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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和元年(行ウ)第459号
ファミリーマート労働委員会命令取消請求事件 
原告  X組合(「組合」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
参加人  Z会社(「会社」) 
判決年月日  令和5年5月25日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社とフランチャイズ契約を締結する加盟者を主な構成員とする組合が、「再契約の可否を決定する具体的基準」を議題とする団体交渉を2回にわたり申し入れたところ(以下「本件各団交申入れ」という。)、会社がこれに応じなかったこと(以下「本件団交拒否」という。)が不当労働行為であるとして、救済申し立てがあった事件である。
2 初審東京都労委は、会社に対し、団交応諾及び文書交付等を命じたところ、会社は、これを不服として、再審査を申し立てた。
3 中労委は、加盟者は労組法上の労働者に当たらず、参加人の上記各行為は不当労働行為に当たるとは認められないとして、初審命令を取り消し、本件申立てを棄却する命令(以下「本件命令」という。)を発した。組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、組合の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、訴訟参加によって生じたものも含め、原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 労組法上の労働者性の判断基準

(1) 労組法上の労働者は、「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」とされる(同法3条)。
 労働基準法9条や労働契約法2条1項が「賃金を支払われる者」としているのに対し、労組法3条が「賃金」のみならず「給料その他これに準ずる収入」としていること、労働基準法9条や労働契約法2条1項にある「使用され」との文言が労組法3条にないこと、及び、同法の目的が、労働者が、使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより、労働者の地位を向上させることであって(同法1条)、労働基準法9条や労働契約法2条1項の労働者とは異なる概念であり、使用者との間において使用従属関係にあるといえることは必須ではないと解される。

(2) そして、上記(1)の労組法の目的を踏まえると、同法上の労働者には、自らの労働力を提供して対価を得て生活するがゆえに、相手方との個別の交渉において交渉力に格差が生じ、労働組合を組織し集団的な交渉による保護が図られるべきであるといえる者がこれに含まれると解される。
 このような観点から、労組法上の労働者に当たるかは、①労務供給者が相手方の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか(事業組織への組入れ)、②契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか(契約内容の一方的・定型的決定)、③労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか(報酬の労務対価性)、④労務供給者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係があるか(業務の依頼に応ずべき関係ないし諾否の自由)、⑤労務供給者が、広い意味での指揮監督下において労務を提供していたか、一定の時間的場所的拘束を受けていたか、を積極的要素として考慮し、かつ、⑥労務供給者が当該事業のための相応の設備、機会、資金等を保有し又は他人を使用していることなどにより、その業務につき自己の才覚で利得する機会を恒常的に有するかなど事業者性が顕著であるか(顕著な事業者性)を消極的要素として考慮すべきである(最一小判昭51・5・6(CBC管弦楽団事件)、最三小判平23・4・12(新国立劇場運営財団事件)、最三小判平23・4・12(INAXメンテナンス事件)、最三小判平24・2・21(ビクターサービスエンジニアリング事件)の最高裁4判決及び厚生労働省「労使関係法研究会報告書」(平23.7)参照)。
 以下、上記①から⑥までの要素を具体的に検討する。


2 ①事業組織への組入れ-労務供給者が相手方の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として組織内に確保されているか。

(1) 本件契約の基本的な枠組み

 本件契約は、会社が、加盟者に対し、㋐Zマーク(商標)、㋑Z経営・ノウハウ及び㋒店舗経営の支援の3要素からなるZシステムを提供し、Z店の経営を行うことを許諾し、加盟者が、会社に対し、その対価として、加盟者が経営する加盟店舗の売上総利益の一定割合を本部フィーとして支払うという契約である。

