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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和3年(行ウ)第69号
労働委員会命令取消請求事件 
原告  X労働組合(「組合)」 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告参加人  株式会社Z(「会社」) 
判決年月日  令和5年1月30日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、堺市から、同市東区のいわゆる学童保育事業である放課後児童対策事業(以下「のびのびルーム事業」という。)を新規に受託し、平成29年4月1日に同事業を開始するに当たって、会社が、従前の受託会社において同年3月31日まで同区のびのびルーム(以下「本件ルーム」という。)における放課後児童支援員(指導員)の主任指導員であった組合員A1を採用しなかったこと(本件採用拒否)、及び同年2月28日、A1の継続雇用などを要求項目とする団体交渉に応じなかったことが、労働組合法(以下「労組法」という。)第7条第1号及び第2号の不当労働行為に当たるとして、組合が、同年4月28日に大阪府労委に救済申立てを行った事件である。
2 初審大阪府労委は、会社は労組法上の使用者に該当しないとして、救済申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、再審査を申し立てた。
3 中労委は、本件申立てを棄却したところ、組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した。
4 東京地裁は、本件請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、参加費用も含め、原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点①本件採用拒否が労組法7条1号本文の不当労働行為に該当するかどうか
(1)A1は、本件採用拒否の時点において、Zから未だ雇い入れられていなかったのであるから、原則として、本件採用拒否は、労組法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないというべきである。
 そこで、Zが本件採用拒否をした理由を検討する前に、本件採用拒否が、事業団とA1との間の雇用関係においてされた不利益取扱いと同視できるような特段の事情が認められるか否かについて検討する。

ア 先ず、ZとA1を雇用している事業団との間には、資本関係があるとか、本件ルームの指導員の雇用の承継について何らかの合意がされていたと認めるに足りる証拠は全くない。

イ 次に、Zと事業団に本件ルームの運営を委託していた堺市との間についてみるに、堺市が作成した作成要領や審査基準には、指導員の確保や事業の継続性に関する項目は存在するものの、受託者が従前の指導員を雇用することが受託者の義務であることや受託者として選定される条件となる旨の記載は存在せず、Zが作成したZ企画提案書にも、職員の確保に当たって、募集、審査を経て雇用する旨記載され、それまで勤務していた指導員の雇用については、「現支援員等への継続勤務依頼」「指導員の継続勤務への配慮」という記載があるのみであって、本件ルームに勤務していた指導員を原則として全員雇い入れることを表明していたとは認められず、Zと堺市の間で締結されたZ委託契約においては、指導員の雇用継続に関する条項や事業団からの債権債務を承継する旨の条項も存在しなかった。
 このような各事実に照らせば、本件ルームの運営の委託者である堺市と受託者であるZとの間で、Zが従前の雇用関係を引き継ぐことが、契約上の義務となっていたとは認められないし、事実上、承継することが前提となっていたとも認めることはできない。

ウ さらに、Zと本件ルームに勤務していた指導員との間で、Zが、指導員に対し、事業団と指導員との間の雇用契約を承継する旨を表明するなどし、指導員において、指導員が希望すれば、事業団との雇用契約がZに当然承継され、雇用契約を締結するとの合意があったと認められるような客観的な事情があったかについて検討する。
 Zは、平成28年12月19日、本件ルームの指導員を対象とした説明会において、指導員に対して契約説明書を配布しており、同説明書には多くの指導員に本件ルームでの勤務をお願いしたい旨の記載をしている。しかし、指導員において、平成29年4月1日以降、事業団で勤務するか、Zで働くかについて、自らの意思で任意に選択することができ、かつ、その意向表明も任意のものとされていたというべきである。また、Zにおいて、当然に事業団との雇用条件を引き継ぐとの説明をしたことはなく、現に、本件ルームの指導員との雇用契約締結までには、指導員から改めて履歴書の提出等を受けていた。
 以上のような事情に照らせば、Zは、本件ルームの指導員に対し、指導員が希望すれば、事業団との雇用契約が承継され、雇用契約を締結することを期待させるような言動をしていたとは認められず、Zと指導員との間で、事業団との雇用契約が承継され、雇用契約を締結することが合意されていたと認められるような客観的な事情があったとは認められない。

エ 最後に、ZがA1との間で、A1が希望すれば、事業団との雇用契約がZに当然承継され、雇用契約を締結するとの合意があったと認められるような客観的な事情があったかについて検討する。
 前記ウ説示のとおり、Zと本件ルームの指導員との間で、指導員が希望すれば、Zに当然に新規採用されることが合意されていたと認められるような客観的な事情があったとは認められない上、そもそも、A1は、本件採用拒否までの間に、Zに対し、Zで働きたいとの意向も示しておらず、ZとA1との間で、他の指導員と異なり、当然に雇用契約が承継されるかのような特別な期待を抱かせる言動があったとも認められないのであるから、ZとA1との間で、A1が希望すれば、事業団との雇用契約が当然承継されて雇用契約を締結されるとの合意があったと認められるような客観的な事情があったとは認められない。

