労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東日本旅客鉄道(減給処分等) 
事件番号  東京高裁平成25年(行コ)第183号(原審・東京地裁平成22年(行ウ)第708号(甲事件),同裁判所平成23年(行ウ)第290号(乙事件)) 
控訴人兼被控訴人補助参加人  東日本旅客鉄道株式会社(甲事件原告兼乙事件被告補助参加人) 
控訴人兼被控訴人補助参加人  X1、X2、X3、X4、X5、X6(亡X10の相続人)(乙事件原告兼甲事件被告補助参加人) 
控訴人  X7、X8、X9 (乙事件原告) 
被控訴人  国(甲事件及び乙事件被告)処分行政庁:中央労働委員会 
判決年月日  平成25年11月28日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社の従業員であり国労の組合員であるX1ら9名(X10は22年8月5日死亡)は、就業時間中の国労の組合バッジ着用を理由として、会社から服装整正違反、服務規律違反を理由に処分を受けたこと等について、救済を申し立てた(平成14年10月24日申立て及び17年11月28日申立て)。
2 初審東京都労委は、一部を不当労働行為と認めて救済命令を発し、その余の申立てを却下又は棄却した。X1ら9名は、本件初審命令が却下ないし棄却した部分を不服として、会社は、救済命令を発した部分を不服として、それぞれ再審査を申し立てたが、中労委は、本件初審命令を維持した(ただし、亡X10については、月例賃金及び期末手当の減額分並びに昇給において減俸がなかったならば支払われるべき賃金と支給済の賃金額との差額を承継人であるX6に対し支払う旨の命令を追加)。
3 会社は、会社の再査申立てを棄却する部分の取消しを求め(甲事件)、X1らは、X1らの再審査申立てを棄却する部分の取消しと、「請求する救済の内容」記載の命令を発するよう求めた(乙事件)。東京地裁は、いずれの請求も棄却した。
4 本件は、これを不服として、会社及びX1らが東京高裁にそれぞれ控訴した事件の控訴審判決である。
判決主文  1 控訴人兼被控訴人補助参加人東日本旅客鉄道株式会社の本件控訴を棄却する。
2 控訴人兼被控訴人補助参加人X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、控訴人X7、同X8及び同X9の本件各控訴をいずれも棄却する。
3 控訴費用は、控訴人兼被控訴人補助参加人東日本旅客鉄道株式会社に生じた費用は同東日本旅客鉄道株式会社の負担とし、控訴人兼被控訴人補助参加人X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、控訴人X7、同X8及び同X9に生じた費用は上記9名の負担とする。  
判決の要旨  1 当裁判所も、控訴人JR東日本及び控訴人X1らの請求はいずれも理由がないからそれぞれ棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり原判決を補正〔一部を抜粋〕するほか、原判決の「事実及び理由」第3の1ないし6に説示されたとおりであるから、これを引用する。
  (原判決の補正)
(1)~(17) (略)
(18) 原判決80頁16行目の冒頭から同81頁3行目末尾までを次のとおり改める。
 「(イ) (略)。
(ウ)このように、会社によってなされた平成14年3月以降の組合バッジ着用行為に対する本件各処分は、その処分を受ける組合員にとってそれまでの処分とは比較にならない大きな不利益を与えるものであり、その行為の結果が業務遂行に大きな支障となるものではないのに、力で組合バッジの着用を押さえ込もうとするものであることは明らかである。そして、そのような背景には、平成13年1月下旬頃には、組合として会社との種々の裁判闘争を回避するとの方針転換がなされたにもかかわらず、これに反対する意見等にも根強いものがあり、組合バッジの着用者を大幅に減少させたのに、ここで手を緩めれば、再び着用者を増やすことになるのではないかとの強い危惧の念を持って、組合本部が会社との対決を回避しようとしているこの機会に、組合本部の方針に反対している少数派組合員の組合活動を押さえ込んでしまおうとの意図の下に、厳しい処分を繰り返していったものと認めることができる。」
(19) (略)
