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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和3年(行ウ)第244号
不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  学校法人X(「法人」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z分会(「組合」) 
判決年月日  令和5年9月26日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、大学受験予備校を主体とする教育事業を営む法人が、①組合員A2との間で24年度出講契約を締結しなかったこと(A2に係る出講契約非締結)、②組合書記長A1の平成26年度出講契約を非締結とし、同年度春期講習を担当させなかったこと(A1に係る出講契約非締結)、③上記②を議題として平成26年3月4日に申し入れた団体交渉に応じなかったことなどが不当労働行為であるとして、組合が平成24年8月30日に愛知県労委に救済申立て(平成25年10月、平成26年1月及び同年4月に追加申立て)を行った事案である。
2 初審愛知県労委は、上記1②及び③が不当労働行為に当たるとして、A1を平成25年度と同様の条件で就労させること及びこれに伴うバックペイ並びに文書交付を命じ、その余の申立てを却下及び棄却した。
3 組合・法人の双方が、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、本件再審査申立てをいずれも棄却した。
4 法人が、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、法人の請求を棄却した。なお、同日、東京地裁は、中労委の緊急命令申立てを認容した。
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用も含め、原告の負担とする。
判決の要旨  1 争点① A1書記長が労組法上の労働者に当たるか

(1) 判断の枠組み

 争点2〜4の不当労働行為該当性を判断する前提として、まず、法人との間で業務委託契約の形態で出講契約を締結していたA1書記長が、法人との関係において労組法上の労働者に当たるか否かを検討する。
 労組法上の労働者に当たるか否かについては、当該具体の労務提供関係の実態にも着目した上で、①労務提供者が相手方の事業遂行に不可欠な労働力として相手方の事業組織に組み入れられているか、②労働条件や提供する労務の内容の全部又は重要部分を相手方が一方的・定型的に決定しているか、③労務供給者への報酬が当該労務供給に対する対価又はそれに類するものとしての性質を有するか、④労務供給者が相手方からの個々の業務の依頼に対して基本的に応ずべき関係にあるといえるか、⑤労務供給者が、一定の時間的、場所的拘束を受け、相手方の指揮監督の下に労務の提供を行っていると広い意味で解することができるか、⑥労務提供者が独立した事業者としての実態を備えているかについて実質的に検討し、これらの要素を総合考慮した上で判断するのが相当である(最三小判平23・4・12、最三小判平24・2・21参照)。

(2) 委託契約講師が法人の事業組織に組み入れられているか否か

 法人は、雇用契約を締結している講師職講師と業務委託契約を締結している委託契約講師の別を問うことなく、年度ごとに、契約期間を1年間とする契約を締結し、それぞれ授業を行わせていたことが認められる。そうすると、法人が委託契約講師との間で締結する年度ごとの委託基本契約は、講師職労働契約と同様に、法人の事業を遂行できる労働力を1年間を通じて確保することを目的として締結されていたものといえる。
 また、法人は、講師職講師と委託契約講師の別を問わず、講義を行うに当たっては指定教材を用いてカリキュラムに沿って進めることなどを求めるなどして、授業の質を一定水準以上に確保することを求めていたほか、授業アンケート結果を活用するなどして講師評価を行い、その結果を次年度の出講契約を締結するか否かの判断や、次年度の出講契約締結に際して講師に提示するコマ数、コマ単価等の決定に用いるなどし、さらに、1学期の授業アンケート結果が悪かった講師に対しては2学期に向けて面談を行って注意していたことが認められるのであるから、委託契約講師は、講師職講師と同様、法人の管理の下で組織的に、法人の事業を円滑かつ確実に行う労働力としての質を確保することが前提とされていたものといえる。
 そして、法人の全講師数における委託契約講師の割合は、平成22年度から平成26年度までは3割から4割弱で推移し、全コマ数における委託契約講師が担当しているコマ数の割合も、平成22年度から平成26年度までは25パーセント程度で推移していたのであるから、委託契約講師は、法人において、量的にも、法人の事業を円滑かつ確実に遂行するために不可欠な労働力として位置付けられていたといえる。
 これらに加え、法人は、生徒や保護者に対して、講師職講師と委託契約講師とを区別して表示することはしておらず、第三者に対し委託契約講師を自己の組織の一部として表示していたことが認められることをも併せて考慮すると、委託契約講師は、法人の事業の遂行に不可欠な労働力を恒常的に供給する者として、法人の事業組織に組み入れられていたといえる。

