労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成28年(行コ)第252号
近畿地方整備局不当労働行為再審査申立棄却命令取消請求控訴事件 
控訴人  X1労働組合大阪府本部(「大阪府本部」) 
控訴人  X1労働組合大阪合同支部(「大阪合同支部」、「大阪府本部」と併せて「組合ら」)(合同前の名称 X1労働組合X2合同支部(「X2合同支部」)) 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
判決年月日  平成29年1月12日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 大阪府本部及びX2合同支部に所属する組合員が、国土交通省C1地方整備局C2国道事務所から境界明示申請の受付調査等の業務を請け負った一般社団法人C3建設協会に期間を1年として雇用され、C2国道事務所において同業務に従事していたところ、C2国道事務所による業務委託の終了に伴ってC3建設協会との契約が更新されずに雇止めされた。これに関して大阪府本部及びX2合同支部がC1地方整備局に対して団体交渉の申入れをしたにもかかわらず、同局から同組合員との直接の雇用関係がないことを理由に団体交渉を拒否されたことが不当労働行為に当たるとして、大阪府労働委員会に救済申立てがあった事件で、大阪府労委は組合らの申立てを却下した。
2 大阪府本部及びX2合同支部は、これを不服として中央労働委員会に再審査申立てを行ったが、中労委は各救済申立てをいずれも棄却した。 
3 大阪府本部及びX2合同支部は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁はそれらの請求を棄却した。
4 大阪府本部及びX2合同支部は、これを不服として東京高裁に控訴したが、同高裁は、それらの控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、国(国土交通省)は、労組法7条の「使用者」には該当せず、大阪府本部及びX2合同支部の再審査申立てを棄却した本件命令の取消しを求める組合らの請求はいずれも理由がないものと判断する。
 その理由は、次のとおり補正し、後記2のとおり組合らの当審における主張についての判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の第3の1から4まで(原判決15頁25行目から29頁15行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 組合らの当審における主張についての判断
(1) 組合らは、①労組法7条の「使用者」に該当するか否かを判断する基準は、同条の趣旨及び目的であって、労働契約関係ではないとした上、同条2号の趣旨及び目的は、労使間の自主的な解決を図るために団体交渉を実効あらしめるというところにあるから、「使用者」性についても、実効的な団体交渉の実施という観点から判断すべきであり、具体的には、(ア)当該紛争が雇用に係る関係に密接に関連するか、(イ)事業主が当該紛争を処理することが可能かつ適当であるかによって判断すべきであるところ、本件においては、本件団体交渉は偽装請負に関わるものであって、A1は国から偽装請負状態(違法な間接雇用)で働かされていたのであるから、当該紛争は雇用に係る関係に密接に関連するものである、国(国土交通省)は派遣労働者を直接指揮命令するという偽装請負を行っており、労働者派遣法40条の4の直接雇用申込義務が発生していた事案であって、国(国士交通省)が偽装請負を解消することも当然可能であり、その際に、労働者の雇用の安定を含めた対応をすることも当然可能であるから、A1の雇用の安定を含む偽装請負解消のために団体交渉に応じるのが適当であり、上記(ア)及び(イ)の基準によれば、同条の「使用者」に該当するものというべきである、②仮に、朝日放送事件の最高裁判決のように、「労働者の基本的な労働条件等について雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある者」が「使用者」に該当するという判断基準によるとしても、そこでいう「基本的な労働条件等」は、「雇用」についての支配、決定ではなく、「偽装請負」についての支配、決定であるところ、本件においては、上記のとおり、C3建設協会は、国(国土交通省)の求めに応じて人を出していただけであり、「偽装請負」状態を現実的かつ具体的に支配、決定していたのは、国(国土交通省)であるから、この判断基準によっても、国(国土交通省)は「使用者」に該当する旨主張する。
