労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名  東日本旅客鉄道 
事件番号  千労委平成22年(不)第3号 
申立人  国鉄千葉動力車労働組合 
被申立人  東日本旅客鉄道株式会社 
命令年月日  平成24年3月26日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要   被申立人会社が①申立人組合のA支部役員5名を配置転換したこと、②同じくA支部支部長ら2名を派出所の予備要員見習に指定したこと、③「ライフサイクルの深度化」に基づき、運転士として勤務していた組合員2名を駅に配置転換したこと、④「ライフサイクルの深度化に関する覚書」を会社との間で締結していない組合の組合員(上記③の2名)を配置転換したことは不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
 千葉県労委は、申立てを棄却した。  
命令主文  本件申立てを棄却する。  
判断の要旨  1 申立人組合のA支部役員5名の配転について
 組合は、本件配転は組合のA支部の役員を狙った恣意的なものである旨主張する。そこで、まず本件配転の必要性について検討すると、定年により退職する者の補充のため業務上の必要により行われたとする被申立人会社の主張には一定の理由があると言える。次に、人選の合理性について検討すると、いずれの組合員についても不合理とまでは言えない。
 組合は、本件配転によりA支部の役員2名の所属支部が変わったが、役員はそれぞれ適性を生かした役割を担っており、その役割は他の組合員に代えられるものではなく、本件配転は不利益取扱いである旨主張する。しかし、組合活動は原則として勤務時間外に行われるべきものである上、本件配転による組合員個人の組合活動上の不利益について十分な疎明がない。また、組合は、本件配転後、当該組合役員の組合での業務は別の者が行っている旨証言しているが、本件配転が組合に対する支配介入に当たると言えるまでの疎明はない。
 以上のとおり、本件配転における人選が不合理とは言えず、不利益取扱い及び支配介入に当たらない。
2 A支部支部長らを派出所の予備要員見習に指定したことについて
 組合は、①予備要員見習に指定されるということは、派出所の要員に不足が生じた場合等には、直ちにB車両センター本区から派出所に配転させられることを意味し、②上記指定は会社がA支部の支部長及び執行委員1名を配転することによって組合の拠点である同支部を破壊しようとするものである旨主張する。しかし、予備要員見習に指定された場合であっても、賃金等労働条件の変更はない上、予備要員見習の業務は10日程度で本来の勤務地の変更もないから、支部長らの組合活動への支障及び組合の弱体化等は考え難い。また、当該支障が生じること及び組合の弱体化につながることについて組合から具体的な主張もない。なお、見習期間の終了後、予備要員に指定された場合の派出所での勤務は月1,2回程度であり、また必ずしも予備要員が派出所に配転となるものでもない。
 したがって、支部長らが予備要員見習に指定されたことをもって労組法7条1号及び3号に該当すると言うことはできない。
3 「ライフサイクルの深度化」に基づく配転について
(1)覚書を締結していない組合の組合員に対する配転の不当労働行為性
 組合はまず、「ライフサイクルの深度化」そのものが合理性を欠き、配転の根拠とはなり得ない旨主張しているものと解される。しかし、「ライフサイクルの深度化」は会社において駅輸送の業務、車掌の業務及び運転士の業務の連携強化が必要であるとして、これら全ての業務を経験した「運輸のプロ」を養成するため、運転士職に就いている社員を駅に配転するというものであるところ、当該施策に特段不合理な点があるとは言えず、社会通念上、著しく妥当を欠くものであるとは言い難い。
 次に、組合は、「ライフサイクルの深度化」に基づく配転は覚書を締結していない組合の組合員には適用できない旨主張する。しかし、会社は、当該配転について、他の組合と覚書を締結する以前から一貫して就業規則に定める「任用の基準」に則り実施することや必ずしも労働協約(覚書)は必要ないと考えていることなどを組合の上部団体である動労総連合に回答している。そして、当該配転は就業規則で行うことが可能であるものの、「ライフサイクルの深度化」を労働組合に提案し、その理解と協力を得た方がよいとして団交を重ねた結果、合意ができた労組と覚書を締結した旨述べている。当該配転については別組合の組合員の一部からも反対の声があったことがうかがわれ、会社が、合意ができた組合と覚書を締結したとしても不自然ではない。
 また、組合は、就業規則28条の「業務上の必要」との記載については、個別の配転時に配転理由の合理性が判断されるという趣旨であるから、社員の意向を無視して一律40歳までに配転することはできない旨主張する。しかし、会社の施策が不合理であれば権利の濫用と判断される余地もあるが、前述のとおり、「ライフサイクルの深度化」が不合理とまでは言えず、会社は当該施策を行うため、「業務上の必要」により配転を行うのであるから、組合の主張は採用できない。
 以上のことから、会社が就業規則を根拠として「ライフサイクルの深度化」に基づく配転を行うことができないとまでは言えないから、会社が覚書を締結していない組合の組合員を配転したことは不当労働行為に該当しないものと判断する。
(2)「ライフサイクルの深度化」に基づく配転の不当労働行為性
 組合は、当該配転の対象となった組合員2名は乗務員手当が減収となり重大な不利益を被ることとなったこと及び同人らの組合活動に影響が出た旨主張する。しかし、当該配転の対象者は全員、駅への配転により列車に乗務しないことになるから、組合の組合員のみに乗務員手当が支払われなくなるものではない。そして、当該配転の対象者に対して会社が「基本給」につき1号俸加算するなどの配慮をしていることを加味すれば、組合の主張は採用できない。また、組合活動上の不利益に関しては、就業中の組合活動は原則できないのであるし、上記2名の組合員が行う組合活動への具体的な支障等についての疎明はないから、当該配転は不当労働行為には該当しない。当該配転が組合への支配介入に当たるとの主張についても、同様である。  
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成24年(不再)第23号 棄却 平成26年2月19日
東京地裁平成26年(行ウ)第462号 棄却 平成28年4月11日
東京高裁平成28年(行コ)第177号 棄却 平成28年12月15日
最高裁平成29年(行ツ)第129号・平成29年(行ヒ)第134号 上告棄却・上告不受理 平成29年5月31日
 
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