概要情報
事件名 |
東海旅客鉄道(訓告処分・掲示物撤去等) |
事件番号 |
中労委平成18年(不再)第19・21号 |
再審査申立人 |
(19号)東海旅客鉄道株式会社 |
再審査申立人 |
(21号)ジェイアール東海労働組合、同 新幹線関西地方本部大阪第二運輸所分会 |
再審査被申立人 |
(19号)ジェイアール東海労働組合、同 新幹線関西地方本部大阪第二運輸所分会 |
再審査被申立人 |
(21号)東海旅客鉄道株式会社 |
命令年月日 |
平成19年12月19日 |
命令区分 |
一部変更 |
重要度 |
重要命令 |
事件概要 |
会社が、(1)分会掲示板から掲示物を撤去したこと、(2)掲示物撤去にかかる地方苦情処理会議を開催しなかったこと、(3)事故等を発生させた乗務員の再乗務に際し行われたフォロー試験について組合間差別を行ったこと、(4)防犯カメラの撮影角度を変えたとして分会長を訓告に付したことが不当労働行為に当たるとして争われた事件である。
初審大阪府労委は、(1)分会長に対する訓告のなかったものとして取扱い及び同訓告を理由とする一時金減額分の支払、(2)文書手交(同訓告等及び組合掲示物51点の撤去に関して)を命じ、その余の申立ては棄却した。組合及び会社は、これを不服として再審査を申し立てた。
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命令主文 |
(1) 初審命令主文のうち、会社に、組合掲示物51点の撤去につき文書手交を命じた部分を、同掲示物47点の撤去につき文書手交を命じることに変更する。
(2) その余の本件各再審査申立てを棄却する。
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判断の要旨 |
(1) 本件掲示物撤去について
ア 労使間で掲示板の貸与協約が締結されている場合、使用者が掲示物を撤去する行為は、同協約に基づく組合の掲示板利用の権利を侵害し、同協約による正常な集団的労使関係秩序を害するものとして、それ自体で原則として組合の弱体化を招くおそれがある不当な行為といえ、支配介入に該当する。他方、同協約に、掲示物の記載内容が事実に反し、会社の信用を毀損する場合には使用者が掲示物を撤去できるなどの規定が置かれている場合には、当該掲示物が撤去要件規定に該当すれば、使用者の掲示物撤去行為は、原則として支配介入にならないものと解することができる。そして、掲示物の記載内容の撤去要件該当性の判断は、当該掲示物が全体として何を訴えようとしているかを踏まえ、当該記載内容による被侵害利益の性質、侵害の程度、記載内容の裏付け証拠の有無、掲示物掲出をめぐる労使関係等の具体的事情等を実質的・総合的に考察した上で、当該掲示物が労働組合に掲示板を貸与した労働協約の趣旨・目的に反するものといえるか否かによって判断されるべきである。
イ この観点から本件掲示物53点の撤去をみると、会社の安全対策・安全運行の不備に関する2点の掲示物は、会社の信用を傷つけるもので協約の撤去要件に該当し、会社の管理者個人を非難する2点の掲示物は、個人の誹謗し、会社の職場規律を乱すもので協約の撤去要件に該当し、会社社長の発言を非難する掲示物は、個人を徒に誹謗・中傷するもので協約の撤去要件に該当するが、その他47点の掲示物撤去は撤去要件に該当せず、労組法第7条第3号の不当労働行為に該当する。
(2) 地方苦情処理会議の開催に応じないことについて
会社は、協約締結に当たって、組合掲示物については、会社の判断により撤去し組合にその理由は説明しない旨言及し、組合もこのことを了知していたことが認められる。
そうすると、掲示物撤去に当たって説明を行っていない状況下で会社が地方苦情処理会議を開催しないことには問題がないとはいえないが、会社が当該対応について組合に事前説明していたことからすると、本件苦情申告について同会議を開催しなかったことが組合らの運営に支配介入するとまではいえない。
(3) フォロー試験における差別的取扱いについて
会社は、乗務員が事故等を起こした場合、日勤勤務に指定した上、フォロー試験に合格するまでは原則として列車の乗務に復帰させないこととしているが、会社の行う鉄道事業の運営において、安全の確保は最重要の課題といえるから、会社が上記のような制度を設けることは相当かつ合理的である。
フォロー試験は知識確認と技能確認からなり、いずれにおいても7割以上正解した場合を合格としていることが認められ、これらの方法に格別問題があるとはいえないこと、同試験の実施結果についてみると、組合員であるか否かによって、フォロー試験の取扱いに差異があったとまでみることはできないこと等から、会社が組合員に対してフォロー試験を差別的運用しているとはいえない。
(4) Y分会長に対する本件訓告について
ア 証拠によると、Y分会長は本件カメラに触れ、そのことにより本件カメラの撮影角度が変わったと認めるのが相当である。
イ そうすると、同分会長が本件カメラに触り、その撮影角度を変えたことに対する本件訓告が相当であるかが問題となるが、本件カメラによる映像のほとんどが組合掲示板を写すものであり、果たして本件カメラの設置が防犯を目的としたものであるかについて疑問があること、乗務員ロッカー室は会社社員が使用するものであり、この出入りを防犯上の理由から監視する必要性には疑問もあることからすると、撮影角度が変わったことによる会社業務への支障は認められないか、その程度は低いものであったといえる。同分会長が会社の許諾を得ないまま本件カメラの撮影角度を変えたこと及びこれらの事実を否認する態度に問題はあるが、期末手当が減額される不利益を伴う訓告に付したことは相当な範囲を逸脱したものというべきである。
ウ 組合と会社間には10数件の訴訟事件及び不当労働行為事件が係属するなど、組合結成以来、両者は良好とはいい難いこと、同分会長は本件カメラの設置を巡って争われた別件での証人としての証言していたことを併せ考えると、会社が同分会長を訓告に付し、同分会長の一時金を減額したことは、同分会長の組合活動を理由として不利益取り扱うことにより、組合の弱体化を企図した労組法第7条第3号に該当する不当労働行為である。
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掲載文献 |
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