労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京地裁平成27年(行ウ)第371号
関西宇部不当労働行為救済申立棄却命令取消請求事件 
原告  X1労働組合関西地区生コン支部(「組合」) 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  株式会社Z1(「会社」) 
判決年月日  平成28年4月14日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 組合が、①一時金の調整加算金の不支給による差別的取扱いの禁止及び平成22年12月15日以降の一時金の調整加算金の支払、②一時金、賃金の支給額についての誠実団体交渉応諾、③組合との合意のない一時金の減額及び夏季と冬季の支給配分変更の禁止、④平成22年度及び同23年度の一時金の減額分の支払、⑤組合との合意のない賃金減額の禁止及び平成23年7月分以降の賃金減額分の支払、⑥組合員の労働条件について組合員に対する個別交渉の禁止及び組合員の懲戒処分についての団体交渉応諾、⑦組合の副執行委員長が出席することを理由とした団体交渉拒否の禁止並びに副執行委員長の謝罪及び交渉担当者の変更を団体交渉開催の条件とすることの禁止、⑧平成21年度以降の福利厚生資金の支払並びに福利厚生資金の支給額及び支給方法についての誠実団体交渉応諾、⑨組合の事務所での団体交渉開催拒否の禁止、⑩組合の分会事務所及び掲示板の回復並びに分会事務所等の設置についての誠実団体交渉応諾、⑪謝罪文の掲示及び交付、⑫土曜日を含む休日の工場の稼働(以下「土曜稼働」という。)についての誠実団体交渉応諾を、救済内容として申し立てた事件である。
2 大阪府労委は、会社に対し、土曜稼働に係る団体交渉応諾(上記⑫)及び組合の副執行委員長の出席を理由とする団体交渉拒否等が不当労働行為であると認められたことに係る文書の組合への手交(上記⑦)を命じ、その余の申立てを棄却した。
3 会社及び組合は、これを不服として、中央労働委員会に、それぞれ再審査を申し立てた。中労委は、各再審査申立てをいずれも棄却した。
4 組合は、これを不服として東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は、組合の請求を棄却した。  
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)は原告の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(会社が、平成22年12月15日以降の一時金支結時に、組合の組合員に対し調整加算金を支給していないことは、組合員であるが故の不利益取扱いに当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるといえるか。)について
 組合は、会社が、平成22年12月15日以降の一時金支給時に、組合の組合員に対し、組合員であることを理由として調整加算金を支給してこなかった旨の主張をする。
 しかしながら、前記認定事実によれば、調整加算金については、Z3社及びZ2社当時から支給されており、支給条件を規程等として定める形式は整えられていないものの、会社は、Z2社から事業譲渡を受けた際、従前の調整加算金の内容をそのまま引き継ぎ、支給対象者に開する年齢要件に従って調整加算金を支給していたこと、A2組合員及びA3組合員は、平成19年度から平成22年12月15日までの間、いずれも当該年齢要件に該当せず、調整加算金を受けるべき対象者に当たらなかったため、調整加算金が支払われなかったこと、会社は、平成22年12月15日を最後に調整加算金の支給をやめており、以後は、組合員であるか否かにかかわらず、調整加算金を支給していないことが認められる。
 したがって、会社が、平成22年12月15日以降の一時金支給時に、組合の組合員に対し、組合員であることを理由として調整加算金を支給してこなかったと認めることはできず、他にこれを覆すに足りる証拠はない。
2 争点(2)(平成22年度冬季一時金及び平成23年度夏季一時金の減額に係る団体交渉における会社の対応は、不誠実であったといえるか。)について
(2) 団体交渉拒否等の該当性
ア 平成22年度冬季一時金について
 平成22年度冬季一時金の減額に係る団体交渉における会社の対応は、経営状況の苦しい中、一時金減額についての合意達成の可能性を模索しつつ、合意が達成できない場合でも、争いのない範囲で支払時期に冬季一時金の支払を行い、その後もさらに合意形成のための交渉を続けたものであるから、不誠実な対応ということはできず、実質的に団体交渉拒否に該当するということもできない。
イ 平成23年度夏季一時金について
