概要情報
| 事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和7年(行コ)第358号
日本港運協会不当労働行為救済命令取消請求控訴事件
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| 控訴人 |
X法人(「法人」)
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| 被控訴人 |
国(処分行政庁 中央労働委員会(「中労委」))
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| 被控訴人補助参加人 |
Z1組合、Z2組合(併せて「組合」) |
| 判決年月日 |
令和8年3月12日 |
| 判決区分 |
棄却 |
| 重要度 |
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| 事件概要 |
1 本件は、法人が、平成28年度以降、組合との産業別最低賃金(法人と組合との労働協約に基づき、法人に加盟する使用者と同使用者に雇用され、組合に加入する港湾労働者との間に適用される最低賃金のこと。「産別最低賃金」)に関する団体交渉において、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(「独禁法」)に抵触するおそれがあるとして、組合の要求に回答しないことについて、救済申立て(「本件救済申立て」)があった事案である。
2 初審東京都労働委員会(「都労委」)は、本件救済申立てのうち、平成31年2月9日以前の団体交渉に係る申立ては却下するとともに、同月19日付けの団体交渉申入れ(「本件団交申入れ」)にかかる団体交渉(「本件団体交渉」)において、法人が産別最低賃金に関する組合の要求に回答しないこと(「本件回答拒否」)は労働組合法(「労組法」)7条2号の不当労働行為に該当するとして、誠実団体交渉応諾、文書交付及びそれらの履行報告を命じた。
3 法人は、これを不服として、再審査を申し立てたところ、中労委は、申立てを棄却した(「本件命令」)。
4 法人は、これを不服として、行政訴訟を提起したところ、東京地裁は、請求を棄却した。なお、同地裁は、本判決日の同日、中労委が申し立てた緊急命令を認容している。
5 法人は、これを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は法人の控訴を棄却した。 |
| 判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
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| 判決の要旨 |
1 当裁判所も、法人の請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり補正し(「略」)、後記2を付加するほかは、原判決「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における法人の補足的主張に対する判断
⑴ 本件団体交渉において、法人は労組法27条の救済命令の被申立人及び名宛人とされる「使用者」に該当するかについて
法人は、①法人が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な影響を与える地位にはないこと、②平成30年2月19日付けで会員事業者に対して交付した「ご通知」と題する文書(「本件通知」)により法人と会員事業者との間の委任関係が終了していたこと、③法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対して統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に抵触することから、本件団体交渉において、法人は労組法27条の救済命令の被申立人及び名宛人とされる「使用者」に該当しないと主張する。
しかし、①については、法人と組合との間で平成24年11月21日、「協定書・確認書集」(「本件基本労働協約」)が締結され、団体交渉で合意に達した事項については労働協約としての効力を持ち、その労働協約は原則として港湾で働く全ての港湾労働者に対して適用されることになっていること、本件基本労働協約においては、法人は、これを遵守する義務を負うだけでなく、その履行に当たって、会員事業者を責任もって指導する義務も負っていることにより、会員事業者の労使が合意事項を遵守する状況が作り出されている(引用に係る原判決「事実及び理由」(補正後のもの。以下「原判決」という。)第3の2⑵)。そうであれば、本件団体交渉の合意事項は会員事業者の労使において遵守されることが当然に想定されているということができ、本件団体交渉の当事者であり、当該合意事項を定める主体である法人は、雇用主である会員事業者に対して、雇用する労働者との間の労働条件について指導し、具体的な影響を与えることができる地位にあると認められ、組合に所属する労働者に対しても、その基本的な労働条件等について雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるものと評価できる。
②については、本件通知の「「制度賃金に係る要求項目」については、各会員を代表して弊会は団体交渉に応じることはありません」との記載は、法人と組合との間の団体交渉の方針を会員事業者に報告したものにとどまり、これをもって、法人が交渉権限や妥結権限の委任関係を終了させる意思表示を行ったと評価することはできない。
③については、本件団交申入れに対する統一回答や法人が各会員事業者の意向等の情報収集・情報交換活動をし、会員事業者間で情報交換、調整及び統一回答の内容についての合意をした上で、法人において統一回答の内容とすべき産別最低賃金額を取りまとめて決定すること(「本件準備行為」)が独禁法に違反する行為であると判断される具体的なおそれがあるとは認められず(後記⑵ウ)、法人が本件団体交渉を行うことができないとはいえない。
したがって、法人の上記主張は採用できない。
⑵ 本件回答拒否が労組法7条2号の不当労働行為に該当するかについて
ア 法人は、法人が雇用主である会員事業者と同視できるだけの権限を有しているわけではないこと、法人と会員事業者との間の委任関係は終了していること、本件準備行為が独禁法に違反することを理由に、本件団交申入れにおいて団体交渉の対象となっている事項は、法人と組合との間における義務的団体交渉事項ではないと主張する。
しかし、法人の上記主張が採用できないことは、上記⑴に判示のとおりである。
イ 法人は、独禁法への抵触可能性を説明したこと、雇用主と比べてその説明の程度は低いものとなること、代替案を示したことを理由に、法人は組合との間の団体交渉を拒んでいないと主張する。
