労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成26年(行ウ)第462号
東日本旅客鉄道(千葉動労配転等)労働委員会命令取消請求事件 
原告  X労働組合(「組合」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
参加人  Z1株式会社(「会社」) 
判決年月日  平成28年4月11日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が、組合の幕張支部の役員に対し、幕張車両センター本区から同センターの派出所へ配置転換を行ったこと等(以下「本件配転等」という。)が不当労働行為に当たるとして、千葉県労働委員会に救済を申し立てた事案で、千葉県労委は、当該申立てを棄却した。
2 組合は、これを不服として、中央労働委員会に対し、再審査の申立てをしたが、中労委は、再審査の申立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として、東京地裁に行政事件訴訟を提起したが、同地裁は、組合の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(参加費用を含む。)は、原告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
3 本件配転の不当労働行為性についての検討
(1) 新規業務委託の提案との関係について
ア 組合は、本件配転が、会社による業務外注化に反対していた組合幕張支部の闘争力を減殺することを目的として、わずか5か月間に組合幕張支部の役員を大量配転したものであり、会社が、本件配転等の準備行為として、外注化の対象外の業務であり、新しい従業員との接触の機会が多い本区の「交番検査・機能保全」業務から組合組合員を組織的に排除する人事を行っていた旨主張する。
イ 確かに、上記前提事実によれば、組合が会社による業務委託・外注化の推進について平成9年以降、一貫して強く反対していたこと、組合は幕張車両センターでは最大の組合であり、平成21年9月当時、幕張車両センターでは業務委託・外注化は未だ実現されておらず、本件配転が始まった同年10月当時、会社からの新規業務委託の提案に対し、組合が反対していたことが認められ、新規業務委託の提案と本件配転とが時期的に近接していることに照らせば、本件配転が、業務委託・外注化に反対する組合の弱体化を意図して行われた旨の組合の主張にも一応の根拠はある。
ウ しかし、上記認定したところによれば、本件配転は、派出所に配属されている車両職41名のうち、平成21年度と平成22年度の定年退職予定者が合計15名という多数に上り、派出所の車両職に大きな不足を生ずることになるため(上記2(1)ウ)、会社が、千葉支社全体における車両職の需給状況を勘案した上で退職補充として実施したものである。したがって、本件配転を実施する業務上の必要性はあったと認められ、平成21年10月1日から平成22年3月1日にかけて実施された本件配転は、定年退職者の退職補充として、定年退職日に合わせて順次実施されたものであることが認められるから、新規業務委託の提案時期と本件配転の時期が近接していることは、会社の不当労働行為意思を直ちに推認させるものではない。
エ また、本件配転が行われる前に本区の「交番検査・機能保全」業務に組合組合員がいなくなったことについては、上記2(2)のとおり、会社が平成16年4月1日から実施した車両職として養成する新入社員の配置に関する人事政策の結果によるものと認められる。したがって、会社が本件配転の事前準備として交番検査・機能保全業務から組合組合員を排除した旨の組合の主張は、にわかに採用することはできない(そもそも、組合において、会社に対し、新入社員に対する組合加入の勧誘を行うことができるようにするため、新入社員の配置される職場に組合組合員を配置するよう求める権利はない。)。
(2) 本件配転に係る対象者の人選について
  それのみならず、次に述べるとおり、本件配転に係る対象者の人選は、本件人選基準の内容及びその適用の結果に照らし、いずれも不合理なものとまでは認めることができないから、これをもって、会社の不当労働行為意思を推認するに足りるものではない。
ア 本件人選基準について
(ア) 本件人選基準の内容は、上記認定したとおりであるところ、本件人選基準に掲げられた要素は、いずれも、本区から派出所への配転に当たり考慮すべき要素として、それ自体で不合理なものは見当たらない。
(イ) この点について、組合は、現在は技術管理に所属する従業員も派出所への配転の対象者になっており、本件人選基準(Ⅳ)と異なる運用がなされていることからすれば、本件人選基準は恣意的であると主張する。しかしながら、配転は、その時々の要員状況の変化等を踏まえて、業務上の必要性に基づいて行われるものであり、人選の基準も、当該業務上の必要性に応じて合目的的に設定されるべきものであるから、仮に組合が主張するとおり、現時点で配転を行う場合の人選基準が本件配転当時と異なるとしても、本件人選基準に掲げられた要素それ自体は不合理なものではないから、現時点の配転基準と異なるというだけでは、直ちに本件人選基準が恣意的に設定されたものと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
  よって、本件人選基準が恣意的であるという組合の主張は採用することができない。
