労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  西日本旅客鉄道(動労西日本戒告処分等)  
事件番号  東京地裁平成24年(行ウ)第405号(第一事件)、同第533号(第二事件) 
第一事件原告兼第二事件原告  西日本旅客鉄道株式会社(「会社」) 
第一事件被告兼第二事件被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
第一事件被告補助参加人第二事件原告  国鉄西日本動力車労働組合(「組合」) 
判決年月日  平成26年8月25日 
判決区分  一部取消 
重要度   
事件概要  1 本件は、組合副執行委員長でもある契約社員A1に対し、会社が①会社施設内ビラ配布を理由として訓告(「本件訓告」)を行ったこと、②遅刻(「本件遅刻」)を理由として戒告処分(「本件戒告処分」)を行ったこと、③雇止め(「本件雇止め」)としたこと、④本件雇止めとしたことで社員採用試験の無効を通告したことが不当労働行為であるとして、申立てがあった事件である。
2 初審岡山県労委は、①本件訓告は、労働組合法(「労組法」)第7条第1号の不当労働行為に当たり、②本件戒告処分は、同条第3号の不当労働行為に該当するとしたが、③及び④は不当労働行為に該当しないとして、会社に対し、上記①②に限って文書手交を命じ、その余の申立てを棄却した(「初審命令」)。組合及び会社は、これを不服として、それぞれ再審査を申し立てた。中労委は、本件戒告は不当労働行為に該当しないとして、初審命令中、本件戒告に対する救済部分を取り消し、同救済申立てを棄却し(主文第1項)、初審命令の主文第1項を本件戒告について不当労働行為とする部分に限って文書手交を命じる内容に変更し(同第2項)、会社のその余の再審査申立てを棄却し(同第3項)、組合の再審査申立てを棄却(同第4項)した(「本件命令」)。
3 組合及び会社は、これを不服として、それぞれ東京地裁に行政訴訟を提起したところ、同地裁は、本件訓告は不当労働行為に該当しないとして、本件命令の主文第2項及び同第3項を取り消し、組合の請求を棄却した。  
判決主文  1 本件命令のうち、主文第2項及び同第3項を取り消す。
2 組合の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用(参加費用を含む。)は、第1事件について生じたもののうち補助参加に係る費用は組合の、その余は中労委の各負担とし、第2事件についで生じたもの(参加費用を含む。)は組合の負担とする。  
判決の要旨  1 争点(1)(本件訓告の不当労働行為該当性)について
(1) 会社において、許可なく会社施設内でビラの配布等をしてはならず、組合活動を行ってはならない旨の就業規則の規定があることは認定のとおりであり、A1の各行為(本件ビラ配布)は、形式的にその文言をみる限り、これに違反するものであるということができる。もっとも、 規定の趣旨に照らすと、形式的に就業規則の上記各規定に違反するようにみえる場合でも、会社施設内におけるビラの配布が職場規律、職場秩序を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、就業規則の上記各規定の違反になるとはいえないと解するのが相当である。そこで、本件において上記特別の事情が認められるかにつき検討する。
(2) 本件ビラ配布の場所については休憩室が含まれ、配布の態様も、休憩中又は手待ち時間中の社員に対し、ビラを封筒に入れて交付するなど比較的平穏な方法で行われた点もあると認められるが、配布の場所には、業務に密接に関連すると認められる場所も含まれていたこと、本件ビラの内容は、労働組合間の尖鋭的な対立のある問題や他の労働組合を激烈に批判する内容を含むものであったこと、ビラの内容を受けて、受領した社員が上司に報告したり、他の労働組合の抗議を生じる結果ともなっていることを指摘することができる。そして、以上の点のほか、鉄道事業が国民の社会経済生活に欠くべからざる公共性の極めて高い事業であって、企業秩序の乱れから安全、円滑な運送を脅かす事態の発生することを防止することは重要と考えられること、会社には、路線対立のある労働組合が複数存在し、多数の現業機関内でビラ配布が会社に無許可でされることとなった場合における企業秩序の乱れは著しくなるおそれがあることをも併せ考慮すると、会社の許可なく会社の施設内でなされた本件ビラ配布について、前記特段の事情は認め難いというべきである。本件ビラ配布は、就業規則の各規定の違反になると認められる。
(3) 以上によれば、本件ビラ配布に関して、就業規則の規定に基づき処分することは許されるものというべきところ、A1は、本件ビラ配布以前においても、会社に許可を得ないまま、施設内のホワイトボートにビラを貼付して厳重注意を受けたり、その他、本件ビラ配布以外にも30回ほど会社に無許可で施設内におけるビラ配布を行っていたものであって、本件ビラ配布につき、A1を訓告としたからといって、その処分が会社の合理的裁量を逸脱する不当に重いものということはできない。本件訓告は相当なものと認められる。
(4) また、会社は、他の労働組合の組合員によるものを含め、ビラ配布について処分を含めた厳格な対応をしていたものであり、A1に対して本件訓告としたからといって、これが殊更組合に対する反組合的な動機や意図に基づくものとも認め難い。
(5) 以上によれば、本件訓告が、労組法7条1号の不当労働行為に該当するということはできない。
2 争点(2)(本件戒告の不当労働行為該当性)について