しかし、本件団体交渉において、法人は、産別最低賃金という本件団交申入れの対象となっている事項について、回答はしないという意思の表明と回答しない理由を一方的に述べるのみで、本件団交申入れの対象となっている事項については何らの交渉をしていないといわざるを得ないから(原判決第2の2⑹)、法人は組合との間の団体交渉を拒んだといえる。
したがって、法人の上記主張は採用できない。
ウ 法人は、①公正取引委員会競争政策研究センター「人材と競争政策に関する検討会報告書(平成30年2月15日)(「検討会報告書」)は本件統一対応のうち使用者団体の行為に係るものは規範の対象外としていること、②本件回答拒否の時点では産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反するおそれがないと判断することはできなかった旨のC2意見書及びC2追加意見書、③国土交通省(「国交省」)からの指摘があったこと、④公正取引委員会(「公取委」)は平成30年2月に労使関係は独禁法の射程外とする従来の立場を転換していること、⑤旧労組法の制定過程において使用者団体の団結権について免責規定を設けることが見送られたことを指摘して、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為は独禁法違反であり、本件回答拒否につき「正当な理由」があると主張する。
そこで検討すると、本件回答拒否につき「正当な理由」があるか否かを判断するに当たっては、本件回答拒否の時点で、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがあったか、又は法人がそのように考えることに合理的な理由があったかを検討すべきであり、これらが認められない場合には、本件回答拒否につき「正当な理由」があったとはいえないと解される。なお、法人は、産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為は独禁法に違反するから、その余の事情を考慮するまでもなく、本件回答拒否について「正当な理由」が認められるとも主張する。しかし、労働組合と使用者団体との間における労働協約に係る行為が独禁法に違反するか否かについて具体的事案を離れて抽象的に判断することは相当ではなく(公取委事務総局も、一般に労働法制により規律されている分野については独禁法上の問題とはならない旨を回答しつつ、独禁法上の問題となる可能性がある場合に関する様々な条件を付している(原判決第3の1⑶イ)。)、かつ、本件回答拒否につき「正当な理由」があるか否かについては上記の基準によって判断することができる本件においては、その必要性もないというべきである。
① 検討会報告書については、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反することを具体的に指摘・示唆するような記載があるとは認められない。なるほど、検討会報告書には、「使用者の行為についても同様であり、労組法に基づく労働組合の行為に対する同法に基づく集団的労働関係法上の使用者の行為も、原則として独禁法上の問題とはならないと解される。」、「ただし、これらの制度の趣旨を逸脱する場合等の例外的な場合には、独禁法の適用が考えられる。」との記載があるものの、本件団体交渉が労働法制の制度趣旨を逸脱するような例外的な場合に該当することを示すような具体的な事情があるとは認められない(原判決第2の2⑻及び第3の3⑵イ(イ))。そうであれば、検討会報告書をもって、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがあったとは認められず、法人がそのように考えることに合理的な理由があったとも認められない。
② C2意見書及びC2追加意見書については、本件回答拒否の時点では、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反するおそれがないと判断することはできなかった旨の記載がある。しかし、C2意見書及びC2追加意見書は、本件回答拒否の時点では存在せず、本件訴訟において証拠として提出するために作成されたものであって、法人は、当該各意見書を基に、本件回答拒否をしたものではない。そうであれば、当該各意見書をもって、本件回答拒否の時点で、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがあったと考えることに合理的な理由があったとはいえないし、その点を措くとしても、公取委事務総局の回答(原判決第3の1⑶)に照らせば、C2意見書及びC2追加意見書の内容をもって、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがあったと認めることはできず、法人がそのように考えることに合理的な理由があったと認めることもできない(原判決第3の3⑵イ(エ))。
③ 国交省からの指摘については、国交省は独禁法を所管する行政庁ではなく、独禁法に違反する行為について調査等をする権限が与えられていないことに加え、国交省のどの部署の者から、どのような形で、具体的にどのような行為がどのような理由から独禁法に抵触するおそれがある旨の指摘をされたのかといったことについて、その内容は判然としないから、仮に国交省からの指摘があったとしても、これをもって、本件回答拒否の時点で、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがあったと認めることはできず、法人がそのように考えることに合理的な理由があったと認めることもできない。
④ 公取委が平成30年2月に労使関係は独禁法の射程外とする従来の立場を転換していることについては、検討会報告書に関する法人の主張が採用できないことは上記①に判示のとおりであり、平成30年2月までに公取委による調査等や資料提供依頼等がなかったことは、本件回答拒否の時点で、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがなかったことを裏付ける事情といえる。
⑤ 旧労組法の制定過程については、本件回答拒否の時点で、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがあったこと、又は法人がそのように考えることに合理的な理由があったことを具体的に裏付けるものではない。
以上によれば、本件では、法人が産別最低賃金について本件団交申入れに対する統一回答をすること及び本件準備行為が独禁法に違反すると判断される具体的なおそれがあったとは認められず、法人がそのように考えることに合理的な理由があったとも認められないから、本件回答拒否につき「正当な理由」があったとはいえない。
したがって、法人の上記主張は採用できない。
3 結論
そうすると、法人の請求を棄却した原判決は相当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。 |
| その他 |
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