概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和5年(行コ)第186号
ファミリーマート労働委員会命令取消請求控訴事件 |
控訴人 |
X組合(「組合」) |
被控訴人 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
参加人 |
Z会社(「会社」) |
判決年月日 |
令和6年3月13日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社とフランチャイズ契約を締結する加盟者を主な構成員とする組合が、「再契約の可否を決定する具体的基準」を議題とする団体交渉を2回にわたり申し入れたところ(以下「本件各団交申入れ」という。)、会社がこれに応じなかったこと(以下「本件団交拒否」という。)が不当労働行為であるとして、救済申し立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、会社に対し、団交応諾及び文書交付等を命じたところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てた。
3 中労委は、加盟者は労組法上の労働者に当たらず、会社の上記各行為は不当労働行為に当たるとは認められないとして、初審命令を取り消し、本件申立てを棄却する命令(以下「本件命令」という。)を発した。組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、組合の請求を棄却した。組合は、これを不服として、東京高裁に控訴した。
5 東京高裁は、組合の控訴を棄却した。
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判決主文 |
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。
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判決の要旨 |
1 当裁判所も、組合の請求は理由がないものと判断する。その理由は、原判決を次のとおり補正し(略)、当審における組合の補充主張に対する判断を後記2のとおり加えるほか、原判決「事実及び理由」第3の1ないし11に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における組合の補充主張に対する判断
(1) 判断要素について
組合は、原判決は、労組法上の労働者性の判断において、FC契約書などの形式的な証拠を重視して労働者性を否定しているが、当事者の主観や合意、形式的な事情ではなく、客観的な事実や実質的な事情に基づいて判断すべきであり、形式的な証拠を重視する原判決は平成24年最判に反するなどと主張する。
しかしながら、本件において、加盟者である組合の組合員が労組法上の労働者性に当たるか否かの判断をするに当たっては、本件契約により定まる当事者間の契約関係の枠組みを出発点とせざるを得ないものの、本件契約に係る契約書のような形式的な証拠により認められる事実関係のみならず、他の証拠及び弁論の全趣旨により認められる、雇用店長の選任の有無及びその割合、加盟者又は法人加盟者代表者で店長となっていない者の割合、加盟者又は法人加盟者代表者が、事実上、会社の指導に従わざるを得ない関係にあったか否か、加盟店舗の立地の選択、営業日及び営業時間の選択、販売する商品の選択、従業員の雇用、教育及び業務上の指揮命令等によって、加盟店舗の取引による損益を変動させる余地があったか否かなどの実態や客観的な事実関係等をも併せ考慮した上で判断するのが相当である。
実際にもそのような判断過程を経ていることは、前記1で補正の上引用する原判決「事実及び理由」第3(4⑶、6⑵、7⑵オ、8⑴、9⑵ないし⑷等)で説示したとおりである。
したがって、組合の上記主張は、採用することができない。
(2) ①事業組織への組入れについて
組合は、原判決が、事業組織への組入れを否定する根拠について、本件契約は、「契約当事者の権利義務の内容及び互いの収益の仕組みからして、加盟者又は法人加盟者代表者の労働力の確保を直接の目的とするものではないと認められる」ことを挙げるが、労組法上の労働者性の判断は、契約形式ではなく、契約の運用の実情や、組合の組合員の就労の実態に基づかなければならないところ、特に、本件で検討の中心とすべき2FC契約・単一店舗運営の加盟者である組合の組合員は、会社が一方的に定める収益の仕組み、時に本部フィーの大きさやドミナント戦略を背景として、雇用店長を選任できるだけの営業利益を確保できず、自身の生活の糧を確保するため、加盟店舗の経営判断業務に加えてやむを得ず店舗運営業務を行っているものであり、現に平成26年5月当時、2FC契約で単一店舗加盟者の98%が加盟店舗の店長を務めていたことからすれば、2FC契約は、加盟者である組合の組合員を労働力として確保することも目的としているというべきであると主張する。
確かに、2FC契約は、事実上、加盟者又は法人加盟者代表者が自ら店長となり、加盟店舗において店舗運営業務に従事することが必要とされることが多い契約であるとはいえるが、他方、会社の事業において、加盟者又は法人加盟者代表者の労働力は必須のものではなく、少なくとも本件契約の目的は労働力の確保のみではないこと、2FC契約・単一店舗運営においても、加盟者は、店長となることが不可欠ではなく、加盟者が雇用店長を選任することが容認されており、現に、店長でない加盟者も存在していることなどが認められることから、2FC契約を含む本件契約が、組合の組合員を労働力として確保することをも目的としているとまで断ずることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
