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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成26年(行ウ)第401号
大阪大学(雇止め団交)不当労働行為救済命令取消請求事件 
原告  X労働組合(「組合」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
参加人  国立大学法人Z大学(「大学」) 
判決年月日  平成28年8月18日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、大学が、国立大学法人となる前から在職する非常勤職員(「本件非常勤職員」)について、当分の間、労働契約期間に上限を設けない旨の取扱いを定めた「当分の間規定」を廃止する旨の通知(「21.10.26 お知らせ」)の内容に関し、組合との間で行った団体交渉(「本件団交」)において不誠実に対応し、その後の団体交渉を拒否したことが、不当労働行為であるとして、救済が申し立てられた事件である。
2 初審大阪府労委は、上記1の組合の救済申立てを棄却した。
3 組合は、これを不服として中央労働委員会に再審査を申し立てたが、中労委は、組合の申立てを棄却した。
4 組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。  
判決の要旨  第4 当裁判所の判断
1 はじめに
  労働組合法7条2号は、使用者が団交をすることを正当な理由がなく拒むことを不当労働行為として禁止しているが、使用者が労働者の団体交渉権を尊重して誠意をもって団交に当たったとは認められないような場合も、同号に規定する不当労働行為となるものと解される。すなわち、使用者には、誠意をもって団交に応ずべき義務があり、具体的には、団交において、労働組合の要求や主張に対する自己の回答や反論の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどの誠実な対応を行うことを通じて合意達成の可能性を模索する義務がある。他方、当該義務の具体的内容は、交渉相手である労働組合の対応によっても変わりうる相対的なものであり、かつ、それは労働組合の要求に対し譲歩すべき義務ではない。したがって、使用者が譲歩せず、同じ立場を維持し続けたとしても、交渉相手に対し誠実に対応していたと認められる限り、誠意をもって団交に応ずべき義務の違反となるということはできない。そして、誠意をもって団交に応ずべき義務を尽くしても、交渉に進展が見られない場合には団交を拒否する正当な理由があるものと解するのが相当である(最高裁昭和52年(行ツ)第131号、第132号同53年11月24日判決・集民125号709頁参照)。
2 判断
(2) 以上の認定事実に加え、前提事実を踏まえると、次のとおり判断することができる。
ア 大学の対応
  大学は、第1回団交において、本件撤廃理由のほか、当分の間規定を撤廃することに伴い導入される特例職員制度及び勤続慰労金の支給並びに当分の間規定の撤廃時期について説明するのみならず、当分の間規定の撤廃は、非常勤職員間の異なる取扱いを解消させる趣旨で行われるものであり、財政悪化による人件費削減の趣旨ではないことも合わせて説明した。また、大学は、第2回団交では、「平成22年度第1回特例職員採用試験について」と題する書面を交付し、第4回団交においては、本件Q&Aを配布し、当分の間規定の撤廃及びその前提となる法的問題についての大学の見解やその具体的根拠を示している。本件Q&Aは、組合の立場からの意見・疑問点・質問事項をQとして設け、これに応える形で回答が記載されており、大学の見解を組合に理解してもらうための資料として適切な内容である。そして、大学の対応は、本件団交の全期間を通じ、当分の間規定を維持して本件非常勤職員全員を継続雇用することや特例職員制度を撤回することを求める組合の要求に対しては応ずることができないとするものであったが、新たに導入される特例職員制度についての組合が指摘した労働時間の増加や職務の変更に係る問題点については、特例職員が常勤職員と同じ身分となることを踏まえ、職務の変更は当然であり、介護休業制度や育児時間制度など既存の短時間勤務制度の利用可能性について言及している。これらの対応をみると、大学が、本件団交において、当分の間規定の撤廃について組合の理解を得るべく相応の努力を尽くしていたものと認められる。
イ 組合の対応
  組合は、第1回団交時において、特例職員制度についての疑問点を指摘していたものの、基本的に、本件非常勤職員について、当分の間規定の維持継続以外は、受け付けないという姿勢で一貫しており、当分の間規定の撤廃時期を平成27年3月末日よりも延長させるという立場も取る余地はないとの見解に立っていたことが認められる。組合は、大学による特例職員制度等の提案や本件Q&Aが示されていたにもかかわらず、第2回団交から第4回団交までの間、さらに具体的な質問をしたり、代替案を提案しようとしていたことを認めるに足りる証拠はない。当分の間規定の撤廃問題は、本件非常勤職員に対する本件就業規則の定める労働契約期間の上限の適用問題と表裏の関係にあるところ、組合は大学の法人化前から一貫して非常勤職員の労働契約期間の上限を定めることに反対しており、法人化後においても、組合と大学との間では本件就業規則の本件非常勤職員に対する適用について団交を重ねても何ら合意することができず、別件救済命令申立事件に至ったという経緯があることを踏まえると、本件団交においても、組合が自己の立場を変えることは考え難い状況にあったということができる。
