労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  名古屋高裁令和4年(行コ)第60号
不当労働行為救済命令取消請求各控訴事件 
控訴人・被控訴人(一審原告)  Xユニオン(「組合」) 
被控訴人・控訴人(一審被告)  愛知県(代表者兼処分行政庁 愛知県労働委員会) 
一審被告補助参加人(補助参加人1)  株式会社Z1(Z1会社) 
同(補助参加人2)  有限会社Z2(Z2会社) 
判決年月日  令和5年4月13日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、Z1会社及びZ2会社による次の各行為等が不当労働行為であるとして、組合から申立てがなされた事件である。
①Z1会社がA1組合員の給与から1万円を控除したこと
②Z1会社及びZ2会社による組合の組合員の昇給及び賞与に関する議題に係る団交の対応
③Z1会社が新聞記事の写しを掲示したこと
④Z1会社がA1組合員の定年退職後の再雇用を行わないことを組合に通告したこと
⑤Z1会社によるA1組合員の定年退職後の再雇用に関する議題に係る団交の対応
2 愛知県労委は、Z1会社及びZ2会社に対し、①の一部及び③について労組法第7条第3号並びに②及び⑤について同条第2号に該当する不当労働行為であるとして、文書の交付を命じ、その他の申立てを却下又は棄却した。
3 組合は、愛知県労委の命令のうち、組合の申立てを却下及び棄却した部分を不服として、名古屋地裁に行政訴訟を提起した。
 同地裁は、Z1会社が、A1組合員の平成30年5月分給与から1万円を控除したこと、平成30年4月に組合の組合員であったA1組合員、A2組合員及びA3元組合員に対して昇給を行わなかったこと、平成30年9月22日付け「ご連絡」と題する書面(組合上部団体と締結した労働協約を破棄する趣旨の通知)を送付したことの各事項に関する不当労働行為救済申立てを棄却した部分を取り消し、組合のその余の請求をいずれも棄却した。
4 組合及び愛知県労委は、これを不服として、それぞれ名古屋高裁に控訴したところ、同高裁は、各控訴をいずれも棄却した。
 
判決主文  1 一審原告及び一審被告の各控訴をいずれも棄却する。
2 原判決主文第1項を別紙1「更正目録」記載のとおり更正する。
3 一審原告の控訴費用は一審原告の、一審被告の控訴費用(当審における補助参加によって生じた費用は除く。)は一審被告の、当審における補助参加の費用は補助参加人らの、各負担とする。
(注)2は、氏名の誤字の更正
 
判決の要旨  1 当裁判所の判断は、原判決の「事実及び理由」中の第3、1から19までの記載を、当事者双方及び補助参加人らの当審における主張に対する判断を含め、次のとおり補正(略)して引用するとおりである。
(注)以下、関連補正部分を反映したもの。

2 ミラー等破損事故に係る2万円の控除について(争点1(5))

(1) ①Z1会社は、ミラー等破損事故の修理費用として2万6000円を支出し、A1組合員の平成30年5月分の給与から損害賠償額として1万円を控除したこと、②組合がこれに抗議し、Z1会社は、平成30年6月1日、A1組合員に対して1万円を返還したが、再び同年6月分の給与から損害賠償額として1万円を控除し、同年7月19日、再び1万円を返還したことが認められる。これらのうち、愛知県労委は、平成30年6月分給与からの1万円の控除については、不当労働行為であると認定したので、以下、平成30年5月分給与からの1万円の控除について検討する。

(2) Z1会社において、A1組合員の他に事故を起こして無事故手当の不支給又は損害賠償額として相当額の控除をされた従業員は平成30年度に少なくとも3人いたことに照らすと、平成30年5月分給与からの1万円の控除は、組合の組合員であることを理由とする取扱いであったとまでは認められない。
 もっとも、組合は、平成29年10月の控除に関し、給与からの一方的な控除は違法である旨指摘して控除分の支払を要求し、交渉の結果、同年12月26日、控除した1万円を返還した上で改めて弁済金を支払う旨合意が成立している。このことからすれば、Z1会社は、同時点において、組合との上記交渉等を経て、給与からの控除について労基法上の問題があることを認識し又は認識し得る状態であったことが認められる。
 そして、平成30年5月分給与からの1万円の控除は、平成29年10月分の控除を巡る紛争が解決してから半年も経過しないうちにされたものであるから、平成30年6月分給与からの1万円の控除と同様に、組合が交渉を通じて違法状態を是正しようと試み、その結果得た成果を軽視し、組合の弱体化を招くおそれのある支配介入行為であると認められる。

