労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成27年(行コ)第352号
中国・九州地方整備局不当労働行為再審査申立棄却命令取消請求控訴事件 
控訴人  X(「組合」) 
被控訴人  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
参加人  国 
判決年月日  平成28年2月25日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 組合は、公用車の管理及び運行に係る業務を国から受託していた事業者に雇用されていた組合員7名の雇用確保についての中国地方整備局長、九州地方整備局長等に対する団体交渉申入れを国が拒否したことについて、「労組法」7条2号の不当労働行為に当たるとして、広島県労働委員会に救済を申し立て、広島県労委は、国の行為を不当労働行為と判断して、申立てに係る救済の一部を認容する命令を発した。
2 国は、これを不服として中央労働委員会に対し再審査を申し立てたところ、中労委は、不当労働行為の成立を否定して本件初審命令を取り消し、これに係る組合の救済申立てを棄却する旨の命令をした。
3 組合は、これを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起したが、同地裁は組合の請求を棄却した。
4 組合は、これを不服として、東京高裁に控訴したが、同高裁は、組合の控訴を棄却した。 
判決主文  1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、本件団交拒否は、労組法7条2号の不当労働行為には該当せず、本件命令に違法はないから、組合の請求は理由がないと判断する。その理由は、2に当審における組合の主張に鑑み判断を付加するほかは、原判決の「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の1から5までに記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における組合の主張について
(1) 本件においては、労働組合である組合から団体交渉を申し入れられた国が、組合が代表する労働者である組合員7名の「使用者」(労組法7条2項)に該当することが必要である。労組法7条にいう「使用者」とは、一般に労働契約上の雇用主をいうものであるが、同条が団結権の侵害に当たる一定の行為を不当労働行為として排除、是正して正常な労使関係を回復することを目的としていることに鑑みると、雇用主以外の事業主であっても、雇用主から労働者の派遣を受けて自己の業務に従事させ、その労働者の基本的な労働条件等について、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にある場合には、その限りにおいて、上記事業主は同条の「使用者」に当たると解するのが相当である(前掲朝日放送事件最高裁判決参照)。そして、このことを敷えんするならば、同条の使用者は、労働者と雇用関係のある使用者のほか、例えば、上記最高裁判決が説示するところのように、当該労働者の基本的な労働条件等に対し、雇用主と部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している者のほか、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある者など、雇用関係に近似し、又は隣接する関係を基盤とする者がこれに当たるものである。その上で、直接の雇用関係のない派遣先等が「使用者」として団体交渉義務を負うのは、就労状況に照らし、雇用関係に近似した関係が成立していると認められる場合、すなわち、派遺先等が交渉事項について現実的、具体的な支配をしていると認められる場合、又は、雇用関係に隣接した関係が成立していると認められる場合、すなわち、近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性がある場合において、当該交渉事項に限って認められると解するべきである(以上は原判決と同旨である。)。
  組合は、支配力説及び裁判例から導かれる考え方とする見解から、本件へのあてはめを行って、国が労組法7条2項の「使用者」に該当する旨主張するが(前記当審における組合の主張(2)ア及びイ)、上記と異なる見解に基づくものであって、いずれの主張も採用することはできない。
(2) 組合は、原判決が、団体交渉事項を確定しないまま、国と組合員7名との関係の検討をして、運行先、運行時間及び業務内容等の労働条件以外の事項については、国が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとは認められないと判示したとして、検討手順が誤っていると主張する(前記組合の主張(1))。しかしながら、本件で判断すべきものは、組合の団体交渉事項が、本件において国が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる事項か否か、ということであり、当該事項を具体的に認定する説示がなくても、原判決は、上記支配、決定することができる事項の範囲を確定し、本件における団体交渉事項が組合員7名についての雇用に関する事項であると認識した上で、これが該当するかどうかを判断していることは、その叙述からも明らかである。したがって、この点の組合の批判は当たらない。
  また、組合は、団体交渉事項について、原判決の認定が不正確であるとして、「Cが落札できず仕事を失った結果、組合員らが解雇される羽目になったため、既に労働局の指導に基づいてなされていて然るべき是正措置(雇用の安定を図る措置)の履行」といった趣旨を付加すべきことを指摘するが、前記(1)の判断枠組みにおいては、団体交渉事項が、国が雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有している事項に含まれるかどうかの検討を行うのであって、組合が付加しようとする趣旨を考慮するものではないから、この点の指摘も当たらない。