(2) 本件契約における加盟者及び法人加盟者代表者の労働力の位置付け

 会社の営むストアのフランチャイズ事業において会社の収入源となる本部フィーは、加盟者が経営する加盟店舗の営業総利益(営業総利益=売上高-売上原価)に約定の一定割合を乗じたものであるから、加盟店舗が営業して売上高を上げない限り、会社の事業は成立しないといえる。
 したがって、会社の営むフランチャイズ事業のためには、加盟者が加盟店舗を経営すること、すなわち、加盟者又は法人加盟者代表者が加盟店舗の経営者としての意思決定を行うことが必須であるといえる。
 さらに、加盟店舗が管理運営されて初めて売上高を上げることができることからすれば、会社が営むフランチャイズ事業のためには、本件契約上、加盟店舗の管理・運営の全てを行う権限責任を有するとされる店長、及び、店長を補佐する者とされるマネジャーが、加盟店舗を管理運営することが不可欠であるといえる。
 また、加盟店舗の管理運営者である店長は、原則として加盟者又は法人加盟者代表者が務めることとされ、2FC契約(会社が店舗物件の調達及び店舗設備への投資を行い、店舗物件及び店舗設備は、会社から加盟者に使用貸借される。)の場合には、営業総利益に占める本部フィーの割合が高いことから、加盟者又は法人加盟者代表者が店長(加盟者店長)を務めている場合が圧倒的に多く、かつ、その加盟者店長が店舗運営業務に長時間従事しなければ加盟者の経営が成り立たない場合があるという実態があることは否定できない。
 しかし、本件契約は、当事者の互いの権利義務の内容、及び互いの収益の仕組みからすれば、加盟者又は法人加盟者代表者自身が店長を務めて店舗運営業務に従事することが必須であるとはいえないから、本件契約は、会社が加盟者又は法人加盟者代表者の労働力を確保する目的で締結されているとまではいえない。
 また、加盟者又は法人加盟者代表者が店長(加盟者店長)となっている場合、第三者に対する外観及び専属性において、会社の事業組織の一部となっていると評価できる部分もあるが、加盟者店長がいつ何時間どのような内容の店舗運営業務に従事するかは加盟者店長が自ら決定しており(このことは、加盟者組合員にも当てはまる。)、会社において、加盟者又は法人加盟者代表者の労働力を管理する権限を有するとはいえず、管理している実態があるともいえない。
 これらのことから、本件契約においては、加盟者又は法人加盟者代表者が、会社の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として会社の組織内に位置付けされ、確保されていると認めることはできない。そして、このことは、会社と加盟者組合員との間に、労働力の利用をめぐり団体交渉によって問題を解決すべき関係があるとまではいえないことを示している。


3 ②契約内容の一方的・定型的決定-契約の締結の態様から、労働条件や提供する労務の内容を相手方が一方的・定型的に決定しているか。

 本件契約の内容は、会社により、契約書により定型的に決定されており、加盟者ごとの特約事項は認められていない。以上から、本件契約の内容は、会社により一方的かつ定型的に決定されているといえる。これは、会社と加盟者組合員との間には、交渉力格差があることを示すものである。
 なお、会社が、本件契約を定型的一方的に定めているのは、フランチャイズ・チェーンの店舗の統一的運営による顧客からの信頼の確保及び会社の加盟者対応の効率化のためである。


4 ③報酬の労務対価性-労務供給者の報酬が労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性格を有するか。

(1)報酬の約束がないこと

 本件契約は、会社が、加盟者に対し、Zシステムによる加盟店舗の経営を許諾し、Zシステムを提供して加盟者の加盟店舗の経営を支援し、加盟者が、その対価として本部フィーを支払う契約であるから、加盟者が本件契約上の義務を履行する対価として、会社が加盟者に対し報酬を支払う約束はしておらず、加盟者が会社から報酬を受け取ることは予定されていない。


