労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東日本旅客鉄道(八王子支社) 
事件番号  東京地裁平成25年(行ウ)第10号  
原告  東日本旅客鉄道株式会社 
被告  国(処分行政庁・中央労働委員会) 
被告補助参加人  東日本旅客鉄道労働組合 
判決年月日  平成26年1月27日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 本件は、会社が、平成19年2月7日から9日にかけて、組合の7分会における掲示板の7種の掲示物(「本件掲示物」)について、撤去及び分会に撤去を通告したこと(「撤去等」)が、不当労働行為であるとして、申立てのあった事件である。
2 東京都労委会は、本件撤去等は労働組合法第7条第3号に該当する不当労働行為であるとして、会社に文書交付等を命じた。中労委は、初審命令のうち、掲示物①の撤去は不当労働行為に当たらないとしてその救済部分を取り消し、会社のその余の再審査申立てを棄却した。
3 本件は、これを不服として、会社が、東京地裁に行政訴訟を提起した事件であるが、同地裁は、会社の請求を棄却した。 
判決主文  1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は、補助参加によって生じた費用を含め、原告の負担とする。 
判決の要旨  1 争点1(掲示物①-2及び②撤去が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか)について
(1) 掲示物撤去行為と労組法7条3号に定める不当労働行為該当性の判断枠組みについて
 本件撤去要件が定められた趣旨からすれば、会社を傷つけ、政治活動を目的とし、個人を誹謗し、事実に反し、又は職場規律を乱すといった各要件については、一般常識や社会通念に従い文言の一般的意味に即して実質的に判断した場合に、本件撤去要件に該当すると判断されるときは、当該掲示物を掲示することが正当な組合活動のために掲示板を使用する場合に当たらないものとして、本件撤去要件に該当するものと解すべきであり、したがって、会社がこれを撤去することは、原則として労組法7条3号所定の不当労働行為には当たらないものと解すべきである。
 他方、掲示物の記載内容の一部が形式的に本件撤去要件に該当する場合であっても、当該掲示物の掲示が組合の正当な組合活動として許容される範囲を逸脱して、会社の運営を妨害し、あるいは個人の名誉を著しく毀損するなどしたかどうかについて、その内容、程度、記載内容の真実性、真実でなかった場合に真実と信じるについて正当な理由があったかどうか等の事情が総合的に検討されるべきであり、その検討の結果、当該掲示物が全体として正当な組合活動として許される範囲を逸脱していないと認めるに足りる場合には、実質的に本件撤去要件に該当しないものというべきであって、会社は、組合による当該掲示物の掲示が正当な組合活動の一環としてされたものであることを認識しながらこれを妨害したものと評価すべきであるから、支配介入の不当労働行為に該当することになると解するのが相当である。
(2) 掲示物①-2及び②の本件撤去要件該当性について
ア 掲示物①-2には、 第30回臨時中央委員会決定に反して署名を撤回しなかった104名のうち、地本に所属するX1らの氏名のイニシャルがその所属を付して大書されてはいるものの、実名が記載されているものではない上、具体的な行動を示すなどしてX1らに対する非難・攻撃を呼び掛けたりするような記載はないところ、これらを踏まえて、掲示物①-2を全体としてみれば、掲示物①-2は、第13回中央執行委員会決定に至る経緯とその決定内容及びこれを踏まえた中央本部指令第28号の内容を組合員に対して伝達したものとみることが相当である。
 このような記載内容に加え、豊田分会の組合掲示板は、会社関係者以外の一般人が原則として立ち入らない場所に設置されていたこと、X2は、当時、会社とは関連性がない警備会社へ出向中であり、豊田電車区において組合の組合員らと接触する機会はほとんどなかったこと、X1らが署名簿に署名したことが明らかとなったのは平成18年6月であるところ、掲示物①-2の掲示前の半年間にX1らに関し職場に混乱が生じたことはなかったことを併せ考慮すれは、掲示物①-2は、本件撤去要件である「個人を誹謗」するものにも、「職場規律を乱すもの」にも当たらないというべきである。