(3) 委託契約講師の契約内容を法人が一方的、定型的に決定しているか否か

 委託契約講師が法人との間で委託基本契約を締結するに当たって取り交わす基本契約書は、出講コマ数、コマ単価等の属人的に決まる部分を除き、全国の委託契約講師において共通かつ定型の内容であったことが認められる。
 そして、基本契約書で定まっていない出講コマ数、コマ単価等に関してみると、全体のコマ数については、法人が各種調査データや自己の事業計画、過去の実績等を基にその経営判断により決定しているものであり、次年度のコマ単価についても、講師評価の結果等を踏まえて法人が一方的に決定しているものであって、いずれも各講師の意思が反映される余地はない。
 また、出講コマ数及び時間割については、照会に対する回答から確認した各講師の出講可能曜日や時間帯に講師評価も加味して、全体コマ数の枠内において法人が決定して各講師に提示しているものであり、その内容について講師が面談等を通じて法人と協議する機会はあるものの、法人において、多くの講師がいる中で、一度組まれた講義編成を個々の講師との面談等によって変更することは容易ではないことがうかがわれ、事実上、法人において最終的な決定がされている。
 以上によれば、法人と委託契約講師との契約内容は、法人が一方的にかつ定型的に決定していたと認められる。

(4) 委託契約講師への報酬に労務対価性があるか否か

 委託契約講師のレギュラー授業及び講習に係る報酬額は、出講した月間コマ数にコマ単価を乗じた額とされ、当該コマ単価は、基本となる1時限の授業時間について定められ、授業時間がこれと異なる場合には、当該基本となる1時限の授業時間に係るコマ単価を基準とし授業時間数に比例して算出されていたこと等が認められ、これらの報酬の定め方からすると、委託契約講師の報酬は仕事の完成の対価というよりも時間的拘束の代償というべきものである。
 また、講師職講師の給与については、委託契約講師と同様、コマ単価は授業結果等による講師評価を基に決定され、レギュラー授業の年間コマ数にコマ単価を乗じて12で除した額が基本給として、講習及びその他の業務については手当として支払われていたことが認められる上、選択する契約形態によって講師の収入面に著しい差異が生じるような制度設計になっていることはうかがわれない。
 これらに加え、委託契約講師の報酬のうちその大部分を占めるとみられるレギュラー授業に係る報酬が給与所得として所得税の源泉徴収がされていることをも考慮すると、委託契約講師への報酬は、労務提供に対する対価としての性質を有するものとして支払われていると認めるのが相当である。

(5) 委託契約講師が法人からの個々の業務の依頼に応ずべき関係があるか否か

 法人が委託契約講師との間で委託基本契約を締結する際に合意した時間割は、1学期のレギュラー授業の出講に係る委託個別契約の内容となるとともに、その後別途締結される2学期及び3学期のレギュラー授業の出講に係る委託個別契約の内容においても、基本的には引き継がれていたものであり、1年間にわたりほぼ固定される運用がされていたものと認められる。
 また、法人との間で委託基本契約を締結した委託契約講師は、病気等の特殊な事情変更がない限り、1年の途中で出講を辞退することはなく、委託契約講師が法人からの委託個別契約の打診を拒否することは例外的な事象であったものと認められる。
 そして、委託契約講師は、少なくともレギュラー授業について法人による契約年度内の委託個別契約の提案に応じなければ、委託基本契約が終了し、委託契約講師の地位を失う結果となることを併せ考慮すると、委託契約講師においては、事実上、上記提案に対する諾否の自由はなく、法人からの個々の業務の依頼に対して基本的に応ずべき関係にあったものとみるのが相当である。

