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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和4年(行コ)第185号
田中酸素不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  X株式会社(「会社)」 
被控訴人  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  Z労働組合(「組合」) 
判決年月日  令和4年12月22日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、組合の組合員A1に、平成29年2月20日付けでG営業所への配置転換を命じたこと(以下「本件配置転換」という。)が、組合の組合員であることを理由とした不利益取扱い(労組法第7条第1号)の不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審山口県労委は、本件配転命令が労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる等として、会社に対し文書手交を命じ、その余の救済申立てを棄却する旨の命令を発したところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、初審命令の手交する文書の記載の一部を変更し、その余の申立てを棄却した。
4 会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
5 会社は、これを不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は、会社の控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は控訴人の負担とする。
 
判決の要旨   当裁判所も会社の請求を棄却するのが相当と判断する。その理由は、以下のとおり補正するほかは、原判決の「事実及び理由」の「第3 争点に対する判断」の1ないし5に記載のとおりであるから、これを引用する(注:本概要では、関連の補正内容を反映したものを記載)。

1 本件配置転換が不利益取扱いに当たるか
 A1は、本件配置転換により、16年余り勤務したF営業所を離れることを余儀なくされ、これに伴い、通勤時間・距離の増大という身体的負担及び有料道路の使用料や冬用タイヤの調達という経済的負担を余儀なくされたのであって、本件配置転換は、A1にとって不利益な取扱いに当たるものと認められる。
 会社においては、組合結成前のA1に対するものを除き、組合の組合員以外の従業員に対しては、事前に配置転換の打診をし、当該従業員の同意を得て配置転換を命ずる運用を行っており、同意を得られない従業員に対しては配置転換を命ずることをしていなかったところ、本件配置転換は、A1が、通勤時間の増加、自己車両の消耗、燃料代等の採算が取れないこと、親の高齢を理由に明確に拒否したにもかかわらず、実行されたものであり、同意を得ることなくなされたという点で従業員一般にとっても不利益な取扱いと認識されるものである。
 以上によれば、本件配置転換は、労働組合法7条1号にいう「不利益な取扱い」に当たるということができる。

2 本件配置転換は組合の組合員であるが故に行われたものか
 本件配置転換は、A1にとって不利益な取扱いであるばかりでなく、同意を得ることなくなされたという点で会社の従業員一般にとっても不利益な取扱いと認識されるものであるところ、E営業所の営業担当者を1名補充する業務上の必要性があったこと自体は認められるものの、他方において、本件配置転換の対象をA1とした人選過程には不透明な点もあり、他にも対象となり得る従業員が存在していたにもかかわらず、初めからA1ありきで選別されたものといわざるを得ないものである。
 その背景として、会社とA1が所属する組合の関係は極めて悪く、対立関係を一層悪化させており、会社は、組合に対する嫌悪の念を深めていたといわざるを得ない状況にあったところ、会社は、組合がA1の配置転換についてストライキを予告するなど強く反対していたことを認識しながら、組合に対する嫌悪の念からあえて本件配置転換を実行したものであり、その結果、F営業所では、本件配置転換後、組合に所属しないC3が労働者代表として選出され、速やかに36協定が締結されたことも考え併せると、本件配置転換は、A1が組合の組合員であることの故をもって行われた不利益な取扱いであると認められる。

3 当審における会社の補充主張について
(1)会社は、本件配置転換においても、転勤先への異動が余人をもっては容易に替え難いといった高度の必要性に限定することは相当ではなく、企業の合理的運営に寄与する点が認められる限りは、業務上の必要性を肯定すべきであるとし、その場合、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるなどの特別の事情の存する場合でない限り、当該配置転換は権利の濫用になるものではないとした上で、本件配置転換には、業務上の必要性が認められ、上記特別の事情は認められないから本件配置転換は労働組合法7条1号の不利益な取扱いに当たらないと主張する。
 しかし、労働組合法7条1号が労働組合の組合員であること等の故をもって行われる不利益な取扱いを不当労働行為として禁止しているのは、このような不利益な取扱いが労働者らによる組合活動一般を抑制ないし制約する効果を持つからであるところ、労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える程度に至らない不利益であっても、労働組合の組合員であること等の故をもって行われた場合には、組合活動一般を抑制ないし制約する効果を持つため、同号の不利益な取扱いに当たることもあり得るというべきである。
 そうすると、会社の上記主張は前提において失当というべきである。

(2)会社は、従業員全員の中からA1が「即戦力のベテラン社員」として選ばれたものであり、A1が組合の組合員であるが故に本件配置転換がなされたものではない旨を主張する。
 しかし、他にも対象となり得る従業員が存在していたにもかかわらず、配置転換を拒否していたA1が対象とされたものであり、その人選過程にも不透明な点もあったところ、会社は、組合との対立関係が一層悪化する中、組合に対する嫌悪の念からあえて本件配置転換を実行したものであるから、A1が組合の組合員であるが故に本件配置転換がなされたというべきである。

(3)会社は、本件配置転換が通常甘受すべき不利益の程度を超えるものではなく、A1の退職による事情の変更により本件救済命令の基礎が失われたとし、にもかかわらず命じられた本件救済命令は中労委に与えられた裁量権を濫用していると主張する。
 しかし、本件配置転換は、同意を得ることなくなされたという点で会社の従業員一般にとっても不利益な取扱いと認識されるものであったから、通常甘受すべき不利益を超えるものではないとはいい難いものである。会社と組合とは長きにわたり対立関係にあり、会社には、現在も組合の組合員が勤務しているのであるから、中労委において、会社によって不当労働行為が行われたことを確認し、今後同様の行為が繰り返されることを予防する措置が必要であるとして、会社に対して文書の手交を命じたことが、中労委に与えられた裁量権の濫用に当たるということはできない。

(4)したがって、会社の主張はいずれも採用することができない。

3 以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却する。
 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山口県労委平成29年(不)第1号 一部救済 平成30年7月26日
中労委平成30年(不再)第41号 一部変更・棄却 令和2年2月5日
東京地裁令和2年(行ウ)第105号 棄却 令和4年6月2日
最高裁令和5年(行ツ)第138号・令和5年(行ヒ)第144号 上告棄却・上告不受理 令和5年7月19日
 
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