労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  北海道・北海道教育委員会 
事件番号  札幌高裁平成26年(行コ)第3号 
控訴人  北海道 
被控訴人  北海道(処分行政庁・北海道労働委員会) 
被控訴人補助参加人  個人Z 
被控訴人補助参加人  北海道教職員組合 
判決年月日  平成27年2月26日 
判決区分  原判決取消 
重要度   
事件概要   北海道教育委員会(以下「道教委」という。)は、北海道教職員組合(以下「組合」という。)が平成20年1月30日に実施したストライキ(以下「本件ストライキ」という。)に参加し、職場を30分以上離脱した者に対して一律に懲戒(戒告)処分をすることとし、組合の組合員であるZが本件ストライキに参加したことを理由として、同年2月28日付けで、地方公務員法(以下「地公法」という。)29条1項1号ないし3号に基づきZを懲戒(戒告)処分(以下「本件懲戒処分」という。)に付したところ、Z及び組合(以下、両者を総称して「参加人ら」という。)が、北海道労委(以下「道労委」という。)に対し、本件懲戒処分が控訴人による不当労働行為である旨主張して救済の申立てをした。道労委は、同申立てについて、申立てに係る救済を一部認容する命令(以下「本件命令」という。)を発した。
 本件は、懲戒権者である道教委の所属する地方公共団体としての控訴人が、道労委の所属する地方公共団体としての被控訴人に対し、本件命令には、事実誤認及び労働組合法(以下「労組法」という。)7条3号等の解釈を誤った違法があると主張し、本件命令のうち、主文第1項及び第2項の取消しを求めたところ、参加人らが被控訴人に補助参加した事案である。
 原判決は、控訴人の請求を棄却したところ、これを不服として、控訴人が控訴をした。  
判決主文  1 原判決を取り消す。
2 道労委が平成20年道委不第10号北海道・北海道教育委員会不当労働行為事件について、平成23年6月24日付けで行った原判決別紙救済命令のうち、主文第1項及び第2項を取り消す。
3 訴訟費用は、第1、2審とも、補助参加によって生じた部分は被控訴人補助参加人らの負担とし、その余の費用は被控訴人の負担とする。  
判決の要旨  1 争点①(道労委が本件懲戒処分の労組法7条1号該当性を判断しなかったことが違法であるか否か)について
 労組法7条は、不当労働行為として禁止される行為を1号ないし4号に列挙しているところ、これらのうち基本的で一般的な類型は、不利益取扱い(1号)、団体交渉拒否(2号)及び支配介入(3号)の3類型であるが、これらについては別個の類型としてそれぞれの成立要件が規定されており、不利益取扱いの成立要件と支配介入の成立要件が必ずしも重なり合うものではないから、不利益取扱いに該当することが支配介入の成立要件であると解することはできない。
2 争点②(本件懲戒処分が労組法7条3号の支配介入に当たるか否か)について
(1) 地公労法11条1項及び同項を単純労働者に準用する同法附則5項が憲法28条に違反するか否かについて
 地方公務員の勤務条件は、専ら当該地方公共団体における政治的、財政的、社会的その他諸般の合理的な配慮によって決定されるべきものである上、地方公務員については対抗手段や市場の機能が作用する余地がなく、地方公務員の労働基本権は、地方公務員を含む地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のために、これと調和するように制限されることもやむを得ないというべきである。
 他方、地方公務員の勤務条件についてその利益を保障するような詳細な規定が設けられているほか、人事委員会又は公平委員会の制度が設けられており、労働基本権の制約に見合う代償措置としての一般的要件を満たしているということができる。そうすると、地公法37条1項において地方公務員の争議行為等を禁止することは、地方住民全体ないしは国民全体の共同利益のためのやむを得ない措置として、それ自体としては憲法28条に違反するものではないと解される。そして、いわゆる財政民主主義ないし勤務条件法定主義、いわゆる市場の抑制力等職務の公共性及び代償措置の事由は、単純労務職員にも基本的には全て妥当するから、地公労法附則5項により地方公営企業職員以外の単純な労務に雇用される一般職の地方公務員である単純労務職員に準用される同法11条1項の規定は、憲法28条に違反するものではないと解される。
(2) 地公労法11条1項及び同法附則5項がILO条約に違反するか否かについて
 ILO87号条約3条1項は、この規定の文言から、同項が争議権を保障したものとは解されず、同条約において、争議権については、これに直接言及する規定は存在しない。また、ILOの機関の見解又は勧告は、それらが批准された条約と同等に国内法規としての効力を有するものとは認められない。そうすると、ILO87号条約が公務員の争議権を保障したものとは解されないから、参加人らの主張は採用することができない。
(3) 本件参加行為に地公労法11条1項を適用することが憲法28条に違反するか否かについて
 参加人らの主張によれば、当該争議行為の目的、態様、影響等の具体的事情によって、これが憲法上許容され、又は許容されないこととなり、一定の場合に国法上禁止されない争議行為が観念されることとなるが、(1)のとおり、争議行為を一律に禁止する地公労法が憲法28条に違反するものとは解されないことからすると、このような限定解釈は相当ではなく、これらの事情は、本件参加行為に対してされた本件懲戒処分が社会通念上著しく過重なものであるか否かを判断する上で
考慮するのが相当であるから、本件参加行為に地公労法附則5項により同法11条1項を準用することが憲法28条に違反するとはいえず、参加人らの主張は採用することができない。
(4) 本件懲戒処分が社会通念上著しく過重な処分であるか否かについて
