概要情報
事件番号・通称事件名 |
東京高裁令和3年(行コ)第108号
昭和ホールディングス外2社不当労働行為救済命令一部取消請求控訴事件 |
控訴人兼被控訴人(一審原告) |
X1地方本部、X2組合(「組合」) |
被控訴人兼控訴人(一審被告) |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
一審被告補助参加人 |
Z1株式会社(会社Z1)、Z2株式会社(会社Z2)、株式会社Z3(会社Z3) |
判決年月日 |
令和4年1月27日 |
判決区分 |
一部取消 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、会社らが、平成27年に組合らが4回に渡って申し入れた、会社らの製造工場及び事務所用地の売却等に関する団交にいずれも応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事案である。
2 東京都労委は、不当労働行為に当たらないとして、救済申立てを棄却した。
3 組合らは、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、1回の団交申入れに応じなかったことについて不当労働行為に当たると認め、文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した(本件命令)。
4 組合らは、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合らの請求の一部(団交事項として記載された「柏工場土地約1万坪の譲渡にともなう雇用問題」に係る子会社2社(会社Z2及び会社Z3)の3団交拒否について救済申立てを棄却した部分)を認容し救済命令の一部を取り消し、その余の請求を棄却した。
5 組合及び中労委は、それぞれ中労委命令の取消し、東京地裁判決中の中労委の敗訴部分の取消し等を求めて東京高裁に控訴した。同高裁は、原判決中中労委の敗訴部分を取り消し、組合の控訴をいずれも棄却した。
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判決主文 |
1(1) 一審被告の控訴に基づき、原判決中一審被告の敗訴部分を取り消す。
(2) 上記取消部分に係る一審原告らの請求をいずれも棄却する。
2 一審原告らの控訴をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は第1、2審とも一審原告らの負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点(1)(補助参加人会社Z1の不当労働行為該当性)について
⑴雇用主以外の事業主であっても、集団的労使関係の一当事者となるべき者、すなわち、労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たると解するのが相当である(平成7年最判参照)。
⑵本件のような親子会社における親会社と子会社の従業員との関係について見るに、会社法上、親子会社は、親会社が子会社の経営を支配し、その財務及び事業方針の決定を支配する関係にあるとされている(2条3号、4号、同法施行規則3条1項、2項)。
しかし、その関係は、主として親会社が有する子会社の株主の議決権の割合に着目して規定されるものであり(同規則3条3項も参照)、また、子会社が独立性を持った法人である限り、子会社と第三者との関係性についてまで親会社が直ちに支配できるものではないから、子会社の従業員の労使関係の規制については会社法が想定するところではない。それゆえ、親会社に当たることから直ちに、子会社の従業員を構成員とする労働組合との労働協約の対象となる、子会社の従業員の基本的な労働条件等について、子会社と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあるということはできない。
⑶会社Z1は、本件各団交申入れ当時、子会社2社の全株式を保有する完全親会社で、会社Z1は、子会社2社の経営に対し、相当程度の影響力を有していたといえる。
しかしながら、子会社2社は、それぞれ会社Z1とは別法人として別個の異なる事業を行い、それぞれ取締役会を組織して企業活動の管理及び運営を行っていたものであり、会社Z1の役員を兼務している役員が同社の利益を優先させたような事情はないし、会社Z1の子会社2社の経営に対する関与が、子会社に対する経営戦略的観点から行う管理、監督の域を超え、その従業員を自己の指揮命令下で業務に従事させたり、その採用・配置や業務担当、勤務時間、待遇等を日常的に把握し、それらを左右したりするようなものであったことを窺わせる証拠はない。
子会社2社はそれぞれ独自の就業規則を持ち、各社内で個別に人事権が行使されていたとみることができるほか、本件会社分割以降,子会社4社(当時)合同で人事労務委員会を組織し、同委員会において、子会社4社の従業員の人事労務や団交に関する方針について相互に意見交換して共有するとともに、これを協議、決定するものとされていたのであり、春闘要求、夏季・冬季一時金等の労働条件に関する一審原告組合との団交は、上記人事労務委員会での協議、決定に基づき子会社2社合同で応じるなどしたこともあった。