イ 本件配転について
 (ア) 上記認定したところによれば、本件配転は、いずれも本件人選基準に沿って行われたものであり、本件人選基準を適用した結果、得られた人選として、およそ不合理なものとは認められない。
(3) 組合活動への影響について
  組合は、本件配転による組合活動への影響が大きい旨主張し、これを理由に、会社は、業務外注化の実現を目標として、組合の力を減殺するために本件配転を行ったと主張する。
  しかしながら、一般に、組合役員が配転の対象となる場合、それが不当労働行為に当たらないときでも、組合活動に何らかの影響が生じうることはありうるのであるから、そうした影響の発生のみをもって直ちに不当労働行為意思を推認することはできない。
  そこで、組合の組合活動に生じた具体的な影響について検討するに、本件配転によって、業務外注化に反対していた組合の組合活動に具体的な支障が生じていたことを認めるに足る的確な証拠はない。加えて、業務外注化の問題は、組合幕張支部だけの問題ではなく、全社的な課題であり、本件配転後もC2と会社は、業務外注化に関する団体交渉を行っていることや本件配転に伴う組合活動への影響(上記2(3)キ)は、いずれも組合の内部運営により相当程度補える性格を有していることを考え併せると、組合活動への影響という面から、会社が幕張支部の組合活動を嫌悪し、ことさらにその組合活動に支障を生じさせることを意図して本件配転を行ったものとまでは認めることはできない。
  また、本件人選基準のⅢによれば、本区において各派出所の予備要員に指定されている者は、予備要員に指定されていない者よりも優先的に各派出所に配転されることになるが、平成21年9月1日時点で本区に所属する車両職のうち、各派出所の予備要員及び予備要員見習に13名が指定されており、そのうち要員に余裕のあった構内・仕業検査及び臨時検査に所属する者は12名であり、そのうち9名は組合の組合員であり(上記2(1)エ)、予備要員を占める組合組合員の割合が高いことからすれば、派出所への配転に多くの組合組合員が人選されたとしても、異常な事態であるということはできない。したがって、組合の幕張支部役員12名のうち5名が異動対象者に選定された事実をもって、不当労働行為意思を強く推認する事実と評価することはできない。
4 本件見習勤務指定の不当労働行為性の検討
(1) 組合は、平成21年7月に行われた本件見習勤務指定は、A7支部長及びA6執行委員を本区から千葉派出所に追い出す目的で行われたものである旨主張し、A6執行委員については、その後、平成22年3月のA6配転により、千葉派出所に配転されていることが認められる。
(2) しかるところ、本件においては、各派出所に配属されている車両職41名のうち、平成21年度と平成22年度の定年退職予定者が合計15名という多数に上り、退職補充のため、本区において各派出所の予備要員に指定されている者は優先的に各派出所に配転されることになっていたから、本件見習勤務指定がされた当時、本区では、あらかじめ、定年退職者がいる派出所の予備要員を新たに育成することを目的として本件見習勤務指定をする業務上の必要性があったことが認められる。また、上記認定したところによれば、会社の予備要員人選基準及びこれを前提にした本件見習勤務指定に至る会社の人選についても、格別不自然な点は見当たらない。したがって、本件見習勤務指定が、組合の組合員であるA7支部長及びA6執行委員を本区から追い出す目的で行われた旨の組合の主張はにわかに採用することができない
5 本件ライフサイクル配転の不当労働行為性の検討
(1) 会社は、列車運行の要である駅輸送、車掌及び運転士の業務の連携を強化し、これらの3業務を経験した「運輸のプロ」を義成することにより、サービスや安全性の向上等を図ることを目的としてライフサイクル深度化施策を実施することとし、複数の労働組合との間で、同施策に関する労働協約を締結するに至ったこと(上記第2.2(4)イ)からすれば、ライフサイクル深度化施策自体が、不合理な施策であると認めることはできない。
  そして、会社が、ライフサイクル深度化施策を提案した時点では、対象となる運転士の中に組合に所属している運転士はいなかったこと、第一次配転の時点で対象となった運転士1456名のうち、組合に所属する組合員はA81人であり、A9は第二次配転の後に組合に加入したこと、ライフサイクル深度化施策は対象運転士全員に対して一律に適用されるものであり、A8配転は第三次配転の一環として、A9配転は第四次配転の一環として、それぞれ実施されていることを併せ考慮すれば、本件ライフサイクル配転の結果、組合員であるA8及びA9に減収という一定の経済的な不利益が生じていることを考慮しても、会社が、組合の組合員を標的として、ことさらに不利益を与え、組合の組合活動への支障を生じさせることを意図して本件ライフサイクル配転を行ったことを推認することはできない。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
千労委平成22年(不)第3号 棄却 平成24年3月26日
中労委平成24年(不再)第23号 棄却 平成26年2月19日
東京高裁平成28年(行コ)第177号 棄却 平成28年12月15日
最高裁平成29年(行ツ)第129号・平成29年(行ヒ)第134号 上告棄却・上告不受理 平成29年5月31日
 
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