(20) (略)
(21) 原判決82頁25行目の「認められるというべきであり、」から同83頁10行目末尾までを次のとおり改める。
 「(略)亡X10に対して服装整正違反として処分を行った会社の管理職員においても、亡X10が着用していた組合バッジが組合という労働組合の組合員であることを表示するものであり、仮に亡X10一人だけが着用しているものではあっても、これを放任してしまうと、せっかく着用を中止している他の組合員も組合バッジの着用を再開するのではないかと懸念していたことから、職場での服務規律維持の一環として、着用者が亡X10一人になった後も、繰り返し執拗に違反行為を現認して処分を加え、その処分内容を加重することによって、着用を中止している他の組合員に対する見せしめとし、他の組合員による組合バッジの着用を抑制する効果をも目的としてなされたものと推認することができる。このように考えると、亡X10による組合バッジの着用行為は、外形的には亡X10一人の行為ではあるが、その背後には、その動向及びこれに対する会社の処分内容等に注目している無数の声なき組合員が存在していたことは明らかであるから、被処分者が亡X10一人になった以後についても、何ら団体性を失っていたわけではなく、組合員による組合活動としての性質を有していたものと認めることができる。もっとも、その後、平成18年11月6日に中労委の勧告に基づいて、会社と組合との間で、組合員のJRへの採用問題は除くものの、組合バッジ事件を含むその他の事件については包括的な和解(平成18年包括和解)が成立し、お互いに、正常かつ良好な労使関係の確立が不可欠であり、健全な労使関係の発展に努めることが合意されたのであるから、組合として、就業時間中には組合バッジは着用しないことをも正式に受け入れたものと考えられるのであって、このことが組合の下部組織である東日本本部や各地方本部、支部、分会等に周知徹底された後は、就業時間中に組合バッジを着用する行為は、もはや組合活動として正当化される余地はなくなったものと考えられる。この点で、本件で問題となっている亡X10による組合バッジ着用行為は、平成19年4月15日までのものであり、上記の平成18年包括和解から半年以内になされたものであって、この包括和解の周知徹底期間内になされた行為とみることができるから、これに対する処分としての客観的相当性を欠く加重な処分は、それまでと同様に、同人の組合活動を嫌悪してなされたものであり、不当労働行為と認めるのが相当である。
ウ もっとも、会社は、本件命令が処分量定にのみ依拠して不当労働行為の成立を判断したもので不当であると主張しつつ、X1ら9名は、本件各処分を受けるに至る以前に再三、注意処分等を受けており、本件警告書によって、以後、同様の行為を繰り返す場合には更に処分内容を加重した処分を受けることを警告されていたにもかかわらず、その後も就業規則違反行為を繰り返したものであって、会社としては、その行為の態様が更に悪質なものとなったことに照らして、処分量定を加重したものであるから、その加重の程度が減給、更には出勤停止に至ったとしても、処分としての相当性を欠くことになるものではないと主張している。
(ア) 一般論としては、使用者は、同一の就業規則違反行為を繰り返す労働者に対して処分をする場合には、その処分内容を加重することができると考えられるが、だからといって、無制限に処分内容を加重することが許されるものではなく、社会的正義の観点からも一定の比例原則が働くことは当然のことである。すなわち、就業規則に違反する行為が繰り返し行われた場合であっても、その違反行為の性質、態様、違反行為が会社の業務に及ぼす影響の程度と、被処分者が加重処分によって受ける不利益の程度を比較した場合、被処分者に対して選択された加重処分の内容が、その処分を課すことによって実現しようとしている目的を達成するための手段方法として、社会通念上、相応の均衡を保っていると認められるときは、その加重された処分は相当なものとして社会的に許容されるものということができるが、社会通念上、許容される加重の範囲を逸脱して不相応に厳しい内容であって、行為と処分との均衡を失っているものと認められるときは、その加重された処分は社会的に許容されるものではないというべきである。