  しかしながら、労組法7条の「使用者」とされた者は、誠実に団体交渉に応じる義務を負い、これを拒否した場合には、救済命令(同法27条の12)の名宛人になり、不当労働行為の責任主体として不当労働行為によって生じた状態を回復すべき公法上の義務を負い、確定した救済命令(同法27条の13)に従わないときには、過料の制裁(同法32条)を課されるなどの立場にあることを考慮すると、組合らの上記(ア)及び(イ)の基準は、「使用者」の概念の外延が不明確になって基本となる労働契約関係を離れて無限に広がりかねないものであり、相当ではないものというべきある。
  したがって、まず、この点において、組合らの上記主張は、採用できない。
(2) そして、労組法7条の「使用者」は、労働関係が雇用を基盤として成立するものであり、「使用者を雇用する労働者」の代表者との団体交渉を拒絶することを不当労働行為としている(同条2号)ことなどから、労働契約上の雇用主を意味するものであるが、雇用主以外の事業主であっても、団体的労使関係が労働契約又はそれに近似ないし隣接した関係を基盤として、労働者の労働関係上の諸利益についての交渉を中心に展開されることからすれば、基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者、近い将来において当該労働者と労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある者など、労働契約関係に近似あるいは隣接する関係を基盤とする団体的労使関係の一方当事者もまた、上記の「使用者」に該当するものと解するのが相当である。
  これを本件についてみるに、引用にかかる原判決が認定するとおり、A1の採用及び業務の継続受託が雇用期間の更新の条件となる旨の雇用条件の提示等の判断は、C3建設協会において行われ、国(国土交通省)がそれに関与したものとは認められない上、雇用の終了(雇止め)についても、本件業務の受託がなくなったことが契機とはいえ、C3建設協会の判断で雇止めがされ、国(国土交通省)がその判断や意思決定等に関与した事実は認められないのであるから、国(国土交通省)は、A1の基本的な労働条件等について支配力を有しているとはいえず、「使用者」に該当しないものというべきである。
  組合らは、現実的かつ具体的に支配力を有しているかという判断基準において問題にされるべきは「雇用」に対する支配ではなく、「偽装請負」に対する支配であるところ、国(国土交通省)は、「偽装請負」状態を支配、決定していたのであるから、上記判断基準によっても、「使用者」に該当する旨主張する。しかしながら、本件雇止めによってA1の雇用は終了し、偽装請負状態も解消したものであるところ、大阪府本部及びX2合同支部は、その後、C1地方建設局に対し、A1がC3建設協会から雇止めを受けたことに関し、A1の「雇用継続と雇用の安定をはかること」を要求事項として団体交渉を申し入れたものであって、団交事項は、雇用そのものに関するものであるというべきであって、偽装請負の解消ではないから、A1の雇用について国(国土交通省)が支配力を有しているかどうかを問題にすべきある。
  次に、近い将来において当該労働者と労働契約関係が成立する現実的かつ具体的な可能性があるといえるかどうかという観点からみても、引用にかかる原判決が認定するとおり、国(国土交通省)は、近い将来、A1と労働契約を締結することが予定されていたような状況にはない上、本件においては、そもそも労働者派遣法40条の4に基づく直接雇用申込義務の発生も認められないのであるから、A1との間で国(国土交通省)が近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存していたといえるような事情もなく、国(国土交通省)は「使用者」に該当しないものというべきである。
  組合らは、上記の判断基準は、団交事項と無関係に労働契約から画一的に使用者性を判断するものであって、朝日放送事件の最高裁判決の判断から逸脱しその判断を不当に狭めるものであるなどと批判するが、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配し、決定することができる地位にある者として、雇用主との近似性を有する者に加えて、雇用主との時間的な隣接性を有する者をも含めるという意味において、上記最高裁判決の基本的な考え方に何ら抵触するものではない。
(3) 以上によれば、上記のいずれの観点からも、国(国土交通省)は、労組法7条の「使用者」に該当するとはいえず、大阪府本部及びX2合同支部の再審査申立てを棄却した本件命令に違法はない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第30号 却下 平成24年2月13日
中労委平成24年(不再)第10号 取消、棄却 平成26年3月5日
東京地裁平成26年(行ウ)第489号 棄却 平成28年6月13日
最高裁平成29年(行ヒ)第179号 上告不受理 平成29年9月8日
 
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