(3) Z1会社が、A1組合員の平成30年5月分給与から1万円を控除したことは、労組法7条3号の不当労働行為を構成すると認められ、これと結論を異にする本件命令の上記の事項に係る部分は違法とすべきである。


3 平成30年4月の昇給差別について(争点2(1))

(1) ①Z1会社は、平成30年4月、A1組合員、A2組合員及びA3元組合員に対し、昇給を行わなかったこと、②C1の組合員に対しては協定に基づき原則として500円から1500円の昇給を行ったことが認められ、組合間で昇給について異なる取扱いがされていることが認められるから、これが組合間差別であるか検討する。


(2) Z1会社の賃金規定19条は、「昇給額は、従業員の勤務成績等を考慮して各人ごとに決定する。」旨定めており、従業員に一律に昇給を認めることとはしていない上、Z1会社は、C1から平成30年2月頃、同年4月の昇給について団体交渉の申入れを受け、交渉の結果、C1との間で500円の昇給について協定を締結し、これに基づき原則としてC1の組合員(2名を除く。)に対して昇給を行ったものであるから、Z1会社とC1との交渉結果をもって、当然に、A1組合員らについても基本給の昇給を行うべきであるとはいえない。
 また、組合が平成30年4月前後に団体交渉を申し入れるなどしていたが明示的に賃上げや昇給について要求はしていなかったことに照らせば、Z1会社が自らC1との間で締結した協定に関する情報の提供や同一の条件を提示して交渉をすべきであったとまでは認められないから、組合と賃上げについて交渉せず、合意の形成に至らなかったことをZ1会社に帰責することはできない。


(3) もっとも、(ⅰ)Z1会社において4月1日の定期昇給以外の臨時の昇給は、「特別に必要がある場合」にのみ認められるところ(賃金規定19条)、A3元組合員は平成30年6月末頃に組合を脱退した直後の同年7月に臨時昇給を受けており、Z1会社が主張する組合脱退後に勤務態度が大幅に改善したという事情があるとしても、上記の臨時昇給をすべき特別の必要性があったことについては疑いが残るといわざるを得ない。このことに加え、脱退時期と昇給時期とが近接していることからすれば、A3元組合員について平成30年4月に昇給がなかったことは組合員であることを理由とするものであったことが推認される。
 また、(ⅱ)Z1会社の従業員は、平成30年4月時点でも約150名ないし160名程度いたものと推認されるところ、組合の組合員以外に昇給がなかった者はC1組合員2名を含む3名のみにとどまっている。
 さらに、(ⅲ)Z1会社の賃金規定19条は、「昇給は、毎年4月1日をもって、基本給について行うものとする。ただし、会社の業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、この限りはない。」としており、C1との間で上記協定を締結していることや上記(ⅱ)の昇給を受けた従業員数からすれば、会社の業績の低下等は組合の組合員らに昇給を認めないことの積極的な理由になるとはいえず、 (ⅳ)A1組合員、A2組合員及びA3元組合員について査定期間中に懲戒処分等を受けるなど勤務態度が不良であったことをうかがわせる証拠も見当たらない。
 加えて、(ⅴ)B1は、第4回団体交渉時、組合から昇給や賞与査定の前提となる経営状況について尋ねられた際、組合が平成28年に愛知県尾張県民事務所廃棄物対策課に対してZ1会社の事業場で産業廃棄物流出防止措置等が取られていないことを報告したせいで設備を整備するために多額の費用を要したなどと組合を嫌悪する発言をしていることが認められる。
 これらを併せ鑑みれば、Z1会社が、平成30年4月、A1組合員、A2組合員及びA3元組合員に対して昇給を行わなかったことは組合の組合員であることを理由とする不利益な取扱いである上、組合の弱体化を招くおそれのある支配介入行為であると認めるのが相当である。


(4) したがって、Z1会社が、平成30年4月、A1組合員、A2組合員及びA3元組合員に対して昇給を行わなかったことは労組法7条1号及び3号に違反するものであって、これと結論を異にする本件命令は違法とすべきである。


