労働委員会関係裁判例データベース

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概要情報
事件名  東日本旅客鉄道(減給処分等) 
事件番号  東京地裁平成22年(行ウ)第708号、平成23年(行ウ)第290号 
甲事件原告・乙事件被告補助参加人  東日本旅客鉄道株式会社 
被告  国 
乙事件原告・甲事件被告補助参加人  X1、X2、X3、X4、X5、X10(X9の相続人) 
乙事件原告  X6、X7、X8 
判決年月日  平成25年3月28日 
判決区分  棄却 
重要度   
事件概要  1 会社の従業員であり国労の組合員であるX1ら9名(X9は22年8月5日死亡)は、就業時間中の国労の組合バッジ着用を理由として、会社から服装整正違反、服務規律違反を理由に処分を受けたこと等について、救済を申し立てた(平成14年10月24日申立て及び17年11月28日申立て)。
2 初審東京都労委は、一部を不当労働行為と認めて救済命令を発し、その余の申立てを却下又は棄却した。X1ら9名は、本件初審命令が却下ないし棄却した部分を不服として、会社は、救済命令を発した部分を不服として、それぞれ再審査を申し立てたが、中労委は、本件初審命令を維持した(ただし、亡X9については、月例賃金及び期末手当の減額分並びに昇給において減俸がなかったならば支払われるべき賃金と支給済の賃金額との差額を承継人であるX10に対し支払う旨の命令を追加)。
3 会社は、会社の再審査申立てを棄却する部分の取消しを求め(甲事件)、X1らは、X1らの再審査申立てを棄却する部分の取消しと、「請求する救済の内容」記載の命令を発するよう求めた(乙事件)。東京地裁は、いずれの請求も棄却した。 
判決主文  1 甲事件原告・乙事件被告補助参加人の請求並びに乙事件原告・甲事件被告補助参加人ら及び乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は、甲事件、乙事件ともに、これを5分し、その3を甲事件原告・乙事件被告補助参加人の負担とし、その余を乙事件原告・甲事件被告補助参加人ら及び乙事件原告らの負担とする。 
判決の要旨  1 本件却下にかかる各処分の救済申立て
 労組法27条2項の「継続する行為」とは、行為自体が一個である場合のほか、複数の行為であっても、全体として一個の不当労働行為が継続していると評価できる場合も含むと解すべきである。本件却下にかかる各処分は、それぞれ、個々の国労バッジ着用行為や服務規律違反行為ごとに、それぞれ異なる処分理由により処分を行ったもので、それぞれ独立した別個の行為であると認められるから、これを全体として一個の不当労働行為と評価することはできない。
2 X9に係る申立て
 (1) 不当労働行為救済制度の目的は、労働者の団結権を擁護し、労使関係の将来の正常化を図ることにあり、使用者により労働者に対する不利益取扱ないし労働組合の運営等への支配介入が行われた場合には、かかる労働者とその労働者の所属する労働組合がその是正を求めて救済申立てをすることができる。そして、救済申立てをした当該労働者が死亡した場合の承継手続が定められていること(労働委員会規則33条l項7号)からすれば、当該労働者の救済を求める利益は、それが当該労働者の一身専属的なものでない限り、その相続人によって承継することができるものと解するのが相当である。
 (2) 本件において、X9の救済申立ては、X9の受けた出勤停止処分による賃金上の不利益な処遇にかかる申立てであり、経済上の不利益是正を求めるものであるから、X9の一身専属的な利益とはいえず、相続の対象となると解するのが相当であるから、X9の死亡によって救済利益が失われたとすることはできない。
3 服装整正違反に関する本件警告書の掲出
