概要情報
事件名 |
住友重機械工業 |
事件番号 |
東京地裁平成13年(行ウ)第411号(第1事件) 東京地裁平成14年(行ウ)第102号(第2事件) |
原告(第1事件原告) |
住友重機械工業株式会社 |
原告(第2事件原告) |
全日本造船機械労働組合住友重機械・追浜浦賀分会 個人12名 |
被告(第1事件・第2事件被告) |
東京都労働委員会 |
被告補助参加人(第1事件被告補助参加人) |
全日本造船機械労働組合住友重機械・追浜浦賀分会 個人3名
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参加人(第2事件参加人) |
住友重機械工業株式会社 |
判決年月日 |
平成18年7月27日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
本件は、会社が、平成元年4月以降、申立人組合の組合員12名に対して職能資格の昇格を差別したことが、不当労働行為であるとして争われた事件である。 東京都労委(平成9年(不)12号、平成13年10月16日決定)は、①組合員3名を平成8年4月1日付で上級職一級に昇格させたものとしての取扱い及びバックペイ、②文書交付、③東京都労委への文書報告、④組合員4名に関する平成7年3月以前の昇格を求める申立ての却下、⑤その余の申立ての棄却を命じたところ、これを不服として、会社は、救済命令を発した部分の取消しを、組合は、申立てを却下、棄却した部分の取消しを求めて、それぞれ行政訴訟を提起していた。 東京地裁は、会社及び組合の請求をいずれも棄却した。
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判決主文 |
1.第1事件原告(第2事件参加人)の請求を棄却する。 2.第2事件原告(第1事件被告補助参加人)らの請求をいずれも棄却する。 3.訴訟費用(参加及び補助参加によって生じた費用を含む。)は、2分の1を第1事件原告(第2事件参加人)の負担とし、2分の1を第2事件原告(第1事件被告補助参加人)らの負担とする。 |
判決の要旨 |
① 会社においては、毎年4月1日に昇格が発令されるが、昇格の発令をすること又は発令しないことは、前年度の評定に基づいて毎年独立して行われるものであるから、当該行為は各年ごとの別個の行為というほかなく、昇格の有無による労働者の地位は、翌年の昇格時期までは継続しているのであるから、各年の昇格発令行為又は発令しない行為は、翌年の昇格時期までの一年間は継続しているといえるが、それ以降も継続しているとはいえないとされた例。 ② 本件で救済を求める平成7年4月1日に昇格させなかった行為は、前記①のとおり、翌年の昇格時期である平成8年3月31日までは行為が継続しているといえ、本件救済申立日の平成9年3月26日は、「行為が終了した日」(労組法27条2項)から救済申立期間である1年以内であるといえるから、本件救済申立てのうち、平成7年4月1日及び平成8年4月1日の昇格を求める部分は、救済申立期間内の申立てであって適法であるが、昭和63年4月1日及び平成元年4月1日の昇格を求める部分は、救済申立期間経過後の申立てであり不適法であるとされた例。
③ 和解は、当事者が互いに譲歩をしてその間に存する争いをやめることを約するものであり、和解が成立した以上争いを蒸し返すことは許されず、会社と組合とは、昭和55年合意、昭和58年和解、平成元年和解を成立させているのであるから、これらの和解内容に関して、なお昇格が不十分であったなどとして争いを蒸し返すことは許されず、本件訴訟においては、和解以降の昇格について、昇格差別があったか否かを検討すべきであるとされた例。
④ 本件救済申立手続及び本件訴訟においては、会社が平成8年4月1日の昇格差別以外は救済申立期間経過後であるとして、その前提で主張立証を行っていたなど、同日に昇格させなかったことが不当かどうかについて審理がされ、同7年4月1日に昇格させなかったことについては、十分な主張立証がなされているとはいえないから、個人救済申立人全員について、同日に昇格させなかったことが不当労働行為かどうか、まず、検討することとし、同7年4月1日の昇格を求めている個人救済申立人については、仮に、同8年4月1日に昇格させなかったことが不当労働行為に当たらないのであれば、特別な事情がない限り、同7年4月1日に昇格させなかったことも不当労働行為に該当しないということができ、仮に、同8年4月1日に昇格させなかったことが不当労働行為に当たるのであれば、なお、同7年4月1日に昇格させなかったことが不当労働行為に該当するか否かを判断することになるとされた例。
⑤ 労働組合側が、当該労働組合員と他の従業員との間に格差が存在すること及び当該労働組合員は昇格要件を充足し、格差に合理的な理由がないことについて、できるだけの主張立証を行い、これに加えて、当該労働組合員は共通して昇格が遅れている傾向があり、格差が合理的な理由によるものではないことを疑わせる事情などが認められるのであれば、使用者側において、格差がないこと、格差があったとしても合理的な理由があること(能力が同質であるとは認められないこと)を積極的に主張立証しない限り、格差が存在し、かつ昇格要件を充足していることが認められ、昇格に関し不利益取扱いがあったと認められることがあり得るというべきであるとされた例。
⑥ 和解以降の昇格の遅れが認められない個人救済申立人のうち8名については、不当労働行為は認められないと判断し、一方、和解以降も昇格の遅れが認められるとした個人救済申立人4名のうち3名については、上級職1級に昇格する資格要件を充たしていたが、同人らが組合に所属することが影響し昇格させず、昇格格差が生じているとして不当労働行為に該当すると判断し、1名については、会社が昇格させなかったことに合理的理由がないとはいえず不当労働行為ではないと判断された例。
⑦ 労働委員会は、事案に応じた適切な是正措置を決定し命令する権限を有するのであるから、不当労働行為に対してどのような救済方法を命じるかは、労働委員会に裁量があるところ、東京都労働委員会は、付加金の支払、支配介入や不利益取扱いの一般的な禁止、謝罪文の掲示を命じる必要はないとして、これらの申立てを棄却したが、昇格における不利益取扱いに対して、最も直接的な救済というべき昇格と賃金差額の支払を命じていること、謝罪文の掲示は認めなかったが、これと同旨の内容を記載した文書の交付を命じていることなどからすれば、組合の申立ての一部を棄却したことが裁量の逸脱、濫用であるとは認められないとされた例。
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