労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名 西日本旅客鉄道
事件番号 岡山県労委平成20年(不)第1号
申立人 ジェーアール西日本労働組合、ジェーアール西日本労働組合中国地域本部、組合員X1、X2及びX3
被申立人 西日本旅客鉄道株式会社
命令年月日 平成22年4月15日
命令区分 一部救済
重要度  
事件概要 本件は、被申立人会社岡山支社において、会社が、①申立人組合の組合員5名を不当に転勤させたこと、②組合分会の役員に対し不当な処分及び勤務成績評価を行ったこと、③組合分会が掲示した掲示物を強制的に撤去したこと、④組合の団体交渉申入れに応じないことが不当労働行為であるとして、救済が申し立てられた事件である。
岡山県労委は、会社に対し、①平成19年2月20日の団交申入事項のうち組合員X2の戒告処分に係る団交、及び6月18日の団交申入れへの誠実応諾、②文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した。
命令主文 1 被申立人は、申立人組合が平成19年2月20日に申し入れた団体交渉事項のうち組合員X2の戒告処分に係る団体交渉及び同年6月18日に申し入れた団体交渉に、誠実に応じなければならない。
2 被申立人は、申立人組合に対し、下記の文書を速やかに手交しなければならない。


年 月 日
ジェーアール西日本労働組合
中央執行委員長    X4  殿
ジェーアール西日本労働組合中国地域本部
地域本部執行委員長 X5  殿
西日本旅客鉄道株式会社
代表取締役社長  Y
当社の岡山支社が、平成19年12月15日に貴組合岡山運輸分会の掲示板からJR西労岡山運輸分会ニュースNO1を撤去したことは、岡山県労働委員会において労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 また、当社の岡山支社が、貴組合からの平成19年2月20日の団体交渉申入れのうち組合員X2の戒告処分に係る事項及び同年6月18日の団体交渉申入れの事項に対して、誠実に対応しなかったことは、岡山県労働委員会において労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認定されました。
 今後このような行為を繰り返さないようにいたします。
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3 申立人のその余の申立てを棄却する。
判断の要旨 1 争点1(本件転勤について)
(1) 組合は、本件転勤が組合所属の組合員であるが故に行われた不利益取扱いであり、組合の弱体化を意図して行われた支配介入であると主張するので、以下検討する。
(2)本件転勤は不当労働行為意思に基づくものか。
会社岡山支社における、岡山運転区以外の4箇所の欠員補充の取扱い及び、本件転勤と同時期に別組合所属の運転士の転勤が行われていることを考慮すれば、組合と会社が長期にわたり対立関係にあったとしても、岡山運転区の要員需給が厳しい状況の中で実施されたことをもって、本件転勤が不当労働行為意思をもって行われたと判断することはできない。
(3) 本件転勤に妥当性はあるか。
組合員5名について個別具体的に検討した結果、妥当性を欠くとは判断できない。
(4)本件転勤は不利益な取扱いか。
組合分会役員3名の転勤により、組合活動に不利益が生じなかったとはいえないが、本件転勤が妥当性を欠くとは判断できないこと、また、組合分会は役員の補充を行っており、組合活動への支障は一時的なものであったことを併せ考慮すれば、本件転勤による組合活動への支障があったとしても、その程度は、転勤により通常起こりうる程度の不利益といわざるを得ない。また、日常生活上一定程度の不利益があったことは否定できないが、転勤により通常起こりうる程度の不利益の範囲を超えていると認めることはできない。
(5)以上のことから、この点に関する組合の主張は認められない。
2 争点2(本件処分等について)
(1) 本件処分等は不当労働行為意思に基づくものか。本件処分等に妥当性はあるか。
組合と会社は長期にわたり対立した関係にあったことが認められ、そのことをもって直ちに本件処分等が不当労働行為意思に基づき行われたと認めることはできないとしても、本件処分等が著しく妥当性を欠くものである場合は、不当労働行為意思の存在を推認せざるを得ないことから、個別に具体的な検討を行った結果、本件処分等が妥当性を欠くとは判断できず、それが不当労働行為であるとの組合の主張は認められない。
3 争点3(本件撤去について)
(1) 本件撤去に妥当性はあるか。
ア 組合と会社の間の協約では、組合は会社の指定した場所において組合活動に必要な掲示を行うことができるが、掲示類は会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し又は職場規律を乱すものであってはならず、掲示類がこの定めに反する場合は、会社が当該掲示類を撤去できるとされている。