 平成23年度夏季一時金減額に係る団体交渉における会社の対応は、団体交渉の過程で、当初行っていた一時金減額の提案を撤回したり、組合の求めに対し、決算報告の書面を提示するなど合意達成の可能性を模索するための相応の対応をしていたものというべきであるから、不誠実な対応ということはできず、実質的に団体交渉拒否に該当するということもできない。
(3) 19.4.4協定書について
 19.4.4協定書はいわゆる事前協議同意約款を定めた従前の協定書を変更したものであり、その文言に照らし、事前協議同意約款を定めたものと認めることはできないというべきである。なお、組合等と経営者会等との春闘の交渉の結果、年間一時金の支給額及び支給配分に関し、長年にわたり、同内容の協定が締結されたという事実(前記(1)ア)があったとしても、これは、毎年度交渉を行い、その結果が反映されたものにすぎず、年間一時金の支給額及び支給配分に関して確立した慣行があったとは認められない。
 以上によれば、19.4.4協定書が事前協議同意約款を定めたものであること又は組合と会社との間において事前協議同意約款と同様の慣行が確立していることを前提とした組合の主張は、いずれも採用することができない。
3 争点(3)(平成23年7月分から同24年3月分までの賃金の減額に係る団体交渉における会社の対応は、不誠実であったといえるか。)について
 平成23年度の賃金の減額に係る団体交渉における会社の対応は、組合に対し、賃金減額の必要性について具体的に説明し、団体交渉を重ねた後、賃金を減額する月数を平成23年7月分から平成24年3月分までに限る提案をするなど合意達成の可能性を模索するための相応の対応であったというべきであるから、不誠実な対応とはいうことはできず、実質的に団体交渉拒否に該当するということもできない。
4 争点(4)(補助参加人が平成21年度の福利厚生資金の支給をやめたこと及び平成22年度以降の支給額や支給方法を変更したことは、原告に対する支配介入に当たるといえるか。また、平成21年度以降の福利厚生資金に係る団体交渉における補助参加人の対応は、不誠実であったといえるか。)について
(1) 支配介入の該当性
 まず、前記2(1)ア、別紙2認定のとおり、平成13年度から平成20年度までの間、組合等と会社又はZ2社を含む経営者会との間において、組合員一人当たり年間10万円の福利厚生資金を支給する旨の協定が年度ごとに締結されていることが認められる。
 このことからすると、福利厚生資金については、結果的に各年度において同様の内容で妥結していたとしても、少なくとも会社において、各年度の春闘交渉や合意の有無を問わずに同様の支給をするという認識を有していたとは認められないから、組合主張の労使慣行が成立していたということはできない。
 また、会社が平成21年度の福利厚生資金の支給を取りやめ、平成22年度以降支給額や支給方法を変更した経緯についてみても、前記2(1)ウからオまでにおいて認定したとおり、①平成21年度においては、経営環境の大幅な悪化に伴い福利厚生資金の支給を取りやめたこと、②平成22年度から平成23年度においては、大幅な業績赤字に伴い特別会社の指定を受け経営再建中であること等を踏まえ、福利厚生に充てる金額を減額し、また、支給方法については、税務署からの指摘を踏まえて会社行事への一部補助として支出することとしたことが認められ、これらの経緯に照らすと、福利厚生資金の支給を取りやめたことや支給額及び支給方法の変更が、会社において組合を弱体化する意図のもとに行われたものと認めることはできない。
 したがって、福利厚生資金に関する会社の対応は、支配介入に該当するとは認められない。
(2) 団体交渉拒否等の該当性
 福利厚生資金に係る団体交渉における会社の対応は、合意達成の可能性を模索するための相応の対応であったというべきであり、不誠実な対応ということはできず、実質的に団体交渉拒否に該当するということもできない。
5 争点(5)(会社が、A3組合員に対し、同人の懲戒処分に係る弁明の機会について通知したことは、組合に対する支配介入に当たるといえるか。)について
 会社は、A3組合員への通知後、①23.9.27団交及び23.10.19団交において、23.9.22会社通知書について交渉を行っていること、②23.11.11会社通知書により、懲戒委員会開催の前に、組合が文書を提出する場合の提出期限を通知していること、③23.11.22会社通知書により、組合に誤解があるとして、A3組合員の懲戒委員会への出席を求めているわけではない旨、A3組合員の弁明を十分聴いた上で処分を検討したいと考えている旨を通知していることが、それぞれ認められる。本来、会社が就業規則の規定に基づく懲戒権を行使するに当たり、対象となる労働者に対し、弁明の機会を与えるための通知をすること自体は、懲戒のための手続保障の観点から適切な行為というべきであり、その所属する労働組合如何にかかわらず、行うことができる性質の行為である。本件において、A3組合員に対する懲戒権の行使そのものが不当労働行為となることを認めるに足りる主張立証はなく、組合が23.9.22会社通知書や23.11.11会社通知書の送付につきこれらが不当労働行為になる旨主張し、異なる見解をとる会社と対立していたことが認められるだけである。このような場合に、会社が懲戒権を行使するために必要な手続をとることは妨げられないというべきであり、上記の各通知が、それだけで組合の弱体化を図った行為であるとか、組合活動への介入行為であると認めることはできない。
