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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和4年(行コ)第265号
田中酸素(平成30団交拒否)不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  X株式会社(「会社」) 
被控訴人  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z組合(「組合」) 
判決年月日  令和5年2月15日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が平成31年賞与を議題とする団体交渉(以下「本件団交」という。)に応じないことは、労組法7条2号の不当労働行為であるとして、組合が、平成30年12月14日に山口県労委に対し、救済申立てをした事案である。
2 初審山口県労委は、代表取締役社長出席の上、誠実団交応諾、平成29年及び平成30年の売上げ、利益等を明記した資料の団体交渉における手交を命じ、その余の申立てを棄却する旨の命令を発した。
3 会社は、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、初審命令のうち、会社の団体交渉出席者及び団体交渉における手交資料について一部を変更する旨の命令を発した。
4 会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は会社の請求を棄却した。
5 会社は、これを不服として、東京高裁に控訴したところ、同高裁は、会社の控訴を棄却した。
 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨  1 当裁判所も、本件救済命令は適法であり、会社の請求は理由がないと判断する。
 その理由は、後記2において当審における当事者の主張に対する判断を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」の第3の1から5までに記載のとおりであるから、これを引用する。

2 当審における当事者の主張に対する判断

(1) 争点1(本件団交申入れに会社が応じなかったことが労組法7条2号所定の「正当な理由」のない団体交渉拒否に当たるか)について

 会社は、組合の執行委員長であるAが、平成29年2月22日の暴行(以下「本件暴行」という。)をB1社長によるでっち上げと主張して、これを組合機関紙に掲載し、不特定多数の者に流布したことについて、Aから謝罪等がなく、組合も、Aの上記主張等に同調していたことなどから、会社が本件団交申入れに応じなかったことには労組法7条2号所定の「正当な理由」があると主張する。

 しかし、使用者が、過去の団体交渉において労働組合の組合員による暴力的言動や有形力の行使があったことを前提として、それに対する謝罪を求め、将来において同様の対応をしない旨の保証がない限り当該労働組合との団体交渉を拒否するという対応をすることが許容される余地があるとしても、当該対応が正当な理由があるものとして不当労働行為を構成しないのは、労働組合の組合員が、団体交渉の席上その他労使間の折衝の場において、主体的ないし能動的に暴力的言動や有形力の行使を繰り返すなど、将来行われる団体交渉の場においても同様の暴力的言動や有形力が行使される高度の蓋然性が認められる場合に限られると解される。
 これを本件についてみると、本件暴行は、Aが、会社の本社建物内のトイレにおいて、B1社長からトイレの使用を禁じられたことに反発してされたものであること、平成17年から平成29年(Aによる本件暴行があった年)までの間に行われた多数回の団体交渉に至る経緯やその席上において、Aを含む組合側の出席者から会社側の出席者に対して暴力的言動や有形力の行使がされたことはなかったこと、本件暴行後、本件団交申入れまでの約1年8箇月の間にも、Aや組合の関係者がB1社長その他の会社関係者に対して暴力的言動や有形力を行使した形跡はないことなどからすると、本件団交申入れの時点で、将来行われる団体交渉の場において、組合の組合員が暴力的言動や有形力の行使に及ぶ高度の蓋然性があったとは認め難いから、会社が本件団交申入れに係る団体交渉を拒否したことについて「正当な理由」があったということはできない。
 したがって、会社の前記主張は採用することができない。


(2) 争点3(本件救済命令が採用した救済方法の適法性)のうち救済方法①(会社に対し、組合との団体交渉に応諾し、当該団体交渉にB1社長又はその議題について実質的交渉権限を有する者を出席させて誠実に対応することを命ずるもの)の適法性について

