労働委員会裁判例データベース

(この事件の全文情報は、このページの最後でご覧いただけます。)

[判例一覧に戻る]  [顛末情報]
概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和2年(行ウ)第105号
田中酸素不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X株式会社(「会社)」 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z労働組合(「組合」) 
判決年月日  令和4年6月2日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、組合の組合員A1(「A1」)に、平成29年2月20日付けでG営業所への配置転換を命じたこと(「本件配転命令」)が、組合の組合員であることを理由とした不利益取扱い(労組法第7条第1号)の不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件である。
2 初審山口県労委は、本件配転命令が労組法第7条第1号の不当労働行為に当たる等として、会社に対し文書手交を命じ、その余の救済申立てを棄却する旨の命令を発したところ、会社は、これを不服として再審査を申し立てた。
3 再審中労委は、初審命令の手交する文書の記載を一部変更し、その余の申立てを棄却した。
4 会社は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、会社の請求を棄却した。
 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた訴訟費用を含め、原告の負担とする。
 
判決の要旨  1 争点①(会社が参加人組合の組合員であるA1に対して本件配置転換を命じたことが労働組合法7条1号の不当労働行為に該当するか)について
(1) 判断枠組みについて
 労働組合法7条1号と使用者の配置転換に係る人事裁量権の行使が権利濫用法理による規制を受けることとは、趣旨・目的を異にするものであるから、配置転換命令が権利濫用になるか否かの判断基準を、直ちに労働組合法7条1号の不当労働行為の成否の判断基準として用いるのは相当ではない。
 そして、組合員に対して配置転換を命ずることが同号所定の不当労働行為に該当するかどうかは、企業の合理的運営の見地からする配置転換の必要性、人員選択の合理性と配置転換により当該従業員や所属する組合の被る不利益、使用者の反組合的意思の存否、程度等を総合的に考慮して判断すべきである(東京地裁平成元年6月14日判決、東京高裁平成2年2月21日判決、最高裁平成2年10月19日第二小法廷判決参照)。

(2) 本件配置転換が不利益取扱いに当たるか
 A1は、本件配置転換により、16年余り勤務したF営業所を離れることを余儀なくされ、これに伴い、通勤時間・距離の増大という身体的負担及び有料道路の使用料や冬用タイヤの調達という経済的負担を余儀なくされたのであって、本件配置転換は、A1にとって不利益な取扱いに当たるものと認められる。
 また、会社においては、通常、人員補充の必要性があったとしても、従業員の同意を得ない限り、当該従業員に対して配置転換を命ずることはなかったところ、本件配置転換は、A1が明確に拒否していたにもかかわらず行われたものであり、従業員一般にとっても不利益な取扱いと認識されるものである。
 以上によれば、本件配置転換は、労働組合法7条1号にいう「不利益な取扱い」に当たるということができる。

⑶ 本件配置転換は参加人組合の組合員であるが故に行われたものか
 会社は、36協定の締結をめぐって組合と対立している中で、F営業所に勤務する唯一の組合の組合員であり、労働者代表として36協定の締結交渉に関与していたA1に対し、その意に反して異動を命じたものであり、本件配置転換の翌月には、組合に属さないC3が労働者代表として選任されて36協定の締結に至っている。以上に加えて、本件配置転換について人選の合理性が認められないことや、会社は、組合との協議を十分に経ることなく、A1の配置転換については白紙になっているとした直後にA1に対して本件配置転換を命じた経過を併せ考慮すると、本件配置転換の目的は、会社が、F営業所において36協定を締結するために、その障害となっていたA1を排除することにあったものと推認され、A1が組合の組合員であるが故にされたものであると認めるのが相当である。

⑷ まとめ
 以上によれば、本件配置転換は、A1が参加人組合の組合であることの故をもって行われた不利益な取扱いであると認められ、労働組合法7条1号にいう不当労働行為に該当する。

2 争点②〔本件救済命令の救済措置の内容(会社に対して中労委救済命令による文書の手交を命ずること)が適法か〕について
 組合は、県労委に対し、救済申立てをしたところ、A1が会社を自己都合により退職したため本件救済申立ての内容のとおりの救済を図る必要性はなくなったものと認めることができる。
 他方、会社と組合との間では、複数回の不当労働行為救済申立てがされており、いずれも県労委が一部救済命令を発し、中労委への再審査申立てに発展し、その一部は更に行政訴訟に発展しているほか、A2及びA3が会社に対して地位確認等を求める民事訴訟を提起したなど、会社と組合とは長きにわたり対立関係にあるところ、会社には、現在も、組合の組合員2名が勤務していることが認められる。
 このような本件救済命令に至る経過、会社と組合との関係性、本件配置転換が従業員一般にとっても不利益な取扱いに当たること(前記1⑵)を総合考慮すると、中労委において、会社によって不当労働行為が行われたことを確認し、今後同様の行為が繰り返されることを予防する措置が必要であるとして、会社に対して文書の手交を命じたことが、救済命令制度の趣旨・目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって、中労委に与えられた裁量権の濫用にわたると認めることはできない。
 以上によれば、本件救済命令は、中労委の裁量権を逸脱する違法なものであるとはいえない。

3 まとめ
 以上で検討したところによれば、本件救済命令は、適法であるというべきである。
 
その他   

[先頭に戻る]

顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
山口県労委平成29年(不)第1号 一部救済 平成30年7月26日
中労委平成30年(不再)第41号 一部変更・棄却 令和2年2月5日
東京高裁令和4年(行コ)第185号 棄却 令和4年12月22日
最高裁令和5年(行ツ)第138号・令和5年(行ヒ)第144号 上告棄却・上告不受理 令和5年7月19日
 
[全文情報] この事件の全文情報は約473KByteあります。 また、PDF形式になっていますので、ご覧になるにはAdobe Reader(無料)のダウンロードが必要です。