労働委員会関係裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る] [顛末情報]
概要情報
事件名  西日本旅客鉄道(西労中国地本転勤等) 
事件番号  東京地裁平成23年(行ウ)第603号  
原告  西日本旅客鉄道株式会社  
被告  国(処分行政庁:中央労働委員会)  
被告補助参加人  ジェーアール西日本労働組合(以下「西労」という。)
ジェーアール西日本労働組合中国地域本部  
判決年月日  平成24年9月19日  
判決区分  棄却  
重要度  重要命令に係る判決  
事件概要  1 会社が、①西労岡山運輸分会(以下「分会」という。)の組合員X1ら5名を転勤させたこと、②分会役員X2に対し戒告処分及び分会役員3名に対し低い勤務評価を行ったこと、③分会掲示板に掲示した掲示物を撤去したこと(以下「本件掲示物撤去」という。)、④組合員らの転勤、処分等を議題とする団体交渉申入れに応じないこと(以下「本件団交拒否」という。)が、不当労働行為に当たるとして、岡山県労委に救済申立てがあった事件である。
2 初審岡山県労委は、①本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に、②本件掲示物撤去が同条3号の不当労働行為に当たるとして、会社に対し、誠実団交応諾、上記①及び②に関する文書手交を命じ、その余の救済申立ては棄却した。
 組合ら及び会社は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てたが、中労委は、再審査申立てを棄却した。
 本件は、これを不服として、会社が東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は参加によって生じたものも含めて原告の負担とする。  
判決の要旨  1 本件掲示物撤去が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか(争点1)
(1) 掲示物撤去に関する不当労働行為成立の判断基準
 会社は西労の組合活動のために掲示板の使用を許可しているところ、掲示物が「会社の信用を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、職場規律を乱すもの」(撤去要件〔労働協約17条〕)に該当する場合には、正当な組合活動のために掲示板を使用する場合に当たらないとして、掲示物を撤去することができる〔労働協約18条〕。
 そして、撤去要件に該当するか否かの判断に当たっては、当該掲示物が全体として何を伝えようとし、何を訴えようとしているかを中心として、撤去要件を実質的に充足するかを考慮すべきである。すなわち、形式的にみれば掲示物の一部が撤去要件に該当するとみられる場合であっても、使用者の運営等に支障を与えたり、個人の名誉を傷つけたか否かなどについて、その内容、程度、記載内容の真実性等の事情が実質的かつ総合的に検討されるべきであって、その結果、労働組合の正当な組合活動として許容される範囲を逸脱していないと認められる場合には、当該掲示物を撤去する行為は、実質的に組合活動に対する妨害に当たるものとして、支配介入に該当すると解するのが相当である。
(2) 検討
 ア 掲示物において、分会は、岡山運転区における運転士の要員不足という実態があるにもかかわらず、他支社に転勤を発令する不合理さ、不自然さを訴え、X1の広域転勤命令についても、支社長秘書らによる飲食の誘いを組合員が拒否したという経過があり、その後X2副執行委員長に対する戒告処分やX3執行委員長、X4書記長に対する低い評価がされた事実があったことからすれば、上記飲食の誘いを拒否したことに対する報復であると推測できるという認識を示し、かかる認識に基づいて、X1の大阪支社への転勤の撤回を求めるとともに、分会の主張への理解を求めているということができる。
 掲示物の内容のうち、少なくとも、岡山運転区における運転士の要員不足という点については、会社としても異論はないと思われるし、支社長秘書による分会組合員に対する飲食の誘いがあったことも客観的事実に合致し、当時の会社と西労との対立状況からすれば、分会がこれを組合に対する不当な介入であると考えることには、一応の根拠があるといえるから、X1に対する広域転勤命令についても、その一環であるという趣旨を述べることは、それなりに客観的な理由に基づくものであって、一応の合理性がある。
 また、当時、西労としては、岡山運転区の要員不足の原因が会社側にあり、かつ、会社が行う日勤教育に対しては、強い否定的な評価を示し、この点で、会社側の認識との間に大きな隔たりがあった。X2に対する戒告処分等やX3、X4に対する評価は、上記の要員不足の状態や日勤教育のあり方に対する抗議行動がその一端となっているところ、西労側としては、このような抗議行動を行ったことを理由に処分等を受けることを容認するわけにはいかない状況にあり、このような西労側の認識、見解を前提にすれば、戒告処分等や評価が不当であるということになるのは、ある程度、やむを得ない側面があった。
 イ これに対し、会社は、X1に対する広域転勤命令は報復的な転勤命令ではないとか、戒告処分等は不当ではないから、事実に反し撤去要件に該当するなどと主張する。
 しかし、掲示物におけるX1に対する転勤命令に関する記述には一応の合理性があるといえるし、戒告処分等に関する記述についても、西労の見解を前提にすればそのような表現になるのもやむを得ない側面があったから、その表現を全体的にみれば、事実に反する表現とまではいえない。
 また、会社は、記載が「会社の信用を傷つけ」、「職場規律を乱す」などと主張する。
 しかし、かかる信用の毀損や職場秩序の乱れを認めるに足りる証拠はない。
 さらに、会社は、掲示物が個人を誹謗するもので撤去要件に該当するとも主張する。
 しかし、支社長秘書による飲食の誘いという事実及びその後の分会員に対する転勤や処分という経緯を指摘し、転勤や処分を不当である旨をいう掲示物の記載は、その全体的な内容に照らし、支社長個人を中傷するものといえないことは明らかであり、個人を誹謗するものと認めることはできない。
 なお、会社は、中労委命令において、各転勤命令や評価等の不当労働行為該当性を否定しつつ、本件掲示物撤去の不当労働行為該当性を肯定したことを矛盾と主張する。
