労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁令和元年(行ウ)第274号昭和ホールディングス外2社不当労働行為救済命令一部取消請求事件 
原告  X1地方本部、X2組合(「組合」) 
被告  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被告補助参加人  Z1株式会社(「会社Z1」)、株式会社Z2(「会社Z2」)、Z3株式会社(「会社Z3」) 
判決年月日  令和3年3月24日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社らが、組合らが4回に渡って申し入れた、会社らの製造工場及び事務所用地の売却等に関する団交にいずれも応じなかったことが、不当労働行為に当たるとして救済申立てがあった事案である。
2 東京都労委は、不当労働行為に当たらないとして、救済申立てを棄却した。
3 組合らは、これを不服として再審査を申し立てたところ、中労委は、1回の団交申入れに応じなかったことについて不当労働行為に当たると認め、文書交付を命じ、その余の申立てを棄却した。
4 組合らは、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、組合らの請求の一部を認容し、救済命令の一部を取り消し、その余の請求を棄却した。  
判決主文  1 中央労働委員会が平成29年(不再)第31号事件について平成30年11月21日付けでした命令の主文第2項中、被告補助参加人Z1株式会社及び同株式会社Z2について、別紙2記載の事項(「柏工場土地約1万坪の譲渡にともなう雇用問題」)に関する不当労働行為救済申立てを棄却した部分を取り消す。
2 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、補助参加によって生じた部分はこれを2分し、その1を原告らの、その余は被告補助参加人Z1株式会社及び同株式会社Z2の各負担とし、その余の費用はこれを2分し、その1を被告の、その余は原告らの各負担とする。 
判決の要旨  1 争点(1)(会社Z3の不当労働行為該当性)
(1)労組法7条の「使用者」の意義について、一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させるなどして、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定できる地位にある場合、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たる。同条の趣旨目的に鑑みれば、親子会社間において親会社の使用者性が問題となる場合であっても、これと異にして解すべき理由はない。
(2)ア 会社Z3は、会社分割等を経て子会社2社(会社Z1及び会社Z2)の持株会社となり、会社分割前の会社Z3と組合員を含む従業員との間の労働契約及びこれに付随する権利義務関係も、これにより子会社2社に承継された。したがって、各団交申入れ当時、組合員の雇用主はあくまで子会社2社であって、会社Z3ではない。また、会社Z3は、雇用主である子会社2社から労働者の派遣等を受けて自己の業務に従事させていたものでもなく、会社Z3が子会社2社の労働者に対して指揮命令権を行使していたと認めるべき事情も認められない。
イ 会社Z3は、各団交申入れ当時、子会社2社の全株式を保有する完全親会社で、子会社2社の代表取締役をはじめ、取締役の中には、会社Z3の役員を兼務していた者もいたから、会社Z3が、持株会社として、グループ全体の経営戦略や事業計画を策定して、子会社2社に対して経営指導を行っていたことにも照らせば、会社Z3は、子会社2社の経営につき相当程度の支配力を有していた。しかしながら、子会社2社は、それぞれ会社Z3とは別法人として別個の異なる事業を行い、それぞれ取締役会を組織して企業活動の管理及び運営を行っていたものであり、会社Z3の子会社2社の経営に対する関与も、各団交申入れ当時、子会社に対する経営戦略的観点から行う管理、監督の域を超え、その従業員の労働条件等につき雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定していたことを示す事実を認めるに足りる証拠はない。むしろ、子会社2社はそれぞれ独自の就業規則を持ち、各社内で個別に人事権が行使されていたとみることができるほか、会社分割以降、子会社4社(当時)が親会社たる会社Z3から独立して人事権を有することを前提に、子会社4社合同で人事労務委員会を組織し、同委員会において、子会社4社の従業員の人事労務や団交に関する方針について相互に意見交換して共有するとともに、これを協議、決定するものとされ、事実、春闘要求等の労働条件に関し、組合との団交は、上記委員会での協議、決定に基づき子会社2社合同で応じられ、その内容が決定されていたこともあった。