 会社は、平成21年協約の作成経緯及び同協約の文言からすれば、同協約における「会社及び組合の責任者は、決定権限を持つものとする。」等の規定は、団体交渉の場に出席して要旨が記載された書面に署名する双方の責任者は、交渉権限を有する者であり、協約は、その後、妥結権限ないし締結権原を有する双方の代表者の署名押印によって成立するという意味であるから、団体交渉の場で作成された合意文書について、後に会社代表者が拒否することがあることも予定されており、平成21年協約は、原判決説示のような内容を義務付けるものではないなどと主張する。

 しかし、平成21年協約に係る平成21年合意書の3項は、その②において「会社及び組合の責任者は、決定権限を持つものとする。」と定め、③において「議事録は団体交渉の場にて要旨を書面にして双方の責任者が署名する。」、④において「合意文書は団体交渉の場にて要旨を書面にして双方の責任者が署名する。」とそれぞれ定めていることからすれば、上記③及び④にいう「双方の責任者」とは、②における「会社及び組合の責任者」と同義であって、要するに、双方の「決定権限を持つ者」と解するのが自然であるし、また、④において、双方の代表者は、上記合意文書を「そのまま」成文化したものに対し署名押印することとされていることからしても、団体交渉の場に出席する双方の責任者は、議題について実質的に決定する権限がある者と解するのが相当である。
 したがって団体交渉の場において双方の責任者が合意して作成した文書(合意文書)について、後に会社代表者が拒否することがあることが予定されているなどと解することはできず、平成21年協約により、会社と組合は、両者間の団体交渉において、議題について実質的な決定権限を有する者を出席させることが義務付けられていたというべきであるから、会社の前記主張は採用することができない。


(3) 争点3(本件救済命令が採用した救済方法の適法性)のうち救済方法②(会社に対し、組合が提出を求めた資料の一部である平成29年及び平成30年の決算書のうち売上げ、利益、人件費及び賞与が記載された部分並びに平成29年及び平成30年の基本給の総支給額及び賞与支給人数を明記した資料(以下「決算書等」という。)を団体交渉の場で組合に手交することを命ずるもの)の適法性について

 会社は、平成21年協約では、決算書等の手交は合意されておらず、また、平成27年合意書は、B1社長の署名押印のある文書が作成されていないから、会社を拘束するものではなく、したがって、会社に決算書等の手交を命じる根拠はないから、本件救済命令の救済方法②は違法であると主張する。

 この点、確かに、平成21年協約では決算書等の手交は合意されておらず、これを合意した平成27年合意書にはB1社長の署名押印がないから、その効果は当然には会社に帰属せず、会社はこれに拘束されないのが原則である。
 しかし、会社は、平成21年協約の締結後、平成27年に至るまで、組合との団体交渉において、B1社長が出席せず、B2部長及びB3代理を団体交渉の担当者として出席させて交渉に当たらせていたことからすれば、組合は、B2部長らに平成21年協約にいう決定権限、すなわち議題についての実質的な決定権限があると信じて団体交渉をし、同人らとの間で、平成27年合意書の作成に至ったものと認められるから、会社が、後にB2部長らにそのような権限がなかったことを理由に平成27年合意書で合意された事項の履行を拒むことは、信義則に反し、許されないというべきである。
 したがって、平成27年合意書の内容に相当する労働協約が締結されていないことを踏まえても、同合意書の内容に沿って決算書等の手交を命じた中労委の判断に裁量権の逸脱又は濫用があるとは認められず、会社の前記主張は採用することができない。
 なお、会社は、会社が本件救済命令に応じて、決算書等を組合の組合員に交付したから、救済方法②を命じる利益はないと主張するが、本件救済命令後の事情が本件救済命令の違法性の有無に関する判断に影響しないことは、引用に係る原判決のとおりである。


3 結論

 以上によれば、会社の請求は理由がないからこれを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山口県労委平成30年(不)第1号 一部救済 令和元年8月22日
中労委令和元年(不再)第40号 一部変更 令和3年3月17日
東京地裁令和3年(行ウ)第186号 棄却 令和4年8月22日
最高裁令和5年(行ツ)第207号・令和5年(行ヒ)第225号 上告棄却・上告不受理 令和5年9月8日
 
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