(3) 以下では、組合の「原判決の判断基準に基づく場合」の主張(前記組合の主張(2)ウ)についてみることとする。
ア 「(ア) 基本的な労働条件等に関する現実的かつ具体的な支配力」について
(ア) 組合は、国が直接雇用するなり他社への就職斡旋等をするなりして組合員の雇用の安定を図ることは、Cの意思いかんにかかわらず、国自らにおいて処分、決定することができる事柄であると主張する。しかしながら、労組法7条の「使用者」については前記(1)のとおり解すべきであり、本件団交申入れに応ずべき義務があるか否かの判断においては、国が、当該事項について、雇用主であるCと部分的とはいえ同視できる程度に現実的かつ具体的な支配力を有していたか否かが問題なのであって、国は、組合員7名を雇用することないし雇用を継続させることについては、従前の経緯において、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定する地位にあったと認められないことは原判決の説示するとおりである。
(イ) また、組合は、国とCとの車両管理業務委託契約が、事実上、契約締結の有無が車両管理員の就職・失職に直結する制度となっており、車両管理業務委託契約において、国が最低人数なり常時管理すべき車両台数を指定することで、受託企業を従わせることができたから事実上の支配力を有していた旨の主張をする。しかし、原判決が認定するように、同契約には、雇用すべき人数を指定した定めはないこと、車両管理業務の仕様書中には車両管理員の最低人数等が記載されているものがあったが、それは仕様内容に沿う限り、どのような人材を何人まで雇用するかはCが自由に決めることができるものであったこと、組合員7名の採用、解雇についてはCが判断し、その判断について、国やその職員が関与していたような事情も認められないこと等の事実に照らせば、上記車両管理業務委託契約の内容や運用から、国が、組合員7名の雇用に関する事項について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定する地位にあったと認められないものである。
(ウ) さらに、組合は、一般競争入札の手続を実施するに際して、現に就労している労働者を優先的に雇用するなどの条件を付すこともできるから、国に裁量の余地がないとすることはできない旨の主張もする。しかし、従来の経緯から、国が、組合員7名の雇用に関する事項について、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定する地位にあったと認められないのは、前記(イ)と同様である。そして、原判決は、Cによる組合員7名の解雇は、同社が一般競争入札において落札することができなかったことを契機に行われているが、そうした落札できなかったという事態は、会計法令に基づく政府調達手続の結果であって、国による裁量の余地はなかった旨を述べているのであり、一般競争入礼の場合において組合員7名の雇用確保を図ることに関する国の裁量の有無を述べる説示ではないことが明らかであるから、組合の主張は、原判決の説示の意味を取り違えるものであり、失当である。
イ 「(イ) 近い将来において労働者と雇用関係が成立する現実的かつ具体的な可能性」について
(ア) 組合は、派遣先である国に、組合員らに対する直接雇用申込義務が発生していたと主張する。しかし、この主張は、派遣先が抵触日通知を受けたことが労働者派遣法40条の4の規定に基づく労働契約の申込義務の発生要件ではないことを前提とする主張であるが、法文に照らして、同条に基づく派遣先の労働契約の申込義務が派遣元からの抵触日通知なしに発生すると解することはできないことは、原判決の説示するとおりであるから、組合のこの点の主張を採用することはできない。
(イ) また、組合は、本件における労働局の行政指導には直接雇用の要請が含まれていたと主張するが、これも原判決の説示するように、各指導において、派遣先の派遣労働者に対する労働契約の申込義務についての規定を除外した上で、違法な派遣状態の是正を求めるものであるから、その記載に照らして、国による直接雇用の要請を含むものであったと解することはできないものである。
  したがって、国は、組合員7名との間で、近い将来において雇用関係の成立する可能性が現実的かつ具体的に存在する者とはいえない。
(4) 以上によれば、当審における組合の主張を検討しても、本件の団体交渉事項について、国が、雇用主と同視できる程度に現実的かつ具体的に支配、決定することができる地位にあったとはいえず、また、近い将来において雇用関係が成立する現実的かつ具体的可能性も認められないのであるから、国を労組法7条2号の使用者と認めることはできない。したがって、国は、相当長期間にわたって、公用車運転手の民間委託等の積極的推進という政府の方針を回避する目的であったとうかがえるCからの違法な労働者派遣を受け、労働局から、その是正のための措置として、労働者の雇用の安定を図るための措置を講ずることが指導されていたものであるから、そのような措置を講ずることの可能性や妥当性について、説明を尽くすことが望まれたといえなくはないが、本件命令が、本件団交申入れに応じなかったことについて、団交応諾義務自体の不存在を理由に不当労働行為に当らないと判断したことについては、違法はないというべきである。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
広労委平成21年(不)第6号・第7号 一部救済 平成23年6月24日
中労委平成23年(不再)第51号 一部変更 平成24年11月21日
東京地裁平成25年(行ウ)第337号 棄却 平成27年9月10日
最高裁平成28年(行ツ)第194号・平成28年(行ヒ)第213号 上告棄却・上告不受理 平成29年2月7日
 
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