労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成26年(行ウ)第489号
近畿地方整備局不当労働行為再審査申立棄却命令取消請求事件  
原告  X1労働組合大阪府本部(「組合大阪府本部」) 
原告  X1労働組合建設一般合同支部(「組合一般合同支部」。「組合大阪府本部」と併せて「組合ら」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
判決年月日  平成28年6月13日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合らに所属する組合員が、国土交通省C1地方整備局C2国道事務所から境界明示申請の受付調査等の業務を請け負った一般社団法人C3建設協会に期間を1年として雇用され、C2国道事務所において同業務に従事していたところ、C2国道事務所による業務委託の終了に伴ってC3建設協会との契約が更新されずに雇止めされた。これに関して組合らがC1地方整備局に対して団体交渉の申入れをしたにもかかわらず、同局から同組合員との直接の雇用関係がないことを理由に団体交渉を拒否されたことが不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会に救済申立てがあった事件で、大阪府労委は組合らの申立てを却下した。
2 組合らは、これを不服として中央労働委員会に再審査申立てを行ったが、中労委は各救済申立てをいずれも棄却した。 
3 組合らは、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合らの請求を棄却した。 
判決主文  1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
2 労組法7条に定める「使用者」の意義及び判断基準
(1) 労組法7条に定める「使用者」の意義について検討すると、一般に使用者とは、労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、その事業主は同条の使用者に当たるものと解するのが相当である(朝日放送事件判決参照)。
  また、団体的労使関係が、労働契約関係又はそれに近似ないし隣接した関係をその基盤として労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を中心として展開されることからすれば、同条の「使用者」は、労働契約関係に近似ないし隣接する関係を基盤とする団体的労使関係上の一方当事者を意味し、上記に該当する場合のほか、当該労働者との間に、近い将来において労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存する者もまた、同条の「使用者」に該当すると解するのが相当である。
(2) この点、原告は、労組法7条の「使用者」について、不当労働行為の類型ごとに具体化されるべきであるとした上、同条2号の使用者性を判断する際に基本とすべき基準は、組合が求めている団交事項について、雇用主ではない事業主と労働者との間に、事業主がその団体交渉に応じなければならないだけの関係があるのか、具体的には、当該紛争が雇用にかかる関係に密接に関連するのか、事業主が当該紛争を処理することが可能かつ適当であるかによって判断すべきであると主張する。
  しかしながら、かかる基準は、いかなる関係があれば、団体交渉に応じるべき「使用者」に当たるのかを導くために、団体交渉に応じるべき関係があるか否かを要件とするもので、基準たり得るか疑問がある。また、同条の「使用者」に該当した者は、誠実に団体交渉に対応することが求められ、これを拒否すれば救済命令(同法27条の12)の名宛人となり、不当労働行為の責任主体として不当労働行為によって生じた状態を回復すべき公法上の義務を負担し、確定した救済命令(同法27条の13)を履行しなければ過料の制裁(同法32条)を受ける立場になることを考えれば、原告主張の基準では、「使用者」の外延が、本来基本となるべき労働契約関係から離れて無限に広がりかねず、相当ではない。
3 国(国土交通省)の労組法7条の「使用者」該当性について
(1) 本件で国(国土交通省)は、C4との間に労働契約関係が存在したことはない(当事者間に争いがない)ため、団交事項との関係で雇用主と部分的とはいえ同視することができる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるかどうか、又は近い将来においてC4との間に労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性が存するかについて検討する。
ア 団交事項に対する現実的・具体的な支配性