これらの事情に照らすと、本件においては、会社Z1について、子会社2社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとは認められない。
⑷本件会社分割前に旧会社Z2が労組法7条の「使用者」であったからといって、本件会社分割後に会社Z1が同様の立場にあるということはできず、本件会社分割による状況の変化、とりわけ本件各団交申入れ時点における会社らの具体的事情を踏まえて判断すべきである。また、労組法7条の「使用者」は同条各号の適用の前提となるため、それを念頭に置いた上で、関連する諸事情を総合考慮して判断するのが相当であり、組合らが提示した団交のテーマのみによって、直ちに使用者性が判断されるものとはいえない。
したがって、組合らの上記主張を採用することはできない。
2 争点(2)(子会社2社の不当労働行為該当性)について
(1)8月27日付け団交申入れに係る団交事項についてみると、団交申入書に記載された団交事項そのものとしては 「別紙 『 雇用と賃金労働条件保障のための工場用地売却に伴う関連要求書』の要求事項と若干の質問について、会社はどう対応するのか回答し、その考え方等を示すこと」とされるにとどまり、関連要求書では本件土地売却によって入手する資金額や使途、事業用定期借地権設定契約の内容、本件土地上の工場の売却をしないこと等に関する説明や要求が多岐にわたり求められていたものである。
上記説明ないし要求事項そのものは、親会社である会社Z1が行った本件土地売却に関し、売却代金の使途等の説明や要求事項に沿った使用等を求めたり、所有者でもない子会社2社に不売却の約束を求めるなど子会社2社にとって処分ないし説明が可能なものということはできず、子会社 2 社との関係におい て、これが義務的団交事項に当たるということはできない。
(2)組合らは、本件3団交(8月27日付け、9月14日付け、9月24日付け)申入れは、8月18日付け団交申入れが拒否されたことから、同様の議題を団交の議題として申入れたもので、「柏工場土地約1万坪の譲渡に伴う雇用問題」を内包していたと主張する。
しかしながら、8月27日付け団交申入れに係る団交申入書及び関連要求書の記載は、会社らが8月18日付け団交申入れに応じないことから、会社Z1が公表した本件土地売却自体に関する一審原告組合の要求や疑問を具体化して団交事項とした上で、重ねて団交に応じるよう申し入れるものとなっているところ、同団交事項そのものが子会社2社との関係で義務的団交事項に当たらないことは上記(1)のとおりである。また、9月4日付け団交申入れ及び9月24日付け団交申入れについても、両申入れに係る書面には具体的な団交事項は記載されておらず、その間に行われた子会社2社との団交でのやり取りを踏まえても、従前と同様の主張を繰り返し、会社らに団交に応じるよう重ねて求めるものにとどまっている。
これらに照らすと、本件3団交申入れは、子会社2社との関係では、実質的には、8月18日付け団交申入れに応じることを重ねて求めるにとどまり、独立して団交の申入れをするものと評価することは相当でないというべきであるから、本件3団交申入れについて子会社2社の団交応諾義務を認めることはできない。したがって、子会社2社が本件3団交申入れを拒否したことが、労組法7条2号の不当労働行為に該当するとはいえない。
(3)また、本件3団交申入れについて、子会社2社に団交応諾義務を認めることはできないことは上記のとおりであるから、子会社2社が本件3団交申入れを拒否したことが一審原告組合に対する支配介入となるとは認められず、労組法7条3号の不当労働行為に該当するともいえない。
(4)したがって、労組法7条2号、3号についての中労委の判断に違法があるとは認められない。
3 争点(3)(救済方法に係る違法性)について
本件命令は、本件の経緯に照らし、本件命令の時点でこれをあえて団交において再度説明することに意味があるとはいい難いし、子会社2社は本件以外の労働条件に係る団交には応じていること、その他本件に現れた一切の事情を勘案し、8月18日付け団交申入れの応諾及び文書掲示を命じる必要性までは認められず、子会社2社に原判決の文書を交付させることが相当と判断したものであるが、会社Z1が本件公表書面を公表した以降の子会社2社の対応状況、本件の内容、その他本件に現れた諸事情を考慮しても、中労委に広い裁量権が与えられた趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたるとは認められない。
したがって、上記救済方法の選択についての中労委の判断に違法があるとは認められない。
4 結論
本件命令に違法があるとは認められず、組合らの請求はいずれも理由がないから棄却すべきところ、本件命令を一部取り消した原判決は失当であるから、中労委の控訴に基づき、原判決中中労委の敗訴部分を取り消した上、同取消部分に係る組合らの請求を棄却し、また、組合らの控訴はいずれも理由がないからこれを棄却する。
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その他 |
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