(2)本件契約により加盟者が受ける金員の性格

 本件契約により加盟者が会社から受け取る金員は、引出金、配分金、24時間営業奨励金及び最低保証金である。
 引出金・配分金は、会社が加盟者に支払う金員であるところ、その原資は、営業利益である。
 営業利益とは、加盟店舗の独立会計である損益計算明細書において、加盟者から会社が売上送金によって預かった売上高から、売上原価、本部フィー及び営業費を控除し、24時間奨励金(一定額)及び最低保証金(営業総利益から本部フィーを減じた額に24時間営業奨励金を加えた額(補填前総収入)が、基準額に達しない場合に適用され、月々においては、暫定保証金という名で、当該期間に対応する基準額と補填前総収入との差額が支払われるもの)を加えた金員であって、24時間営業奨励金及び最低保証金を除けば、加盟店舗において顧客から受け取る売上高がその源泉となっている。
 売上高は、加盟者が顧客に対し商品取引により販売した商品の総売上高及び商品取引以外の取引による収入を合算したものであり、加盟店舗において顧客に販売した商品等の対価であって、加盟者又は法人加盟者代表者としての加盟店舗に関する経営判断、店長としての管理運営又はその他の店舗運営業務のいずれの対価ではなく、売上高は、加盟者又は法人加盟者代表者が加盟店舗のために提供した労働力の対価としての性質は有していない。
 以上のとおり、本件契約においては、そもそも会社が加盟者に報酬を支払う約束がなく、会社から加盟者に対して支払われる金員は、いずれも、加盟者又は法人加盟者代表者が店長となっているか、店舗運営業務にどれだけ従事したかとは直接関係はなく、加盟者又は法人加盟者代表者の加盟店舗における就業による出来高、業務量又は就業時間によって算出されるものではなく、加盟者又は法人加盟者代表者の労務供給の対価とはいえないものであるから、報酬に労務対価性があるとはいえない。


5 ④業務の依頼に応ずべき関係ないし諾否の自由-労務供給者が、相手方からの個々の業務の依頼に対して、基本的に応ずべき関係があるか。

(1) 個々の業務依頼がなく検討の前提を欠くこと

 本件契約上、加盟者は加盟店舗を経営する者であって、加盟店舗の経営全般を担う者であること、店長は加盟店舗の管理・運営の全てを行う責任を有する者であることから、加盟店舗の業務に関し、加盟者が会社から個々の業務依頼を受けることは想定されていない。
 したがって、加盟者と会社との関係は、④業務の依頼に応ずべき関係ないし諾否の自由の要素の検討の前提である個々の業務の依頼が欠けているため、加盟者が会社の個々の業務の依頼に応ずべき関係があるとは認められない。


(2) 本件契約における加盟者に対する義務付けについて

ア 組合は、本件契約上、加盟者は、Zシステムに従って店舗運営に従事することが定められているから、会社との間で、業務の依頼に応ずべき関係がある旨主張する。
 しかし、本件契約によれば、Zシステムは、㋐Zマーク(商標)、㋑Z経営・ノウハウ及び㋒店舗経営の支援の3要素であって、会社が加盟者に提供するものであり、加盟者に対し、これらに従うよう義務付けるといった類いのものではない。
 本件契約上、加盟者は、Zシステムがコンビニエンスストアの経営に有益であることを十分理解し、同システムを守り、活用して加盟店舗の経営に当たるとされているところ、本件契約において、Zシステムを守る加盟者の義務として定められているのは、会社がZシステムを変更したときに、これに伴い変更に応じる義務、及び、Zのブランドを損なう行為(Zマークと異なるマークの使用、信用失墜及びそのおそれのある行為、Zシステムの統一性に反する店舗作りなど同システムに有害又は害を及ぼすおそれのある行為など)を行わない義務であって、会社からの個々の業務の依頼に応ずべき義務ではない。


イ 組合は、本件契約によれば、加盟者が従うべき事項として、加盟店舗の標章・仕様・内外装・什器・情報システム機器及びユニフォームなどの定め、Zシステムを守るための義務、店長・マネジャー候補者への研修受講の義務、年中無休・24時間営業の義務、売上送金の義務、本部フィーの支払義務などの加盟者の義務が定められていることをもって、加盟者には会社の業務の依頼に応ずべき関係がある旨主張する。
 しかし、これらの義務は、本件契約上の加盟者の義務としてあらかじめ本件契約に明記されたものであり、本件契約を締結することによって負担する義務であるから、会社からの加盟者に対する個別の依頼により負担したものではない。また、本件契約の全条項を点検しても、加盟者に会社からの業務の依頼に応ずべき義務がある旨定めた条項があるとは認められない。
 したがって、本件契約において加盟者が各種の義務を負う旨定められていることをもって、加盟者が会社からの個々の業務の依頼に対し基本的に応ずべき関係にあると認めることはできない。