 しかし、各転勤命令ないし評価等と本件掲示物撤去とでは、不当労働行為該当性についての判断基準、観点が異なるのは当然であるから、両者の結論が異なることをもって、直ちに矛盾といえるものではない。
(3) 結論
 以上のとおり、掲示物の記載は撤去要件に該当しないから、会社がこれを撤去した行為は、支配介入に当たると認めるのが相当である。
2 本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか(争点2)
(1) 平成19年2月20日団交申入れについて
 ア 労働協約に照らすと、団体交渉事項は、労働条件の基準に関する事項とされ、個別の人事事項については苦情処理手続で処理するものとされていると解するのが自然であるところ、このような区分けからすれば、19年2月20日団交申入れの申入事項である戒告処分については、個別的人事事項に当たるから、苦情処理手続によるべき事項に当たると解される。
 しかし、個別の人事権行使についても、労働者の労働条件その他の待遇に関する事項であって義務的団交事項に当たると解される。かような義務的団交事項に当たる事項を苦情処理手続の対象とすることによって、使用者が団体交渉応諾義務を免れるといえるためには、当該苦情処理手続が実質的に団体交渉に代わるような権能を果たしているといえること、すなわち、同苦情処理手続において、団体交渉でされているような実質的な協議や審理が行われているといえる必要がある。
 したがって、義務的団交事項に関し苦情処理手続を経た上で労働組合から団体交渉の申入れがあった場合には、同苦情処理手続が前記のような実質を有しないものであるときには、苦情処理手続によるべき事項であることを理由として、団体交渉の申入れを拒むことはできない(そのような団交拒否には正当な理由がない)と解するのが相当である。
 イ これを本件についてみるに、X2副執行委員長の苦情申告に関しては、互いの主張を交わしただけで実質的な交渉には至らず、結局、棄却されていることからすれば、上記苦情申告において、団体交渉に代わるような具体的な説明、協議が行われていたとまでは認め難い。
 また、会社と西労は、19年2月20日団交申入後、4回にわたり窓口整理を行っているが、これらの手続においては、団体交渉事項に当たるか否かという入口論で対立し、それ以上の実質的な議論に進展しなかった。19年5月21日の窓口整理において、会社側が事実関係についての調査結果を示し、会社の見解を伝えようとしている状況は窺われるが、西労側の意見を踏まえての実質的な議論にまでは至っていないことからすれば、これをもって、団体交渉に代わるような具体的な説明、協議がなされたとまで評価することはできない。
 したがって、会社が19年2月20日団交申入れを拒否したことについて正当な理由があるとはいえないから、同団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為に当たる。
(2) 平成19年6月18日団交申入れについて
 ア 19年6月18日団交申入れの申入事項である各転勤命令及び評価等はいずれも義務的団交事項に当たるところ、これを苦情処理手続に委ねること自体は許されるものの、苦情処理手続において団体交渉でされるような実質的な協議等が行われていない場合には、苦情処理手続によるべき事項であることを理由として団体交渉申入れを拒むことができないことは、前記で説示したとおりである。
 会社は、各転勤に関する簡易苦情処理会議において、「本人の知識、技能、適格性等を総合的に判断した」「業務上の必要性がある」などの形式的、抽象的な説明に終始しており、具体的にその事情を説明するには至っていないから、苦情処理手続において、団体交渉に代わるような説明、協議がなされていたとまではいえない。
 また、西労は、会社に対し、19年6月18日団交申入後、たびたび団体交渉の開催を求めていたところ、会社は窓口整理で説明したいと述べるばかりであったところ、会社は、19年5月の窓口整理においても、19年2月20日団交申入れについて具体的な説明、協議を行っていなかった以上、西労が、かかる会社の対応を前提に、具体的な説明、協議が行われる見込みのない窓口整理における協議を拒否し、団体交渉の開催を求めたことが何ら不当とはいえない。
 したがって、会社が19年6月18日団交申入れを拒否したことに正当な理由があるとはいえないから、同団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為に当たる。
 イ これに対し、会社は、組合員X5、X6は苦情申告しておらず、転勤対象者自身がその権利を放棄しているものについてまで労働組合が団体交渉申入れを行うことは、労使協議制度の趣旨に反し不当であるなどと主張する。
 しかし、転勤に対する苦情申告は簡易苦情処理会議の対象となるところ、その申告期限は転勤の事前通知を受けた翌日までのわずか2日間に限定されており、かかる苦情申告を行わなかったことをもって、直ちに、その後の団体交渉申入れが当該転勤対象者の意思に反すると推認するのは相当ではない。したがって、上記の点を理由に、西労が団体交渉要求をなしえないと解することはできない。
 また、会社は、転勤に関わる事項は、団体交渉よりも非公開の窓口整理になじむと主張する。
 しかし、現に、会社の19年2月20日団交申入れに対する窓口整理での説明は、西労の理解を得るための具体的な説明、協議ということはできないものであったし、仮に、公開になじまない事項があるとすれば、西労と協議の上で公開を停止する措置をとるとか、支障のある範囲をマスキングした資料を交付する等の適宜必要な措置をとれば足りるから、団体交渉自体を拒否する会社の主張は採用できない。
(3) 結論
 したがって、会社の本件団交拒否は、不当労働行為に当たる。
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
岡山県労委平成20年(不)第1号 一部救済 平成22年4月15日
中労委平成22年(不再)第34・35号 棄却 平成23年9月7日
東京高裁平成24年(行コ)第380号 棄却 平成25年1月29日
最高裁平成25年(行ツ)第231号・平成25年(行ヒ)第245号 上告棄却・上告不受理 平成25年9月5日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約285KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。