イ 一般に、団結権を保障する観点から、労働組合の掲示類による情報宣伝活動は十分に保護されなければならないと考えられ、会社が組合の掲示類を撤去する必要の有無を判断する場合には、恣意的な判断によることなく、その時点の労使関係、掲示に至る経緯、掲示場所及び主たる読者などの諸事情を勘案した上で、当該掲示類が全体として何を伝えようとし、何を訴えようとしているかを中心に考慮すべきであって、掲示類の個々の表現のみを取り上げて撤去が必要と判断するとすれば、正当な組合活動に対する妨害と受け取られても仕方ないというべきである。
ウ 会社は、本件掲示物第3段落の「不当な報復転勤」他の記載が事実に反すると主張するが、当該段落は、組合員に対する会社の行為を批判し、組合員の転勤を撤回させようとするものと認められる。会社は、当該段落の個別の記載のみを取り上げて事実に反すると判断しており、本件掲示物が全体として何を伝えようとし、何を訴えようとしているかを考慮して判断しているとは認められない。
本件掲示物は、全体としてみれば、会社の対応を批判し、労使が争っている事項について組合の立場からの見解を表明したものにとどまるとみるのが相当であり、それに対して、会社が一方的に事実に反する内容であるとして本件撤去に及んだことは、正当な組合活動に対する妨害の意思を疑わせるものといわざるを得ない。
エ 本件掲示物が職場規律を乱すほどの影響があったとはいえない。また、その内容に会社の信用を傷つけるものや個人を誹謗するものは含まれておらず、正当な組合活動の範囲を逸脱しているとは認められず、本件撤去は妥当性を欠くと判断せざるを得ない。
(2) 本件撤去の撤去手続は妥当か。
強制的な撤去とまでいうことはできないが、撤去手続の当否は前示の判断を左右するものではない。
(3) 以上のことから、本件撤去は妥当性を欠き、組合の運営に対する介入であって、労組法7条3号に該当すると判断する。
4 争点4(本件団交拒否について)
(1) 団交拒否に正当な理由はあるか(2.20団交申入れ)。
ア 2.20団交申入れは、X2の戒告処分の撤回を交渉事項とする申入れと考えることができ、特定の組合員に対する懲戒処分についての申入れであり労働条件に関わるものであるから、義務的団交事項と認められる。したがって、この部分については、会社が団交に応じる義務がある。
イ 2.20団交申入れ事項は協約上の団交事項として規定されていないが、憲法28条及び労組法7条2号の趣旨から、それのみを理由に会社は団交を拒否できないといわざるを得ない。会社は、組合と会社との間にある経営協議会その他の労使協議の場が団交を補完するものと主張するが、その主張は認められない。
ウ 以上のことから、2.20団交申入れに対して、会社は正当な理由なく団交を拒否しており、労組法7条2号に該当すると判断する。
(2) 団交拒否に正当な理由はあるか(6.18団交申入れ)。
ア 6.18団交申入れは、会社が行った組合員5名の転勤及び分会役員3名に対する評価等が組合の弱体化を意図した不当労働行為であるとして行ったものであり、特定の組合員に対する転勤、評価等は、いずれも労働条件に関わる事項であり、また、それらが不当労働行為であるとの主張は労使紛争に関する事項であるから、義務的団交事項と認められる。
イ 6.18団交申入れ事項は、協約上の団交事項には当たらないが、当該申入れの交渉事項に関して、労使協議の場が団交に代わる機能を果たしていない限り、それを理由に会社は団交を拒否できないといわざるを得ない。
ウ 同申入れのうち特定の組合員に対する転勤、評価等に関しては、労使協議が行われた場合にあっても、会社は、誠実交渉義務を尽くしていないといわざるを得ず、団交に変わる機能を果たしているとは認められない。
また、一連の転勤、評価等が不当労働行為であるとの主張に対しても、会社は、組合の要求に応じられない理由を誠実に説明しているとは認められない。
結局、6.18団交申入れに対して団交は開催されていないといわざるを得ない。
エ 以上のことから、6.18団交申入れに対して、会社は正当な理由なく団交を拒否しており、労組法7条2号に該当すると判断する。
掲載文献  

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
中労委平成22年(不再)第34・35号 棄却 平成23年9月7日
東京地裁平成23年(行ウ)第603号 棄却 平成24年9月19日
東京高裁平成24年(行コ)第380号 棄却 平成25年1月29日
最高裁平成25年(行ツ)第231号・平成25年(行ヒ)第245号 上告棄却・上告不受理 平成25年9月5日
 
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