ウ 会社の指導に対して加盟者が応ずべき関係があるとの組合の主張について
 加盟者は、本件契約上、推奨商品及び仕入先、商品の発注、品揃え、陳列方法、接客、清掃、営業費管理、従業員雇用・労働条件、従業員の教育・資格制度の利用などについて、会社から指導を受けることとなっており、実態としても、会社の従業員であるSVが加盟店舗を毎週訪間し、上記各事項について指導し、経営力審査基準に従って採点し、その結果を伝えるなどして指導を行っており、加盟者がその指導を受け入れる場合があることが認められる。
 組合は、本件契約上、10年の契約期間満了後に再契約がされるかについては、会社が自由な判断によって決定することとなっており、店舗運営による引出金及び配分金で生計を立てている加盟者又は法人加盟者代表者としては、経営力審査基準を満たし、会社からの指導に従わなければ、協調性に欠けるとされて、会社から再契約を拒否されるおそれがあるため、事実上、加盟者が会社の上記の各指導に従わざるを得ない関係にあり、それゆえ会社からの業務の依頼に応ずべき関係にある旨主張する。

 しかし、会社が加盟者を指導する際に用いる経営力審査基準を見ても、本件契約違反がないこと及び正味資産割れがないことが第1次審査基準とされ、最も重要な指標とされているのに対し、S&QC点検リスト(加盟店の接客、商品の品揃え及び清掃を評価)、欠品率及び最低品揃率などは第2次審査基準とされ、二次的な指標とされているのであり、経営力審査基準に基づく指導は、同基準の内容に照らしても、加盟店舗の売上高を高めることを目的とするものであって、会社は、加盟者が第2次審査基準に従順に適応し協調性を示すこと自体に価値を置いているわけではないと認められる。
 そして、平成26年度から平成29年度までの再契約がされなかった964件のうち、加盟者が当初再契約を希望したが再契約に至らなかった事例は8件であり、それらも話合いの上で合意により終了した形となっているとおり、会社が、加盟者が希望するにもかかわらず再契約を拒絶する例は少ないといえるから、加盟者が、会社の指導に従わないという理由のみで会社から再契約を拒絶されると考える根拠は乏しいといえる。
 また、加盟者組合員のA3店長及びA4店長は、再契約を希望していたのに会社から再契約を拒絶されたところ、いずれも売上高の低迷が長期間継続し、かつ、改善の見込みがないことを理由として再契約を拒否されたものであり、会社の指導に従わないことや経営力審査基準の2次審査基準において低評価であったことのみを理由として、再契約を拒否されたわけではないと認められる。
 したがって、再契約の可否を会社が自由に決めると定められていること、加盟者又は法人加盟者代表者が店舗運営による引出金及び配分金で生計を立てていることをもって、加盟者又は法人加盟者代表者が、事実上、会社の指導に従わざるを得ない関係にあったと認めることはできない。


エ 小括
 以上から、加盟者又は法人加盟者代表者が、会社からの個々の業務の依頼を受ける関係にあるとはいえず、個々の業務の依頼に対し基本的に応ずべき関係があるとは認められない。


6 ⑤広い意味での指揮監督関係、時間的場所的拘束-労務供給者が、相手方の指揮監督の下に労務提供を行っていると広い意味で解することができるか、労務の提供にあたり日時や場所について一定の拘束を受けているか。

