労働委員会命令データベース

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概要情報
事件名 住友重機械工業
事件番号 中労委平成13年(不再)第60号
再審査申立人 全日本造船機械労働組合住友重機械追浜浦賀分会・分会員12名
再審査被申立人 住友重機械工業株式会社
命令年月日 平成18年8月2日
命令区分 一部変更
重要度  
事件概要 1  本件は、住友重機械工業株式会社(以下「会社」)が、平成元年4月以降、全日本造船機械労働組合住友重機械追浜浦賀分会(以下「分会」)の12名の分会員の職能資格を差別したことが不当労働行為であるとして、平成9年3月26日に救済申立てがあった事件である。 
2  初審東京都労働委員会は、会社に対して、(1)分会員A、同B及び同Cを平成8年4月1日付けで上級職1級に昇格させたものとして扱い、バックペイを支払うこと、(2)文書の交付、(1)及び(2)についての履行報告を命じ、4名(F、G、H、I)の分会員に関する平成7年3月以前の昇格を求める申立てを却下、その余の申立てを棄却したところ、分会及び分会員12名がこれを不服として、再審査を申し立てたものである。 

命令主文 初審命令主文第5項を次のとおり変更する。  
5 .再審査被申立人住友重機械工業株式会社は、再審査申立人D、Eを平成8年4月1日付けで上級職2級にそれぞれ昇格したものとして取り扱い、昇格していたならば支払われたであろう賃金と、現に支払われた賃金との差額(一時金の差額を含む。)を支払わなければならない。 
6 .再審査被申立人住友重機械工業株式会社は、再審査申立人全日本造船機械労働組合住友重機械・追浜浦賀分会に対し、本命令書受領の日から1週間以内に5の内容を踏まえた文書を交付しなければならない。 
7 .その余の本件申立てを棄却する。 
 (参考)初審命令第5項「その余の申立てを棄却する。

判断の要旨 (1 )除斥期間
 会社の昇格決定行為は毎年行われるもので、仮に複数年度にわたる他の査定要素が加味されていたとしても、各年度の昇格決定行為は別個の行為と考えられるものであるから、毎年度の行為を一つの連続した行為と捉えるべきとの分会の主張は採用できない。 
(2 )分会員と住友重機械労働組合員(以下「住重労組員」という。)の外形的昇格格差の存否
ア  分会員の労働力の質
 会社は、分会員と住重労組員の労働力が同質でないことを、両者の出勤率の差をもってのみ主張・立証しているが、組合所属別の出勤率をみると、分会員と住重労組員との差は僅少であり、その差の多くは年次有給休暇の取得に起因している。年次有給休暇は労働者の権利として、又その性格上取得して然るべきものであり、その年次有給休暇の取得状況を含む出勤率によって、分会員の労働力の質を論ずることはできず、分会員と住重労組員の労働力の質が同質ではないとする会社の主張は認められない。 
イ  分会員と住重労組員の外形上の昇格格差の存否
(1)  当審においても会社の昇格の全体状況が明らかにされたとは言えないが、昇格状況が明らかになった者の状況からみる限り、会社の社員職能管理制度における昇格については緩やかな年功的基準による運用をしていたといって差し支えなく、この点に関する初審判断は相当として認めることができる。もっとも、「緩やかな年功的基準による運用」は主として定期採用者について妥当し、中途採用者には必ずしも当たらないことが窺える。



(2)  中卒者の上級職3級・2級への昇格状況をみると、昇格に要した平均勤続年数で、分会員は住重労組員よりも上級職3級で3.51年、同2級で4.18年遅れており、昇格に要した勤続年数も分会員の方が長い者が多いことから、外形的には分会員の昇格は住重労組員に比較し遅れていて、外形的格差があるといえる。
 また、申立人の8人(分会員12名のうちA、B、C、Jを除く)は昭和40年度までに入社したものであるが、この昭和40年度までに入社した者の分会員の上級職2級への昇格率は53.57パーセント、住重労組員が85.9パーセントであり、この点から見ても分会員は住重労組員に比べて相対的に昇格が遅れていて、外形的格差があるといえる。
 高卒者の上級職1級への昇格状況については、分会員が1名だけであるため一概に比較することはできない。 
ウ  社員職能管理制度における査定
 社員職能管理制度では、昇格は、第1次評定者である課長等が昇格候補者を人選する際に昇格に値する者がいる場合にはその理由を添えて部長等に推薦することとなっており、課長等は、第1次評定を行うに当たり、その配下の役職者である主任技師、係長、職長及び班長(以下「下級職制」という。)の意見を参考にしつつ人選を行っている。
 会社は、仮に第1次評定者の恣意的判断があっても、第2次及び第3次評定において修正され調整されると主張するが、第1次評定者による昇格候補者とならなかった者を、2次及び3次評定で検討することは制度上否定されていないとしても、現実の運用では第1次評定者による昇格候補者にはその理由を付しているのであり、何の昇格理由も述べられていない者が第2次評定で浮上することは考えにくいなど、会社の主張をそのまま採用することはできない。
 また、第1次評定者が配下の下級職制の意見を参考にして人選をするという運用の中で、評定者及び下級職制に分会員が一人もなっていない事実等を鑑みると、第1次評定者の恣意的判断が入るおそれが全くないとまで言い切れない。 




