事件番号・通称事件名 |
東京地裁平成30年(行ウ)第209号
国際基督教大学再審査命令取消請求事件 |
原告 |
ユニオンX(「組合X」) |
被告 |
国(処分行政庁 中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
学校法人Z大学(「法人Z」) |
判決年月日 |
令和元年12月16日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 会社Yに雇用され、法人Zから会社Yが受託した保安警備業務に
従事していたAは、法人Zの女性職員に性的嫌がらせ行為を行った旨の苦情が法人Zから会社Yに寄せられたことなどを理由とし
て、会社Yから解雇された。申立外組合BがAの解雇撤回や謝罪を求める団体交渉を行い、Aが地位確認訴訟を提起したところ、
当該解雇は撤回されたが、職場復帰や謝罪等に関する団体交渉では合意に至らなかった。その後、Aは組合Bに脱退届を提出し、
組合Xに加入した。
2 組合Xは会社Yと法人Zに対し、Aの解雇に関する金銭解決や謝罪等に係る団体交渉を申し入れたが、会社YはAが労働組合
に二重加盟しているおそれがあり、交渉権限の調整・統一がされていないとして、また、法人ZはAの使用者に当たらないとし
て、それぞれ団体交渉に応じなかった。
3 本件は、会社Yと法人Zが上記の団体交渉に応じなかったことが不当労働行為に当たるとして、救済申立てがあった事件であ
る。
4 初審東京都労委は、会社Yに対して、団体交渉を拒否したことには正当な理由がないとして、誠実に団体交渉に応じるよう命
じたが、その余の組合Xの申立てを棄却し、また、法人Zに対してはAの解雇問題について法人Zは使用者には当たらないとし
て、組合Xの申立てを棄却した。
5 これを不服として、組合Xは、会社Yと法人Zを被申立人として、また、会社Yは、組合Xを被申立人として、それぞれ再審
査申立てを行った。その後、会社Yは再審査申立てを取り下げ、また、組合Xは会社Yに対する
再審査申立てを取り下げたことにより、組合Xの法人Zに対する再審査申立てのみが審査の対象となった。
6 中労委は、法人Zは使用者には当たらないと判断し、組合Xの再審査申立てを棄却したところ、組合Xは、これを不服とし
て、東京地裁に行政訴訟 を提起したが、同地裁は、組合Xの請求を棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1
争点(1)法人Zは、本件団交事項につき労組法7条の「使用者」に当たるか。
(1)労組法上の使用者性の判断枠組みについて
ア 一般に使用者とは労働契約上の雇用主をいうものであるが、労組法7条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為と
して排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主か
ら労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させその労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程
度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、その事業主は同条の使用者に当た
るものと解するのが相当である。
イ Aは、会社Yと法人Zとの間の業務委託契約に基づき、会社Yの従業員として、法人Zの設置する大学構内において保安警備
業務に従事していたものであり、法人ZはAの労働契約上の雇用主ではない。しかし、本件団交事項は、法人Zの室長Cの事実誤
認に関する謝罪、謝罪不可能であれば金銭解決、法人Zの使用者責任及びその関連事項等というものであったこと、組合Xが、C
の会社YのDに対する指示により本件解雇がされたと主張していることに照らせば、法人Zに対し、本件解雇についての謝罪又は
補償を求めることが主眼であると解される。また、本件団体交渉申入れ時においては、雇用主である会社Yが、Aに対し、本件解
雇を撤回して雇用契約上の地位があることを認め、別件判決に従って本件解雇後の未払賃金を支払っていたことからすれば、雇用
契約の採用、配置、雇用の終了といった雇用管理一般の問題は議題とされておらず、専ら雇用終了についての責任を議題とするも
のであったと認められる。そうすると、本件団交事項との関係において、法人ZがAの労組法7条の「使用者」であるというに
は、Aの雇用終了の決定について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していることが必要であり、かつ、
それで足りるというべきである。
(2) 法人ZのAの雇用終了についての支配力の有無
ア 法人ZがAの解雇について指示をした事実の有無について
組合Xは、法人Zから会社Yに対し本件解雇を行うよう指示したから、法人ZはAの雇用の終了の決定について雇用主と同視で
きる程度に支配力がある旨主張する。そこで、会社Yの主張する「大学構内で女性にセクハラを働くような警備会社のAはけしか
らん。そのような悪い芽は早く摘め。」などのCのDに対する発言の有無について検討すると、こうした発言があったとするDら
の陳述は、認められる事実からすれば、信用することができず、本件全証拠によっても、法人Zが、会社YにAの解雇を指示した
と認めることはできない。
イ 法人ZとAが使用従属関係にあるとの会社Yの主張について
会社Yの現場責在者であったDは、他の警備員同様、保安警備業務のローテーションに組み入れられていたから、他の警備員
への指揮命令を担当できたのか疑問が残る。また、入学試験や学園祭の開催時等の特別な警備体制をとる場合には、Cから警備員
に対して直接業務指示が行われることもあった事実が認められる。他方で、勤務表を法人Zが作成していた事実は認められない。
また、本件業務委託契約は、仕様書の保安警備業務内容明細表によって大学構内の保安警備業務に従事する警備員の人数・配置・
担当業務について詳細にその内容を定めたものであったから、法人Zが同表を会社Yに示してその内容どおりの業務を行うよう求
めることは、契約上の義務の履行の要求にほかならず、何ら警備員の保安警備業務に対する指揮命令と評価されるべきものではな
い。結論として、偽装請負の状態であったとする会社Yの主張は採用し難い。
そして、法人Zが、Aを始めとする警備員に対し、特別な警備体制をとるときに一時的に直接業務指示を行っていた実態があったとしても、それゆえに、法人Zが、Aの雇用終了
について、現実的かつ具体的な支配力を有すると認めることはできない。
ウ 小括
以上から、法人Zが、会社YにAの解雇を指示した事実は認めることはできない。本件解雇は、雇用主である会社Yの責任と判
断において決定、実行されたと認めるのが相当である。したがって、法人ZがAの雇用の終了について雇用主と同視できる程度に
現実的かつ具体的な支配力を有していると認めることはできない。
(3)
以上のとおり、法人Zは、Aの雇用終了について雇用主と同視できる程度の支配力を有しているとはいえないから、本件団交事項について労組法7条の「使用者」であると認める
ことはできない。
2 結論
そうすると、その余の点についで判断するまでもなく、本件命令に違法は認められず、組合Xの請求は理由がないのでこれを
棄却する。 |
その他 |
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