概要情報
事件名 |
東海旅客鉄道(訓告処分・掲示物撤去等) |
事件番号 |
東京高裁平成21(行コ)第134号 |
控訴人兼被控訴人(1審原告) |
東海旅客鉄道株式会社 |
被控訴人兼控訴人(1審被告) |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被控訴人兼控訴人(1審被告)補助参加人 |
ジェイアール東海労働組合 ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部大阪第二運輸所分会 |
判決年月日 |
平成21年9月29日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
重要命令に係る判決 |
事件概要 |
会社が、①分会の掲示板から掲示物を撤去したこと、②防犯用カメラの角度を変えたとして分会長を訓告に付したこと等が不当労働行為であるとして争われた事件である。 初審大阪府労委は、会社に対し、①分会長に対する訓告がなかったものとしての取扱い及び同訓告を理由とする一時金減額分の支払、②分会長に対する訓告及び掲示物撤去に関する文書手交を命じ、その余の請求を棄却したところ、中労委は、初審命令主文のうち、51点の掲示物撤去につき文書手交を命じた部分を、47点の掲示物撤去につき文書手交を命ずることに変更し、その余の組合及び会社の再審査申立てを棄却した。 会社は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、中労委命令のうち、分会長に対する訓告に係る救済部分及び3点の掲示物の撤去に関する文書手交を命じた部分を取り消し、その余の請求を棄却した。 中労委及び会社は、これを不服として東京高裁に控訴提起をしたところ、同裁判所はそれぞれ棄却した。 |
判決主文 |
本件各控訴を棄却する。 |
判決の要旨 |
当裁判所も、計53件の掲示物のうち、中労委命令において不当労働行為には当たらないと判断された計6件の掲示物に加えて、本件訓告並びに計3点の掲示物の撤去は不当労働行為に当たらず、その余の計44件の掲示物の撤去は、不当労働行為に当たると判断する。 その理由は、補正し、当審における当事者の主張に対する判断を付加するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の1から4までの理由説示と同一であるから、これを引用する。 当審における当事者の主張について、会社は、本件掲示物の撤去は相当であった旨主張し、中労委は、原判決において、不当労働行為には当たらないとされた計3点の掲示物の撤去も不当労働行為に当たると主張するが、当裁判所は、掲示物が撤去要件に該当するかどうかの判断は、撤去要件に該当するか否かを一般常識や社会通念に従って基本協約228条1項2分の文言の一般的意味に即して判断すべきであるが、掲示物の記載の字面を表層的に捉えて判断すべきものではなく、掲示物の記載内容が部分的、形式的に撤去要件に該当する場合であっても、当該掲示物の掲示が補助参加人らの正当な組合活動として許容される範囲を逸脱したものかどうかを検討すべきであり、正当な組合活動として許される範囲を逸脱したかを検討するに当たっては、掲示板が設置されている場所がどのような場所か、掲示物が対象としている読者がどのような者か等の事情、会社と組合との労使関係との状況等の具体的事情を検討すべきであり、その結果、当該掲示物が全体として正当な組合活動として許される範囲を逸脱していないと認めるに足りる事情が立証された場合には、結局、撤去要件に該当しないといえるのであり、これに照らすと、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の1に記載のとおり、当審においても44件の掲示物の撤去は不当労働行為であると認められ、それ以外の掲示物の撤去は不当労働行為に該当しないと判断するものである。 中労委は、本件訓告について、①本件カメラの設置が防犯目的であるかは疑問で、②組合員Xが触れたことにより本件カメラの防犯上の機能が失われたとまではいえず、③本件訓告を受けたことにより、組合員Xが重大な影響を受けることを考慮すると、本件訓告は不当労働行為になると主張するが、この点に関する裁判所の判断は、原判決「事実及び理由」欄の「第3 争点に対する判断」の2の理由説示(補正後のもの)のとおりであり、無断で本件カメラの角度を変えたXの行為は、会社の施設管理権を侵し、本件カメラの機能を滅却、減殺するものというべく、非違行為に該当するものといわざるを得ない。 会社は、中労委命令のうち、文書の交付を会社に命じた部分は、憲法19条及び21条に違反する旨主張するが、憲法19条が思想及び良心の自由を保障する趣旨は、外部からの干渉介入からの人間の内面的な精神活動の自由を守ることにあるところ、本件各掲示物の撤去が不当労働行為であると認定された事実などを記載した文書の交付を会社に命じる趣旨は、不当労働行為に該当するような行為を繰り返さないという使用者の法律上当然の義務を履行する意思の表明を会社に命じているものにすぎないから、会社の思想及び良心の自由という内面的な精神活動を侵害するものではない。 また、憲法21条が表現の自由を保障している趣旨は、精神活動の所産を外部に自由に表明することは、国民の自由な意見の交換により国の意思を決定するという民主社会の根幹をなすものであるとして、これを保障する点にあるところ、上記のごとき内容の文書の交付を会社に命じる趣旨は、不当労働行為に該当するような行為を繰り返さないという民主社会の根幹をなす使用者の法律上当然の義務を履行する旨の表明を会社に命じているものにすぎないから、会社の表現の自由という内面的な精神活動を侵害するものではない。 したがって、中労委命令が憲法19条及び21条に違反する旨の会社の主張は採用することができない。 以上によれば、中労委命令のうち、訓告処分、計3件の掲示物の撤去を不当労働行為であると認定し、会社の再審査申立てを棄却した部分を取り消し、会社のその余の請求を棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当である。 |