(1) 広い意味での指揮監督関係について

ア 会社から加盟者に対する指導があったこと
 会社は、加盟者に対し、加盟店舗運営のマニュアルであるオペレーションマニュアル、新人ストアスタッフ向けのマニュアル、加盟店舗での接客・品揃え・清掃についてのあるべき姿を示すS&QCべからず集などのマニュアルを配布し、会社の従業員であるSVが加盟店舗を週2回巡回して、発注する商品の種類及び個数、具体的な販売目標などを挙げて、店長を指導し、店舗間連絡票やSNSで指導事項を伝達し、加盟者に売上げや利益目標についての個店目標計画又は経営プランニングシートの作成を促し、加盟店舗を接客・品揃え・清掃について評価するS&QC点検リスト及び経営力審査基準により評価し、これに基づく指導を行い、覆面調査及び競合店との接客・品揃え・清掃についての評価(競合比較調査)に基づく指導を行い、各種研修による指導を行っていた。
 また、会社は、加盟店舗の発注用端末にマーケティングニュースや商品展開ポイントを配信し、販売促進商品を示したり、地域別の取組みを伝達したりしていた。
 商品の陳列方法については、基本イメージチャートなどで推奨し、推奨した陳列方法ができているか、棚を写真撮影して送信するよう求めることもあった。
 そして、これらの指導には、SVによる店舗巡回及び研修などにおいて、直営店舗と差異がないものもあった。


イ 会社の指導を加盟者が遵守する必要の有無
(ア)他方で、会社の加盟者に対する上記アの指導は、本件契約上、会社が加盟者に提供するZ経営・ノウハウ及び店舗経営の支援であって、加盟者の加盟店舗の経営を支援し、加盟店舗の売上高を高めるためのものであるから、本件契約上、加盟者がこれに従うことを義務付けられる類いのものではない。

(イ) また、商品の発注、雇用従業員の配置及び店頭サービスの導入について、加盟者は、会社の指導に従わない場合もあったと認められるが、これを理由として会社に不利益に扱われていたという事実は認められない。
 なお、再契約の可否を会社が自由に決めるとされていること、及び、加盟者又は法人加盟者代表者が店舗運営による引出金及び配分金で生計を立てていることをもって、事実上、加盟者又は法人加盟者代表者が会社の指導に従わざるを得ない関係にあったとまでは認められないことは、上記5(2)ウで判断したとおりである。
 その他、加盟者が会社の指導に従わないことのみを理由として、会社が加盟者に不利益に扱われることがあったとは認め難い。


(2) 一定の時間的場所的拘束について

 本件契約は、特定の店舗物件について締結されるものであるから、加盟者店長が労働力を発揮する場所は加盟店舗以外に考えられず、場所的な拘束は生じているといえる。
 他方、加盟者店長がいつ、何時間、どの時間帯に店舗運営業務に従事するかを決定するのは加盟者店長自身であり、会社は、上記事項を決定する権限はなく、決定している実態もないことは、前記2(2)で判断したとおりである。
 したがって、加盟者又は法人加盟者代表者の就業について場所的拘束はあるが、時間的拘束があるとはいえない。


(3)小括

 以上のことから、加盟者又は法人加盟者代表者が店長(加盟者店長)として加盟店舗で就業する際、会社から詳細な指導がされ、場所的拘束も受けるものの、指導は加盟者の経営を支援し売上高を高める目的のものであり、本件契約上、加盟者がこれに従うことが義務付けられているものではなく、また、従わないことのみを理由として加盟者が不利益に扱われることはなく、事実上従わざるを得ないものとはいえないから、広い意味でも、加盟者店長が会社の指揮監督下で労務提供しているとは認められない。
 また、加盟者店長が、会社から時間的拘束を受けている事実もない。


7 ⑥顕著な事業者性-労務供給者が、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行う者といえるか。

 加盟店舗における顧客との取引については、独立した会計が設けられ、顧客の取引に必要な費用は加盟者が負担し、加盟店舗の取引による利益は、加盟者に全額が帰属し、損失は、最低保証金の適用により一部が補填されることがあるが、それ以外は加盟者に帰属している。
 そして、加盟者は、加盟店舗の営業時間、仕入先、仕入価格及び販売価格については制約を受けるが、本件契約締結の際、出店候補地における契約の可否を選択することができ、本件契約締結後は、加盟店舗で販売する商品の種類及び数量を決定することができ、値下げ販売も一般的には制約なく可能であり、会社の推奨商品以外の商品の販売も可能である。従業員の雇用についても裁量がある。
 これらによって、接客、清掃、品揃えといった小売業の基本的なサービスを向上させたり、廃棄ロスを削減したり、従業員の給料を削減したりするなど、自らの判断によって、損益を変動させる余地があるといえる。
 また、加盟者には、複数店舗経営や契約形態変更によって加盟店舗から得る利益を拡大できる可能性があり、他人労働力も、制限なく利用していた。
 これらのことから、加盟者は、恒常的に自己の才覚で利得する機会を有し自らリスクを引き受けて事業を行える立場にあり、顕著な事業者性があるといえる。このことは、全ての加盟者組合員に当てはまる。