 会社は、設立当初から、国鉄の経営悪化の原因には職場規律の乱れがあったという問題意識のもと、組合バッジ着用行為に対して、職場規律を確立すべく服装整正違反として指導、注意を行い、組合バッジ着用を継続する者に対しては処分を繰り返してきたが、かかる処分自体は、国鉄改革を経て国鉄の事業の一部を引き継ぎ発足したという会社発足の経緯及び上記の問題意識に照らし相当な理由がある。そして、会社は、会社設立以来一貫して、組合バッジ着用者に対して、服装整正違反であることの注意喚起をし、これを外すよう注意、指導するとともに、これに従わない社員に対しては厳重注意処分や訓告処分を行ったが、これ自体は、職場規律確立、企業秩序の維持・確立という点から、相当なものである。そして、平成14年3月当時、昭和62年から注意、指導及び処分を重ねてきた状況下であるにもかかわらず、なお、組合バッジ着用者が314名存在したのであり、会社としては、職場規律を一層徹底する必要性から、本件警告書(組合バッジ着用等の違反行為をする社員に対しては、さらに厳正な処分を行わざるを得ない旨の警告書)の掲出に至ったと認められ、本件警告書の内容も、当時の事実に沿う内容に基づく記載で相当なものである。そして、13年9月までの処分をみると、厳重注意処分あるいは訓告処分にとどまり、また年2回程度という処分の頻度であったことも合わせ考えると、国労バッジ着用行為に対する処分としては相当な範囲のものであり、同月までの処分が、ことさらX1ら9名の組合活動を嫌悪してなされたものと推認することはできない。以上によれば、本件警告書掲出自体は不当労働行為に該当しない。
4 本件警告書の掲出後のX1ら9名の訓告、減給処分及び出勤停止処分
 (l) 国労バッジ着用行為  国労は、国労バッジ着用について、昭和62年当初に着用を指示し、会社が国労バッジ着用行為に対する処分を行ったことについて救済申立てを行うなどしたものの、その後、国労バッジ着用処分については、組織として救済申立てを行っておらず、18年包括和解(中労委における会社と組合との間の計43件に係る和解)に至っており、国労としては、遅くとも14年ころには、国労バッジ着用について積極的に支持をすることはなく、会社との係争についてもこれを回避する方針に転換したものと認められる。もっとも、国労は国労バッジ着用者に対して組合としての統制処分を行ったことはなく、昭和62年の着用指示以降、明確な方針決定をしたものとは認め難い。そうすると、X1ら9名が本件各処分等にかかる国労バッジ着用行為を行っていた14年から20年ころまでの国労バッジ着用に対する国労の方針は、これを積極的には支持しないものの、組合としての続制処分を行うこともなく、結局、個人の判断に委ねる状況であった。そして、X1ら9名は、 上記のとおり国労内少数派として活動をしていたが、国労バッジ着用に関する国労の方針が、個人の判断に委ねられるという状況のもとで、昭和62年当初の国労の着用指示に従い、一貫して国労バッジ着用を継続し、国労内少数派組合員として、少数派同志の仲間意識を高め、国労内執行部に対する批判的な行動として、また、国労の自主的、民主的運営を志向するものとして国労バッジ着用行為を継続したものと認められる。
したがって、X1ら9名の国労バッジ着用行為は、国労の組合内少数派の組合活動として行われたものと認められ、不当労働行為制度の保護の対象となる組合活動に該当する。
 (2) 労組法7条1号の成否
 ア 労組法7条1号の不当労働行為は、 組合活動のうち、「正当な行為」について成立する。
 イ 国鉄では、職場規律の乱れや巨額の赤字が問題となり、職場規律の乱れを是正するための措置が講じられるとともに、分割民営化による改革が進められることになる中で、会社は、その国鉄の事業の一部を引き継いだのであるから、会社が、かかる設立の経緯を踏まえ、職場規律を確立して企業秩序を維持するために、職務専念義務、服装の整正、勤務時間中の組合活動の禁止等を定める就業規則を制定したことには、十分な合理性が認められる。そして、X1ら9名の国労バッジ着用行為は、職務専念義務について定める就業規則3条1項、社員の服装の整正について定める同20条3項、勤務時間中の組合活動を禁止する同23条にそれぞれ違反し、原則として、その正当性が否定されるものである。
 ウ 以上により、X1らによる国労バッジ着用行為は、上記各規定に違反し、実質的に企業秩序を乱すおそれのない事情も認めることができず、正当性を認めることができないから、本件各処分等について、労組法7条1号の不当労働行為は認められない。
 (3) 労組法7条3号の成否