  もとより、組合において、本件非常勤職員の労働契約上の地位や、当分の間規定の撤廃に必要とされる理由について、独自の見解に立って団交を行うことは何ら妨げられないが、大学は、もともと団交において譲歩する義務はなく、また、後記(3)のとおり、本件非常勤職員の法的地位や当分の間規定の撤廃に必要な理由に関する組合の主張には客観的にみて理由がない以上、大学が本件団交において、自己の立場を維持し続けたからといって、不誠実な対応をしたものと評価することはできない。
ウ 以上によれば、第4回団交の時点において、組合と大学との間では、既に大学が誠意をもって団交に応ずる義務を尽くしても交渉に進展がみられない状態に達していたというべきであるから、大学が第4回団交以降の団交の継続に応じなかったことには正当な理由があるというべきである。
(3)ア(ア) 組合は、本件非常勤職員が期間の定めのない労働契約を締結していた労働者と同様の地位にあることを前提に、本件就業規則の制定及び当分の間規定の撤廃は労働条件の不利益変更に該当するにもかかわらず、本件団交における大学の説明等が不十分であった旨主張する。しかしながら、別件訴訟における控訴審判決が述べるとおり、大学の法人化前の非常勤職員は、任用期間満了により当然に退職するものとして任用されていた期限付き任用の非常勤の国家公務員であり、その任用関係が、国家公務員法上、当然に期間の定めのない任用関係に転化することはない。また、大学の法人化に伴い、本件非常勤職員と大学との間では期間の定めのある労働契約が締結され、当該労働契約には、本件就業規則が適用される結果、本件非常勤職員は、労働契約期間の更新可能年数の上限が定められた有期労働契約を締結した労働者となるのであって、期間の定めのない労働契約を締結した労働者になるものではない。
(イ) この点、組合は、本件非常勤職員の労働契約が期間の定めのない労働契約(定年までの雇用保障)に転化している根拠として、i)平成18年11月1日のC3室員の発言、ii)雇用契約更新確認票に最長雇用期限が記載されていること、iii)本件非常勤職員は定年まで雇用されるとの認識であったことを挙げる。しかしながら、上記i)について、大学は、組合が主張する「65歳まで働ける」とのC3発言が「Z分会ニュース」に掲載されたことを踏まえ、平成18年12月5日付け文書により訂正を申し入れており、証人C1も、C3室員が「65歳まで働けるとは言いませんでした。」と証言しているのであるから、当該発言があった事実をにわかに認めることはできないし、仮に当該発言があったとしても、それだけで本件非常勤職員の有期労働契約が期間の定めのない労働契約に転化するわけではない。上記ii)について、大学が人事管理上作成していた書類に「最長雇用期限」との文言が記載されていたとしても、文理上、当該労働者の「最長」の雇用期限として、本件就業規則2条4項(更新上限可能年齢)の適用を受ける時期を記載したものと解されるから、この点も期間の定めのない労働契約に転化した根拠とはならない。上記iii)について、労働契約の一方当事者の認識だけで直ちに有期労働契約が期間の定めのない労働契約に転化するものではないから、結局、上記i)からiii)までは、いずれも本件非常勤職員が期間の定めのない労働契約を締結した労働者と同様の地位にあると認める根拠とはならない。
(ウ) したがって、組合の主張は、その前提を欠くものである。
イ 組合は、当分の間規定の撤廃は、労働条件の不利益変更に該当するとして、大学は、労働契約法10条及び整理解雇の要件に沿った説明をすべきであった旨主張する。しかしながら、当分の間規定の撤廃が、これにより本件非常勤職員の労働契約期間が不利益な影響を受けるという意味において、労働条件の不利益変更に該当するとしても、その撤廃に要求される理由は、当分の間規定の法的な性質や、本件非常勤職員の労働契約の内容に照らし、事案の実質に即して検討されるべき問題である。しかるところ、当分の間規定は、本件非常勤職員が本件就業規則の適用を受ける労働者であることを前提として、大学が、本件非常勤職員の労働条件の急激な変化を避けるため、本件就業規則2条2項ただし書の「大学が特に必要と認めた場合」の要件の解釈運用に係る役員会の申合せによって、「当分の間」、本件非常勤職員の労働契約期間の更新可能年数に制限を設けないこととしたものであるから、それ自体は、大学と組合との間の労働協約でもないし、本件非常勤職員の労働契約の内容として当事者間で合意されたものでもない。本件非常勤職員の労働契約の内容は、「大学が特に必要と認めた場合」以外は労働契約期間の更新可能年数の上限の定めが適用される有期労働契約であり、大学が特に必要と認めないときは、原則どおり、本件就業規則に定める更新可能年数の上限の定めが適用されることになり、労働者の同意も要件とされていない(このことは組合も理解していたものと認められる(「いつでも解雇する方針にかわりないことを暴露した。」、「この「当分の間」が終了とされれば、長期非常勤職員はたちまち契約更新拒否、つまり解雇にさらされます。」、「長期非常勤職員も「60才」の定年年齢まで働けるとは限らないのです。」)。)。