ウ そうすると、各団交申入れが、組合らの主張するように、いずれも本件土地売却に伴う雇用問題を議題として組合員の労働条件への具体的な影響の可能性を問う趣旨のものと解するにしても、子会社2社の従業員に関する人事労務管理が会社Z3とは独立して行われていたこと等も認められる本件で、会社Z3が、雇用主である子会社2社の労働者を自己の業務に従事させるなどし、子会社2社の従業員の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったということはできない。よって、会社Z3は、労組法7条の使用者に当たらず、各団交申入れに応じなかったからといって、同条2号、3号所定の不当労働行為に該当しない。
2 争点(2)(子会社2社の不当労働行為該当性)
(1)労組法7条2号は、使用者に労働者の団体の代表者との交渉を義務付けることにより、労働条件等に関する問題について労働者の団結力を背景とした交渉力を強化し労使対等の立場で行う自主的交渉による解決を促進し、もって労働者の団交権(憲法28条)を実質的に保障しようとする趣旨に出たもので、これに照らせば、義務的団交事項とは、団交を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇、当該団体と使用者との間の団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なものをいう。
(2)各団交申入れに係る団交事項についてみると、以下のとおりである。
ア 8月18日付け団交申入れに係る団交事項
 団交事項として記載された「柏工場土地約1万坪の譲渡にともなう雇用問題」は、それ自体としては包括的、抽象的ではあったが、少なくとも土地売却により工場等で勤務する子会社2社の従業員の処遇や勤務地等の労働条件等の影響の有無や程度等について説明を求めたものと解することができ、かかる団交事項は、雇用主であり、土地上の工場等に係る事業の主体でもある子会社2社にとって、その従業員の労働条件等に関するものとして、処分可能であり、説明が可能な事項であるといえるから、子会社2社との関係において義務的団交に当たる。
イ 本件3団交申入れに係る団交事項
(ア) 8月27日付け団交申入書に記載された団交事項そのものとしては、「別紙『雇用と賃金労働条件保障のための工場用地売却に伴う関連要求書』の要求事項と若干の質問について、会社はどう対応するのか回答し、その考え方等を示すこと」とされるにとどまり、関連要求書では、土地売却によって入手する資金額や使途、事業用定期借地権設定契約の内容、土地上の工場の売却をしないこと等に関する説明や要求が多岐にわたり求められていたものである。上記説明ないし要求事項そのものは、親会社である会社Z3が行った土地売却に関し、売却代金の使途等の説明や要求事項に沿った使用等を求めたり、所有者でもない子会社2社に不売却の約束を求めるなど子会社2社にとって処分ないし説明が可能なものということはできず、子会社2社との関係においてこれが義務的団交事項に当たらない。
(イ)しかしながら、子会社2社は、8月18日付け団交申入れに応諾せず、せいぜい翌19日にその団交事項に係る内容についての書面を従業員宛に公表したにとどまり、組合に対しては、8月18日付け団交申入れによる団交事項について一度たりとも正式に団交を行うことはなく、組合は、そうした会社らの対応に憤慨して重ねて8月27日付け団交申入れを行った。この間、組合が、8月18日付け団交申入れに係る団交事項について、これを労使間の協議事項として取り上げる意向を翻意したような事象があったとも特段認められない。むしろ、8月27日付け団交申入れに係る団交申入書の団交事項には8月18日付け団交申入れによる団交事項と相通じる「雇用と賃金労働条件保障のため」といった文言が付されていた上、その本文においては、8月18日付け団交申入れによる団交拒否に対して強く抗議するとともに同日付関連要求書を併せて提出し、重ねて団交を申し入れるなどと記載されており、8月18日付け団交申入れによる団交事項による説明がなされることを基礎に、これに加えて関連要求書による要求について説明ないし対応を求める趣旨のものであったことは明らかというべきである。そうすると、8月27日付け団交申入れの団交事項には、8月18日付け団交申入れによる団交事項も含まれていたと認めるのが相当である。