 ア 組合バッジ着用行為に対する処分の経緯をみると、本件警告書掲出前にされていた処分と掲出後にされた処分とでは、後者がその量定、頻度において極端に加重されており、かかる処分は、会社における氏名札不着用に対する処分や、会社の同業他社における組合バッジ着用行為に対する処分と比較しても、明らかに過重である。この点、被処分者において、14年に至るまで繰り返し処分を受けてきたにもかかわらず、なお、組合バッジ着用行為を継続する行為が職場規律の確立に反する面も無視できないところであるが、同年3月の処分時点での組合バッジ着用者数は会社発足当初からみても、また会社の全社員数との比較においても既に大幅に減少しており、組合バッジ着用を継続していた者の着用の態様も、従前と変わらないのであるから、同3月の時点で、特に処分量定、頻度を加重しなければならない特段の事情、必要性はなかった。そうであるにもかかわらず、上記時期に本件警告書の掲出を行い、以後の国労バッジ着用継続者に対して、経済的不利益が大きい量定、頻度で処分を行っており、かかる処分の加重は、当時のX1ら9名の国労バッジ着用継続の態様だけでは合理的に説明することができない。そして、会社による本件各処分は、国労の国労バッジ着用を積極的に支持しないとの方針転換の時期と極めて近接しているところ、本件警告書掲出前に、会社は、国労執行部の国労バッジ着用に関する方針転換したことを認識していたことが認められる。そうすると、会社の14年3月以降の国労バッジ着用行為に対する極端な厳罰化は、国労バッジ着用を継続する国労内少数派が組合活動を行うことを嫌悪していた会社が、国労執行部の方針転換を認識するに至り、これを機に、国労内少数派の組合活動を一掃しようとの意図に基づき行ったものであると推認することができる。そして、会社による本件各処分は、国労内少数派の勢力を減殺し、国労執行部の方針に加担したものと認められ、国労内における国労 バッジ着用についての方針等について、支配介入があったものと認められ、不当労働行為(労組法7条3号)が成立する。
 なお、本件訓告処分は、国労バッジ着用行為が昭和62年から継続して行われ、会社により処分が繰り返しなされたにもかかわらず、これを止めることはなかった経緯に鑑みれば、本件訓告処分による経済的不利益が国労バッジ着用の継続に比して過重であるとまではいうことはできず、会社の職場規律確立のための処分として、相当なものであると認められ、これが殊更、X1ら9名が継続する国労バッジ着用行為を嫌悪してなされたものと認めることはできない。
5 X1らに対する出勤停止処分等の不当労働行為(労組法7条1号、3号)該当性
 本件の3件の各服務規律違反処分については、いずれもこの根拠となる事実を認めることができ、厳重注意ないし口頭注意にとどまる各服務規律違反処分は、その内容、程度に照らし、相当なものと認められ、殊更に、国労組合員を嫌悪するなどして行われたものということはできない。
6 本件命令
 X1らは、本件命令が、謝罪文の交付、掲示、全従業員への配布等を命じていないことは、裁量権の逸脱、濫用に当たると主張するが、本件命令は、不当労働行為と認められる本件各処分によってX1らが受けた経済的不利益を是正する内容であって、これ自体適切な裁量権の行使であることはもとより、本件事案の性質に鑑みれば、X1らが指摘する救済を命じていないことが、裁量権の逸脱、濫用に当たるということはできない。 
その他   

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顛末情報
事件番号/行訴番号 命令区分/判決区分 命令年月日/判決年月日
東京都労委平成14年(不)第108号・平成17年(不)第86号 一部救済 平成20年3月4日
中労委平成20年(不再)第8・10号 棄却 平成22年10月20日
東京高裁平成25年(行コ)第183号 棄却 平成25年11月28日
最高裁平成26年(行ツ)第150号・平成26年(行ヒ)第150号 上告棄却・上告不受理 平成27年1月22日
最高裁平成26年(行ツ)第149号・平成26年(行ヒ)第149号 上告棄却 平成27年1月22日
 
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