労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  中外臨床研究センター 
事件番号  東京地裁平成25年(行ウ)第135号(甲事件)、(行ウ)第359号(乙事件)  
甲事件原告・乙事件被告補助参加人  株式会社中外臨床研究センター(「会社」) 
甲事件被告・乙事件被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
甲事件被告補助参加人・乙事件原告  東京・中部地域労働者組合(「組合」) 
判決年月日  平成27年7月10日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 組合は、会社が、①組合による組合員A1(以下「A1」という。)の雇用継続等を議題とする団体交渉(以下「団交」という。)の申入れに応じなかったこと、②A1に対して会社提示の雇用契約書に署名しなければ雇止めとなる旨を通知し、A1が上記署名をしなかったことを理由に雇止めをしたことがいずれも不当労働行為に該当するとして、東京都労働委員会(以下「都労委」という。)に救済申立てをしたところ、都労委は、上記①につき、不当労働行為該当性を認めて救済命令を発し、上記②につき、不当労働行為該当性を否定してこれに関する救済申立てを棄却した。これに対し、会社及び組合がそれぞれ中央労働委員会(以下「中労委」という。)に再審査申立てをしたところ、中労委は、上記各申立てをいずれも棄却した。
2 甲事件は、会社がこれを不服として、東京地裁に行政訴訟を提起した事案であり、乙事件は組合が東京地裁に行政訴訟を提起した事案である。
3 東京地裁は、会社、組合の請求をいずれも棄却した。 
判決主文  1 甲事件原告・乙事件被告補助参加人の請求及び甲事件被告補助参加人・乙事件原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、これを2分し、うち1を甲事件原告・乙事件被告補助参加人の、その余を甲事件被告補助参加人・乙事件原告の各負担とする。  
判決の要旨  第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(組合が労組法2条に適合する労働組合といえるか)について
 証拠及び弁論の全趣旨によれば、組合は、東京都千代田区、中央区等を中心とする事業所の従業員らが主体となって自主的に労働条件の維持改善その他経済的地位の向上を図ることを主たる目的として組織した労組法2条に適合する労働組合であると認められる。会社は、組合が労組法2条所定の自主性、主体性、目的等の要件を充足するかについて疑義がある旨主張するが、法適合要件の充足を疑うべき具体的事情についての主張立証はなく、採用できない。
  なお、組合においては、A1以外の組合員が、会社という特定の使用者との間で、労組法上の労働者と認めるべき使用従属関係や支配決定関係を有していないこともまた、本件の弁論の全趣旨からして明らかであるところ、当該事情が、組合における前述の法適合要件の充足を否定するものでないことは明白であるから、上記事情を根拠に組合の法適合要件を否定する会社の主張は失当であるといわざるを得ない。
  以上によれば、組合は、不当労働行為の成立対象となるべき労働組合としての実質たる法適合性を有すると認めることができる。
(1) 組合が申し入れた団交の議題は、平成21年12月31日で雇用契約期間が満了となるA1の雇用継続等に関するものであり、年内に団交が行われなければ、団交で話し合うことができないまま雇用契約期間の満了を迎える状況にあったことからすれば、上記団交の申入れは、会社の従業員であるA1の雇用喪失に係る極めて重要かつ緊急を要する問題を議題とするものであったというべきである。したがって、仮に、会社における団交担当者であったB1部長において、上記団交申入れの当時、年末の時期で、通常時期よりも業務繁忙な状態にあり、同年中に団交開催ができない旨の事情があったのであれば、雇用契約期間がいったん満了し、事実上にせよ雇用契約が終了してしまえば、それによる不利益を回復するための対応方法や団交内容の詳細が変わってくることにも照らし、会社において、組合に上記事情を真摯に説明し、組合の納得を得るべく対応することが必要であったというべきである。そして、前提となる事実(2)ウにおける平成21年12月中のB1部長による一連の業務内容や団交対応に関する検討状況等に照らせば、会社において、当時、上記対応すらなし得ないほどの業務繁忙状況にあったものとまでは認められないことはもとより、業務繁忙な状況にあって、同年中の団交開催ができない事情について具体的で了解可能な説明がされたことも認められないのであり、本件訴訟におけるB1部長の供述内容を前提としても、前述の認定を覆すべき証拠が存在するとはいえない。
  しかるに、前提となる事実(2)ウのとおり、会社は、同月16日に組合からの団交申入れを受け、同月18日、単に「業務多忙」を理由として翌平成22年1月6日まで回答を猶予するよう申し入れたのみであり、これをもってしては、上記議題に係る団交応諾に向けた誠意ある対応がなされたものとは到底いえない。