(6) 委託契約講師に法人の指揮監督下での労務提供、一定の時間的場所的拘束があるか否か

 委託契約講師は、雇用契約を締結している講師職講師と同様、法人から講師ガイドブック等の配布を受けているところ、上記ガイドブック等には、講義は指定された教材でカリキュラムに則って進めること、授業の開始・終了時間を厳守し、決められた時間を過不足なく使うこと、指定された学習範囲を項ごとに完結すること、補助教材として使用するプリントの配布を原則禁止することなど、授業を行うに当たっての詳細な手順が示されており、これに基づく業務の遂行を求められていたことが認められる。
 また、上記ガイドブック等には、休講・遅刻をしないこと、緊急非常事態発生時の対応、個人情報保護の取組み、ハラスメント防止等の服務規律に関する記載も存在しており、委託契約講師は、法人において業務遂行をするに当たり、服務規律に関しても、講師職講師と同様の拘束を受けていたことがうかがわれる。
 これらからすると、委託契約講師は、法人の指定する業務遂行方法に従い、その指揮監督の下において授業の実施という労務の提供をしていたものといえる。
 また、委託契約講師は、法人との間で委託基本契約を締結すると、原則として、当該契約年度内に法人から依頼のあった授業については委託個別契約を締結して出講するものとされており、レギュラー授業の時間割については、1年間にわたりほぼ固定される運用がされていた。そして、法人での出講は、法人の校舎内の法人の指定した教室において実施されていたものであることからすると、委託契約講師は年間を通じて時間的にも場所的にも相応の拘束を受けていたものといえる。

(7) 委託契約講師が独立した事業者としての実態を備えているか否か

 委託契約講師は、兼業及び競業については個別の契約内容によることとされており、実際にも兼業している委託契約講師は存在したものであるが、委託契約講師における兼業及び競業の程度を認めるに足りる的確な証拠はない。
 また、委託契約講師は、法人から委託を受けた業務について、法人の事前の書面による承諾を得ることなくその全部又は一部を第三者に再委託することは禁止されており、実際に再委託が行われたこともなかった。
 このほか、委託契約講師には法人の休業補償制度の適用があり、休業4日目から契約期間内の6か月及びその後1年間の契約待機期間中は一定額が支給されることになっていたほか、レギュラー授業を担当する委託契約講師には一定の場合に慶弔見舞金が支給される制度が存在するなど、独立した事業者との間の契約には通常はみられない制度が存在したほか、レギュラー授業に係る報酬は給与所得として所得税の源泉徴収がされていた。
 これらからすると、委託契約講師について、独立の事業者としての実態を備えていたと認めることはできない。

(8) 小括

 以上の諸事情を総合考慮すれば、法人との間で平成25年度出講契約を締結して委託契約講師として業務を行っていたA1書記長は、法人との関係において、労組法上の労働者に当たると解するのが相当である。

2 争点② 法人がA1書記長との間で平成26年度出講契約を締結しなかったことが労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当するか

 前記1に説示したとおり、A1書記長は法人との関係において労組法上の労働者に当たることから、以下において、法人がA1書記長との間で平成26年度出講契約を締結しなかったことが、労組法7条1号及び3号の不当労働行為に当たるか否かを検討する。

(1) 労組法7条1号の不当労働行為該当性

ア 法人がA1書記長との間で高校グリーンコース及び小中コースの平成26年度出講契約を締結しなかったことの不利益性の有無について検討する。
 A1書記長については、平成23年度から平成25年度まで、1学期に担当した週当たりのコマ数は、計6コマで変更なく続いており、平成25年度の1学期終了後、法人から授業アンケート結果について面談で注意を受けたことはないことに照らせば、当時、A1書記長につき、講師評価の結果として、平成26年度出講契約が非締結となる可能性をうかがわせる事情はなかったというべきである。
 これらに加え、A1書記長が、平成2年度から約23年間にわたり、毎年度、法人との間で業務委託契約の契約形態での出講契約を締結して、非常勤講師又は委託契約講師として法人に出講し続けており、この間、常に、レギュラー授業の1学期、2学期及び3学期並びに春期、夏期、冬期及び直前の各講習を担当していたことを併せ考慮すると、A1書記長については、平成26年度以降も、法人との間で、計6コマでの出講契約が継続的に締結されることが十分に期待できる状況にあったことが認められる。
 したがって、A1書記長が高校グリーンコース及び小中コースの平成26年度出講契約を締結することを期待していたにもかかわらず、法人がA1書記長との間でこれを締結しなかったことは、A1書記長と法人との間の長年にわたる上記契約関係において行われた不利益な取扱いにほかならないというべきである。