6 争点(6) (会社が、21.5.8団交以降、組合の事務所での団体交渉開催に応じていないことは、労働組合法7条2号違反に当たるとともに、組合に対する支配介入に当たるといえるか。)について
(2) 団体交渉拒否の該当性
 会社は、団体交渉それ自体を拒否していたものではなく、会社の工場以外の中立的な場所での開催を提案し、組合が会場費用の発生しない組合の事務所での開催を要請すると、自ら費用を負担することとして会社の工場以外の中立的な場所において団体交渉を開催している。
 また、平成22年5月14日の組合の抗議行動が団体交渉中の行動ではないことを考慮しても、会社が組合の事務所以外での団体交渉開催を求めたことに全く理由がなかったとはいえず、組合の事務所での団体交渉開催に応じられない理由も具体的に説明している。
 したがって、会社が、21.5.8団交以降、組合の事務所での団体交渉開催に応じていないことは、正当な理由のない団体交渉拒否には当たらない。
(3) 支配介入の該当性
 組合が主張するように、21.5.8団交まで、会社の工場と組合の事務所とで交互に団体交渉を開催していた事実を認めるに足りる的確な証拠はないのみならず、前記(2)のとおり、会社が組合の事務所以外での団体交渉開催を求めたことには理由があり、かつ、会社は、団体交渉を中立的な場所で行うことも提案し、実際に自ら費用を負担して、公共施設において団体交渉を行うなどしていることが認められる。
 このような会社の対応にかんがみると、会社が、21.5.8団交以後、組合の事務所での団体交渉開催に応じていないことは、組合の弱体化を意図して行ったものとは認めることはできず、組合に対する支配介入の意思も認めがたいというべきである。
7 争点(7)(会社が、組合のX2分会事務所及び掲示板を撤去したことは、組合に対する支配介入に当たるといえるか。また、撤去に当たり、事前に組合に団体交渉を申し入れていないことは、労働組合法7条2号違反に当たるといえるか。)について
(2) 支配介入の該当性
 15.11.18協定書の解釈としては、同協定書に基づくX2分会事務所及び掲示板の貸与の定めは、分会が存在することを前提としたものであって、分会組合員が一人も存在しない状態になり、分会が消滅した場合においても、X2分会事務所及び掲示板を組合に貸与する義務を会社に負担させるものとは解されない。そして、X2分会事務所の明渡しと掲示板の撤去は、組合のX2分会長であったA1組合員が自らX2分会がなくなるとして行ったものであり、会社が働きかけて行わせたものではないという経緯を併せ考慮すると、本件におけるX2分会事務所の明渡しと掲示板の撤去につき、会社において、組合を弱体化させるという支配介入の意思があったとは認めることができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(3) 団体交渉拒否の該当性
 分会組合員が一人も存在しない状態になってもX2分会事務所の明渡しと掲示板の撤去には組合の同意が必要であることを裏付けるに足りる証拠はないし、本件におけるX2分会事務所の明渡し及び掲示板の撤去が、A1組合員の会社に対する申出及び鍵の返却により行われたという経緯に照らすと、事前に会社から団体交渉を申し入れなかったことが団体交渉拒否の不当労働行為となる余地はない。
 また、前記(1)イ認定のとおり、組合は、会社からA1組合員の脱退について確認を受けたとき及びその後の2回の団体交渉において、X2分会事務所の明渡し及び掲示板の撤去について言及していないのであり、会社が団体交渉を拒否した結果、X2分会事務所の明渡し及び掲示板の撤去についての団体交渉が行われなかったという関係は認められない。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
大阪府労委平成23年(不)第63号・24年(不)第51号 一部救済 平成25年10月15日
中労委平成25年(不再)第77号・第79号 棄却 平成27年1月21日
東京高裁平成28年(行コ)第187号 棄却 平成28年11月10日
最高裁平成29年(行ツ)第66号・平成29年(行ヒ)第65号 上告棄却・上告不受理 平成29年9月7日
 
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