 当該懲戒処分がその対象となる組合活動の態様等に比して著しく過重なものであって社会通念上相当なものとは認められない場合には、当該懲戒処分は、使用者の裁量の範囲を超えてなされたものとして懲戒権の逸脱ないし濫用となるとともに、使用者の当該組合に対する嫌悪の念に発していることが推認されるものとして労組法7条3号の不当労働行為(支配介入)に該当すると解される。本件懲戒処分が、上記裁量権を濫用し、社会通念上その対象となる組合活動の態様等に比して著しく過重であるものと認められるか否かについて検討する。
a 本件ストライキないし本件参加行為の原因及び動機について
(a) 本件給与独自削減措置に抗議・反対する目的について
 ①平成11年度から平成19年度までの給与独自削減措置が労使交渉を経て道議会で可決された条例に基づき実施されてきたことが考慮されるべきであり、②当時の北海道の財政状況についても、雇用面等の道民生活に影響を及ぼす施策の見直しを避けて通れないという極めて困難な状況にあったのであるから、やむを得ない面があったことは否定できず、③北海道及び道教委と地公三者及び組合との交渉は多数回にわたり行われ、具体的事情の下においては、誠実交渉義務に違反する不誠実な対応があったとは認められないことを総合考慮すれば、本件ストライキの目的ないし動機が本件給与独自削減措置に抗議・反対することにあったことは、本件ストライキないし本件参加行為を正当化し、懲戒権の行使が濫用に当たるとの評価を根拠付ける事情に当たるとはいい難い。〔「地公三者」とは「地公三者共闘会議」(組合、全北海道庁労働組合及び全日本自治団体労働組合北海道本部の三者で構成される任意の連合組織)のこと。〕
(b) 査定昇給等制度の導入に抗議・反対する目的について
 ①査定昇給等制度の導入については、基本的に、地方公共団体の機関である学校の組織の管理運営に関する事項であり、本来団体交渉の対象となる事項ではないこと、②道人事委は、北海道に対し、平成20年度から査定昇給等制度を導入できるように必要な準備を進める必要があるとし、その導入を推進するように求めていたのであり、これに抗議・反対することは、労働基本権制約の代償措置の正常な運用を求める目的によるものとは認め難いことを総合考慮すれば、本件ストライキの目的ないし動機が査定昇給等制度の導入に抗議・反対することにあったことは、懲戒権の行使が濫用に当たるとの評価を根拠付ける事情に当たるとはいい難い。
b 本件ストライキ及び本件参加行為の態様、結果、影響等について
 本件ストライキによって影響を受けた児童・生徒も、憲法26条により等しく教育を受ける権利を保障されているのであって、上記権利が不当に侵害されたといえる上、教職員が授業やそれ以外の職務を放棄したり、事務職員が職務を放葉することは、それ自体が公務の停廃に当たり、又はそのおそれがある行為であって、学校運営に与えた影響が軽微であったとはいえない。Zが全道規模の大規模な学校運営に与える影響が軽微であったとはいえない本件ストライキに参加したことは、本件懲戒権の行使が濫用に当たるとの評価を根拠付ける事情に当たるとはいい難い。
c 本件懲戒処分による不利益の程度
 戒告処分を受けた者は、そのことが履歴に残るにとどまらず、北海道の給与制度上、懲戒処分を受けていない者に比べて勤勉手当が減額されるほか、定期昇給において1号俸昇給が抑制され、この昇給の遅れが長期間にわたるものであって、昇給抑制等がない場合とある場合との差額は、その金額は少ないとはいえないが、不利益の程度が著しいとまではいえない。
 また、本件学校の校長等は、道教委の指示に基づき、ストライキに参加しないように指導し、参加した場合には厳正に対処する旨の警告を行ったことからすれば、Zは、懲戒処分を受けるかもしれないことは十分認識した上で、あえて参加したものと推認できるところ、本件ストライキに参加したことにより戒告処分を受けたことにより昇給が延伸されることなどはやむを得ないものといえる。
d 従前の処分例との均衡
 戒告処分は懲戒処分としては最も軽い処分であるところ、懲戒事由がある場合に懲戒処分をするか否かについては、懲戒権者に広範な裁量があることからすると、懲戒権者は、具体的な事案に応じて諸般の事情を総合的に考慮して決定することができるのであって、従前処分されていなかったことを理由に別の機会に懲戒権の行使として戒告処分をすることが許されないものではない。したがって、本件懲戒処分が従前の同規摸の争議行為の一般参加者に対する措置と比べて、より重い処分であることをもって、直ちに懲戒権の濫用があったとはいい難い。
e その他の事情
 本件ストライキに備えて、周到な事前準備をすることや本件懲戒処分までの期間が短いこと自体が懲戒権の濫用を根拠付ける事由には当たらないから、参加人らの主張は採用することができない。
f 本件ストライキ及び本件参加行為が地公労法附則5項により準用される同法11条1項に違反する違法なものであって、懲戒事由それ自体は存在していることに加え、上記aないしeの事情のうち懲戒権の行使が濫用であると評価する上で障害となる事情を総合考慮すれば、本件懲戒処分が、懲戒権を濫用したものであり、社会通念上その対象となる組合活動の態様等に比して著しく過重なものであると認めることはできない。
以上によれば、本件懲戒処分は、その余の点について判断するまでもなく、労組法7条3号の支配介入に該当しないというべきである。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
北海道労委平成20年(不)第10号 一部救済 平成23年6月24日
札幌地裁平成23年(行ウ)第32号 棄却 平成26年3月31日
最高裁平成27年(行ヒ)第254号 上告不受理 平成28年6月3日
最高裁平成27年(行ツ)第221号 上告棄却 平成28年6月17日
 
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