イ 法人がA1書記長との平成26年度出講契約を締結しなかったことが、同人が組合の組合員であること又は組合の正当な行為をしたことの故をもってしたことであるか否かを検討する。

(ア) 法人は、A1書記長との平成26年度出講契約を締結しなかった理由として非締結理由①〜④を挙げるが、以下のとおり、これらの理由に合理性は認められない。

a 非締結理由①(A1書記長が、平成25年8月8日に町田校及び横浜校GA館の各教務室内で、法人の許可なく「労働基準法の改正のポイント」と題する資料(以下「本件文書」という。)を法人の職員に対し配布した行為について、同月23日付け書面で法人が行った厳重注意に対し、組合を通じてその撤回を求め、非を認めないこと)について

 A1書記長は、平成25年8月8日、法人の校舎である町田校及び横浜校GA館の各教務執務スペースにおいて、本件文書を法人の職員に対し配布したものであるところ、法人では、法人の承認なく法人の構内で文書を配布する行為を禁じており、上記のA1書記長による本件文書の配布行為について、法人の承認は得られていなかったことが認められる。
 しかしながら、法人が施設管理権の一つとして法人の構内での文書配布行為を禁止した目的は、法人の構内の職場規律の維持及び生徒に対する教育的配慮にあると解されるから、法人の承認なく文書が配布された場合でも、当該文書の内容、配布の態様等に照らして、その配布が法人の構内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められるときは、実質的には、法人の施設管理権を違法に侵害するものとはいえない(最三小判平6・12・20参照)。
 本件についてこれを検討するに、まず、A1書記長が配布した本件文書は、厚生労働省が広く国民に周知することを目的として作成した「労働契約法改正のポイント」と題するリーフレットの複写物であり、その内容は、有期雇用契約について定めた労働契約法の改正の趣旨及び内容の解説が掲載されたものであって、組合の主義主張や法人に対する批判等が記載されたビラ等とは性格が異なるものであった。
 また、A1書記長による本件文書の配布行為は、いずれも生徒がいないときに行われたものであり、かつ、本件文書を受け取った職員は休憩中であったか、あるいは明確に休憩中といえなくとも、本件文書の受領に要した時間はごく短時間であったことが認められ、上記配布行為によって、法人の業務に具体的な支障が生じたことをうかがわせる事情はない。
 以上によれば、A1書記長による本件文書の配布行為は、法人の構内の職場規律を乱すおそれがなく、また、生徒に対する教育的配慮に欠けることとなるおそれのない特別の事情が認められ、法人の施設管理権を違法に侵害したものとはいえないから、非締結理由①は合理的な理由とは認められない。

b 非締結理由②(A1書記長が、平成24年11月22日、藤沢現役館の講師室において「Zユニオン・弁護士学習会」を表題とするビラを無許可で不特定多数人に対して配布し、C1校から厳重注意を受けたこと)について