また、加盟者店長が、組合の組合員も含め、その経営する加盟店舗において店舗運営業務に自ら従事するか否か、いつ、何時間、どのような店舗運営業務に従事するかといった事項は、加盟者店長が自ら決定しており、会社は、上記事項について強制力のない指導を行うことはあるものの、上記事項を管理する権限はなく、管理している実態もない。
以上から、加盟者又は法人加盟者代表者が、会社の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として会社の組織内に位置付けされ、確保されているということができないことは、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(4)で説示したとおりである。
したがって、組合の上記主張も、採用することができない。
(3) ③報酬の労務対価性について
組合は、(ア)組合の組合員は、会社の事業に不可欠ないし枢要な労働力として組み入れられていること、引出金・配分金の額は、組合の組合員が店長となっているかやどれだけ働くかによって変動するというべきであり、加盟店舗の営業利益は、引出金・配分金という組合の組合員の報酬を計算するための数額にすぎないと見ることもできることから、会社が毎月ないし4半期ごとに組合の組合員に対して支払う引出金・配分金は、加盟者の経営判断業務・店舗運営業務という労務の対価として支払われていると見ることもできること、(イ)売上金は、会社が単に預かるのみならず運用して費消していると推認できること、(ウ)特別引出金は、その支給が現実には会社の許可制になっていることから、いずれも加盟者に帰属しているとはいえないことを主張する。
しかしながら、上記(ア)の点につき、組合の組合員が、会社の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として会社の組織内に位置付けられ、確保されているということができないことは、前記(2)において説示したとおりであり、引出金・配分金の金額は、加盟店舗における営業利益の多寡、すなわち売上高を上げ、営業費を削ることによって変動するものであり、加盟者又は法人加盟者代表者の加盟店舗における就業による出来高、業務量又は就業時間等によって、自動的に算出されるものではなく、労務対価性があると評価できるものではないことは、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(6⑵イ)において説示したとおりである。
また、上記(イ)の点について、会社が売上金を運用して費消していると認めるに足りる証拠はない。
さらに、上記(ウ)の点については、特別引出金の支払について、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(1⑼ウ(ア)、一定要件の範囲内で随時申請して営業利益の引き出しも可能)のような要件があるからといって、当該支払が会社の許可制になっていると断じることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はないから、加盟者から会社に送金された加盟店舗の売上金等が直ちに会社に帰属するともいえない。
したがって、組合の上記主張は、いずれも採用することができない。
(4) ④業務の依頼に応ずべき関係ないし諾否の自由
組合は、契約運用の実態として、組合の組合員は、多くの場面でSVの助言指導に従っており、これに従っていないのは、Zシステムに従った店舗運営の在り方のほんの一部にすぎないこと、実態としては、再契約を希望しながら、不採算店舗でなかったにもかかわらず、S&QCチェックや経営力審査基準で合格点を満たさないという理由で再契約を拒否されたC2店長や、再契約ではなく契約延長という形を取りながら、その間、会社から加盟店舗の運営の在り方について改善要請を受け、不本意な形で契約関係を終了させられた加盟者もいることなどを主張する。
しかしながら、加盟店舗の業務に関し、加盟者が会社から個々の業務の依頼を受けることは想定されていないこと、したがって、加盟者と会社との間には、業務の依頼に応ずべき関係ないし諾否の自由の要素の検討の前提である個々の業務の依頼が欠けていることは、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(7⑴)で説示したとおりである。
また、加盟者において、売上高の低迷が長期間継続し、かつ、改善の見込みがないことを理由として再契約を拒否された事例(A3店長及びA4店長の事例)があることは、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(7⑵オ)で説示したとおりであり、C2店長も、最終的には契約終了を申し入れる回答書を提出しているのであるから、これらの事例をもって、加盟者が再契約を希望し会社の指導に従っているにもかかわらず、再契約を一方的に拒否された事例があるということはできない。
さらに、C6店長の事例が、再契約を希望し、会社の指導に従っているにもかかわらず、再契約が実現しなかった(再契約を一方的に拒否された)事案に当たることを認めるに足りる客観的かつ的確な証拠はない。
