労働委員会裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁令和2年(行コ)第13号
国際基督教大学再審査命令取消請求控訴事件 
控訴人  ユニオンX(「組合X」) 
被控訴人  国(処分行政庁 中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  学校法人Z大学(「法人Z」) 
判決年月日  令和2年6月10日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社Yに雇用され、法人Zから会社Yが受託した法人Zの設置す る大学の保安警備業務に従事していたAは、法人Zの女性職員に性的嫌がらせ行為を行った旨の苦情が法人Zから会社Yに寄せら れたことなどを理由として、会社Yから解雇された。申立外組合BがAの解雇撤回や謝罪を求める団体交渉を行い、Aが地位確認 訴訟を提起したところ、当該解雇は撤回されたが、職場復帰や謝罪等に関する団体交渉では合意に至らなかった。その後、Aは組 合Bに脱退届を提出し、組合Xに加入した。
2 組合Xは会社Yと法人Zに対し、Aの解雇に関する金銭解決や謝罪等に係る団体交渉を申し入れたが、会社YはAが労働組合 に二重加盟しているおそれがあり、交渉権限の調整・統一がされていないとして、また、法人ZはAの使用者に当たらないとし て、それぞれ団体交渉に応じなかった。
3 本件は、会社Yと法人Zが上記の団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件であ る。
4 東京都労委は、会社Yに対して、団体交渉を拒否したことには正当な理由がないとして、誠実に団体交渉に応じるよう命じた が、その余の組合Xの申立てを棄却し、また、法人Zに対してはAの解雇問題について法人Zは使用者には当たらないとして、組 合Xの申立てを棄却した。
5 これを不服として、組合Xは、会社Yと法人Zを被申立人として、また、会社Yは、組合Xを被申立人として、それぞれ再審 査申立てを行った。その後、会社Yは再審査申立てを取り下げ、また、組合Xは会社Yに対する再審査申立てを取り下げたことに より、組合Xの法人Zに対する再審査申立てのみが審査の対象となった。
6 中労委は、法人Zは使用者には当たらないと判断し、組合Xの再審査申立てを棄却したところ、組合Xは、これを不服とし て、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、組合Xの請求を棄却した。
7 組合Xは、これを不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は、組合Xの控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用(当審における補助参加に係る費用を含む。)は控訴人の負担とする。 
判決の要旨  1 当裁判所も、法人Zは、本件団交事項について労組法7条の「使 用者」であると認めることはできず、その余の点を判断するまでもなく、組合Xの請求は棄却されるべきと判断する。その理由 は、原判決を一部補正し、次項のとおり当審における組合Xの主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄 の第3の1及び2のとおりであるからこれを引用する。
2 当審における組合Xの主張に対する判断
(1)労組法7条の「使用者性」の判断枠組みについて
 組合Xは、法人Zが「使用者」であるというためには、法人Zが現実に会社YにA組合員の解雇を決定させたことまでは要せ ず、会社Yによる解雇の決定に支配力ないし影響力を及ぼすことができる地位にあれば足りる旨を主張するが、原判決は、単に法 人Zが実際に本件解雇を指示したか否かで結論を導いているものではなく、組合Xの主張は、原判決の内容を正解しないものとい わざるを得ず、採用できない。労組法7条の「使用者」に該当する者は、誠実に団体交渉に応じる義務を負い、これを拒否した場 合には、救済命令の名宛人となって、不当労働行為の責任主体として不当労働行為によって生じた状態を回復すべき公法上の義務 を負い、救済命令が裁判所の確定判決によって支持された場合に当該命令に違反した者には、刑事罰も科されるなどの点を考慮す ると、「使用者」の概念は不明確であってはならないと解すべきところ、労組法7条の「使用者」は、当該労働関係に実質的な支 配力ないし影響力を及ぼす地位にある者を指すとの組合Xの主張は、使用者の概念が弾力的に過ぎ、基本となる労働契約関係を離 れて外延が不明確となって、相当ではないというべきである。C2放送事件判決も雇用主を基本形としつつ、雇用主と部分的とは いえ同視できる者をその限りで使用者として取り扱うものと解される。
(2) 法人Zの使用者性に関する主張が信義則に反することについて
 名誉毀損行為をしたとされる者が、労組法7条の「使用者」に該当しようがしまいが、名誉毀損を受けた者と労組法上の団体交 渉に応ずるべきであり、これに応じないことが信義則上許されないことになるという組合Xの主張は、論理に飛躍があり、独自の 見解というべきものであって、採用できない。
(3) 原判決の法人Zの支配力に関する認定について
 原判決の各認定事実に照らせば、法人Zは、会社Yに対し、A組合員の勤務に対する何らかの依頼や苦情を伝えることはあった としても、それを超えてA組合員を解雇するよう指示したと認めることはできず、会社Yはあくまでも自らの判断で本件解雇に 至ったとみるのが相当である。法人Zは、平成16年当時は、組合Bの情宣活動に悩まされる状況にあったのであるから、自らが 本件解雇の指示を行ったとか自らに落ち度があると認識していない場合においても、本件解雇の問題を早期に解決するため金銭負 担を申し出たとしても不自然ではなく、副学長が平成16年5月や同年11月に、本件解雇に関して金銭負担に応じる用意がある 意向を示したことが、法人Zにおいて本件解雇に責任があることを認めたことにはならないというべきである。
(4) 法人ZとA組合員をはじめとする会社Yの警備員とが使用従属関係にあることについて
 法人Zの会社Yの警備員に対する指示等は、特別な警備体制をとる場合に行われたものや、個々の警備員ではなく会社Yに対し て契約に沿った警備業務の履行の要求を行うものにとどまり、法人Zが、A組合員の雇用の終了について現実的かつ具体的に支 配、決定をすることができる地位にあったとは認められない。
3 結論
 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく組合Xの請求には理由がなく、組合Xの請求を棄却するのが相当である ところ、これと同旨の原判決は相当であり、よって、本件控訴を棄却する。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成26年(不)79号 一部救済 平成28年9月6日
中労委平成28年(不再)第55号 棄却 平成29年11月15日
東京地裁平成30年(行ウ)第209号 棄却 令和元年12月16日
最高裁令和2年(行ツ)第244号・令和2年(行ヒ)第279号 上告棄却・上告不受理 令和3年1月19日
 
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