 A1書記長は、平成24年11月22日、C1校の校舎である藤沢現役館の講師室において「Zユニオン・弁護士学習会」を表題とするビラを無許可で不特定多数人に対して配布したこと、これに関して、C1校が、A1書記長を呼び出した上で、その施設管理権を侵害するものとして、厳重注意を行ったことが認められ、C1校が法人を中核とするXグループに属する株式会社であって法人と連動して受験支援サービスを提供していることからすると、C1校の校舎における上記ビラの配布行為も、法人において出講契約の非締結の理由となる場合はあり得るものといえる。
 しかしながら、A1書記長が上記ビラを配布したのは、平成24年11月であり、その後も法人はA1書記長との間で平成25年度出講契約を締結したことからすると、法人が、当時、上記ビラ配布行為を出講契約の締結に影響するような事情として重視していたとはいい難く、後になって、平成26年度出講契約を非締結とする理由とすることは合理性を欠くというべきである。
 また、法人は、上記ビラ配布行為は、非締結理由①とあいまって、今後もA1書記長が法人の施設管理権侵害を繰り返す危惧を法人に生じさせるものであって、平成26年度出講契約の非締結理由を補強する事情となるとも主張するが、そもそも非締結理由①が合理的な理由ではないことに照らせば、法人の上記主張もまた理由がない。
 よって、非締結理由②は合理的な理由とは認められない。

c 非締結理由③(A1書記長が、組合の機関紙「ゆにーく(2010年11月号)」において、法人が運営する教室の塾生の人数を開示し、受託業務者として秘密保持義務に違反しただけでなく、事実と相違する情報を流したこと)について

 法人は、平成22年12月17日、A1書記長に対し、同年11月に法人の東京や名古屋の校舎等で配布された上記機関紙に不実の記載や守秘義務に反した事実の開示等があり、また、上記機関紙を含む情宣活動文書の発行・配布の過程には秘密保持義務違反や法人の施設管理権侵害等の違法な行為を包含しているおそれがあるとして、厳重に警告・注意する旨を書面で通知している。
 しかしながら、法人は、その後も、A1書記長との間で、平成23年度から平成25年度までの3年間にわたり、出講契約を締結し続けてきており、この間、上記機関紙に係る問題は、A1書記長の毎年度の出講契約締結の可否に影響を与えていなかったことに照らすと、平成26年度出講契約の締結に際して、これを改めて取り上げることは、合理性を欠くものというほかない。
 よって、非締結理由③は合理的な理由とは認められない。

d 非締結理由④(平成25年10月19日、法人の中学模試におけるトラブルに関し、トラブルと無関係な生徒もいる中、「もし、この成績表が偽物と判断され、君たちが不利になったら、おれが嘱託甲と嘱託乙を殺してやる」と、むしろ生徒に不安を与えるような私的発言をしたこと)について

 法人においては、平成25年10月19日頃、A1書記長が自身の担当する講義の中で、生徒に対して上記発言をしたとして問題となり、本部で協議が行われたにもかかわらず、A1書記長に対して上記発言の有無等を確認して注意、指導をすることはなかったことが認められ、この点に言及した愛知県労委の審問手続での小中学生事業部長の証言においても、証人自身は上記発言を直接聞いておらず、他者から上記発言を伝聞したにとどまるものである。
 そして、愛知県労委の審問手続において、A1書記長自身は上記発言をしたことを否定する供述をしていることをも踏まえると、小中学生事業部長の証言のみをもって、上記発言があったと認めるには足りず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。
 よって、非締結理由④も合理的な理由とは認められない。

e 以上によれば、法人が指摘する非締結理由①〜④は、いずれも、A1書記長との間で平成26年度出講契約を非締結とする理由としては、合理性を欠くものである。

(イ) A1書記長は、平成22年3月5日の組合の結成時からの組合員であり、その結成初期から書記長に就任するなどして積極的に組合活動に従事していたことが認められ、その組合活動の中では、前記(ア)b及びcで認定したとおり、組合の組合機関紙やビラなどの文書配布を巡って法人やC1校から厳重注意や警告を受けるなど、法人との間で対立関係を生じることもあった。
 そのような中で、法人は、A1書記長との平成26年度出講契約に関し、A1書記長の本件文書の配布行為が法人の施設管理権を違法に侵害するものではなかったにもかかわらず、当該行為につき厳重注意を行い、これに対しA1書記長が組合を通じて厳重注意の撤回を求めたことが非を認めない態度であるとして、これを非締結の理由としたほか、行為当時において、出講契約の締結の可否という観点からは重視していなかった平成25年度以前の文書配布行為等を改めて非締結の理由として取り上げ、A1書記長がしたとする不適切な発言についても、同人への確認等をしないままこれを非締結の理由としているところ、これらについては、いずれも合理性があるとはいえないのは、前記(ア)で説示したとおりである。
 以上の事情を総合的に考慮すると、法人が平成26年度出講契約を締結しなかったことは、A1書記長の組合活動を嫌悪する不当労働行為意思に基づくものといわざるを得ず、法人は、A1書記長が組合の組合員であること又は正当な組合活動をしたこと故に、平成26年度出講契約を締結しなかったと認められる。

