労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件番号・通称事件名  東京高裁平成27年(行コ)第281号
中外臨床研究センター不当労働行為救済命令取消、不当労働行為再審査命令取消請求控訴事件 
控訴人(原審甲事件原告・原審乙事件被告補助参加人)  株式会社X2(「会社」)  
控訴人(原審甲事件被告補助参加人・原審乙事件原告)  X1労働組合(「組合」) 
被控訴人(原審甲事件被告・原審乙事件被告)  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
判決年月日  平成28年1月14日 
判決区分  棄却  
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が、①組合による組合員A1(以下「A1」という。)の雇用継続等を議題とする団体交渉(以下「団交」という。)の申入れに応じなかったこと、②A1に対して会社提示の雇用契約書に署名しなければ雇止めとなる旨を通知し、A1が上記署名をしなかったことを理由に雇止めをしたことがいずれも不当労働行為に該当するとして、東京都労働委員会(以下「都労委」という。)に救済申立てをしたところ、都労委は、上記①につき、不当労働行為該当性を認めて救済命令を発し、上記②につき、不当労働行為該当性を否定してこれに関する救済申立てを棄却した。これに対し、会社及び組合がそれぞれ中央労働委員会(以下「中労委」という。)に再審査申立てをしたところ、中労委は、上記各申立てをいずれも棄却した。
2 これを不服として、会社、組合とも東京地裁に行政訴訟を提起したが(会社は甲事件、組合は乙事件)、同地裁は、会社、組合の請求をいずれも棄却した。
3 これを不服として、会社、組合とも東京高裁に控訴したが、同高裁はいずれの控訴も棄却した。 
判決主文  1 本件各控訴をいずれも棄却する。
2 控訴費用は、控訴人会社の控訴により生じた費用は会社の負担とし、控訴人組合の控訴により生じた費用は組合の負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 当裁判所も、会社が組合の団交申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否(労組法7条2号)及び組合の運営に対する支配介入に当たり(同条3号)、会社がA1に対し6か月間の契約期間を定める雇用契約書に署名押印しなければ雇止めとなる旨を通知し、A1が上記署名押印をしなかったことを理由に、雇用契約期間満了をもってA1の雇止めをしたことは、A1の組合加入を理由とする不利益取扱い(同条1号)及び組合の運営に対する支配介入(同条3号)には該当しないから、控訴人らの各再審査申立てを棄却した本件命令に違法事由はなく、控訴人らの請求をいずれも棄却すべきものであり、また、組合には原審甲事件への補助参加の適格があると判断する。その理由は、原判決30頁12行目の「要求するに際し」を「要求するに際しても」と改め、後記2のとおり「当審における当事者の補充主張に対する判断」を加えるほかは、原判決の「事実及び理由」第3に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 当審における当事者の補充主張に対する判断
(1) 争点(1)(組合が労組法2条に適合する労働組合といえるか)に関する会社の補充主張について
ア 労組法2条の「労働者が主体的となって」とは、労働者が組合員の構成員の主要部分を占めること並びにそれらの労働者が組合の運営及び活動を主導することを意味すると解するのが相当であって、同条の文言及び趣旨目的、同法の他の規定の内容に照らしても、同条の「労働者が主体的となって」との文言を、会社の主張するように「使用者である会社との間で労働契約ないし使用従属関係にある労働者が主体となって」との意味に限定的に解すべき合理的理由を見出すことはできない。
  労組法2条が、労働組合の組合員の全員ないし過半数が特定の企業に使用される従業員であることを労働組合の要件としていないことは、同条の文言から明らかであるから、同条の「労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として」との要件や、「団体又はその連合団体」の要件についても、その意義を、会社の主張するように限定的に解することはできない。
  また、証拠及び弁論の全趣旨により認められる組合の発足の経緯、活動実態等に照らせば、組合に使用者の利益代表者が関与しているなど、組合が使用者からの独立性を欠いており、自主性の要件を満たしていないことをうかがわせる事情も認められない。