8 ①から⑥までの要素を総合したまとめ

①本件契約は、会社が加盟者又は法人加盟者代表者の労働力を確保する目的で締結されているとは認められない上、加盟者店長がいつ何時間どのような店舗運営業務を行うかは加盟者店長が自ら決定しており、会社には加盟者店長の労働力を管理する権限はなく、管理している実態もないから、加盟者又は法人加盟者代表者が、会社の事業遂行に不可欠ないし枢要な労働力として会社の組織内に位置付けされ、確保されているということはできない。
③本件契約においては、そもそも会社が加盟者に報酬を支払うという約束はなく、会社から加盟者に対して支払われる金員は、いずれも、加盟者又は法人加盟者代表者が店長となっているか、店舗運営業務にどれだけ従事したかとは直接関係はなく、加盟者又は法人加盟者代表者の加盟店舗における就業による出来高、業務量又は就業時間によって算出されるものではなく、加盟者の労務供給の対価といえないものであるから、報酬の労務対価性があるとはいえない。
④加盟者は、加盟店舗の経営全般を担う者であること、店長は、加盟店舗の管理運営の責任を負う者であることから、加盟者店長が、加盟店舗の業務に関し、会社から個々の業務依頼を受けることは想定されておらず、加盟者が会社の個々の業務の依頼に応ずべき関係にあるとはいえない。
⑤加盟者又は法人加盟者代表者が加盟者店長として就業する場合、会社から詳細な指導がされ、場所的拘束も受けるものの、会社の指導は加盟者の経営を支援し売上高を高める目的のものであり、加盟者が本件契約上これに従うことが義務付けられているものではなく、また、従わないことのみを理由として不利益に扱われることはなく、事実上従わざるを得ないというものとは認められず、広い意味でも、加盟者店長が会社の指揮監督下で労務提供しているとは認められない。
 また、加盟者店長が、加盟店舗での就業に当たり、会社から時間的拘束を受けている事実もない。

⑥加盟店舗の取引には独立した会計が設けられ、加盟者には、損失のうち最低保証金で補填される部分を除き、加盟店舗の取引の損益が帰属しているところ、加盟者は、加盟店舗の営業時間、商品の仕入先、仕入価格及び販売価格を自由に決めることはできないが、販売する商品の種類・数量の選択及び従業員の雇用には裁量があり、接客サービス、商品の品揃え及び清掃といった小売業の基本的なサービスを充実させたり、廃棄ロスを削減したりするなど、自己の判断によって、利益を増大させることができるから、自己の才覚によって利得し、自らリスクを引き受けて事業を行う立場にあるといえる。
 そうすると、②会社による契約内容の一方的・定型的決定があるといっても、加盟者店長は、労組法上の労働者とは認められない。
 以上の①から⑥までのことは、全ての加盟者組合員に当てはまる。


9 不当労働行為の成否

 組合の主要な構成員である加盟者組合員が労組法上の労働者とはいえないことからすれば、本件各団交申入れ当時、組合は、労組法上の労働者がその構成員の主要部分を占め、かつ、同法上の労働者が運営及び活動を主導している団体であったとはいえず、本件各団交申入れは、労組法7条2号にいう「労働者の代表者」による「団体交渉」の申入れではないから、本件団交拒否は、労組法7条2号の団体交渉拒否には当たらず、不当労働行為は成立しない。
 そうすると、これと同旨の判断の下、本件申立てを棄却した本件命令に、違法があるとはいえない。


10 結論

 以上から、組合の請求は、理由がないからこれを棄却する。
 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成24年(不)第96号 全部救済 平成27年3月17日
中労委平成27 年(不再)第13号 取消、棄却 平成31年2月6日
 
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