ウ 以上によれば、法人が、A1書記長との間で平成26年度出講契約を締結しなかったことは、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。

(2) 労組法7条3号の不当労働行為該当性

 A1書記長は、平成22年3月5日の組合の結成時からの組合員であり、その結成初期から書記長に就任するなどして積極的に組合活動に従事してきており、組合の結成時から平成24年8月30日の組合によるA2組合員の契約非締結等に係る救済申立てまでの間、組合と法人との間で開催された団体交渉のほとんどに出席していたのであるから、A1書記長は、組合の中心的人物であり、そのことを法人も認識していたと認められる。
 そして、平成25年当時、上記救済申立てによって、法人と組合との間においては、A2組合員の契約非締結等をめぐって対立が深まっていたことからすると、法人がA1書記長の平成26年度出講契約を締結しなかったことは、組合の中心的人物であるA1書記長を法人から排除することによって、組合の組織及び活動を弱体化させる不当労働行為意思に基づく支配介入であったものと認めるのが相当である。
 したがって、法人がA1書記長との間で平成26年度出講契約を締結しなかったことは、労組法7条3号の不当労働行為に該当する。

3 争点③ 法人がA1書記長に平成26年度春期講習を担当させなかったことが労組法7条1号及び3号の不当労働行為に該当するか

(1) 労組法7条1号の不当労働行為該当性

ア まず、法人がA1書記長に高校グリーンコースの平成26年度春期講習を担当させなかったことについての労組法7条1号の不当労働行為の該当性を検討する。
 高校グリーンコースについては、委託基本契約の契約期間は1学期から翌年度春期講習までであることから、同コースの平成26年度春期講習は、平成25年度の委託基本契約の業務範囲に含まれるものであったことが認められる。そして、法人が委託契約講師との間で委託基本契約を締結した場合、当該契約期間に実施される各講習に係る委託個別契約についても当該委託契約講師との間で締結することが通例であり、委託個別契約を締結しないことは例外的であったことが認められる。
 そうすると、法人との間で高校グリーンコースの平成25年度の委託基本契約を締結していたA1書記長において、同コースの平成26年度春期講習に係る委託個別契約が締結されることについて十分に期待できる状況にあったというべきであるから、当該個別契約が締結されなかったことは、A1書記長にとって不利益であると認められる。
 そして、法人自身が、その主張において、A1書記長との間での高校グリーンコースの平成26年度出講契約を締結しないこととしていたため、同人に同コースの平成26年度春期講習を担当させないこととした旨を認めているのであるから、法人が高校グリーンコースの平成26年度出講契約を締結しなかったことが労組法7条1号の不当労働行為に該当する以上(前記2(1))、同コースの平成26年度春期講習を担当させなかったこともまた、A1書記長の組合活動を嫌悪する不当労働行為意思に基づくものであったと認められる。
 以上によれば、法人がA1書記長に高校グリーンコースの平成26年度春期講習を担当させなかったことは、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。