  したがって、会社の上記補充主張は、組合が労組法2条の要件を満たすとの原審の認定判断を左右するに足りないものというべきである。
イ そもそも、労組法1条は、労働者が経済上弱者であり、使用者との交渉において弱い立場にあることを前提として、「労働者が使用者との交渉において対等の立場に立つことを促進することにより労働者の地位を向上させること」を同法の根本的な目的と定めているのであり、会社の主張する上記事情は、上記の根本的な目的に抵触する事情とはいえないから、同主張は、採用することができない。組合のような合同労組についても、労組法2条及び5条2項の要件を満たす限り、労組法上の労働組合として労働組合運動の保障が与えられるべきであり、合同労組に対し労組法上の労働組合としての保護を与えるべきではないとの会社の上記主張は、合同労組への個人加盟が、労組法の予定しない加盟方式であり法的に疑義があるとの主張も含め、採用することができない。
(2) 争点(2)(会社がA1の雇用継続等を議題とする組合の団交申し入れに応じなかったことが、正当な理由のない団交拒否及び支配介入に該当するか)に関する会社の補充主張について
ア 正当な理由のない団交拒否に当たるかについて
(ア) 労働条件の維持改善を図るという労働組合の目的(労組法2条)や、労働者の地位の向上を図るという労組法の目的(労組法l条)に照らせば、個々の組合員の雇止めや更新後の契約条件等に関する個別的労働紛争の問題も、義務的団交事項に当たると解するのが相当であって、使用者が雇用契約を更新しない理由が当該労働者の業務実績に対する評価にあり、使用者に当該雇用契約を更新しないとの方針を団交によって変更する意思がないとしても、上記事項が団交による解決になじまず、団交を行う必要性、相当性がないなどと解することはできない。上記のように解さなければ、使用者は、団交による方針変更の意思がないと主張することによって、いかなる事項についても団交応諾義務を免れることが可能となり、相当でない。
  そして、原判決の「事実及び理由」第3の2(1)で説示するとおり、組合が申し入れた団交の議題は、平成21年12月31日で雇用契約期間が満了となるA1の雇用が継続されるかどうかという極めて重要かつ緊急を要する問題であったところ、前記前提となる事実(2)及び証拠(証人B1)により認められるB1部長の同月16日から同月29日までの業務の状況、取り分け、同月16日に会社の親会社(C1株式会社)の労政グループ担当者を交えて団交申入れに対する対応を協議し、同担当者から弁護士の紹介を受け、同月18日に弁護士事務所に赴いて団交申入れに対する対応を弁護士と協議し、組合の同月21日付け「回答書に対する要求書」への対応につき関係者と協議するなどの時間は捻出できていることなどに照らすと、会社において上記期間中、一度も団交に応じることができないほど業務繁忙であったとまでは認め難く、少なくとも、年内に団交を開催することができない理由について組合に真摯に説明する暇もないほどに業務が繁忙であったとは認められない。会社が組合の団交申入れに対し同月18日付けの回答書をもって業務多忙を理由に平成22年1月6日まで回答を猶予するよう申し入れたことが、上記議題に係る団交応諾に向けた誠意のある対応とはいえないとした原審の判断及びその基礎とした事実認定に誤りはなく、組合の上記主張は、上記判断を左右するに足りない。
(イ) 証拠によれば、B1部長は、会社の親会社(C1株式会社)の人事部において労政クループマネージャ-として様々な労使協議や団体交渉を担当した経験があり、同部に所属していた間に勉強会等で得た知識等から、いわゆる合同労組の存在を知っており、組合から団交申入れを受けた後は、自らインターネット検索等によって組合について調査を行ったことが認められる上、前記認定のとおり、B1部長は、平成21年12月18日以降、組合からの団交申入れに対する対応につき、弁護士から助言を受けていたものである。このようなB1部長の知識、経験や弁護士からの助言等に加えて、組合が同月16日の団交申入れの際、会社に交付した「団体交渉要求書」には、組合の所在地、名称、代表者である執行委員長の肩書及び氏名、団交の議題等が明記されていたことに照らすと、原判決の「事実及び理由」第3の2(2)で説示するとおり、遅くとも、会社が上記「団体交渉要求書」に対する回答を行った同月18日の時点では、会社ないしB1部長において、組合が、会社の従業員であるA1の加入する合同労組であり、会社の雇用する労働者の代表者として団交を求めていることは認識できていたものと認めるのが相当である。そして、前記2(1)で説示したところに照らせば、会社が主張する組合の法適合性について抱く疑いについては、いずれも理由がないものであり、組合が労働組合としての法適合性を欠くと疑うことが合理的であるといえるような事情はなかったと認めるのが相当である。したがって、平成22年1月5日以降、会社が組合に対し法適合性について釈明を求めたのに対し、組合がこれに応じなかったことを理由に会社が団交申入れに応じなかったことについては、正当な理由があるとはいえない。