(イ) (略)すなわち、平成14年3月以降の会社における処分のシステムは、組合バッジの着用行為が会社の業務に実際に影響を与えたり、あるいはその業務を実際に阻害する可能性は極めて低いものであるにもかかわらず、その違反に対して極めて厳しい経済的なマイナスを生じさせる処分をする仕組みであって、客観的な業務遂行上の必要性に基づく処分というよりも、違法な組合活動を有無を言わせず力で押さえつけて従わせようとする労務政策に基づくものであることは明らかである。そして、本件各処分による不利益の程度は、社会的に相当として許容される限度を逸脱しているものと認められるから、職場規律を厳正に維持するという目的達成のためにされる処分であったとしても、相当性を欠くものといわざるをえない。特に、被処分者が亡X10一人となった平成15年10月以降においても、会社は、亡X10に対し、平成16年度中に2回、平成17年度中に3回、平成18年度中には4回、平成19年度中にも2回、出勤停止処分を繰り返し、平成16年3月以降は出勤停止1日を3日に加重して処分をしているのであるが、亡X10による組合バッジ着用行為によって、会社の業務に現実に影響を与えあるいはその業務を現実に阻害する蓋然性はほとんどなく、職場規律は全職場でほぼ確立され、職場規律を厳正に維持するという就業規則の目的はほぼ達成されていたものと認められるから、亡X10が組合バッジを着用して就業規則違反を続けていたとしても、そのことだけで重い処分をしなければならない理由はなくなっていたはずである。それにもかかわらず、会社が平成16年以降も亡X10に対して組合バッジの着用行為を理由として上記のような厳しい処分を繰り返し行ったのは、それまでの激しい労使対立を象徴している組合バッジに対する嫌悪感を背景としつつも、むしろ、組合バッジを着用し続けている亡X10に対する処分を少しでも緩めるならば、組合バッジの着用を任意に取り止めている多くの声なき組合員が再び組合バッジを着用するのではないかとの懸念等がないわけではなかったことから、そのような動きを押さえ込むためにも、亡X10に対して厳しい処分を続ける必要があったと理解するのが合理的である。そして、このことは、亡X10の組合バッジ着用行為が組合少数派組合員としての組合活動であったことを裏付けるものであって、会社において、組合バッジを取り外している多くの組合員を意識し、その組合員が再び組合バッジを着用しないようにするため、亡X10に対して重い処分を継続し続けたものであり、組合バッジの着用という組合活動を抑え込むための手段として、亡X10に対して重い処分が続けられたものというべきであるから、そのような行為は不当労働行為に該当するものというべきである。したがって、これに反する会社の上記主張を採用することはできない。
(ウ) なお、会社は、本件命令が、本件各処分はJR西日本における同種行為に対する処分と比較しても均衡を欠いているとしたことについて、会社とJR西日本は別法人であることや、両社では前提となる事情が異なることなどから、JR西日本における同種の処分と比較して均衡を欠くとするのは不当であるとも主張している。しかし、会社とJR西日本とは、別法人ではあるものの、同じ旧国鉄が分割民営化されて設立されたものであって、旧国鉄時代の乱れた職場規律を取り戻すために厳正な対処を求める就業規則が制定された経緯は同一であって、同じ組合員に対する組合バッジの着用に対する処分という点でも同じであるから、社会通念上相当と考えられる処分の内容や程度を検討する際に、JR西日本における処分の内容や程度をも参考にすることは、むしろ当然のことであるから、これを不当とする会社の上記主張を採用することはできない。」 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成14年(不)第108号・平成17年(不)第86号 一部救済 平成20年3月4日
中労委平成20年(不再)第8・10号 棄却 平成22年10月20日
東京地裁平成22年(行ウ)第708号、平成23年(行ウ)第290号 棄却 平成25年3月28日
最高裁平成26年(行ツ)第150号・平成26年(行ヒ)第150号 上告棄却・上告不受理 平成27年1月22日
最高裁平成26年(行ツ)第149号・平成26年(行ヒ)第149号 上告棄却 平成27年1月22日
 
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