イ 次に、法人がA1書記長に小中コースの平成26年度春期講習を担当させなかったことについての労組法7条1号の不当労働行為の該当性を検討する。
 A1書記長において、前記2(1)に説示したとおり、小中コースの平成26年度出講契約が締結されることが十分に期待できる状況にあったのであるから、同コースの平成26年度春期講習に係る委託個別契約も締結されることが十分に期待できる状況にあったというべきであり、これが締結されないこととなればA1書記長にとって不利益であると認められる。
 そして、前記2(1)に説示したとおり、法人がA1書記長との間で小中コースの平成26年度出講契約を締結しなかったことがA1書記長の組合活動を嫌悪する不当労働行為意思に基づくものと認められる以上、同出講契約が締結されなかったことに伴いA1書記長に平成26年度春期講習を担当させなかったことも、不当労働行為意思に基づくものであったと認められる。
 以上によれば、法人がA1書記長に小中コースの平成26年度春期講習を担当させなかったことも、労組法7条1号の不当労働行為に該当する。

(2) 労組法7条3号の不当労働行為該当性

 前記2(2)に説示したとおり、A1書記長が組合の中心的人物であり、そのことを法人も認識していたことや、当時、法人と組合の対立が深まっていたことなどからすると、法人がA1書記長に小中コース及び高校グリーンコースの各平成26年度春期講習を担当させなかったことは、組合の中心的人物を法人から排除することによって、組合の組織及び活動を弱体化させる不当労働行為意思に基づく支配介入であったものと認めるのが相当である。
 したがって、法人がA1書記長に小中コース及び高校グリーンコースの各平成26年度春期講習を担当させなかったことは、労組法7条3号の不当労働行為にも該当する。

4 争点④ 法人が組合から平成26年3月4日に申し入れられた団体交渉に応じなかったことが労組法7条2号の不当労働行為に該当するか

 組合は、平成26年3月4日、法人に対し、A1書記長との間で平成26年度出講契約を締結しないことの是非及びA1書記長に平成26年度春期講習を担当させないことの是非を議題とする団体交渉を申し入れたところ、法人は、A1書記長と法人との間の契約は労働契約ではなく業務委託契約であって、A1書記長との間の契約非締結に関する問題は労働条件ではないことを理由として団体交渉を拒否した。
 しかしながら、前記1で説示したとおり、A1書記長は労組法上の労働者であると認められる。そして、組合が同日に申し入れた団体交渉の議題は、上記のとおり、法人において処分可能なA1書記長の処遇に関する事項といえることから、義務的団交事項に当たるものであり、法人において上記団体交渉を拒否する正当な理由があったとは認められない。
 したがって、法人において、組合が平成26年3月4日に申し入れた団体交渉に応じなかったことは、労組法7条2号の不当労働行為に該当する。

5 争点⑤ 救済内容の適法性

(1) 原職復帰及びバックペイの支払という救済方法の相当性

 前記2(1)アで説示したとおり、A1書記長については、講師評価の結果として、平成26年度出講契約が非締結となる可能性をうかがわせる事情はなく、法人との間で、平成26年度以降も、平成25年度以前と同様に計6コマでの出講契約が継続的に締結されることが十分に期待できる状況にあったことが認められる。
 また、カリキュラムの編成の決定権は法人にある以上、A1書記長を平成25年度出講契約と同様の条件で復職させることは可能であるといえることを併せ考慮すると、法人がA1書記長との間で平成26年度出講契約を締結しなかったこと等が不当労働行為に該当する本件において、A1書記長を上記条件で復帰させることを命ずることは、組合活動侵害行為によって生じた状態を直接是正するという救済命令の目的に沿うものである上、私法的法律関係から著しくかけ離れた内容であるとも、法人に不可能を強いる内容であるともいえない。
 そして、上記内容の原職復帰を命ずる以上、これとともに、法人に対してバックペイの支払を命ずることについても同様というべきである。
 そうすると、中労委命令が維持した本件初審命令における救済方法自体が、労働委員会の裁量権の行使として是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用に当たるものとは認められない。