(2) 前提となる事実(2)ウに加え、関係証拠及び弁論の全趣旨に照らせば、平成21年12月16日の組合による団交申入れ以降、会社における上記団交の担当者であったB1部長において、従前の研修等による合同労組についての知識、組合による同日付け「組合加入通知書」及び「団体交渉要求書」の各記載内容、インターネット検索等による組合についての調査、組合への対応を巡る関係者との協議や弁護士の助言等によって、遅くとも、会社が上記「団体交渉要求書」に対する回答を行った同月18日の時点で、組合が、会社の従業員であるA1の加入する合同労組であり、会社の雇用する労働者の代表者として団交を求めていることを容易に認識し得たものというべきである。そして、前提となる事実(2)ウの組合による会社に対する自己紹介、用件説明の内容、交付された「団体交渉要求書」等の内容に照らして、組合が労働組合としての法適合性を欠くと疑うことが合理的なものであると認めるべき事情は何ら見当たらないといわなければならない。上記認定にかかる事情が存在し、会社の認識もそれに沿うものであったことは、上記「団体交渉要求書」に対する同月18日付け「回答書」を含め、組合に宛てた会社の文書において、翌平成22年1月5日付け「回答書」に至るまで、組合の法適合性についての疑義が一切表明されていないことによっても裏付けられるものというべきである。そうすると、会社において、平成22年1月5日付け「回答書」以降、組合に対する団交応諾の前提として、組合の法適合性の明示を繰り返し要求するに際し、これに疑義を抱くべき合理的理由があったとはいえない。
(3) 組合による平成21年12月28日以降の街宣活動等について、団交が正常に開催できない程度に至っているか否かを検討するに、前提となる事実(2)ウからオまでに加え、関係証拠及び弁論の全趣旨を総合すれば、組合が配布したビラの内容は、A1の雇止めに至る経緯、組合による団交申入れの内容、それに対する会社の回答等の組合において認識している事情や、都労委への救済申立ての内容、審査の進捗状況等を訴えて支持を呼びかけるものであり、当該記載内容に事実無根というべきものがあるとはいえず、その態様も、始業時、昼休み又は終業時に、会社付近において、30分から1時間程度、拡声器等を使用し、A1の雇用問題に係る主張を訴えながら、7名から12名程度の組合員がビラを配布するというものであり、その他、会社の受付担当者等に対する団交要求の行動も含めて、通常の組合活動の範囲を逸脱するものであったと認めるべき証拠は見当たらず、さらに、組合によるこれらの街宣活動等が、会社において団交に応じなかったことへの対応として、都労委に対する救済申立てを行った後に始められたものであることにも鑑みれば、これらの街宣活動等はその内容及び手段において相当なものであったというべく、会社が主張するように、会社・組合間において、団交の正常な開催ができないほど信頼関係を破壊するものであったと認めることはできない。
(4) 組合が、当初からA1の雇止めの効力を争って会社に対する団交申入れを行っているほか、前提となる事実(2)カのとおり、A1は、会社を被告として、会社の従業員たる地位の確認を求める訴訟を東京地方裁判所に提起しており、弁論の全趣旨によれば、少なくとも中労委の再審査終結時において、同訴訟がいまだ係属中であったものと認められることからすれば、団交による労働紛争の解決を行うという観点から見て、平成21年12月31日の雇用契約期間満了によっても、団交の必要性・相当性は失われていないといわなければならないのであって、A1の雇用関係が確定的に終了しているということはできず、組合が会社に対し本件命令の審理対象となった団交(前提となる事実(3))を求めた各時点において、組合は「使用者が雇用する労働者の代表者」(労組法7条2号)に該当するというべきである。これに反する会社の主張は理由がなく、採用できない。
  また、労働組合が、所属組合員個人のために、個別的労働紛争の解決を求める団交についても、使用者が団交応諾義務を負うことは明らかであるから、A1の雇用継続等に係る議題が個別的労働紛争に関する議題であることや他の労働紛争の解決制度が存在することを理由として、団交応諾義務を否定する会社の主張は失当である。
(5) 以上によれば、会社が団交に応じなかったことについての正当な理由として挙げる前述の各事情については、いずれも正当な理由に該当するものとはいえない。
  むしろ、前述の検討に照らせば、会社は、①平成21年12月中において、単に回答猶予を求める旨の対応しかできないほどの業務多忙な状況にあったとはいえないにもかかわらず、抽象的な「業務多忙」を理由に組合の団交申入れに応じなかったほか、②組合が会社の雇用する労働者の代表者として団交を求めていることを容易に認識し得た上、法適合性を欠くと疑うことが合理的なものであると認めるべき事情もないにもかかわらず、組合の法適合性に関する疑義の表明を繰り返し、③通常の組合活動の範囲を逸脱するものとはいえない組合の街宣活動等を捉えて、これにより団交の前提となる信頼関係が破壊されたとして謝罪要求を繰り返しているものと認められるところ、これらの事情に加え、前提となる事実(2)ウ及びエによれば、会社は、④組合からの団交申入れに対して、今後のやり取りをあえて書面に限定し、当面、他の連絡手段である電話や面談を一切拒否する旨通告しており、⑤団交開催が平成22年1月以降になった場合のA1の雇用継続に関する組合の要求について、「当を得ない」として一蹴しているほか、⑥団交開催日時や開催場所について、組合の再検討を促すのみで、具体的な提案を行った形跡がうかがわれないことなどが認められる。これらの事情を総合考慮すれば、会社においては、組合による団交申入れを受けた当初の時点から、理由のいかんを問わず、組合の申入れに係る団交の開催を一切拒む姿勢であったと認めるのが相当であるし、当該姿勢は、組合の存在を殊更に無視してその団結権を否認し、組合の交渉力に対して組合員の不信を釀成するなど、その弱体化を招来するものともいえる。