オ 前記アからエまでにおいて説示したとおり、Zは、本件ルームにおける「のびのびルーム事業」を実施するに当たり、委託者である堺市との間においても、前の受託者である事業団との間においても、事業団が雇用している本件ルームの指導員の雇用の承継について何らの契約上及び事実上の義務を負っていなかったし、A1を含む本件ルームの指導員との間でも、事業団からZに対して当然に雇用の承継がされて、雇用契約が締結されると期待させるような言動をしていなかっただけでなく、A1は、本件採用拒否をされる以前に、Zに対して雇用契約締結の申入れさえしていないのであるから、本件採用拒否が、従前の雇用契約関係であるA1と事業団との雇用関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情があるということはできない。
 本件採用拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情が認められず、労組法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらない。

(2)以上のとおり、本件採用拒否は、Zが、A1が組合の組合員であることを理由としてされたものであるか否か検討するまでもなく、労組法7条1号本文にいう不利益な取扱いに当たらないというべきであるが、Zが本件採用拒否をした理由についても、次のとおり、Zが、A1が組合の組合員であることを理由として不利益な取扱いをしたとも未だ認めることができないというべきである。

ア Zは、本件採用拒否に先立ち、平成29年2月3日にも、A1に対し、A1を指導員として採用をしない旨を伝えているところ、それ以前に、Zにおいて、A1が、労働組合に所属していたことを認識していたことを窺わせるような事実は認められないし、平成28年12月19日に行われた本件ルームの指導員を対象とする説明会においても、A1を他の指導員と区別して取り扱ったような事実は何ら認められない。

イ そこで、Zが、平成29年2月3日、A1に対し、採用しない旨を伝えた経緯についてみるに、Zは、同月2日、B1、B2、子ども支援課の職員並びに保護者会役員のC5及びC6ら数名の保護者が出席した話合いの機会を設けたところ、保護者らは、Zに対し、本件ルームに勤務している指導員を継続して雇用することを求めるにとどまらず、指導員の雇用条件について要望・質問をするなどしたこと、子ども支援課職員は、同月3日、B2に対し、A1が、子ども支援課職員のいる前で、保護者に対し、Zとの雇用条件について話をしていたと伝えたこと、その直後に、B2は、A1に対し、採用をしない旨を伝えたことが認められるのであって、これらの事実からすれば、Zは、子ども支援課職員からの電話を受けて、A1が、Zと雇用条件について交渉中に、本件ルームの保護者を巻き込むような形でZとの交渉を進めようとしたと考え、その態度に不信感あるいは懸念をもって、A1を採用しない方針としたと考えるのが合理的である。

ウ そして、Zは、平成29年2月3日、子ども支援課課長から依頼を受けて、再度、A1と面談をすることにしたものの、同日夜には、保護者代表と称するC8から、A1を採用しないとの結論になった理由は何か、考え直す気はないのか等とA1を採用しないことについて問い質すような電話を受け、同月4日にも、C6から同様の電話を受けていたところ、A1から、同月7日、A1とZとの話合いに、組合の書記長及びC5を立ち会わせる旨を伝えられて、これに難色を示していたものと認めることができる。

エ このようなZとA1との労働条件交渉に関して平成29年2月2日から同月7日までの間にZに対してされた保護者の動き、そして、Zにとって、保護者は本件ルームのいわば顧客であって、Zが本件ルームを円滑に運営できるか否かについて影響力を持っていることに照らせば、A1がZとの労働契約締結及びその条件等の交渉に保護者を関与させることとなったとの事情が本件採用拒否の理由であるとのZの説明は何ら不自然不合理であるとはいえず、A1と保護者との距離を問題としたZの主張が、A1が組合の組合員であることを理由とするものであることを隠ぺいするための虚偽のものであるとは認められない。

(3)したがって、本件採用拒否が労組法7条1号本文の不当労働行為に当たるとはいえない。
 よって、争点①(本件採用拒否が労組法7条1号本文の不当労働行為に該当するかどうか)に関する組合の主張は、採用することができない。

2 争点② 本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に該当するかどうか
 A1とZは、雇用契約の締結には至っておらず、また、Zは、事業団に雇用された本件ルームの指導員について雇用関係を承継するものではないのであって、近い将来において労働契約関係が成立する可能性が現実的、具体的に存在していたということもいえない。
 したがって、本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に当たるとはいえない。
 よって、争点②(本件団交拒否が労組法7条2号の不当労働行為に該当するかどうか)に関する組合の主張は、採用することができない。

3 まとめ
 以上で検討したところによれば、本件採用拒否及び本件団交拒否はいずれも不当労働行為に当たらないから、組合の救済申立てを棄却した大阪府労委の命令を是認し、組合の再審査申立てを棄却した行政処分庁の命令は適法であるというべきである。

4 結論
 よって、組合の請求は理由がないから、これを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成29年(不)第25号 棄却 平成31年1月8日
中労委平成31年(不再)第2号 棄却 令和2年8月5日
東京高裁令和5年(行コ)第50号 棄却 令和5年7月20日
 
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