(2) バックペイの支払を命ずるに当たっての中間収入の控除の要否

ア 本件において、まず、個人的被害の救済の観点から検討するに、A1書記長は、法人との間で出講契約を締結して委託契約講師として出講していた平成25年度の収入は約440万円であった一方(なお、A1書記長は、同年度、法人からの上記収入のほかに、法人のグループ会社であるC1校からの収入が200万円以上あった。)、法人から平成26年度出講契約を非締結とされた以降においては、平成26年は集団授業を行う複数の予備校に応募し再就職を試みたものの、採用には至らず、同非締結以前から行っていた有償での家庭教師により収入を得たのみであり、平成27年から平成29年までは無職かつ無収入の状態で親族からの援助や自身の貯金等によって生活を維持していたことが認められる。
 A1書記長は、平成30年からはC3校等の複数の就労先での就労を開始したものの、これらの就労先からの同年から令和3年までの収入額は、平成26年以降の収入のうち最高額であった平成30年の収入額をもってしても、平成25年度の法人における就労によって得ていた収入額の約6割程度にとどまるものであった。
 その上、上記の就労先は、その多くが個別指導の形態であり、年間を通じて収入を安定的に確保することは難しく、特に、令和2年頃からは新型コロナウイルス感染症の拡大による影響を大きく受け、上記各就労先の廃業や仕事量の減少などの事態を生じたことが認められ、同年以降のA1書記長の収入は激減している。
 以上によれば、A1書記長は、法人の不当労働行為により平成26年度出講契約を締結されなかった後、容易に再就職することができずに無収入の状態が続き、再就職をした後も、その収入は、複数の就労先のものを合計しても法人での就労時の多くとも6割程度にしか達せず、かつ、年間を通じて安定しなかった上、その労務の内容は法人での委託契約講師としての業務と比較して、より重い精神的、肉体的負担を伴うものであったといえる。

イ 次に、組合活動一般に対して与える侵害の除去の観点から検討する。
 A1書記長については、法人の不当労働行為により平成26年度出講契約を締結されなかった後、前記アで説示したように、再就職自体に困難を来たし、再就職した後も収入の大幅な減少や不安定化を生じ、その労務の内容においても、法人での委託契約講師としての業務と比べて精神的、肉体的負担が増大するといった状況が生じていた。
 さらに、A1書記長と法人との間の平成26年度出講契約の非締結をめぐる係争は、同業他社の予備校においても認知されており、A1書記長が再就職のために複数の予備校の担当者等と接触していた際、当該予備校が上記紛争を認識した直後に連絡が途絶えてしまった場合や、担当者から、組合活動を行うことに懸念を示され、採用を明確に断られた場合もあったというのであるから、法人による不当労働行為がA1書記長の再就職をより困難なものとしていたと認められる。
 このように、A1書記長が法人の不当労働行為により出講契約を非締結とされたこと等によって現実に受けた打撃は甚大であったことからすると、上記不当労働行為は、組合の組合員らの組合活動意思を委縮させ、そのため組合活動一般に対して制約的効果を及ぼすに十分なものというベきである。
 そして、現に、組合については、上記不当労働行為があった平成26年には新規加入者がなく、同年以降、発足以来一人もいなかった退会者が毎年出るようになり、九州地区の組合員はいなくなったこと、本件組合の組合員が、自らも法人からA1書記長と同様の対応を受けることを恐れて、公然化をちゅうちょし、本件組合への加入の勧誘や広報等の活動を担うことができなくなっていること等にも照らせば、上記不当労働行為が本件組合の組合活動一般に対して与えた侵害の程度は深刻なものといわざるを得ない。

ウ 以上の事情を総合的に考慮すると、中労委命令が維持した本件初審命令における法人に対するバックペイの支払命令がA1書記長の中間収入を控除しない内容であることをもって、救済の判断において合理性を欠くということはできず、労働委員会に認められた裁量権の限界を超えた違法があるとはいえない。

(3) 小括

 以上によれば、本件初審命令における救済内容を理由があるものとして法人の再審査申立てに係る部分を棄却した本件中労委命令は、適法というべきである。

6 結論

 法人の請求はいずれも理由がないから全部棄却することとする。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛労委平成24年(不)第7号 一部救済 平成28年8月30日
中労委平成28年(不再)第53・54号 棄却 令和3年2月17日
東京地裁令和3年(行ク)第219号 緊急命令申立の認容 令和5年9月26日
東京高裁令和5年(行コ)第319号 棄却 令和6年7月18日
 
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