概要情報
事件名 |
東海旅客鉄道(訓告処分・掲示物撤去等) |
事件番号 |
東京地裁平成20年(行ウ)第101号 |
原告 |
東海旅客鉄道株式会社 |
被告 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
ジェイアール東海労働組合
ジェイアール東海労働組合新幹線関西地方本部大阪第二運輸所分会
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判決年月日 |
平成21年3月12日 |
判決区分 |
一部取消 |
重要度 |
重要命令に係る判決 |
事件概要 |
本件は、会社が、①分会掲示板から53点の掲示物を撤去したこと、②庁舎通路に設置されたカメラの撮影角度を変えたとしてX1分会長を訓告に付したこと(以下「本件訓告」)等が不当労働行為であるとして、申立てのあった事件である。
初審大阪府労委は、会社に対し、①本件訓告がなかったものとしての取扱い及び同訓告を理由とする一時金減額分の支払、②文書手交(同訓告及び組合掲示物51点の撤去に関して)を命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、組合及び会社から再審査の申立てがなされ、中労委は、初審命令主文のうち、会社に対し、組合掲示物51点の撤去につき文書手交を命じた部分を、同掲示物47点の撤去(以下「本件掲示物撤去」)につき文書手交を命じることに変更し、その余の各再審査申立てを棄却した。
会社は、救済部分の取消しを求めて東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件訓告及び47点の掲示物のうち3点の掲示物の撤去は不当労働行為に当たらないとして、これらに係る中労委命令を取り消し、その余の会社の請求を棄却する旨の判決を言い渡した。
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判決主文 |
1 中労委命令救済部分のうち、分会長に対する訓告に係る救済部分及び3点の掲示物撤去に関する文書手交を取り消す。
2 会社のその余の請求を棄却する。
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判決要旨 |
1 本件掲示物撤去の支配介入該当性
(1) 組合掲示板から労働協約に従って掲示物を撤去することが支配介入に該当するかどうかの判断枠組み
ア 会社と組合との間で締結されている労働協約(以下「基本協約」)によれば、撤去要件に該当する掲示物は組合活動のためであっても掲示することができず、会社はこれを撤去することができる。他方、会社が、撤去要件に該当しないにもかかわらず、組合活動のために掲示した掲示物を撤去した場合には、特別な事情がない限り、支配介入の不当労働行為となるというべきである。
イ 撤去要件該当性を判断するに際しては、組合掲示物が全体として伝えようとしている趣旨や内容、その表現の掲示物全体の中における位置づけや重要性を検討し、当該掲示物が実質的に撤去要件に該当するといえるのかどうかを検討すべきである。
(2) 本件各掲示物撤去の支配介入該当性
上記ア及びイの3点を除く44点の掲示物撤去については、撤去要件に当たらず、これら掲示物を撤去したことは不当労働行為に該当する。
ア 掲示物⑤
Y1助役がX1(分会長)に対して勤務時間中に居眠りをしていたのではないかと尋ねたこと、同人に対して始末書・顛末書の作成を求めたことは事実であり、同掲示物は、組合として、Y1助役の上記行為に抗議をする趣旨であると認められるが、Y1助役が「暴力的に恫喝」「テロリストと同じ」との記載については、同助役がそのような行為をしたとは認められないし、表現としても著しく適正を欠くものである。しかも、同掲示物には、行為者として、Y1助役の個人名も記載されている。そうすると、同掲示物は、事実に反し、個人を誹謗するものであり、撤去要件に該当するといわざるを得ない。撤去までの時間が短いことを考慮しても、撤去行為が権利の濫用とはいえない。
イ 掲示物○27-b及び掲示物○32-c
これら掲示物は、車掌業務における過不足金に関する管理者の呼出しに関し労働基準監督署が調査に入ったことについて報じるものである。過不足金発生の場合の会社の対応として、業務指示による事情聴取が行われることがあるところ、事情聴取自体は違法、不当とは認められず、これに対して、「乗務員のみなさん!!「過不足金発生」に伴う事情聴取は「一切」応じる必要はない!」と呼びかける記載は、業務指示に基づく正当な業務遂行を阻害することを誘因するものというべきであって、職場規律を乱し、撤去要件に該当するといわざるを得ない。撤去までの時間が短いことを考慮しても、撤去行為が権利の濫用とはいえない。したがって、これら掲示物を撤去したことは、不当労働行為に該当しない。
2 本件訓告について
本件カメラの映像の約3分の2は各労働組合の掲示板が写るものであること、乗務員ロッカー室の出入りを監視する必要があるなら、出入り口の扉2か所が大きく写る角度に設定した方がよいと思われるのに、撮影角度は組合掲示板が大きく写るような角度であることから考えると、本件カメラは、防犯の目的がないわけではないにしても、各労働組合の掲示板が撮影角度内に収まることを認識して設置したのではないかと疑われる。しかし、X1は、職務上の権限はないのに、会社が職場内に設置した本件カメラを、無断で触れて撮影角度を変えたものであり、会社の就業規則が定める懲戒事由に該当するといわざるを得ない。そして、X1は故意に本件カメラに触れたのであり、意図的に撮影角度を変えたのは明らかであること、X1は本件カメラに触れたことを否認し非を認めていないこと等も考え併せると、本件カメラの設置が労働組合の掲示板を見る目的ではないかと疑われていたこと、組合は本件カメラの設置を不当労働行為として救済申立てしていたこと、X1は本件訓告により年末一時金が5パーセント減額されたことを考慮しても、就業規則上は懲戒に該当しないとされている処分である訓告としたことに理由がないとはいえないし、処分として重すぎるとまではいえない。そうすると、本件訓告は会社が組合や分会を嫌悪し、その弱体化を意図して行ったものと認めることはできない。
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