした救済方法の問題であるから、適法な申立てについて不当労働行為の成立が認められることが前提となるというべきである。そうすると、仮に累積格差の一括是正が認められるとしても、除斥期間についての前判示に照らせば、申立日から一年以内の行為(以下「申立対象行為」という。)について不当労働行為が成立する場合に限られることになる。この点、原告らの上記主張は、職分等格差を発生させた不当労働行為について申立日を起算点とすると除斥期間を経過している場合において、職分等格差を是正しない不作為が申立日から一年以内に存在するとしてこれを申立対象行為とし、それが不当労働行為に当たるというものであり、当該不作為を不当労働行為として救済の対象とする場合には、職分等格差を発生させる原因となった過去の不当労働行為についての救済申立てを実質的には期間の制限なく認めることになるから、除斥期間を定めた趣旨を没却することになる。
 以上の諸点に照らせば、本件において、申立日から一年以内に職分等格差がありさえすれば累積格差の一括是正が可能であるということはできないから、この点に関する原告らの主張は採用することができない。

イ 本件救済申立人らのうち一四名については、平成五年度に昇格に必要な経過年数を満たしていなかったのであるから、同年度に昇格しなかったことは当然であり、また、一名は同年度に昇格している。そうすると、同一四名に一名を加えた合計一五名については、そもそも同年度の昇格について差別があったということはできない。
 また、上記一四名は、平成五年度に昇号給している。さらに、昇格した者は上位職分の一号給に格付けされるところ、一名は、同年度に昇格し、上位職分の一号給に格付けされている。したがって、上記一五名については、同年度の職分給の昇給に関しても差別があったとはいえない。
 そうすると、上記一五名については、昇格及び職分給の昇給について差別があったということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、平成三年度から平成五年度までの業績評定成績及び能力評定成績の各決定行為について不当労働行為の成立は認められない。

(二)集団的考察について
ア 本件救済申立人らは、労働条件や職場環境の改善等を求めて活動してきた申立人ら集団 の一員であり、生産合理化や新職分制度等の参加人の施策に反対する活動を行っていたこ と、労使協調路線を採るインフォーマル組織との間で本件組合の支部役員選挙等において対立する状況にあったこと、組合員の参加人に対する裁判を支援する活動をしていたこと、全国連絡会を結成し、三二名中二七名が是正要求書に署名したこと等が認められるところ、これらの諸事実に鑑みれば、本件救済申立人らを組合活動の面では一つの集団であったものとみた上で集団的考察を行うことは可能というべきである。

イ もっとも、本件救済申立人ら三二名は、全国九つの工場に分かれて所属する者であり、入社時期や職分等にもばらつきがあり、集団として強固なまとまりを有していたとまでは認められない。また、本件救済申立人らは申立人ら集団八七名のうち三二名にすぎないのに対し、原告らが比較対象として主張するその他集団の人数は四一四名であり、会社の 従業員数が平成二八年三月三一日時点で一万〇八〇五名であるから、分布目安が適用される従業員の総数は上記四一四名に限られず、より多数であることが推認される。その結果、本件救済申立人らと比較対象となる集団(以下「その他集団等」という。)との間には、母数に有意な差があり、一名の人事考課成績が集団の人事考課成績分布に与える影響にも有 意な差があることになる。さらに、会社においては、職分及び所属工場ごとに人事考課が行われているところ、本件救済申立人らとその他集団等との間において、構成員の職分 及び所属工場の割合が近似していることを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠もない。
 これらの事情を総合すると、本件救済申立人らとその他集団等との間に人事考課成績分布について一定の差があるとしても、そのことをもって直ちに不合理ということはできず、その差が有意なものであるか否かを慎重に検討する必要があるというべきであり、本件で集団的考察を行うに当たっては、このような一定の限界があることを考慮すべきである。

(三)有意な格差の有無について
ア 工場に所属する従業員の人事考課成績の決定は職分及び所属工場ごとに行われるところ、本件において、本件救済申立人らと同じ職分及び工場の従業員の本件審理対象成績は明らかでない。

イ(ア)もっとも、業績評定成績及び総合評定成績については、いずれも分布目安が定められており、他の事業所と著しく均衡を欠く事業所がある場合には成績分布の事業所間の相違が大きくならないよう調整が行われていたことが認められる。また、C16工場業務課主 任となり平成九年三月まで同工場に在籍していたC29は、同工場における人事考課成績分布はB考課及びD考課がいずれも約一五%から二〇%までの範囲内にあり、C考課が約六〇%から七〇%までの範囲内にあった旨供述しており、同工場で係長や課長を務めていたC30もこれに沿う供述をしている。
 これらの諸事情を踏まえると、本件救済申立人らの業績評定成績及び総合評定成績の人 事考課成績分布については、B考課以上及びD考課以下がそれぞれ一〇%から二〇%まで の範囲内にある場合には、標準的な人事考課成績分布(以下「本件標準的業績評定成績等分布」という。)と比較して低位であるということはできないというべきである。

