事件番号・通称事件名 |
東京地裁平成29年(行ウ)第167号
福岡教育大学不当労働行為救済命令取消請求事件 |
原告 |
国立大学法人X大学 |
被告 |
国(処分行政庁・中央労働委員会) |
被告補助参加人 |
Z教職員組合 |
判決年月日 |
平成29年12月13日 |
判決区分 |
棄却 |
重要度 |
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事件概要 |
1 本件は、法人が、①
A1教授ら組合員が行ったビラ配布(「本件ビラ配布」)を信用失墜行為であるなどと発言したこと(「本件学長発言」)及び同発言を法人のウェブサイトに掲載したこと(「本
件掲載」)、② A1教授を大学院教育学研究科長(「研究科長」)に任命しなかったこと(「本件任命拒否」)、③
A2教授を教育研究評議会評議員(「評議員」)に指名しなかったこと(「本件指名拒否」)、④
A2教授が主任を務める国際講座について、学長が自ら教員人事ヒアリング(「本件ヒアリング」)を行わず他の理事に行わせたこと等が不当労働行為に当たるとして救済申立て
があった事件である。
2 初審福岡県労委は、上記①ないし④は不当労働行為に当たると判断し、法人に対し、ウェブサイト上の本件掲載文書の一部削
除、文書手交及び学内イントラネットへの掲示を命じ、その余の救済申立てを棄却したところ、法人はこれを不服として、中労委
に対して再審査を申し立てた。
3 中労委は、初審命令を維持し、本件再審査申立てを棄却したところ、法人はこれを不服として、東京地裁に再審査命令の取消
しを求める行政訴訟を提起したが、同地裁は、法人の請求は理由がないことから、これを棄却した。 |
判決主文 |
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は、原告の負担とする。 |
判決の要旨 |
1 争点1(本件学長発言及び本件掲載の不当労働行為(労組法7条
3号)の成否)について
大学を代表し、その業務を総理する広範な権限を有する学長の大学運営方針は、組合員を含む労働者の処遇や労働条件にも影響
を与え得るものであるから、組合が推挙していた候補者が学長に選考されなかった結果を不服として、学長選考の再考を働きかけ
ることは組合の立場からすれば十分に理解できるものであり、その目的は正当であること、本件ビラの記載内容や表現態様は穏当
なものであって、労働組合の通常の情報宣伝活動の範囲内であり、本件ビラ配布の態様も大学の業務に支障を来したりする事情も
見られず社会的相当性の範囲内であることから、本件ビラ配布は正当な組合活動である。
本件学長発言及び本件掲載の内容をみると、学長はその広範な権限を有する立場において、正当な組合活動と評価される本件ビ
ラ配布を公然と非難した上で、同配布を行った関係者に対し、労働関係上の制裁ないし不利益措置を執ることも示唆し、これに
よって本件ビラ配布をはじめとする組合活動や運営を妨害し、萎縮させるなどして組合を弱体化させる恐れを生じさせている。こ
うした事実関係の下では、本件学長発言及び本件掲載は、使用者においても言論の自由を享有することを踏まえても、公正性、妥
当性等に関する配慮を欠き、労使関係の秩序を乱すものと評価され、支配介入の不当労働行為に当たるというべきである。
2 争点2(本件任命拒否の不当労働行為(労組法7条1号及び3号)の成否)について
学長が、A1教授が研究科教授会によって研究科長候補者として選出されたにもかかわらず、研究科長に任命しなかった本件任
命拒否により、研究科長就任に伴って得るはずであった職務上の権能や社会的評価を逸し、管理職手当の支給を受ける機会をも喪
失し、A1教授は職務上、精神上そして経済上の不利益を受けている。
法人は、本件任命拒否の理由として、本件ビラ配布は正当な組合活動に該当せず、A1教授が本件ビラの中で学長の存在そのも
のを否定した上で、国の大学改革方針に強く反対していることを挙げているが、前記1のとおり、本件ビラ配布は正当な組合活動
であり、また、本件ビラに記載されている学長選考の問題と大学改革推進の取り組みとは別問題であり、A1教授が本件ビラ配布
を行ったことをもって、研究科長としての適格性を欠くとはいえないことから、本件任命拒否に合理的理由は認められない。
本件任命拒否に至るまでの学長の言動等については、本件学長発言及び本件掲載は、上記1のとおり、本件ビラ配布という本件
組合の正当な活動を嫌悪する意思の存在を推認させるものであり、学長がA1教授との面談において、本件ビラ配布を行ったこと
につき非を認め、謝罪することを約束しない限り、研究科長の任命を拒否するという不利益取扱いをすることを表明したことから
も、組合の活動を嫌悪する意思の存在を推認できる。 また、研究科長の任命にかかる研究科長規程等の改正において、学長が教
授会の否決や評議会での反対意見を顧慮することなく、一方的に研究科教授会から研究科長の選考権限を剥奪し、学長が選考し任