  本件出向契約の解消に伴い、C4はC3建設協会と雇用契約を締結して本件業務に引き続き従事するか、本件業務からは離れるがC5の社員として従前どおり勤務するかの選択を委ねられ、1か月ほど検討した上でC3建設協会との契約締結を選択したものと認められるが、その際、C3建設協会によるC4の採用に国(国士交通省)が関与した事実は何ら認められない。また、C3建設協会はC4との間で雇用契約を締結する際、雇用期間の更新のためにはC4が従事する業務が継続して受託されることが必要であることなどを内容とする雇用条件を提示しているが、そのような雇用条件とすることに国(国土交通省)が関与した事実は何ら認められず、あくまでC3建設協会の判断で行われたものといえる。その他、C4の就業上の身分や給与等の基本的な勤務条件についても、C3建設協会の判断で定められている。次に、C3建設協会がC4を雇止めした事実との関係でも、国(国土交通省)による本件業務の委託がされなかったことが本件雇止めの契機にはなっているが、本件雇止めそれ自体は、C3建設協会が提示しC4も承諾した雇用期間の更新に関する条件に該当しなかったことを理由にC3建設協会の判断でされたものであり、国(国土交通省)が具体的に本件雇止めに係る意思決定に関与した事実は認められない。
  これらの事情に照らせば、C4の採用及び雇用の終了を中心とする雇用そのものに関する労働条件等について、現実的かつ具体的に支配していたのは雇用主であるC3建設協会であることが認められ、他方で、国(国土交通省)が上記労働条件等につき雇用主と部分的とはいえ同視することができる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたと認めることはできない。
イ 近い将来において労働契約が締結される可能性
  組合らは、本件でC4は偽装請負の状態で働かされており、適法な派遣契約が締結されていたとすれば直接雇用申込義務が発生していた旨主張するところ、仮にこのような義務が発生していたとすれば、その効果によっては近い将来に労働契約が締結される可能性があったともいい得ることから検討する。
  たしかに、本件では、C4がC2国道事務所における勤務を開始するに当たり、C3建設協会の職員から具体的な指導を受けたことはなく、むしろC2国道事務所の職員に仕事を教わっていたこと、C4がC2国道事務所の職員から、現地での調査や打合せの席で説明を求められたりするなど直接業務を依頼されたことがあったこと、形式上はC2国道事務所とC3建設協会との打合せとされている席で、実質はC4個人に対する直接の業務指示と評価できる指示が発せられていたことが認められ、これらによれば、C4は、C2国道事務所の職員から具体的な指揮・命令を受けて業務に従事していたといえる。そうすると、本件業務にC4を従事させた行為は、業務委託(請負)の形式をとってはいたものの、労働者派遣の実態にあり、いわゆる偽装請負の状態にあったと認められる。
  そして、C2国道事務所がC4との関係で労働者派遣の実態にあった期間は、平成17年4月から平成21年3月までの4年間に及び、労働者派遣法上の派遣可能期間を超過している(労働者派遣法40条の2第1項・第2項)。
  もっとも、組合らが主張する直接雇用申込義務は、労働者派遣法40条の4に規定された行政上の義務であるところ、これは、労働者派遣法上の派遣元が、派遣先から労働者派遣法26条5項に基づき、労働者派遣法40条の2第1項に抵触する期間の起算点となる日(以下「抵触日」という。)の通知を受けたことを前提に、その後派遣元が派遣先に対して抵触日以降継続して労働者派遣を行わない旨の通知(以下「派遣停止通知」という。労働者派遣法35条の2第2項)を行うことを要件として生ずるものである。そして、その具体的内容は、派遣先が同期間を超えて同一場所での同一業務に派遣労働者を使用しようとするときは、抵触日前に直接雇用を希望する労働者に対して雇用契約の申込みをしなければならないとするものである。このように、直接雇用申込義務が、派遣元から派遣先に対する派遣停止通知を要件として生ずるものとされているのが、派遣元より同通知を受けたにもかかわらず当該派遣労働者をなおも就業させる派遣先に対する制裁としての側面もある点に鑑みれば、この手続的要件を不要と考えることはできず、派遣停止通知がされていない本件において、労働者派遣法の定める手続的要件を無視して同じ義務を発生させることはできない。したがって、本件において、直接雇用申込義務又はそれに類似した義務を認めることはできない。さらに、労働者派遣法上の直接雇用申込義務は、あくまでも国の雇用政策として派遣先に行政上の義務として課されているものであり、その効果としては行政指導上の措置等が予定され、私法上の雇用請求権や雇用義務といった効果を付与したものではないと解される。以上を総合すると、本件において、直接雇用申込義務の発生を根拠に、近い将来雇用契約が締結される現実的かつ具体的な可能性が存するとして国(国土交通省)が労組法上の使用者に当たるとすることはできない。
(2) このように、C2国道事務所は、C4の業務遂行過程において具体的な指揮・命令を行っており、その限りにおいては使用者と同視できる関係があった可能性はあるものの、採用や雇用の終了といった雇用そのものに関する基本的な労働条件等につき現実的かつ具体的な支配力を及ぼしていたとは認められないし、近い将来に雇用契約が締結されていた可能性があるなどの事情も認められない。
  したがって、国(国土交通省)が、C4との関係で、労組法7条に定める「使用者」に当たるとはいえない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第30号 却下 平成24年2月13日
中労委平成24年(不再)第10号 取消、棄却 平成26年3月5日
東京高裁平成28年(行コ)第252号 棄却 平成29年1月12日
最高裁平成29年(行ヒ)第179号 上告不受理 平成29年9月8日
 
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