労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和5年(行コ)第50号
労働委員会命令取消請求控訴事件 
控訴人  X労働組合(「組合」) 
被控訴人  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人参加人  株式会社Z(「会社」) 
判決年月日  令和5年7月20日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、堺市から、同市東区のいわゆる学童保育事業である放課後児童対策事業(のびのびルーム事業)を新規に受託し、平成29年4月1日に同事業を開始するに当たって、会社が、①従前の受託者であったC事業団(以下「事業団」という。)において同年3月31日まで同区のびのびルーム(以下「本件ルーム」という。)における放課後児童支援員(以下「指導員」という。)の主任指導員であった組合員Aを採用しなかったこと(以下「本件採用拒否」という。)、及び②同年2月28日、Aとの雇用継続などを要求項目とする団体交渉に応じなかったことが、労組法第7条第1号及び第2号の不当労働行為に当たるとして、組合が、同年4月28日に大阪府労委に救済申立てを行った事件である。
2 初審大阪府労委は、会社は労組法上の使用者に該当しないとして、救済申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、再審査を申し立てた。
3 中労委は、本件申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、本件請求を棄却したところ、組合は、これを不服として、東京高裁に控訴した。
5 東京高裁は、本件控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、参加費用も含め、控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点① 労組法7条1号本文の不当労働行為該当性

(1) 企業者は、経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇用するに当たり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるものであり、また、労組法7条1号本文は、「労働者が労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、若しくはこれを結成しようとしたこと若しくは労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、その労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱をすること」又は「労働者が労働組合に加入せず、若しくは労働組合から脱退することを雇用条件とすること」を不当労働行為として禁止するが、雇入れにおける差別的取扱いが前者の類型に含まれる旨を明示的に規定しておらず、雇入れの段階と雇入れ後の段階とに区別を設けたものと解される。そうすると、雇入れの拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、労組法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13年(行ヒ)第96号同15年12月22日第一小判参照)。

(2) Aは、本件採用拒否の時点において、会社から未だ雇い入れられていなかったのであるから、原則として、本件採用拒否は、労組法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないというべきである。
 そこで、会社が本件採用拒否をした理由を検討する前に、本件採用拒否が、事業団とAとの間の雇用関係においてされた不利益取扱いと同視できるような特段の事情が認められるか否かについて検討する。
 会社は、堺市が行う放課後児童対策事業のうち東区のものについて、新たに委託契約を締結し受託者として同事業を担うことになった事業者であり、事業開始に当たって、改めて指導員を雇用したものであって、それまでの事業者であった事業団との間に資本関係はなく、事業団との間において事業の承継や本件ルームの指導者の雇用承継について合意があったものではない。
 しかし、委託先である事業者が変更しても、事業自体は堺市の施策にのっとって行われるものであり、その対象となる施設や児童及び保護者は、そのまま引き継がれ、従業員である指導員についても、堺市は、受託者に保護者や児童に安心され信頼される指導員の継続的な確保を求め、会社においても、指導員の継続勤務への配慮を約束し、保護者会との話合いも交え、新たな受託先への継続勤務を希望する場合には、継続勤務が可能となるような運用がなされていたのである。
 そうすると、会社の雇用の自由もその限度で制約されていたというべきであり、そのような状況下において、会社が従前の雇用関係における労働組合活動や労働組合を嫌悪し、当該指導員が当該労働組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、当該指導員を雇用しなかったとすれば、従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる特段の事情が認められるというべきである。


(3) そこで、会社が本件採用拒否をした理由について検討すると、会社は、本件委託契約締結後の平成28年12月19日に本件ルームに勤務していたAを含む6人の指導員に対して説明会を開催し、同席上、Aに対し、会社と雇用契約を締結して本件ルームで勤務することを希望する場合、平成29年1月末までには返事がほしいと伝えた。
 会社は、1月12日及び同月13日にもAに対して雇用契約締結の意向を確認し、履歴書の提出を求めたが、Aは、会社における給与を書面で明らかにするよう求めるとともに、Aが事業団に残って本件ルームで勤務しない場合の引継ぎ等の方法を質問し、履歴書は、雇用条件を確認した後に提出すると述べた。会社は、同月20日、Aに対し、給与等の雇用条件について説明した。
 会社は、2月2日の午前中にAと面談し、求人票を手渡したが、Aは、履歴書を提出せず、会社において勤務するかの意向確認に対しても明確な回答をしなかった。会社は、同日夕方、Aに対し、明日中(同月3日)に会社と雇用契約を締結する意思があるか明らかにしてほしいと告げたところ、Aは、このことを保護者会の役員にも相談し、保護者から回答期限を延長してもらうよう子ども支援課職員に依頼した方がよいと言われたとして、同職員に対してその旨を伝えた。
 会社は、2月3日、Aに対し、Aを採用しない旨を伝えた。会社は、子ども支援課課長からもう一度Aと面談するよう求められたため、Aに対し、再度の面談を提案したが、Aは、面談に組合の書記長と保護者会副会長を立ち会わせることを希望したため、面談は行われず、会社は、同月16日、再度、Aを採用しない旨を伝え、その理由として、Aが保護者を巻き込み、保護者との距離が近すぎること、事業団に残るかどうか不明確であり不信感を持ったこと及びAの言葉遣いが乱暴であったことなどを説明したことが認められる。
 以上の事実関係によると、会社は、2月3日にAを採用しないことを決めるまでAを本件ルームの主任指導員として採用することを視野に入れて面談等を行っており、堺市の学童保育指導員の労働組合である組合やその組合活動を嫌悪していた様子はうかがわれないのであって、会社は、Aが、会社との雇用条件について交渉中に、本件ルームの保護者を巻き込む形で交渉を進めようとしていると受け止め、その態度に不信感あるいは懸念をもって、Aを採用しない方針としたと認めるのが相当である。
 そうすると、会社が従前の雇用関係における労働組合活動や労働組合である組合を嫌悪し、Aが組合の組合員であること、労働組合の正当な行為をしたことの故をもって、Aを雇用しなかったということはできず、組合の当審における全ての主張を考慮しても、会社に不当労働行為の意思があったと認めることはできない。


(4) したがって、本件採用拒否が労組法7条1号本文の不当労働行為に当たるとはいえない。


2 争点② 労組法7条2号の不当労働行為該当性

 会社が本件採用拒否をしたことについて、組合は、平成29年2月28日、会社を訪問して団体交渉を求め、その旨が記載された同日付け「要求書」と題する書面を提出しようとしたが、会社は、同文書を受け取らなかったこと、組合は、3月3日、会社に対し、2月28日付け「要求書」を内容証明郵便で送付したところ、会社は、会社がAの使用者ではないため話合いに応じられない旨を回答したこと(以下「本件団交拒否」という。)が認められる。
 組合は、Aと会社の間には、近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的、具体的に存在していたなどとして、本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に該当する旨主張するが、上記1のとおり、Aと会社は、雇用契約の締結には至っておらず、近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的、具体的に存在していたということもいえない。
 したがって、本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるとはいえない。


3 結論

 以上のとおり、本件採用拒否及び本件団交拒否はいずれも不当労働行為に当たらず、組合の請求を棄却した原判決は結論において相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成29年(不)第25号 棄却 平成31年1月8日
中労委平成31年(不再)第2号 棄却 令和2年8月5日
東京地裁令和3年(行ウ)第69号 棄却 令和5年1月30日
 
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