労働委員会命令データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  中労委令和3年(不再)第30号
日本港運協会不当労働行為再審査事件 
再審査申立人  Y法人(「法人」) 
再審査被申立人  X1組合連合会(「連合会」)及びX2組合同盟(「同盟」) 
命令年月日  令和5年12月20日 
命令区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、法人が、平成28年度以降、連合会及び同盟(以下、連合会と同盟を併せて「組合」)との産業別最低賃金(労働協約に基づき港湾労働者に適用される最低賃金)に関する団体交渉において、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独禁法」)に抵触するおそれがあるとして、組合の要求に対して回答しないことが、労働組合法(以下「労組法」)第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、組合より、令和2年2月10日、当委員会に救済申立て(以下「本件救済申立て」)があった事件である。当委員会は、本件救済申立てについては、東京都労働委員会(以下「東京都労委」)の管轄に属するものと判断し、これを東京都労委に移送した。
2 初審東京都労委は、本件救済申立てのうち、平成31年2月9日以前の団体交渉に係る申立ては却下するとともに、組合が平成31年2月19日付けで申し入れた(以下「31.2.19団交申入れ」)産業別最低賃金に関する団体交渉において、法人が産業別最低賃金に関する組合の要求に回答しないことは労組法第7条第2号の不当労働行為に該当するとして、誠実団体交渉応諾、文書交付及びそれらの履行報告を命じたところ、法人は、これを不服として、再審査を申し立てた。 
命令主文  本件再審査申立てを棄却する。 
判断の要旨   法人が、組合が平成31年2月19日付けで申し入れた産業別最低賃金に関する団体交渉において、独禁法に該当するおそれがあるとして、組合の要求に回答しないことは、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たるか
(1) 組合が、31.2.19団交申入れに関する複数回の団体交渉において、産業別最低賃金の要求に係る回答を求めたところ、法人は、産業別最低賃金については、独禁法に抵触するおそれがあるとして、組合の要求への回答を拒否し続けた。その結果、法人は、組合の要求額に対し、法人が妥当と考える額を回答せず、法人と組合の間で産業別最低賃金に関する交渉は実質的に行われていない。このように法人が組合の要求への回答を拒否したことは、実質的に組合の31.2.19団交申入れを拒否したものと評価せざるを得ない。
(2) 法人は、産業別最低賃金について統一回答することは独禁法に抵触するおそれがあり、これに回答することはできないので団体交渉拒否には正当な理由があるとし、その根拠として、公正取引委員会(以下「公取委」)のガイドライン及び相談事例に係る見解からすれば、法人が産業別最低賃金に関する団体交渉に応じれば、会員企業の港湾運送事業の価格に目安を与えることになるため、独禁法に抵触する旨主張する。しかし、本件は、労働組合が使用者団体との団体交渉により産業別最低賃金を決定することを求めたものであって、同ガイドラインの適用があるとする法人の主張は採用できず、また、事業者団体が賃金を定める場合についての公取委の相談事例とも前提が異なる。加えて、産業別最低賃金は、実際にその金額が賃金額となる組合員はごく少数で、ほとんどの組合員らの賃金を直接決定していないのであるから、産業別最低賃金が港湾運送事業の価格を決定しているとはいい難い。その他、産業別最低賃金を決めることによって、港湾運送事業の価格に目安を与えることになるとする法人の主張を裏付ける証拠はなく、法人の主張は採用できない。
(3) なお、法人は、当初から、団体交渉において、港湾運送料金に占める人件費の比率が高いため、人件費に直結する産業別最低賃金を事業者が共同して定めることは独禁法に抵触するという具体的な理由を示して組合に説明しており、法人の対応が不誠実であったとはいえない旨主張するが、上記(2)で述べたように、産業別最低賃金が港湾運送料金を決定しているとはいい難いのであるから、法人が合理的な理由を組合に説明したということはできない。
 また、法人は、このような説明をするに至った経緯として、国交省から独禁法に抵触するおそれがあるとの指摘を受けて、公取委に関係する弁護士に相談したところ、同様の見解を得たことを組合に伝えているが、国交省は独禁法を所管する省庁ではないので、法人の説明を根拠づけるものにはならないし、また、独禁法に抵触するおそれがあるという法人の主張には根拠が認められないことは、上記(2)で判断したとおりであるから、同主張を支持する見解を、相談した弁護士から得たと組合に伝えたとしても、法人の説明が合理性を帯びることになるわけではない。そうすると、法人が、組合との団体交渉において、自己の主張の具体的な根拠を示すなどして合理的な説明を行ったとはいえないから、かかる法人の対応は不誠実とみるほかはない。
 また、法人は、独禁法違反の有無について公取委に意見聴取に行くことは、やぶ蛇になるおそれがあり、調査の結果問題があるとなった場合、実際に課徴金納付命令を課されるリスクを負うのは法人の各会員企業であるので、会員企業の同意がなければ公取委の公式見解を確認することはできないとの法人の説明は合理的である旨主張するが、連合会が公取委事務局に面談に行き、本件については一般論では独禁法の問題とはならないとの見解を得て以降、本件審問終結時点に至るまで、公取委が本件について調査を開始した等の事情は一切認められず、また、上記連合会が得た公取委の見解は、平成30年の公取委の報告書で労働法制により規律されている分野については原則独禁法上の問題とはならないとされていることや、昭和53年に公取委事務局長が、雇用契約及び雇用契約に準ずる契約には独禁法が適用されないと国会で答弁したことや、平成24年に公取委事務総長が、かかる国会答弁の見解は変更されていない旨発言していることとも整合している。以上によれば、法人の説明にはいずれも具体的な根拠がなく合理性を認め難く、かかる合理性のない説明に終始した法人の対応は不誠実と言わざるを得ない。
(4) 以上を総合すると、法人が、組合が申し入れた産業別最低賃金に関する団体交渉において、独禁法に該当するおそれがあるとして組合の要求に回答しないことは、正当な理由のない団体交渉拒否であり、労組法第7条第2号の不当労働行為に当たる。 
掲載文献   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委令和2年(不)第25号 一部救済 令和3年7月20日