4 本件通告文書(平成30年9月22日付け「ご連絡」と題する書面)の送付について(争点4(2))

(1) Z1会社がした組合の上部団体A4組合A5支部に対する本件通告文書の送付は、A5支部の幹部・構成員の反社会的行動が明るみに出たことを理由として、同団体との取引関係を持たない旨を通知するものであり、Z1会社と組合との間で従前に取り交わされていた本件確認書(Z1会社と組合の上部団体A5支部との間で締結された、Z1会社は、2018年9月末日までに、A11地本の行う労働者供給事業の窓口を開き、少なくとも月1名13日以上の雇用を確保する等を内容とする平成30年3月19日付けの労働協約)を破棄する旨の意思の表明を含むものと認められる。
 使用者は、期間の定めのない労働協約を90日前の予告により一方的に解約することができるが(労組法15条3項、4項)、正当な理由なく不当労働行為意思に基づいてした場合、労働協約の解約は不当労働行為に該当するというべきである。そして、本件確認書は、Z1会社とA5支部との間で締結された労働協約に当たるから、Z1会社が本件通告文書を送付したことが不当労働行為に該当するか、以下検討する。


(2) 平成30年8月下旬以降、A5支部の複数の幹部が逮捕される状況にあったことが認められるが、本件通告文書が送付された同年9月22日時点において、逮捕に係る被疑事実についての有罪が確定していたこと等は証拠上明らかでない上、複数の幹部が逮捕された事実によっても、そのことのみから、組合員によって組織される団体たる労働組合自体が反社会的勢力であると評価するに足りる事情があるということはできない。
 また、本件確認書で合意された労働者供給事業の手続の期限が同年9月末までに迫っていたという事情が認められるものの、Z1会社は、A5支部の複数の幹部の逮捕に係る新聞記事の写しの掲示の後にされた第4回団体交渉において、労働協約の見直しについて組合に説明や交渉をした形跡はないばかりか、労働者供給事業の手続の進捗状況について組合に前向きに進められている旨説明している。
 これらのことからすれば、本件通告文書の送付は、本件確認書による合意やこれに基づく交渉の成果を正当な理由なく反故にするものであるといわざるを得ない。
 そして、本件確認書を取り交わすに至るまでの交渉は主に組合がしていたこと、組合の組合員は同時にA5支部にも加入していることは会社らも認識していたこと、Z1会社は、A5支部と組合とは同じ組織であると認識していたことに照らせば、本件通告文書の送付は、組合の上部団体に対し、同団体の幹部及び構成員が逮捕されたという事実をもってさらにその上部団体A4組合に対して通告の文書を送付したというものであるが、この本件通告文書が上記のように正当な理由なく本件確認書等を反故にするものであり、その効力が下部団体でもある組合にも及ぶといえるのであるから、組合の存在を軽視し、組合の弱体化を招くおそれのある支配介入行為というべきである。


(3) したがって、本件通告文書の送付は、組合に対する労組法7条3号の不当労働行為に該当すると認められ、これと結論を異にする本件命令の上記の事項に係る部分は、違法とすべきである。


5 以上によれば、本件命令の却下部分及び棄却部分のうち、主文第4項が、Z1会社について、A1組合員の平成30年5月分給与から1万円を控除したこと(争点1(5))、平成30年4月にA1組合員、A2組合員及びA3元組合員に対して昇給を行わなかったこと(争点2(1))並びに平成30年9月22日付け「ご連絡」と題する書面を送付したこと(争点4(2))の各事項に関する不当労働行為救済申立てを棄却した部分には違法があるが、その余の部分についてはこれらを取り消すべき違法があるとは認められない。
 したがって、組合の請求は、上記違法がある部分の取消しを求める限度で理由があるが、その余はいずれも理由がない。


6 結論

 原判決は相当であって、組合及び愛知県労委の各控訴はいずれも理由がないからこれらを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
愛知県労委平成30年(不)第7号 一部救済 令和2年11月24日
名古屋地裁令和2年(行ウ)第117号 一部取消 令和4年10月19日
最高裁令和5年(行ツ)第257号 上告棄却 令和5年10月11日
 
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