労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和5年(行コ)第10号
不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人(1審原告)  X株式会社(「会社」) 
被控訴人(1審被告)  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和5年9月14日 
判決区分  却下・棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①Aに対する平成24年1月の面談における発言等を理由として総務部長代理に降格したB1を平成30年12月1日付けで総務部長に昇格させたこと、②会社のB2営業本部長が、同月3日、会社の営業部員らに送信した電子メールに会社の前期営業目標を達成していない案件名、営業担当者名等を記載したリストを添付したことに関し、本件メールの取消し等を求める組合の平成31年2月1日付け要求書、③平成30年12月に組合員3名に支給された賞与額(以下「本件賞与額」という。)の根拠説明等(以下「本件団交事項」という。)を協議事項とする組合の平成31年4月25日付け団体交渉申入れに応じなかったこと(以下「本件団交拒否」という。)が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審大阪府労委は、会社に対し、1の②及び③について、団体交渉応諾及び文書の手交を命じたところ、会社及び組合は、これを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、大阪府労委の初審命令主文を1の③に係る団体交渉応諾及び文書の手交を命じるものへと変更し、会社のその余の再審査申立て及び組合の再審査申立てを棄却(以下「本件命令」という。)したところ、会社はこれを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、会社の請求を棄却したところ、会社はこれを不服として、東京高裁に控訴した。
5 中労委は、別件事件(令和4年(不再)第22号)において、本件団交事項等について、団体交渉を勧告し、公益委員立会いの下、立会団交(以下「本件立会団交」という。)を実施した。中労委は、これを踏まえて和解勧告を行い、会社は応じる意向を示したが、組合は応じなかった。
6 東京高裁は、本件団交事項(1の③)に係る団交応諾命令の取消しを求める部分を訴えの利益を欠き不適法であるとして却下し、会社のその余の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原判決を次のとおり変更する。
2 本件訴えのうち、中央労働委員会が令和2年(不再)第56号及び同第57号事件について令和4年4月6日付けでした命令中、主文Ⅰ1項に関する部分及び主文Ⅱのうち主文Ⅰ1項に関する控訴人の再審査申立てを棄却した部分に係る訴えを却下する。
3 控訴人のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、第1、2審を通じて、控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所は、会社による本件賞与額の根拠説明に関する本件団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為に当たるところ、本件命令のうち団体交渉応諾命令については、本件立会団交の実施により、その目的が達成されたといえ、同救済命令の拘束力が失われたから、その取消しを求める法律上の利益が存在せず、同部分に係る本件訴えは不適法であり却下すべきであるが、本件命令のうち文書手交命令については、本件立会団交の実施により、その目的を達成し、同救済命令の拘束力が失われたということはできないから、その取消しを求める部分に係る本件訴えは適法であり、かつ、同部分に関する本件命令は正当で、違法はないから、同部分に係る会社の請求は棄却すべきものと判断する。
 その理由は、以下のとおり補正し(略)、2項のとおり、当審における争点(救済の利益、本件訴えの利益の存否)に対する判断を付加するほか、原判決「事実及び理由」の第3の1項及び2項に記載のとおりであるから、これを引用する。

2 当審における争点(救済の利益、本件訴えの利益の存否)に対する判断

ア 労働委員会による救済命令の発出後に事情の変更があり、救済命令の履行が客観的に不可能となった場合や、救済命令の内容が他の方法によって実現され、その目的が達成された場合、救済命令は、その基礎を失って、その拘束力を失い、使用者は同救済命令に従う義務がなくなるから、同救済命令の取消しを求める法律上の利益(行訴法9条1項)は存在せず、訴えの利益は失われることになると解される。

イ これを本件について見ると、本件命令のうち団体交渉応諾命令については、本件団交事項について団体交渉に応じることを命ずるものであり、本件立会団交の実施により、その目的が達成されたと認められるから、救済命令の拘束力が失われ、本件訴えのうち団体交渉応諾命令の取消しを求める部分については、訴えの利益が失われたというべきである(仙台高秋田支判平成9・10・29参照)。
 この点、中労委は、本件立会団交の実施をもって本件団交事項について団体交渉が尽くされたというには疑義がある旨主張する。
 しかし、本件団交事項は、本件賞与額の根拠についての説明という比較的抽象度の高いものであり、本件団交事項については、特に具体的問題が生じていない状況で団体交渉申入れがされたと認められることも踏まえると、本件立会団交における団体交渉は、本件団交事項に対するものとして、実質的にも十分なものであったということができる。
 そうすると、本件立会団交により、団体交渉応諾命令にいう団体交渉が実施され、これにより、その目的は達成されたと認められるから、中労委の主張は採用できない。

ウ 他方、本件命令のうち文書手交命令については、会社は、本件団交に応じなかったことが、労組法7条2号に該当する不当労働行為であると認められたことを踏まえて、そのような行為を繰り返さない旨を記載した文書を組合に手交することを命ずるものであり、同種不当労働行為の再発防止のため、心理的効果を期待してする救済命令であるということができる。
 このような文書手交命令の趣旨、目的に照らすと、本件立会団交により団体交渉応諾命令にいう団体交渉が実施されたことによって、文書手交命令の目的も達成されたということはできないから、文書手交命令の拘束力が失われて、その取消しを求める法律上の利益が失われたとは認められない。(仙台高判平成7・1・26、最一小判平成10・1・22参照)
 したがって、本件訴えのうち文書手交命令の取消しを求める部分については、訴えの利益が失われたということはできず、この点に関する会社の主張は採用できない。

3 結論

 本件訴えのうち本件命令主文Ⅰ1項の団体交渉応諾命令の取消しを求める部分(同主文Ⅱの同命令に関する再審査申立て棄却部分を含む。)については、訴えの利益を欠き不適法であるから却下すべきであり、会社のその余の請求は理由がないから棄却すべきところ、これと異なる原判決は一部相当ではないから、原判決を上記のとおり変更する。
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和元年(不)第28号 全部救済 令和2年11月24日
中労委令和2年(不再)第56・57号 一部変更 令和4年4月6日
東京地裁令和4年(行ウ)第230号 棄却 令和4年12月21日
最高裁令和5年(行ヒ)第451号 上告不受理 令和6年2月22日
 
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