命する旨の改正の手続を強行した上、本件改正によって合理的理由のない本件任命拒否に及んでおり、これらの言動は強固な組合
嫌悪の不当労働行為意思に基づく行為であると認められることから、法人はA1教授が組合員であることや本件ビラ配布という正
当な組合活動したことの故をもって、本件任命拒否という不利益取扱いをしたものであり、労組法7条1号の不当労働行為に該当
し、また、組合を弱体化し、組合活動を妨害したりするものであるから、同条3号の支配介入に当たる。
3 争点3(本件指名拒否の不当労働行為(労組法7条1号及び3号)の成否)について
学長が、A2教授が国際講座の講座主任を務めることが予定され、評議員候補者として推薦されながら、その指名を拒否したこ
とは、A2教授にとって職務上、精神上の不利益となる取扱いである。
法人は、本件指名拒否の理由として、A2教授が元筆頭理事兼副学長であったにもかかわらず、学長の大学経営方針への批判を
常日頃より展開し、学内会議においても会議を混乱させたり、会議を破壊したりする個人的要因にあるとしているが、それを認め
るに足る的確な証拠はない。また、法人は、A2教授が法人を被告とする未払賃金請求訴訟においてした意見陳述を指摘するが、
当該訴訟はその目的、手段、態様は社会的相当性を逸脱しておらず、そもそも訴訟における言動と評議会における発言とは目的や
性質が異なることから、訴訟における言動をもって評議員として不適切であると認めることはできないことから、本件指名拒否に
合理的理由は認められない。
本件指名拒否に至るまでの経緯の中で、未払賃金請求訴訟を通じて労使が対立する状況下にあって、A2教授は、平成25年
度、平成26年と続けて国際講座から評議員に推薦されたにもかかわらず、学長の意向を受けた理事が、いずれの年度もA2教授
が未払賃金請求訴訟の原告であることを理由として指名拒否を通告しており、このことは、それまで各講座から推薦された評議員
候補者が指名を拒否された例は存在しなかったことからも、本件指名拒否は、学長が組合の意を受けて未払賃金請求訴訟を追行す
るA2教授の活動を嫌悪する意思の存在を推認させる。
したがって、法人は、労使が対立する状況において、A2教授が国際講座から評議員に推薦されていたにもかかわらず、本件組
合の組合員であり、その意を受けて未払賃金請求訴訟の原告であることを理由として、差別的に、かつ合理的理由もなく、評議員
への指名を拒否したのであり、本件指名拒否は、本件組合を嫌悪する不当労働行為意思に基づきされたものと認められ、労組法7
条1号の不当労働行為に該当し、また、組合を弱体化し、組合活動を妨害したりするものであるから、同条3号の支配介入に当た
る。
4 争点4(学長が本件ヒアリングに対応しなかったことの不当労働行為(労組法7条1号及び3号)の成否)について
教員人事ヒアリングについては、学長が直接対応するのが通例であり、各講座にとって重要な意味を有する手続きであるとこ
ろ、通例に反してA2教授が主任を務める国際講座については、学長自ら対応せず、代わって他の理事に対応させたことは、国際
講座については直接学長から教員人事ヒアリングを受ける機会を奪うものといえ、A2教授の講座主任としての影響力を低下させ
るという職務上の不利益を被らせるものである。
法人は、学長が本件ヒアリングに対応しなかったことの理由として、A2教授が元筆頭理事兼副学長であったにもかかわらず、
学長の大学経営方針への批判を常日頃より展開し、学内会議においても会議を混乱させたり、会議を破壊したりする個人的要因に
あるとしているが、それを認めるに足る的確な証拠はない。また、法人は、A2教授が法人を被告とする未払賃金請求訴訟におい
てした意見陳述を指摘するが、訴訟と教員人事ヒアリングはその目的や性質が異なり、これをもって学長が直接人事ヒアリングを
しない合理的理由とはならない。
本件ヒアリングに至るまでの経緯の中で、未払賃金請求訴訟を通じて労使が対立する状況下にあって、法人が、平成25年度、
平成26年度の国際講座の教員人事ヒアリングにおいて学長が欠席した理由を、A2教授が未払賃金請求訴訟の原告であるとの説
明をしたことは、本件組合の意を受けて未払賃金請求訴訟を追行するA2教授の活動を嫌悪する意思の存在を推認させる。
したがって、法人は、労使が対立する状況において、A2教授が本件組合の意を受けて未払賃金請求訴訟を提起、追行している
ことを理由として、合理的理由もなく、本件ヒアリングに対応しなかったものであり、本件ヒアリングの不対応は、本件組合を嫌
悪する不当労働行為意思に基づきされたものと認められ、労組法7条1号の不当労働行為に該当し、また、組合を弱体化し、組合
活動を妨害したりするものであるから、同条3号の支配介入に当たる。
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