労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和4年(行ウ)第230号
不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X株式会社(「会社)」 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和4年12月21日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、①Aに対する平成24年1月(以下「平成」の元号を略する。)の面談(以下「本件面談」という。)における発言(以下「本件発言」という。)等を理由として総務部長代理に降格したB1を30年12月1日付けで総務部長に昇格させたこと(以下「本件昇格」という。)、②会社のB2営業本部長が、同月3日、会社の営業部員らに送信した電子メール(以下「本件メール」という。)に会社の前期営業目標を達成していない案件名、営業担当者名等を記載したリスト(以下「本件案件リスト」という。)を添付したことに関し、本件メールの取消し等を求める組合の31年2月1日付け要求書(以下「31.2.1要求書」という。)、③30年12月に組合員3名に支給された賞与額(以下「本件賞与額」という。)の根拠説明等を協議事項とする組合の31年4月25日付け団体交渉申入れに応じなかったこと(以下「本件団交拒否」という。)が不当労働行為であるとして、救済申立てがあった事件である。
2 大阪府労委は、会社に対し、1の②及び③について、団体交渉応諾及び文書の手交を命じたところ、会社及び組合は、これを不服として再審査を申し立てた。
3 中労委は、大阪府労委の初審命令主文を1の③に係る団体交渉応諾及び文書の手交を命じるものへと変更し、会社のその余の再審査申立て及び組合の再審査申立てを棄却した。会社はこれを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、会社の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点((本件賞与額の根拠説明についての本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるか否か)に関する判断
(1)本件団交申入れにおける本件賞与額に係る協議事項は、組合員の労働条件に関するものであり、会社において処分可能なものであるから、義務的団交事項に当たることは明らかである。
 そうすると、会社は、原則として速やかに団体交渉に応じて、労使双方が同席する場で、上記協議事項について協議及び交渉を行う義務を負い、正当な理由なくこれを拒否した場合には、労組法7条2号の不当労働行為に当たるものというべきである。
 本件についてみると、会社は、本件団交申入れに対して団体交渉を拒否していることから(本件団交拒否)、正当な理由がない限り、労組法7条2号の不当労働行為に当たる。

(2) そこで、正当な理由の有無について検討する。
ア 組合は、従前、会社に対して賞与に関する団体交渉を申し入れたことはなく、平成30年12月の支給前に賞与の算定基準・方法や支給額について確認しておらず、31.1.10質問書にも賞与について何ら言及されていなかったものと認められる。その後の団体交渉の経過をみると、組合の31.1.10質問書における本件昇格に関する質問に対して、会社の31.1.30回答書により回答が拒まれた後、組合は、会社に対して31.2.1団交申入書を提出し、ここで初めて本件賞与額の根拠説明が協議事項に掲げられたという経過が認められる。さらに、令和元年6月以降の賞与については、組合が会社に対して団体交渉を要求したことはなかったものと認められる。

イ 会社は、前記アの経緯に加え、組合の協議事項が「賞与の支給額の根拠についての説明」という極めて抽象的なものであることからすれば、組合においては、本件昇格問題や31.2.1要求書におけるB2営業本部長に対する要求が団体交渉事項たり得ないことから、本件賞与額の問題を便宜的に持ち出して会社に団体交渉に応じさせようとする動機を有していたものと推認でき、本件団交拒否には正当な理由がある旨主張する。

ウ しかし、義務的団交事項である本件賞与額について、どのタイミングで団体交渉を申し入れるかは、基本的に組合が自由に決定できるものである。そして、賞与の支給基準や平均支給額、実際に支給された賞与額等に関して、会社が組合や従業員に対して説明したことはなかったと認められるから、前記アの経緯にかかわらず、当時、組合において、本件賞与額の根拠説明を協議事項として団体交渉する必要性はあったものといえるし、その協議事項が上記のような抽象的な表現にとどまったとしてもやむを得ないものである。
 さらに、仮に、組合において、本件賞与額の根拠説明に係る団体交渉を契機として、本件昇格問題等に係る団体交渉を要求する動機を有していたとしても、そのような動機は、本件賞与額の根拠説明に係る交渉を真摯に行う意思と両立するものであるから、上記の動機の存在を根拠として、本件賞与額の根拠説明に係る団交要求を便宜的ないし不当なものとは直ちに評価し難い。
 以上によれば、会社の前記主張は採用できず、本件賞与額の根拠説明に関する本件団交申入れに不当な点があるとは認められないから、これに関する団体交渉を拒むことについて正当な理由は認められない。

(3) したがって、会社による本件賞与額の根拠説明に関する本件団交拒否は労組法7条2号の不当労働行為に当たるから、これに関する本件命令の判断は正当であり、違法はない。

2 結論
 よって、会社の請求は理由がないから棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委令和元年(不)第28号 全部救済 令和2年11月24日
中労委令和2年(不再)第56・57号 一部変更 令和4年4月6日
東京高裁令和5年(行コ)第10号 却下・棄却 令和5年9月14日
最高裁令和5年(行ヒ)第451号 上告不受理 令和6年2月22日
 
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