(3 )分会員9名(分会員12名のうちA、B、Cを除く)の昇格格差の存否及び上位資格要件の具備
ア  昇格格差の存否及び上位資格要件の具備
 昇格格差の存否及び上位資格要件の具備については、まず昇格格差の存否について判断し、その結果昇格格差があり、上位資格に昇格しうる要件を具備しているかどうか判断する者についてのみ上位資格要件の具備について判断することとする。
 なお、昇格の判断要素として、年齢、勤続年数及び下位資格において上位資格に昇格しうる在職年数が考えられるが、年齢及び勤続年数はばらつきがみられるものの、在職年数については、上級職2級への昇格に当たって分会員・住重労組員の別なく上級職3級の在職年数が概ね5年から8年の年数であることから、上位資格に昇格しうる要件について、この在職年数を重くみることとする。 
イ  D及びEについて
 共通して、緩やかな年功的昇格傾向がみられる定期採用者であって、平成8年4月には上級職在職年数の平均を上回り、上級職2級への昇格を妨げる問題が特にみられない。
 Dは、取付職として相応しい技能が認められること、5項目の必要能力項目要件のうち2項目を満たしておりそれ以外の3項目についても昇格を阻む問題点が見受けられないことなど上級職2級昇格に値しないという事実も認められないことから、平成8年4月に上級職2級に昇格させない合理的な理由があるとはいえない。
 Eは、溶接職として相応しい技能が認められること、また上級職2級昇格に値しないという事実も認められないことから、平成8年4月に上級職2級に昇格させない合理的な理由があるとはいえない。 

ウ  Jについて
 同期で上級職1級に昇格した者の上級職2級在職年数が5年であることから、会社は平成8年4月に上級職1級昇格について判断すべきであったものの、同人の作業ミスがあったことを鑑みれば、Jを平成8年4月に上級職1級に昇格させなかったことに合理的な理由があったといえる。 
エ  K及びLについて
 共通して、平成8年4月時点で上級職3級の同年齢・同学歴者の中では比較的に勤続年数が長くなっていることが認められるが、中途採用者の場合、同一年度入社といえども昇格の格差が大きいことが認められる。


 Kは、溶接工としての経験は豊富なものの上級職3級昇格後に優れた結果を残している事実が見受けられないこと、多能工化の取組みに前向きな姿勢でないとみられ協調性等においてマイナスに評価せざるを得ないこと等を総合すると、平成8年4月に上級職2級に昇格させなかったことに合理的な理由があったといえる。
 Lは、取付職としての経験はやや不足している面が見受けられ他に特に優れているという事実が見受けられないこと、さらには業務態度に問題があると考えられてもしかたないことなど総合すると、平成8年4月に上級職2級に昇格させなかったことに合理的な理由があったといえる。 
オ  F、G、H、Iについて
 同学歴・同年齢の者等との間に格差があると認められず、平成8年4月に上級職2級に昇格させなかったことをもって分会員であることを理由とする不利益取扱いということはできない。 
(4 )不当労働行為の成否
 昭和58年和解以前は、会社と分会との間で紛争が続き、分会員に昇格格差を付けるという傾向がみられ、元年和解までの時点においてもその傾向は継続し、平成元年和解以降平成8年に至るまでにおいても、分会員が役職者には誰も選任されておらず、番船担当や美化委員などについても選任されていないなど、分会を嫌悪し、分会排除の姿勢が認められ、昇格において不利益な取り扱いをしていたものと解するのが相当である。さらに、会社は、昭和58年以降、会社が昇格差別の再発防止の有効な取組みに努めたという事実も認められない。したがって、初審命令におけるA、B及びCに加え、D及びEが上級職2級に昇格する資格を満たしていたにもかかわらず、同人らが分会に所属することをもって、平成8年4月1日に昇格させなかったことは、組合を弱体化させようとする支配介入であり、労働組合法第7条第1号及び第3号に該当する不当労働行為である。 

掲載文献 不当労働行為事件命令集135集《18年5月~8月》1068頁

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成9年(不)第12号 一部救済 平成13年10月16日
東京地裁平成13年(行ウ)第411号、平成14年(行ウ)第102号 棄却 平成18年7月27日
東京高裁平成18年(行コ)第235号 一部取消 平成19年10月4日
最高裁平成20年(行ツ)第27号
最高裁平成20年(行ヒ)第30号
上告棄却、不受理 平成20年4月18日
東京地裁平成18年(行ウ)第612(第1事件)等・658号(第2事件) 一部取消、棄却 平成20年11月13日
 
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