  したがって、会社が組合による団交申入れに応じなかったことは、正当な理由のない団交拒否(労組法7条2号)及び組合の運営に対する支配介入(同条3号)に該当するものと認められる。
3 争点(3)(会社がA1に対して会社提示の雇用契約書に署名押印しなければ雇止めとなる旨を通知し、A1が上記署名押印をしなかったことを理由に雇止めをしたことが、不利益取扱い及び支配介入に該当するか)について
(1) 前提となる事実(2)アからウまでに加え、関係証拠及び弁論の全趣旨によれば、会社が、A1の組合加入前である平成21年12月3日及び同月9日、B1部長において、A1に対し、同月31日の契約期間満了をもって次期雇用契約の更新をしない方向であるが、A1において希望すれば、再就職先を探すための期間として6か月間のみ雇用契約を更新し、上記雇用契約期間が満了した場合は確実に雇止めとする旨を通知していた事実が優に認められる。上記認定に反し、同月3日及び同月9日の時点で、会社が、A1に対し、その意思いかんにかかわらず、最低6か月間の雇用契約期間の更新についてはこれを保証する旨の意向を示したなどという事実を裏付けるべき証拠はない。組合は、同月3日及び同月9日の面談において、A1が、B1部長から同月末日をもって雇止めを行うことは明示されていない旨主張しており、A1において、同旨の供述も一部みられるところ、他方で、A1は、同月3日や同月9日の時点で、B1部長から、業務実績が乏しいことなどを考慮した結果、次期雇用契約の更新は非常に厳しいが、6か月間のみ雇用契約を締結し、その間は就職活動に充ててよい、旨告げられた旨の供述もしているのであり、同供述に表れた内容からして、B1部長が、A1において6か月間の雇用契約期間を定める次期雇用契約を締結する意思がなければ、会社においては従前の雇用契約の期間満了をもって雇止めとする意向である旨を伝えたものというべきであって、A1の意思いかんにかかわらず 最低6か月間の雇用契約期間の更新についてはこれを保証する趣旨を伝えたものと解するのは困難かつ不自然である。
  そして、前述の関係証拠等に照らせば、同月24日にB1部長がA1に対してした6か月間の雇用契約期間を定めた雇用契約書に署名押印しなければ雇止めとなる旨の通知は、同月9日の時点で既にB1部長がA1に対してしていた通知内容を再度伝えたものにすぎず、A1に対して6か月間の雇用契約の締結をあえて迫るなど、A1の組合加入前における上記方針と相違する個別交渉や、労働条件の一方的決定等の対応に出たものとは認められないし、A1が同月31日をもって雇止めとなったのは、A1の組合加入前からの会社の提案による6か月間の雇用契約の締結に合意しない旨のA1の主体的判断に起因するものであることは明らかである。
(2) 以上によれば、会社は、遅くともA1が組合に加入する前の平成21年12月9日の時点で、同年内にA1が6か月間の雇用契約を締結することに合意すればその旨の契約を締結し、A1が上記雇用契約の締結に合意しなければ、同月31日をもってA1を雇止めとすることを決定した上で、A1に明示していたものであり、A1の組合加入の前後において、会社が、A1の雇用問題に関する前述の取扱いを変更した事実は認められないから、会社が、A1の組合加入前からの上記方針のとおり、A1に対して6か月間の契約期間を定める雇用契約書に署名押印しなければ雇止めとなる旨を改めて通知し、A1が上記署名押印をしなかったことを理由に、雇用契約期間満了をもってA1の雇止めをしたことは、A1の組合加入を理由とする不利益取扱い(労組法7条1号)及び組合の運営に対する支配介入(同条3号)には該当しない。
  組合は、会社によるこれらの行為が、団交応諾義務を負うA1の雇用契約の問題について、組合を無視してA1との個別交渉を行い、A1の労働条件を一方的に不利益変更するものであるとか、A1に対して組合を裏切り、個別交渉に応じて雇用契約書に署名押印するか、それとも雇止めを甘受するかという選択を強要するものであるなどと主張するが、前述の認定説示に照らし、事実認定及び評価を誤るものであって、上記主張は採用できない。  
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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成21年(不)第117号 一部救済 平成23年5月10日
中労委平成23年(不再)第44・45号 棄却 平成25年1月16日
東京高裁平成27年(行コ)第281号 棄却 平成28年1月14日
最高裁平成28年(行ツ)第169号・平成28年(行ヒ)第179号 上告棄却・上告不受理 平成28年7月21日
 
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