イ 掲示物②は、X1らの実名を赤字で大書した上、その本文中にX1らが「川を渡ってしまった確信犯」である旨が記載されてはいるものの、赤字で大書された見出しは、いずれも第13回中央執行委員会決定の内容及びこれを踏まえた中央本部指令第28号の内容を記載したものであり、X1らの実名は上記決定及び指令の対象者のうち地本に所属する者を示す趣旨で記載されたものであるし、「川を渡ってしまった確信犯」との記載も、X1らに事情聴取の要請を断られた組合の立場で上記文書の評価として記載されたものであるから、これらを踏まえて、掲示物②を全体としてみれば、 掲示物②は、第13回中央執行委員会決定の内容及びこれを踏まえた中央本部指令第28号の内容を組合員に対して伝達したものとみることが相当である。
 このような記載内容に加え、掲示物②が掲示された拝島分会の組合掲示板は、運転区という職場の性質上、会社関係者以外の一般人が原則として立ち入らない場所に設置されていたものと推認できること、掲示物②の発端となったX1らが署名簿に署名したことが明らかとなったのは平成18年6月であるところ、掲示前の半年間にX1らに関して職場に混乱が生じたことはなかったことを併せ考慮すれば、掲示物②は、本件撤去要件である 「個人を誹謗」するものにも、「職場規律を乱すもの」にも当たらないというべきである。
(3) 本件①-2及び②撤去の不当労働行為該当性について
ア 掲示物①-2及び②は、いずれも組合の内部統制に関する決定や指令の内容を組合員に対し伝達するものであって、本件撤去要件に当たらないところ、これらの撤去は、組合による掲示物①-2及び②の掲示が正当な組合活動の一環としてされたものであることを認識しながらこれを妨害したものと評価すべきであり、労組法7条3号の不当労働行為に該当するというべきである。
イ 会社には、組合に貸与した掲示板に組合がその活動の一環として掲出した特定の内容が記載された掲示物を撤去する旨の認識があったものと認められるから、労組法7条3号の成立要件に欠けるところはないと認められる。掲示前半年間にX1らに関し職場に混乱が生じたことはなく、X2は出向中であったことなどを考慮すれば、X1らに対する安全配慮義務の履行として掲示物①-2及び②を撤去するまでの必要があったものとみること自体困難というべきであるし、会社の上記掲示物撤去に関する認識はX1らの安全に配慮するとの認識と両立し得ないものでもないというべきである。
ウ 以上によれば、本件①-2及び②撤去が労組法7条3号の不当労働行為に当たると判断した本件命令に、会社指摘の事実の評価及び法令の解釈を誤った違法は認められない。
2 争点2(掲示物③ないし⑥撤去が労組法7条3号の不当労働行為に当たるか)について
ア 本件③ないし⑥撤去は、会社の各現場責任者に対する指示に基づき行われたものと認められるから、たとえ会社が本件撤去要件に該当しないと判断し、その撤去を求める意図を有していなかったとしても、行為者に対して掲示物③ないし⑥を対象とするものと解釈できる指示を行って、その指示に沿った撤去を生じさせた以上、真意に反することを理由としてその帰責を免れることはできないというべきである。
イ 前提事実によれば、掲示物③ないし⑥は、いずれも組合の内部統制に関する第13回中央執行委員会決定の内容及びこれを踏まえた中央本部指令第28号の内容を組合員に対し伝達するものであって、会社も自認するとおり、本件撤去要件に当たらないものと認められるから、撤去は、掲示物の掲示が正当な組合活動の一環としてされたものであることを認識しながらこれを妨害したものと評価すべきであり、労組法7条3号の不当労働行為に該当するというべきである。
 会社は、掲示物③ないし⑥につき本件撤去要件に該当しないと判断し、その撤去を求める意図を有していなかったから、支配介入の意思を欠く旨主張するが、前記各現場責任者に対して指示をして本件③ないし⑥撤去を行わせた会社には、組合に貸与した掲示板に組合がその活動の一環として掲出した特定の内容が記載された掲示物を撤去する旨の認識があったものと認められるから、労組法7条3号の成立要件に欠けるところはないと認められる。
ウ 以上によれば、本件③ないし⑥撤去が労組法7条3号の不当労働行為に当たると判断した本件命令に、会社指摘の事実の評価及び法令の解釈を誤った違法は認められない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
都労委平成19年(不)第68号 全部救済 平成23年3月1日
中労委平成23年(不再)第21号 一部変更 平成24年11月21日
東京高裁平成26 年(行コ)第60号 棄却 平成26年5月28日
平成26年(行ツ)第352号・平成26年(行ヒ)第376号 上告棄却・上告不受理 平成27年3月12日
 
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