  むしろ、会社が、A1の雇用契約期間が満了する平成21年12月31日までの間は、組合に対し、労働組合の法適合性についての疑義を示さず、A1の雇用契約期間が満了した平成22年1月以降、組合に対し労働組合として法適合性を有することを示すよう繰り返し求めるようになった経緯に照らすと、会社は、A1が会社の従業員であることに争いがない雇用契約期間満了日までは、業務繁忙との理由で団交申入れに対する対応を平成22年1月以降に先延ばしし、A1の雇用契約期間が満了するや、A1が会社の従業員の地位を失ったことにより組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」(労組法7条2号)に該当せず、会社には団交応諾義務はないとの見解を主張して、団交に応じないことを正当化する意図を有していたことが強く疑われる。
(ウ) 労働組合が団交に応じない使用者を団交を応じさせるための手段として街頭宣伝活動を行うことは、それが社会的相当性を超えて使用者や第三者の権利を不当に侵害するものでない限り、適法な労働組合活動というべきであり、使用者がこれによる信頼関係破壊を理由として団交を拒否することは許されないと解するのが相当である。前記前提となる事実(2)及び証拠によれば、組合の街宣活動は、会社が組合からの団交申入れに応じなかったために組合が都労委に対する救済申立てを行った後の平成21年12月28日に開始され、同日から平成22年4月16日までの間、7回にわたり、会社の始業時、昼休み又は終業時に、会社の社屋付近で、30分から1時間程度、7名ないし12名程度の組合員がビラを配るとともに、拡声器等を使用してA1の雇用問題に関する主張を訴えるというものであって、ビラの記載内容も「X2は、契約社員の不当な雇止めをやめよ!団交拒否を許さないぞ!l2月25日、会社の不当労働行為を労働委員会に提訴しました!」などと題し、主として、会社が組合の団交申入れに応じない事実及び会社がA1に対し雇止めを通告した事実等を記載し、併せて、会社のこれらの行為が不当労働行為に当たるなどの組合の意見を記載するものであったことが認められる。
  上記認定事実に照らせば、組合の街宣活動は、団交に応じようとしない会社を団交を応じさせるための手段として行われたものであり、かつ、適法な労働組合活動の範囲内のものと認められるから、会社が、上記街宣活動による信頼関係破壞を理由に団交に応じないことを正当化することは許されないというべきである。
(エ) 従業員がその地位の喪失を争い、その主張が容れられたときには、その者は引き続き従業員たる地位を有することになるのであるから、その者は、上記争いが最終的に解決するまでは、労組法7条2号の関係ではなお「使用者が雇用する労働者」に当たると解するのが相当であり、このことは、当該従業員が有期雇用契約により雇用されていた者であって雇止めを争っている場合においても同様と解すべきである。
  原審認定事実のとおり、A1は、組合が最初に団交の申入れをした平成21年12月16日の時点において会社の従業員の地位にあり、組合は、同日以降、A1の雇止めを争って会社に団交を求め続け、同月25日には、会社の正当な理由のない団交拒否等及びA1に対する組合加入を理由とする不利益取扱い等につき都労委に救済申立てをし、A1も、平成24年1月16日、会社を被告として、会社の従業員たる地位の確認を求める訴訟を提起し、同訴訟は、中労委の再審査終結時まで係属していたものである。そうすると、A1及び組合が展止めの効力を争い、A1の雇用継続の問題につき団交による解決を図ろうとする状態は、雇用契約期間が満了した平成21年12月31日以降も、少なくとも中労委の再審査終結時まで続いていたといえるから、労組法7条2号の関係では、A1は、この間もなお、会社が雇用する労働者に当たると解されるのであって、組合がこの間に申し入れたA1の雇用継続問題に関する団交については、会社は、組合が「使用者が雇用する労働者の代表者」に該当しないとの理由でこれを拒否することはできないというべきである。
イ 支配介入に当たるかについて