(イ)以上に照らして、本件救済申立人らの平成三年度から平成五年度までの業績評定成績分布及び同年度の総合評定成績分布が本件標準的業績評定成績等分布と比較して有意に低位であるか否かについて検討する。
 会社の人事考課制度においては、傷病欠勤をした場合は欠勤一日につき業績評定点が一点減点され、評定期間中における就労制限の期間が通算四か月以上に及ぶ場合は各評定点が減点されるところ、本件救済申立人ら業績評定成績等分布には、これらの特別の事情による減点を受けた者の人事考課成績が含まれている。
 本件救済申立人ら業績評定成績等分布から上記特別の事情により低位な査定となったものを除外すると、次のとおりとなる(以下「修正本件救済申立人ら業績評定成績等分布」という。)。
(a)平成三年度の業績評定成績
    B考課が二名(約六.九%)、C考課が二三名(約七九.三%)、      D考課が四名(約一三.八%)である。
(b)平成四年度の業績評定成績
    B考課が三名(一〇%)、C考課が二二名(約七三.三%)、D考課が    五名(約一六.七%)である。
(c)平成五年度の業績評定成績及び総合評定成績
    業績評定成績につき、B考課が四名(約一二.九%)、C考課が二四名   (約七七.四%)、D考課が三名(約九.七%)であり、総合評定成績に    つき、B考課が二名(約六.五%)、C考課が二八名(約九〇.三%)、    D考課が一名(約三.二%)である。
 B考課以上及びD考課以下がいずれも一〇%から二〇%までの範囲内にある場合には、本件標準的業績評定成績等分布と比較して低位であるということはできないところ、本件救済申立人ら業績評定成績等分布は、本件標準的業績評定成績等分布と比較すると、平成三年度の業績評定成績におけるB考課以上の割合(約六.三%)が約三.七%低く、同D考課以下の割合(約二一.九%)が約一.九%高く、平成四年度の業績 評定成績におけるB考課以上の割合(約九四%)が約〇.六%低く、同D考課以下の割合(約二一.九%)が約一.九%高く、平成五年度の総合評定成績におけるB考課以上 の割合(約六.三%)が約三.七%低い。
 このように、本件救済申立人ら業績評定成績等分布は、標準的業績評定成績等分布と比較して、割合にすると約〇.六%から三.七%低位な部分もある。しかし、前記前提事実のとおり、本件救済申立人らは三二名であるから、一名の人事考課成績が変動することにより人事考課成績分布に約三.一%の変動が生じるのであって、上記割合を人数に換算すると、最大でも本件救済申立人らのうち一名程度の相違にすぎないものである。
 また、修正本件救済申立人ら業績評定成績等分布と標準的業績評定成績等分布とを比較すると、修正本件救済申立人ら業績評定成績等分布は、平成三年度の業績評定成績におけるB考課以上の割合(約六.九%)が約三.一%低く、平成五年度の総合評定 成績におけるB考課以上の割合(約六.五%)が約三.五%低いものの、他に劣位な点は見当たらない。さらに、平成五年度の総合評定成績におけるD考課以下の割合を比較すると、本件救済申立人ら業績評定成績等分布については約三.七%、修正本件救済申立人ら業績評定成績等分布については約六.八%、それぞれ標準的業績評定成績等分布よりも低くなっており、本件救済申立人らの人事考課成績分布が一方的に低位であるわけでもない。
以上で述べたところに加え、前判示のとおり、本件における集団的考察については、比較集団間で一名の人事考課成績が各集団の人事考課成績分布に与える影響において有意な差がある上、会社では職分及び所属工場ごとに人事考課が行われていることなどにより一定の限界があることを併せ考慮すれば、本件救済申立人らの業績評定成績及び総合評定成績の人事考課成績分布が、本件標準的人事考課成績分布と比較して有意に低位であるということはできない。

ウ(ア)原告らは、能力評定成績分布についても、これが本件標準的業績評定成績等分布より低位であることをもって標準的な人事考課成績分布を下回っている旨を主張するものとも解されるが、前記前提事実のとおり、能力評定成績については分布目安が設けられておらず、標準的な人事考課成績分布を観念することはできないから、同主張は前提を欠き失当である。

