労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成28年(行コ)第316号
大阪大学(雇止め団交)不当労働行為救済命令取消請求控訴事件 
控訴人  X1労働組合(「組合」) 
被控訴人  国(裁決行政庁・中央労働委員会) 
被控訴人補助参加人  国立大学法人Z大学(「大学」) 
判決年月日  平成29年1月18日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、大学が、国立大学法人となる前から在職する非常勤職員(「本件非常勤職員」)について、当分の間、労働契約期間に上限を設けない旨の取扱いを定めた「当分の間規定」を廃止する旨の通知の内容に関し、組合との間で行った団体交渉おいて不誠実に対応し、その後の団体交渉を拒否したことが、不当労働行為であるとして、救済が申し立てられた事件である。
2 初審大阪府労委は、上記1の組合の救済申立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として中央労働委員会に再審査を申し立てたが、中労委は、組合の申立てを棄却した。
4 組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合の請求を棄却した。
5 組合は、これを不服として東京高裁に控訴したが、同高裁は組合の控訴を棄却した。  
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は、控訴人の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
 1 当裁判所も、原判決と同様、本件請求は理由がなく棄却すべきものと判断する。その理由は、下記2のとおり組合の当審における補充主張に対する判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」中の「第4 当裁判所の判断」に説示するとおりであるから、これを引用する。
 2 組合の当審における補充主張に対する判断
(1) 組合の主張は、要するに、契約の更新可能年数に制限のないことが本件就業規則の内容になっており、本件非常勤職員が期間の定めのない労働契約を締結した労働者と同様の地位にあること、本件が整理解雇に相当すること等を前提とするものと解される。
(2) まず、357号告示が平成15年のものであること、平成16年4月1日から大学は国立大学法人となったこと、及びZ大学では、上記法人化以前は、期限付き任用が繰り返されていた実態があったことからは、大学が、357号告示1条1項及び2項に基づき、本件就業規則に労働契約期間の上限を定めたという事実経過は自然である。また、大学が、他方で、急激な雇用制度の変化を避けるために運用上の経過措置として、本件就業規則2条2項ただし書に関する本件申合せを定めたとの認定も、自然で合理的なものである。したがって、大学が、組合ないし本件非常勤職員に対し、平成16年当時そのようなことを説明したか否かは別として、上記のような理由から本件申合せをしたとの前提事実に誤りはない。
  そして、357号告示4条が、当該契約を1回以上更新し、かつ、1年を超えて継続勤務している者に係る有期労働契約について、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない旨定めているとしても、そのことにより、上記認定が左右されるものではない。また、本件非常勤職員が期間の定めのない労働契約を締結したのと同様の地位にあると結論付けられるものでもない。
(3) 本件申合せは、その文言上、恒久的なものではなく、また、例外的なものであることが明らかである。
  そして、組合は、そのことを、本件就業規則の案を示された時から認識していたと認められる。すなわち、組合は、大学から、平成16年3月、本件申合せの案を提示された際、「当分の間」というのは恒久的なものではなく、大学はいつでも「当分の間」を終了させて契約の更新をしないことにできるとの認識を有し、本件就業規則2条2項ただし書が雇用期間を限定するものであるからこれを撤廃することを強く求め、また、本件就業規則制定直後からも、一貫して雇用期限の撤廃を求め、さらに、遅くとも平成18年10月以降、「当分の間」が終了すれば本件非常勤職員は契約の更新を拒否されるとの危惧ないし認識を示しつつ、当分の間規定の撤廃に反対している。
  以上のとおり、当分の間規定は、恒久的なものではなく、経過措置であることが明らかであり、そのことは組合も明確に認識していたものである。そうすると、本件就業規則2条2項ただし書に照らし、契約の更新可能年数に制限を設けないことが本件就業規則の内容になっていたとは認められず、また、それが労使慣行になっていたと認めるに足りる証拠もない。したがって、本件非常勤職員が、期間の定めのない労働契約を締結した労働者と同様な立場にあるとは認められない。なお、そのことについて、本件非常勤職員が合理的な期待を有していたとも認められない(参加者の側に、そのような期待を抱かせる言動もない。)。
(4) 以上からは、当分の間規定は、労働協約でも労使間合意でもなく、あくまで例外的な経過措置であり、それを撤廃することは、雇用期間の上限について本件就業規則の本則に従った運用に戻すことにほかならず、本件非常勤職員の労働契約の内容を変更するものではないこと、この経過措置の廃止を提案する時期について、本件は合理的であるなどとし、また、大学が必要な説明をして合意形成の可能性を模索していたと評価し、不誠実な対応はなかったとした原判決の説示は相当である。
(5) なお、大学が、組合に対し、特例職員の採用数について、職員の年齢構成のほか、財政状況の範囲内で行うとの答弁をしているとしても、そのことは、財政がひっ迫しているから本件非常勤職員の契約の更新には応じられないという趣旨の発言とは解されず、他に、当分の間規定の撤廃が財政上の理由に基づくものと認めるに足りる証拠はない。この点からも、大学が財政状況等について組合に対して説明しなかったことが不誠実な交渉態度であるとはいえない。
  また、原判決が説示するとおり、大学は、必ずしも組合の要求に譲歩すべき義務があるものではなく、譲歩せず同じ立場を維持し続けたとしても、それだけで誠意を持って団交に応ずべき義務の違反となるものではないのであって、特例職員制度に代替措置として一定の合理性があることも考慮すると、大学が本件団交時に特例職員の採用試験の準備を進めていたとしても、不誠実であるとはいえない。また、組合が、特例職員制度の導入を1年延期するとの提案をしていたとしても、それだけでは、本件非常勤職員と大学の法人化後に採用された非常勤職員の契約期間に関し、異なる取扱いの解消にとって有益な合理性のあるものとは認められないから、大学がこれを拒絶したことをもって、合意形成の可能性を模索する努力を当初から放棄していたと推認することはできない。
(6) 以上のとおりであるから、組合が主張するとおり、団体交渉が実質的に対等の立場で行われるべきものであり、そのためには、交渉議題に関する必要かつ十分な情報を労使双方が共有している必要があることなどを考慮するとしても、大学は、当分の間規定の撤廃やその代替措置としての特例職員制度の導入について実質的な理由を説明し、合意形成の可能性を模索して誠意を持って団交に当たっており、また、第4回団交を終えた時点で、それ以上協議を尽くしても交渉に進展が見られない状態になっていたと認められるのであるから、大学がそれ以降の団交を拒否したことには正当な理由があると認められる。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第56号 棄却 平成24年6月15日
中労委平成24年(不再)第34号 棄却 平成26年1月15日
東京地裁平成26年(行ウ)第401号 棄却 平成28年8月18日
最高裁平成29年(行ツ)第206号・平成29年(行ヒ)第233号 上告棄却・上告不受理 平成29年8月25日
 
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