したがって、組合の上記主張も、採用することができない。
(5) ⑤広い意味での指揮監督下の労務提供、時間的場所的拘束性
組合は、組合の組合員は、大部分において会社の指導に沿った加盟店舗の経営及び運営を行っており、従っていない例は、発注の内容廃棄ロス、オペレーションの人員体制などZシステムに従った店舗運営の在り方のほんの一部にすぎないこと、指導に沿っていないとして再契約が認められなかったC2店長のような事例が存在することに鑑みれば、会社と組合の組合員との間には、広い意味での指揮監督関係があったというべきであること、2FC契約・単一店舗運営の加盟者である組合の組合員は、いつ店舗運営業務に従事するかを自ら決定しているものの、ほとんどの場合は加盟店舗で就労しないという選択肢はないから、場所的拘束性は存在することを主張する。
この点、加盟者又は法人加盟者代表者が店長(加盟者店長)として加盟店舗で就業する際、会社から詳細な指導がされ、場所的拘束を受けることはあったものの、店舗運営業務上の重要な要素である商品の発注、雇用従業員の配置及び店頭サービスの導入についても会社の指導に応じない加盟者がいたこと、その場合でも、指導に応じないことのみを理由として、会社が加盟者を不利益に取り扱うことがあったとは認め難い。
したがって、広い意味でも、加盟店店長が会社の指揮監督下で労務提供しているとは認められず、時間的拘束を受けているとも認められないことは、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(8)で説示したとおりである。
したがって、組合の上記主張も、採用することができない。
(6) ⑥顕著な事業者性について
ア 組合は、売上金の流れと、加盟者である組合の組合員の経営判断業務・店舗運営業務の実情に照らせば、組合の組合員は、加盟店舗の運営から利益を得ているのではなく、会社から労務の対価たる報酬を受け取っているとも見ることができると主張するが、かかる主張自体採用できないことは、前記(3)の(ア)の点につき説示したとおりである。
イ 組合は、最低保証金制度が存在し、これが加盟店舗について適用されていることは、組合の組合員には、取引を対等に行えるような「顕著な」事業者性があるとはいえないことを示唆しているとも主張する。
しかしながら、最低保証金は、あくまで補填前総収入が基準額に達しない場合に、加盟店舗の経営の持続性を確保する目的で、一定額を限度として支払われるものにすぎないこと、会社は、営業費の増大リスクについて最低保証することはなく、最低保証が続く場合には再契約を拒否することができるから、加盟者は、再契約を拒否され事業を終了するという形で、加盟店舗の取引により生じた損失のリスクを負担すること、加盟店舗の取引による利益は、加盟者に全額が帰属し、損失については、一定額が補填されるが、その他の部分は加盟者に帰属しているといえ、当該損失は加盟者自身の経営能力や経営努力によって大きく左右されることが認められる。
これらの事情によれば、最低保証制度が存在しこれが加盟店舗について適用されていることから、直ちに組合の組合員の「顕著」な事業者性を否定することはできないというべきである。
したがって、組合の上記主張も、採用することができない。
ウ 組合は、現金取引勘定は、会社が、本件契約上、一方的・定型的に定める加盟店舗の会計の仕組みであって、加盟店舗運営のための営業費等が加盟者の負担となっているのは、加盟店舗の会計管理と加盟者の引出金・配分金の計算をするための現金取引勘定上のことにすぎないこと、組合の組合員は、本件契約を締結する前の段階で、会社が用意した立地について2FC契約を締結するか否かを選択することができるにとどまり、自らが望む立地で開店できるわけではないこと、商品の発注及び販売についても、必須商品の導入率は83%に及び、加盟者の発注に対する裁量は決して幅の広いものではないこと、加盟者である組合の組合員が加盟店舗の運営のために他人の労働力を利用できるとしても、本部フィーの大きな2FC契約においては、営業利益の変動は大きいとはいえないことから、加盟者に「顕著な」事業者性があるとはいえないとも主張する。
しかしながら、加盟者が、①販売する商品の種類・数量の選択を自由に行うことができた上、値下げ販売も認められており、自己の判断で損益を変動させる余地があること、②自己の判断で、雇用従業員の雇用、教育及び業務上の指揮命令等によって、加盟店舗の取引による損益を変動させる余地があること、③他人の労働力を利用する実態があることからすると、組合の主張する上記事情を勘案しても、加盟者は、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者として、顕著な事業者性があると認められることは、前記1で引用する原判決「事実及び理由」第3(9)で説示したとおりである。
したがって、組合の上記主張も、採用することができない。
(7) 組合は、その他種々主張するが、他に前記の認定判断を左右するものはない。
3 結論
以上によれば、組合の請求は理由がないからこれを棄却すべきであり、これと同旨の原判決は相当である。よって、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。
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その他 |
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