  すなわち、当分の間規定の撤廃問題は、あくまでも例外的な経過措置の趣旨でされた大学内部の役員会の申合せを撤廃して、就業規則上の原則(本件非常勤職員に係る有期労働契約にも更新可能年数の上限の定めを適用する。)に従った運用に戻すという問題であり、大学が必要と認めない限り就業規則所定の更新可能年数の上眼の定めが適用されるという本件非常勤職員の労働契約の内容そのものを変更するものではない。そして、その撤廃の提案が、法人化後採用された非常勤職員の労働契約期間の更新可能年数の上限である6年が経過しようとする時期にされたものであり、経過措置の廃止を提案する時期として合理的な期間内に行われていることにかんがみれば、その撤廃の理由としては、非常勤職員間の異なる取扱いの解消(本件撤廃理由)で足りるというべきであり、それを越えて、労働契約法10条及び整理解雇の要件を充足する必要があることを前提とする組合の上記主張は、採用することができない。
ウ 組合は、1時間しかとれない時間帯に団交を設定すること自体が誠実交渉義務及び平等取扱義務にも違反するとも主張するが、本件団交において、団交時間が足りないことによって団交に具体的な支障が生じたこと及び組合に対し差別的に取り扱ったことを認めるに足りる的確な証拠はなく、組合の主張は採用することができない。
エ 組合は、特例職員制度等は、雇用の安定に資する制度ではなく、本件非常勤職員にとって解雇を受け入れるに足りる代替措置であるということはできないから、大学が同制度の説明をしただけでは団交対応として不誠実であると主張する。しかしながら、本件非常勤職員は、当分の間規定の撤廃により、本来、法人化後に雇用された非常勤職員と同様に、期間満了により雇用契約が終了すべきところ、特例職員制度の採用試験に合格すれば、基本的には任期なしの常勤職員と同じ待遇になるのであるから、雇用の安定に資するものであり、当分の間規定を廃止することに伴う代替措置の内容として一定の合理性を有するものと認められる。また、当分の間規定の撤廃は、本件就業規則に定める労働契約期間の更新可能年数の上限を本件非常勤職員にも適用するもので、解雇ではない。したがって、当分の間規定の撤廃が、本件非常勤職員に対する解雇に該当することを前提とする組合の上記主張は、その前提においても採用することができない。
オ 組合は、当分の間規定の撤廃の真の理由は、人件費など財源の問題であると主張する。しかしながら、大学は、当分の間規定を撤廃する理由として、本件撤廃理由を説明しており、人件費や財源の問題を撤廃の理由として説明していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。したがって、大学が組合から特例職員を5年間採用する場合と長期非常勤職員全員を継続雇用する場合との各人件費総額を示す資料の提供を求められ、特例職員を5年間で何人採用するかは不分明であるとして、当該資料の提供をしなかったからといって、不誠実な対応をしたということはできない。
(4) 以上検討したとおり、本件団交において、大学は、当分の間規定の撤廃に関する自己の立場及び主張の理由について本件Q&Aを交付するなどして説明しており、組合の理解を得るための努力をして合意達成の可能性を模索していたものと評価することができる。他方、組合は、代替案の提案をすることもなく、本件非常勤職員の労働契約期間そのものを撤廃すべきであるとの法人化前からの主張を繰り返し、その主張の前提となる法的な見解は客観的にみて合理性がないものであったから、大学において、自己の立場を維持し続けたからといって、不誠実な対応をしていたということはできない。また、本件団交における組合及び大学の各主張内容や、本件団交以前からの組合と大学との対立の状況に照らすと、第4回団交の後において、交渉に進展がみられないとして、それ以降の団交の継続を拒否したことには正当な理由がある。したがって、本件団交において、大学に誠意をもって団交に応ずる義務の違反があったと認めることはできない。 
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成22年(不)第56号 棄却 平成24年6月15日
中労委平成24年(不再)第34号 棄却 平成26年1月15日
東京高裁平成28年(行コ)第316号 棄却 平成29年1月18日
最高裁平成29年(行ツ)第206号・平成29年(行ヒ)第233号 上告棄却・上告不受理 平成29年8月25日
 
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