(ウ) 9月4日付け団交申入れや9月24日付け団交申入れも、会社らの団交不応諾について非難し、重ねて団交を申し入れる趣旨のものであるから、8月27日付け団交申入れの団交事項と同趣旨のものということができ、これと別異に解すべき事由も特段認められないから、同様、8月18日付け団交申入れによる団交事項も含まれていたと認めるのが相当である。
(エ)以上によれば、本件3団交申入れも、義務的団交事項に該当する。
(3)子会社2社が本件3団交申入れに応じなかったことは、義務的団交事項に応じなかったものとして組合らに対する労組法7条2号の不当労働行為に該当する。また、会社らと組合らは会社分割をめぐり複数の紛争を抱え、その労使関係は深刻な緊張状態にあった中で、8月18日付け団交申入れによる団交を拒む一方、従業員宛てとしてその団交事項に係る内容について書面での回答を行い、その後の本件3団交申入れにも何ら応諾しようとしなかったものであって、そのような対応は、殊更に組合らを無視し、組合員らやその他の従業員をして、その交渉力に疑念を生ぜしめ、労働組合を弱体化させるおそれのある対応というべきであり、子会社2社が本件3団交申入れを拒否したことは、同条3号の不当労働行為にも該当する。
3 争点(3) (救済方法に係る違法性)
(1) 労組法が、不当労働行為の禁止規定の実効性を担保するために、使用者の上記規定違反行為に対して労働委員会という行政機関による救済命令の方法を採用したのは、使用者による組合活動侵害行為によって生じた状態を上記命令によって直接是正することにより、正常な集団的労使関係秩序の迅速な回復、確保を図るとともに、使用者の多様な不当労働行為に対してあらかじめその是正措置の内容を具体的に特定しておくことが困難かつ不適当であるため、労使関係について専門的知識経験を有する労働委員会に対し、その裁量により、個々の事案に応じた適切な是正措置を決定し、これを命ずる権限をゆだねる趣旨と解されるから、このような労働委員会に広い裁量権を与えた趣旨に徴すると、訴訟において労働委員会の救済命令の内容の適法性が争われる場合においても、裁判所は、労働委員会の上記裁量権を尊重し、その行使が上記趣旨、目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められるものでない限り、当該命令を違法とすべきではない(最高裁判所昭和52年2月23日大法廷判決参照)。
(2) この点、本件命令は、本件の経緯に照らし、現時点でこれをあえて団交において再度説明することに意味があるとはいい難いし、子会社2社は本件以外の労働条件に係る団交には応じていること、その他本件に現れた一切の事情を勘案し、8月18日付け団交申入れの応諾及び文書掲示を命じる必要性までは認められず、会社に文書を交付させることが相当としたものである。確かに、子会社2社は、本件命令の後も、本件命令の判断に不服を申し立てていない8月18日付け団交申入れについてなお団交を開催していないが、本件命令時には本件各団交申入れに係る団交事項以外の団交には応じていたところであり、本件命令の確定に伴い上記団交に応諾することを見込んで、認定された不当労働行為につき、今後、これを繰り返すことのない意思を示す文書の交付にとどめることとしたとしても、その中労委の処分時(本件命令時)における判断は首肯し得ないものではなく、少なくとも、前記趣旨目的に照らして是認される範囲を超え、又は著しく不合理であって濫用にわたると認められず、かかる救済方法を選択した中労委の判断に違法があるということはできない。
4 結論
 以上によれば、本件命令のうち、子会社2社が、本件3団交申入れについて別紙2記載の事項につき団交を拒否した点について、組合らの救済申立てを棄却した部分には違法があるが、その余の点に違法があるとは認められない。したがって、本件請求は、上記限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却すべきである。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成27年(不)第90号 棄却 平成29年4月4日
中労委平成29年(不再)第31号 一部変更、一部救済 平成30年11月21日
東京高裁令和3年(行コ)第108号 棄却 令和4年1月27日
最高裁令4年(行ツ)第172号・令和4年(行ヒ)第179号 上告棄却・上告不受理 令和4年8月9日
 
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