(1) A1は、鉄道事業に関わる者として時間厳守が求められているにもかかわらず、本件遅刻前にも寝過ごしという同種の原因で3度遅刻をしており、会社は、その度毎に、A1に注意、指導をし、平成21年度の雇用契約更新の面談においては、今後同種の事象が発生すれば次の契約更新の判断材料にする旨も伝え、遅刻をしないよう注意指導が行われてきたものであるところ、A1は、かかる注意、指導にもかかわらず、寝過ごしという同じ理由により本件遅刻をしたものである。当日のA1の担当業務は、繁忙時間帯の業務であったところ、本件遅刻により、会社は、遅刻したA1を、点呼を経ずに直ちに案内業務に就かせさるを得ず、A1は、しばらくの間注意事項が伝えられないまま案内業務に従事することとなったことを指摘することができ、少なくとも以上のような業務への支障は生じたといえる。そして、遅刻に係る処分例に照らせば、本件遅刻が、繰り返された遅刻及びこれに対する注意指導の後になされた、寝過ごしという同一の原因に基づくものであったことにも照らせば、従前なされた厳重注意より一段重い訓告を超えて戒告としたとしても、その処分が会社の合理的裁量を逸脱する不当に重いものということはできない。本件戒告には相応の合理性があったということができる。
(2) 会社の賞罰審査委員会への付議には一定の期間が通例必要と考えられるところA1の本件遅刻と間近い時期に遅刻した他の者の案件も同日開催の賞罰審査委員会に付議されていること、支社における人事課長の異動があったこと等、A1への本件戒告の通知が同年12月28日となったからといって、そのことが直ちに不自然とまでいえるものではない。その他、会社が組合活動に対して介入する言動を行ったことは窺われず、むしろ、組合からの申入れに基づき団体交渉も行われている。A1が、当時、活発な組合活動を行っていたといえるにしても、会社が組合活動を嫌悪して本件戒告を行ったとまでは認め難い。
(3) 本件戒告が労組法7条3号の支配介入に係る不当労働行為に該当するということはできない。
3 争点(3)(本件雇止めの不当労働行為該当性)について
(1) A1と会社との期間の定めのある雇用契約が実質的に期限の定めがないのと異ならないのと同様の状態にあったとみることはできない。
(2) A1を含む契約社員については契約社員就業規則や契約社員雇用契約書の規定があり、更新手続もとられていたものである上、支社だけでも、過去に度重なる遅刻を理由に雇止めとした契約社員も2名存在していたことに照らせば、A1の担当業務の内容(臨時的な業務ではない。)や更新手続がとられた回数を考慮しても、継続雇用に対する期待が合理的であるといえるかは疑問が残る。また、会社は、その鉄道事業という公共的性質上、社員に対して厳格な時間管理を求め、その重要性について指導を行ってきており、A1に対しては、同人が過去3回にわたって遅刻する度毎に注意、指導を行い、平成21年度の契約更新に際しての面談においては、今後同種の事象が発生すれば次の契約更新の判断材料にする旨を伝えて、遅刻をしないよう改めて注意喚起もなされていたものであって、それにもかかわらず、A1は、過去3回の遅刻と同様の理由により、本件遅刻に及んでいる。そして、本件雇止め以前に4回以上遅刻をした契約社員の契約更新をした事例はなかったものであって、事業の性格上、厳格な時間管理を求め、従前からも徹底指導を行ってきた会社が、かかる事象に基づき本件雇止めの判断をしたとしでも、相応の理由があったといえる。会社がA1を雇止めとしたからといって、本件雇止めが、客観的に合理的理由を欠き、社会通念上相当でないと認められない場合に当たるということもできず、むしろ、本件雇止めには相応の合理性があったといえる。
(3) A1が活発な組合活動を行っており、本件救済申立ての後、本件雇止めに及んでいることは認められるが、上記のとおり本件雇止めには相応の合理性が認められる上、会社は、組合の求めに応じて団体交渉にも応じており、組合が指摘するような時間的近接性があったからといって、直ちに本件雇止めが報復的な処分とみることもできない。
(4) 以上によれば、本件雇止めが、労組法7条1号、3号及び4号の不当労働行為に該当するということはできない。
4 争点(4)(本件通告の不当労働行為該当性)について
 募集要項では、採用予定日の前日において契約社員として勤務する見込みであることが必要とされていたものであり、本件雇止めに伴い、要項に定める採用条件を満たさなくなったものであるといえる。会社が、A1を同選考試験の対象から除外し、その旨を本件雇止めの通知の際に説明したこと(本件通告)が不当なものとはいえず、組合主張のように、本件通告が労組法7条1号、3号、4号の不当労働行為に該当するということはできない。
5 以上によれば、本件命令中、本件訓告を労組法7条1号の不当労働行為であるとした部分は相当でなく違法というべきであるが、その余の部分は相当であり、違法であるとは認められない。よって、会社の本件請求は理由があるからこれを認容し、組合の本件請求はいずれも理由がないからこれらを棄却する。  
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
岡山県労委平成22年(不)第1号 一部救済 平成23年4月14日
中労委平成23年(不再)第38号・第40号 一部取消・棄却 平成24年4月4日
東京高裁平成26年(行コ)第362号 棄却 平成27年3月25日
最高裁平成27年(行ツ)第276号・平成27年(行ヒ)第294号 上告棄却・上告不受理 平成28年6月28日
最高裁平成27年(行ヒ)第295号 上告不受理 平成28年6月28日
 
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