 前記認定事実によれば、会社は、平成21年12月24日の面談の際、A1から、同人の雇用問題については組合を通してほしいと求められたにもかかわらず(前記前提となる事実(2)ウ)、その後も、組合との団交の開催を一切拒む姿勢を取っていたのであるから、その対応は、組合の存在を殊更に無視するものであったといえる。会社の上記対応は、組合の団結権を否認するものであり、また、組合の交渉力に対する組合員の信頼を損なうものということができ、組合の弱体化を招来するものといえるから、労組法7条3号の支配介入に当たると評価するのが相当であり、会社の上記主張は、上記判断を左右するに足りない。
(3) 争点(3)(会社がA1に対して会社提示の雇用契約書に署名押印しなければ雇止めになる旨を通知し、A1が上記署名押印をしなかったことを理由に雇止めをしたことが、不利益取扱い及び支配介入に該当するか)に関する組合の補充主張について
ア 組合の事実誤認の主張について
 確かに、A1は、再審査の第2回審問において、平成21年12月3日及び同月9日は、会社から、同月末日をもって雇止めとするとの通告を受けていないと証言している。
  しかしながら、A1は、上記審問において、同月3日の面談の際、B1部長らから、来期の契約は、今までどおりの契約とするのが難しい、今後の期間は半年間とすることにし、転職をするように告けられたとも証言し、陳述書においても、同日の面談の際、B1部長及びB2部長から、業務実績が乏しく、仕事のパフォーマンスなどを考慮した結果、来期の契約更新は難しい、半年だけ契約を結び、その間に転職活動をするよう勧められた旨陳述し、初審の第1回審問及び第2回審問においても同旨の証言をしている。
  B1部長らの上記発言内容によれば、A1が6か月間の雇用契約の締結に応じない場合には同月末日に雇用契約期間が満了することになるのであるから、上記発言は、実質的には、A1が6か月間の雇用契約の締結に応じなければ、同月末日に雇止めになることを告げるに等しいものということができ、A1の上記証言及び陳述によっても、同月3日の面談において、B1部長らがA1に対し、雇用契約期間を6か月とする雇用契約の締結に応じないのであれば、同月末日に雇止めになるとの趣旨を伝えたとの事実を認めることができる。
  したがって、上記の点において、A1の上記証言等とB1部長の証言等との間に食い違いはないというべきであって、原審が、これらの証言等に基づいて、A1の組合加入前の同月3日及び同月9日、B1部長がA1に対し、同月31日の契約期間満了をもって次期雇用契約の更新をしない方向であるが、A1において希望すれば、再就職先を探すための期間として6か月間のみ雇用契約を更新し、上記雇用契約期間が満了した場合は確実に雇止めとする旨を通知したと認定したことに誤りはない。組合の事実誤認の主張は、上記認定を左右しない。
イ 原審の労組法7条1号及び3号の解釈適用の誤りをいう組合の補充主張について
 上記アで認定したとおり、会社は、A1が組合に加入する前の平成21年12月3日及び同月9日に、A1に対し、A1が6か月間のみの雇用契約の更新を希望しないのであれば、同月末日をもって雇止めとすることを告知していたのであるから、A1が6か月間のみの雇用契約の更新を希望しないのであれば、同月末日をもってA1を雇止めとするとの会社の決定は、単なる会社の内部事情ではなく、A1に表示された方針であって、これを会社の内部事情であるとする組合の主張は、前提を欠くものというべきである。
  そして、原判決の「事実及び理由」第3の3(1)及び(2)の認定のとおり、会社は、平成21年12月24日、A1に対し、A1の組合加入前からA1に示していた上記方針を再度告げたが、A1が6か月間のみの雇用契約の更新を希望しなかったため、上記方針に基づいて、同月末日の雇用契約期間満了をもってA1を雇止めとしたものであって、会社のこれらの行為は、A1が組合の組合員かどうかに関わりなく行われたものであるから、A1の組合加入を理由とする不利益取扱い(労組法7条1号)に当たらず、組合の組合員の団結権を侵害するものでもないから、組合の運営に対する支配介入(同条3号)にも当たらないというべきである。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成21年(不)第117号 一部救済 平成23年5月10日
中労委平成23年(不再)第44・45号 棄却 平成25年1月16日
東京地裁平成25年(行ウ)第135号(甲事件)、(行ウ)第359号(乙事件)  棄却 平成27年7月10日
最高裁平成28年(行ツ)第169号・平成28年(行ヒ)第179号 上告棄却・上告不受理 平成28年7月21日
 
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