概要情報
事件名 |
近畿地方整備局 |
事件番号 |
中労委平成24年(不再)第10号 |
再審査申立人 |
全日本建設交運一般労働組合大阪府本部 |
再審査申立人 |
全日本建設交運一般労働組合建設一般合同支部(本部及び支部を併せて以下「組合」) |
再審査被申立人 |
国(国土交通省) |
命令年月日 |
平成26年3月5日 |
命令区分 |
取消、棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 国土交通省近畿地方整備局奈良国道事務所の道路境界明示等に関する受付・審査・立会等の業務を受託していた申立外B法人は、国が平成21年度に同業務を発注しなかったことから、同業務に従事していた労働者Aを雇止めとした。
本件は、Aが加入した組合が、平成21年5月28日付け、同年7月14日付け及び同年12月21日付けで国に対して、Aの雇用継続と雇用の安定を図ることに関して団体交渉を申し入れたところ、国がこれに応じなかったことについて、不当労働行為であるとして救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、国は組合の団体交渉に応じるべき労組法上の使用者に当たらないとし、組合の救済申立てを却下したところ、組合はこれを不服として再審査を申し立てた。 |
命令主文 |
初審決定を取り消し、各救済申立てを棄却する。 |
判断の要旨 |
国は、本件団交拒否につき、労組法第7条各号の不当労働行為が成立する上での使用者に当たるといえるか。
1 労組法第7条にいう「使用者」は、必ずしも労働契約上の雇用主に限定されるものではなく、雇用主以外の者であっても、例えば、当該労働者の基本的な労働条件等に対して、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有しているといえる者や、当該労働者との間に、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する者もまた雇用主と同視できる者であり、これらの者は、その同視できる限りにおいて労組法第7条の「使用者」と解すべきである。
2 国との間に雇用関係のないAの雇用継続・雇用の安定といった雇用そのものに関する事項について団交が申し入れられている本件において、国が労組法第7条の「使用者」に当たるといえるためには、国が、Aに係る採用、配置、雇用の終了といった一連の雇用の管理に関する決定について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している必要があるものと解される。
(1) 採用及び配置について
Aの採用を決定し雇用契約を締結し、奈良国道事務所に配置することを決めていたのはB法人であり、これら採用の過程で、国がAの面接を行うなどして関与した事情は窺えない。
(2) 雇用の終了について
平成19年度の雇用契約に当たり、B法人からAに示された雇用条件には、雇用契約の更新条件として、従事する業務が継続されるときとの条件が示され、それをAも了解した上でB法人に契約職員として雇用され、平成20年度も引き続き雇用されてきたところ、平成21年度については、国からAが従事していたB法人における業務の発注がなかったことから、B法人がAとの雇用契約を更新せず(雇止め)、Aの雇用が終了したものと認められる。そして、このような雇用契約の更新条件を定めたのはB法人であり、そのような更新条件を設けることに国が関与するなどした事情は何ら窺えない。 したがって、Aの雇用の終了を支配・決定していたのはB法人であったといえ、国が、Aの雇用の終了について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたということはできない。
(3) 以上によれば、国が、Aに係る上記一連の雇用の管理について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたということはできず、この観点から、国が労組法上の「使用者」であるということはできない。
3 国とAとの間に近い将来において雇用関係の成立する可能性について
組合は、国とB法人との間の業務委託ないし業務請負の実態は労働者派遣であり、国は労働者派遣法第40条の4所定の直接雇用申込義務を負う地位にあったのであるから、本件は、近い将来において、雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存する場合といえる旨主張する。
(1) 業務委託ないし業務請負においては、注文主と受注者の労働者との間には指揮命令関係が存在しないが、労働者派遣においては、派遣先事業主と派遣労働者との間に指揮命令関係が存在することになる。奈良国道事務所におけるAの勤務に関し、国のAに対する指揮命令があったかを検討するに、国は、部分的とはいえ、Aに対して指揮命令を行い業務を行わせていたものと認められ、労働者派遣法の定める諸要件を満たさない労働者派遣に該当する。
(2) しかしながら、労働者派遣法の直接雇用の申込義務は派遣元事業主からその雇用する派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を受ける者(派遣先)が、同法に定める業務につき、派遣可能期間を超える期間継続して労働者派遣の役務の提供を受けている場合に生じる義務であり、しかも同申込義務は、派遣元事業主によって派遣先事業主に対する派遣可能期間に抵触する日の通知がなされていることを要件とする。しかし、本件は、請負あるいは業務委託の契約方式により、B法人の職員が奈良国道事務所における業務に従事していた事案であり、国が「派遣先」に該当するものであったと認めるに足る証拠はなく、また、B法人から国に対して抵触日の通知がなされたと認めるに足る証拠は存在しない。したがって、本件においては、国の直接雇用(任用)の申込義務が発生していたと認めることはできない。また、労働者派遣法第40条の4の規定を類推適用することも適切ではない。
(3) そのほか、国とAとの間に近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存していたといえるような事情は窺えず、この観点から、国の労組法上の「使用者」性を認めることはできない。
以上によれば、本件において国の労組法上の「使用者」性を認めることはできない。
4 結論
以上のこと等によれば、本件救済申立てに理由はない。 |
掲載文献 |
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