(イ)なお、念のため、本件救済申立人らの能力評定成績分布それ自体から、会社が本件救済申立人らの組合活動を嫌悪して殊更に低位な査定をしていたことがうかがわれるか否かにつき検討すると、本件救済申立人ら能力評定成績分布は、B考課が約三.一%から約六.三%までの範囲内にあり、C考課が約六八.八%から約九〇.六%までの範囲内にあり、D考課が約六.三%から二五%までの範囲内にあるところ、平成三年度から平成五年度までのいずれにおいても、標準的成績であるC考課が最も多い上、標準的成績を上回るB考課もあり、標準的成績を下回るD考課は最大でも二五%であり、少ない年には約六.三%にとどまる。また、この成績分布から特別の事情により低位となったものを除くと、D考課は最大でも二〇%であり、少ない年には約三.二%にとどまる。さらに、前記前提事実のとおり、本件救済申立人らの人数は三二名であり、一名の人事考課成績の変動により成績分布に約三.一%の変動が生ずるところ、上記二五%を人数に換算すると八名となる。これらの諸事情のほか、本件救済申立人ら能力評定成績分布が会社の他の従業員の審理対象期間における能力評定成績分布より低位であることを基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はないことも考慮すれば、本件救済申立人ら能力評定成績分布からも、会社が本件救済申立人らの組合活動を嫌悪して殊更に低位な査定をしていたことはうかがわれない。

エ 原告らは、本件救済申立人らのうち、平成五年度に総合評定成績でB考課以上を得られなかったために六号給以上への昇号給ができなかった者が一四名に及ぶこと、平成三年度から平成五年度までに業績評定成績及び能力評定成績においてB考課以上を得られなかったために昇格できなかった者が一七名に及ぶこと、同年度において基幹職二級への昇格に必要な経過年数を満たしていた七名の平成三年度から平成五年度までの業績評定成績及び能力評定成績にはD考課以下が一五個(三五.七%)あること等に照らし、本件救済申立人らの人事考課成績分布には意図的な偏りがある旨主張する。
しかしながら、原告ら主張のとおり本件救済申立人らの中に平成三年度から平成五年度までにB考課以上を得られなかったために昇格できなかった者が原告主張のとおり一七名存在するとしても、そのことをもって会社が本件救済申立人らの昇格を阻止するために殊更B考課以上の評価をしなかったとみることはできない。さらに、原告らが主張するD考課以下一五個の成績考課中には、前判示に係る特別の事情によるものが含まれているのであって、これらを除外すると、原告らの主張に係るD考課以下の数は三個となるから、原告らの主張する七名から三名を除外した四名の業績評定成績及び総合評定成績に占めるD考課以下の割合は一二.五%となり、本件標準的業績評定成績等分布の範囲内となる。
 以上によれば、原告らの指摘する各事情を考慮しても、本件救済申立人らの人事考課成績分布に意図的な偏りがあるということはできないから、原告らの主張は採用することができない。
 原告らはそのほかにも様々な主張をするけれども、前判示に照らし、いずれも採用することができない。

(四)小括
 以上のとおり、本件審理対象成績について、本件救済申立人らとその他集団等との間において有意な格差があるということはできない。

三 争点二(二)(会社が本件救済申立人らの組合活動を嫌悪していたか否か) 及び争点二(三) (個々人の勤務成績等に基づく格差の合理性の有無)につ いて
原告らは、会社が本件救済申立人らの組合活動を嫌悪して不当に低い人事考課をしたものであり(争点二(二))、同人らのうちD考課とされた者らを個々人でみても、人事考課成績の理由とされた事実がないか又は同事実に対する評価が不当である(争点二(三))旨主張する。
 しかし、本件では、平成三年度から平成五年度までの本件審理対象成績の決定行為について不当労働行為が成立するか否かを検討すべきところ、本件審理対象成績について、本件救済申立人らとその他集団等との間において有意な格差があるということはできないことは前判示のとおりである上、原告らの主張する者が本件救済申立人らの中でも特に低位な人事考課成績を与えられるべき顕著な組合活動を行っていたことを認めるに足りる証拠はないから、人事考課成績の理由とされた事実又は評価の誤りがあるとしても、それが会社において組合活動を嫌悪したことに基づいて殊更に低い人事考課をした結果であると認めることはできない。
 そうすると、原告らの主張する組合活動嫌悪の点や原告らの個別的な勤務成績等の主張を踏まえても、本件審理対象成績の決定行為について不当労働行為が成立するということはできない。

四 原告らの請求についての判断
 以上のとおり、本件救済申立てのうち、除斥期間経過後の申立てである平成四年度以前の昇 格等差別についての申立ては不適法であり、平成五年度の昇格等差別についての申立ては、前 判示の集団間における格差の有無、組合嫌悪の有無及び個別的な事情等の検討の結果、不当労 働行為の成立が認められないので理由がないところ、これと同旨の中央労働委員会の命令は相 当であるから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成6年不第55号 棄却 平成25年6月18日
中労委平成25年(不再)第47号 棄却 平成29年1月11日
東京高裁平成31年(行コ)第6号 棄却 令和2年1月30日
最高裁令和2年(行ツ)第147号・令和2年(行ヒ)第159号 上告棄却・上告不受理 令和2年10月15日
 
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